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ショートショート集

眠れないときには

作者: 青樹空良

 私は寝付きの悪い子どもだった。

 そして、今。


「あ゛ーーーーーーーーー!」


 もうすぐ一歳になる息子がお昼寝前にぐずって大泣きしている。

 私に似て、ただでは寝てくれない子なのだ。


「よしよし」


 あやしてもなかなか泣き止んでくれない。夜も同様で困り果てている。

 お陰で私は寝不足だ。


「大丈夫?」


 居間にいた夫も息子の声を聞きつけてやってきた。


「今日は俺が寝かしつけしとくからさ。向こうで休んできなよ。俺が休みの時くらいゆっくりしてて」

「ありがとう。助かる」


 私はふらふらとベビーベッドから離れて、夫にバトンタッチする。


「お~、よしよし。眠れないのか~」


 夫の優しげな声に親の私が眠くなる。

 どうして、息子はこれで眠ってくれないのか。

 居間に入ると急に疲れが来て、ソファに倒れ込むように座った。


「あ、いい天気」


 息子が泣いていても、私がボロヨレでも空は青かった。

 ふわふわとカーテンが揺れている。

 ふわりふわり。

 そのリズムだけで眠気がやってくる。

 隣の部屋からは、息子の泣く声が聞こえてきて気になってしまうけれど。


「ダメだダメだ」


 私は自分に言い聞かせる。

 せっかく夫が気を利かせてくれたんだ。ここで休まないと。

 けど、この感じ。

 思い出してしまう。

 保育園のお昼寝タイム。

 私は眠れなくて、布団の中からぼんやりと空を見ていたっけ。

 眠れない誰かの泣き声が聞こえていた。

 いつかそれも静かになって。

 あの時もふわふわとカーテンだけが揺れていた。

 周りでみんなが寝ているのに、私は一人だけ取り残されたみたいに不安になった。

 だけど、そんなときいつも隣にいてくれた子がいた。


『ねむれないの?』


 その子はひそひそと私に話し掛けてきた。


『ぼくも、ねむれないんだ』


 そう言われて、私は安心した。

 一人じゃないのは心強い。

 その子はそっと手を差し出してきた。

 手を繋ぐと私はいつも安心した。

 私はもう知っている。

 その子が、いつも私に合わせて起きていてくれたことを。

 今思えば本当は眠たかったのか温かくなった手をいつも差し出して、うつらうつらしながら眠るのを我慢して起きていてくれた。

 私だけが取り残されてさみしくなったりしないように。

 その子は眠そうに、けれどいつも私に笑いかけてくれた。

 その顔を見るのが好きだった。

 そして、私はいつの間にか眠りに落ちていたんだ。


「あれ?」


 いつの間にか息子の声がしなくなっている。

 あのお昼寝タイムの時みたいに静かだ。

 泣かれるのが大変だとばかりいつもは思っているけれど、声がしないとそれはそれで不安になる。

 私一人、取り残されたみたいで。

 変な気分。

 息子の様子を見に行こうと立ち上がろうとしたら、夫が居間に入ってきた。


「あれ、寝てなかったの? こっちはやっと寝てくれたよ」


 夫の顔を見てなんとなく安心する。

 子どもにするみたいに、夫が私の頭を撫でる。


「大丈夫。ちゃんと俺が見てるから、眠ってていいよ」

「うん。ありがとう」


 言ってから私は付け足す。


「あの時みたいに手、繋いでくれる」

「え? いつのこと?」

「保育園のお昼寝の時」

「いつの話だよ」


 夫が笑う。それから私の隣に座った。

 そして、私の手を握る。

 あの時と同じように温かい。

 私は夫の肩に身体を預ける。

 今度は、ちゃんと眠れそうだ。


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