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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
第5章 港街ポートポラン編
101/238

101 『隠者の大釜』


 ロランの足取りには、冒険者としての自覚と少しの期待が込められていた。


 ――『隠者の大釜』

 武具屋の三軒先にある錬金術屋は、看板に描かれた大鍋とポーションの瓶が目を引く。

 店先には空の薬瓶が雑多に積まれ、店の役割を否応なく主張している。


「おぉ……雰囲気ある」

{なんだかワクワクしてきます!}

「ほっほっほ」


 扉を開けると、微かに酒精の香りが漂う中、小ぢんまりとした店内が広がった。

 壁には蒸留器や薬研が掛けられ、奥の作業台には色とりどりの粉末や瓶が並び、独特の雑然とした活気が漂っている。


「いらっしゃい、冒険者だね!」


 そう声をかけてきたのは、四十代半ばとおぼしき女性店主だった。

 彼女はエプロンをきゅっと締め、陽気な笑顔でカウンター越しに手を振った。


「悪いね、ほとんど売り切れなんだよ。リヴァイアサン騒ぎのおかげでね! 材料がなくなって作る暇もないんだ。でも、残り物くらいはあるから、よかったら見ていっておくれ」


 その声はどこか弾んでおり、商売繁盛の様子が伝わってくる。


 ロランは棚を見回しながら目を輝かせた。

 そこには不揃いなガラス瓶や、クリーム状のものが入った貝殻、紫色の丸薬など、見慣れない品々が並んでいる。


 後ろに立つコスタンの穏やかな視線を背に感じながら、ロランはひとつひとつに目を留めていった。

 ロランがひとつひとつ手に取るたびに、店主は陽気に説明を付け加えた。


「こっちが『スライムの軟膏』、火傷に効くよ。スライムの粘液が傷を癒すんだ。こっちは『止血軟膏』、怪我の出血を抑えるのに使える。あとこれ、『低級治癒のポーション』。傷口に直接塗っても飲んでもいいけど、効果はそこそこってところだね」


 ロランの興味津々な様子が気に入ったのか、彼女はつい素材の話までし始めた。


「これはね、『アプリタケ』っていう赤いキノコが主な材料さ。だけど、肝心なのは調合の技なんだよ。材料を知ってるだけじゃ作れやしない。これはあたしの腕の見せどころだからね!」


 店主ががははと笑う一方で、エリクシルはその情報を黙々と分析していた。


{{スライムの軟膏は、湿潤療法に近いですね。粘液の成分が皮膚を保湿し、再生を促進するようです。火傷の治療には適切でしょう}}


 ロランが軟膏の入った貝殻を回転させて中身を眺めていると、容器の中でプニョちゃんが微かに身震いした。


《お前、本当にスライムだったのかよ……》


 一方、エリクシルは低級治癒のポーションについても解説を続けている。


{{このポーションは活力剤のようですね。素材の一部として挙げられたアプリタケは、酒精と組み合わせることで効果が増幅されている可能性があります}}


 ロランは次に紫色に光る丸薬を手に取った。

 その小さな粒は、親指ほどの大きさで、薄い膜に包まれている。

 ロランはくるりと指先で回しながら、興味深げに眺めた。


「これが……毒消しの丸薬?」

「そうだよ。そいつはね、大抵の弱毒なら一発で治せる。でも即効性は期待しちゃいけないよ。飲んだら、あとは寝て身体を休めることだね。毒を抜くには時間が必要さ」


 店主はその材料とその特徴をさらりと説明する。

 ロランはそれを聞きながら、ふと香りを確かめようと丸薬を鼻に近づけた。

 するとほのかに草と蜂蜜が混ざったような甘い匂いが漂ってきた。


《……本当に蜂蜜だ。ハチミツなんか》

{{毒消し草、香草、そして蜂蜜……かなりシンプルですが、蜂蜜を練り込むとは興味深い。飲みやすさだけでなく、毒消しの働きをサポートしているのかもしれません}}


 エリクシルの解説に、ロランは感心しながら手のひらの丸薬をもう一度転がした。


「じゃあ、これを飲めば毒は消えるんですね」

「まあね。ただ、気をつけな。毒なんてものは種類によっちゃ命を取ることもある。一粒で効くのは弱毒だけさ。それに……強い毒ならこの街には売ってない薬も必要になるだろうね」


 店主はふっと表情を曇らせた。彼女の目は冒険者が背負う危険をよく知っている者のそれだった。


「……わかりました。用心します」


 ロランはその言葉に小さく頷く。

 危険は身近なものだと、改めて実感した。

 エリクシルも通信を通じて、ロランの気持ちを汲み取るように静かに続けた。


{{ロラン・ローグ、こうした治療薬を適切に揃えておくのは、あなた自身だけでなく仲間の命を救うことにも繋がります。次の街でも、特に抗麻痺薬などの在庫を確認したほうが良さそうです}}


 ロランは短い沈黙のあと、もう一度店内を見回す。


《そうだな、別の街の店でもいろいろ見ておくよ。こんな丸薬ひとつで命が救えるなら、備えはどれだけしても無駄にはならない》


 これからどれだけ危険な冒険が待っているかは分からないが、その一歩をしっかりと踏みしめるための備えは、決して怠らないつもりだった。

 当然、"例の賭け"にも備えなければ。


《エリクシル――》

{{――村のために必要なこと、と判断したのですね? 大変な危険が待ち受けていることは想像に難くありません。ですが……リスクを排除するのは私の仕事です。これは気合を入れて取り掛からなければなりませんね!}}


 ロランはエリクシルには"例の賭け"について説明をし、その備えのために治療薬をいくつか購入する許可を得た。


 『スライムの軟膏』    x2

 『止血軟膏』       x2

 『低級治癒のポーション』 x5

 『毒消しの丸薬』     x5


 しめて380ルース。


「ありがとよ! 今度は在庫がたんまりある時に来な!」


 店主は手を振りながら笑顔で見送ってくれた。

 店を出たロランは、エリクシルに話しかけた。


「エリクシル……。この治療薬、全部()()できるよな……?」

{……()()ですね? もちろんです! 船に戻ったらさっそく取り掛かります!}


 エリクシルは弾んだ声で応答した。


「よし、それと……ギルドにも薬草の採集依頼が常設されてたよな?」

{ありましたね。ギルドの常設依頼は、素材を商店に卸すためのものも多いのでしょう}


 冒険者ギルドには、薬草や鉱石、魔物素材などを求める依頼が常に掲示されている。

 新人向けの簡単な依頼も多く、ロランはそれを活用することを思いついた。


「そうと決まれば……。コスタンさん、一度ギルドに寄って情報を集めます」

「ふむふむ、なにやら考えがあるようですな……?」


 ロランはエリクシルと連携しながら次の行動を決め、足早にギルドへ向かった。


 ――買い物  380ルース

 ――所持金  988ルース

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