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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
6章 タロンの悪魔の木編
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116 道具の解析と逆行工学

 

「それでスクロールと水薬(ポーション)についてはどうだ?」


 それを聞いたエリクシルは、大げさ過ぎるほど含みを持たせた表情と仕草でロランの方を見る。


{……良いニュースと悪いニュース、どちらからにしますか?}

「えぇっ? そんなんあるの。……じゃぁ、わ、悪い方で……」


 突然のギャグに半ば呆れつつ答えるロラン。

 勉強と称して映像作品を見漁ってるらしいが、その影響が出ているに違いない。


{はい、悪いニュースはスクロールの方です}

「そっちか……」


 悪いニュースと分かっているからか、結果を聞く身体に力が入る。


{……こちらはパピルスに魔素の層が堆積しているようでした}

「つまり……?」

{再現不可能です}


 ロランは肩を落とした。

 スクロールはポーションよりも高価だ、複製できるのではと期待していたが……。


「まじか……。構造までわかってるのに? 魔素が蒸着とか焼き付けられているって言ってなかったか? パピルスと魔素をそのままプリンターで出力できないのか……?」

{設備が足りないのではなく、わたしたちの技術では不可能ですね。魔法のなせる技としか}


 エリクシルはきっぱりと断言し、ロランは更に肩をガックリと落とし頭を垂れた。

 コスタンとラクモも漂流者の技術を以てしてもスクロールを真似できなかったのか、と残念そうにしている。


「……で、良いニュースは?」

{ポーションです! 素材から再現することができたんですよっ!}


 エリクシルは踊るエモートとチャイム音を慣らして喜びを表した。

 それを見たロランもぱあっと表情を明るくする。


「おおっ!」

{こちらをご覧ください}


 そう言ったエリクシルは衣装を改め、現地の薬師もとい錬金術師のような風貌となる。

 意匠のあしらったコートに、錬金術師の鞄、革のブーツ、髪はロングで後ろに降ろしている。

 エリクシルの示す先、レプリケーターの横に10個のガラス瓶といくつかの丸薬、軟膏の容器が置かれていた。

 現地に馴染むようデザインされているガラス瓶と軟膏の容器。エリクシルの機転はいつだって利いている。


{成分の解析により、素材からの抽出と合成は難なく行うことができました}

「流石エリクシルだ! いいねぇ!」


 エリクシルはエモートで『はなまる100点』と表示し、ロランとハイタッチを交わす。

 スクロールの一件はもう忘れたと言わんばかりにはしゃいでいると、コスタンが咳払いをする。


「コホン……エリクシルさんは錬金術の心得があるのですか? 聞いていれば低級ではあるがポーションを簡単に作ったとの説明されているのだと思いますが……」

{コスタンさん、その通りです。厳密には錬金術とは異なりますが、これが私たちの科学技術なのですよ}


 エリクシルの頭上で豆電球が光るエモートが再生され、コスタンは目を瞬かせた。


「……つまりエリクシルさんは錬金術師の秘技を知っていて、素材があれば作れるってこと?」

{うーん、秘技の手順についてはわかりませんが、そういうことになりますね}


 あっさりとそう答えたエリクシルに、ラクモは目を丸くする。


「……僕が知るだけで粉にしたり蒸留したり、混ぜたり、色々な手順があるのに……すごいな……」

「……んで、逆行(リバース)工学(エンジニアリング)の結果、改良はできたのか?」


 ロランが期待に満ちた目で尋ねた。

 改良、それはポーションにロランの世界の薬剤合成を試みることを指す。

 アドレナリンや鎮痛剤、抗生物質、血清など、様々な薬品を追加しポーションの性能向上を図るのだ。


{それなんですが……}


 エリクシルは急激に意気消沈し、俯いたまま説明を始めた。


 結果を言えば見事に失敗したわけだが、それに至るまでの過程で重要な知見も得たと言う。

 エリクシルの説明によれば、ヴォイドの地のポーションは素材の魔素が重要なようだ。

 薬草の成分と魔素が紐づけられており、成分と同時に魔素を抽出することで化学式を再現しているらしい。

 しかしながら、原世界(ネヴュラ)の薬剤にはその重要な魔素が含まれていない。


 ※原世界:星間物質からなる広大な領域のこと。

 ロランのいた世界のことをエリクシルが便宜上ネヴュラと呼称した。


 ……そのため合成しても効果に変化は見られないばかりか、元々のポーションと薬剤どちらの効果も失われてしまう。

 これは薬剤を内服した状態でポーションを服用することでも起こるようで、体内でそれぞれの効果が相殺されてしまう。つまり"ネヴュラの薬とヴォイドの薬を同時に使用できない"ことを意味する。


 この現象は異なる世界の成分同士が反発し合っているのではないかとエリクシルは考察している。

 ポーションの改良のためにネヴュラの薬剤をリファイナリーで分解し、薬草から抽出した魔素の添加・同化を試みたが、失敗に終わった……というのが事の顛末だ。


 また、ポーションが効力を発揮している時間がネックになる可能性もあるそうだ。

 例えば外傷などにポーションを使用した場合、その間はネヴュラの薬を服用できなくなる。

 そうなると抗菌剤や抗生物質などで、重篤な感染症などの予防や治療をすることが難しくなる可能性がある。

 つまり治療優先度(トリアージ)に留意しなければならないのだ。


「なるほどな、低品質のポーションで治療するよりも、ここで手術や治療をした方が良い結果を出せるかもしれないってことだな」

{はい、そのポーションは軽傷の治療には効果的だとは聞いていますが、効力がいつ発揮されるのか、どう人体に作用するのか……具体的なことは分かっていません}


 この世界にとっては異質な薬剤を、適応させる術はないのか研究を続ける必要があるのです。

 そう言って拗ねたように口を尖らせているエリクシルに、先輩たちがフォローを試みる。


「うーん、再現できるだけすごいと思うんだけど」 「私もそう思いますな」

「できないものはしょうがないしな。ラクモさんの言うように再現できただけで御の字だ。エリクシル、あんま深く考えるなよ!」

{でも、わたしなら上手くできると思ったのですっ! 悔しいっ! 今後も何か方法がないか研究は重ねていくつもりです……}


 落ち込むエリクシルを皆で励ましつつ、その成果を称えた。

 低品質のポーションをHQ/高品質(ハイクオリティ)にすることは叶わなかったが、再現できるだけで出費が減るどころかプラスになることは明らかだ。


 この結果は充分に素晴らしい成果である。

 そう褒められたことで幾分か機嫌を取り戻したエリクシルは皆に感謝を告げる。


 そしてロランは完成したポーションを5つとそのほかの治療薬をバックパックにしまい、改めて皆でダンジョン出発の準備を再開することになった。

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