第十二話 とうとう、二階層へ ~死に様が丸呑みとか、勘弁してほしいんだが……~
食事が終わりに近づいたころ、ヴィルガさんが、改まった様子で、話を切り出した。
「明日は、二階層まで探索するわ」
ついに、二階層か。より下の階層の方が魔獣が強力のようだけれど、一体、どんなところなのだろうか。って、明日!? 事前に訓練は必要ないのだろうか?
「二階層に出る魔獣は大ヘビ、コーナーボアよ。全長は優にあなたの身長の五倍はあるわね」
五倍だって!? 五倍どころか身長と同じ長さの蛇すら、見たことない。想像するだに恐ろしかった。それにまた、コーナーかい。俺はダンジョンの外でも、屋内で曲がり角に遭遇すると、無意識の内に歩く速度が落ち、緊張するようになってしまった。ヴィルガさんによると、曲がり角恐怖症と呼ばれ、この町における冒険者の大部分がそうした症状を呈しているそうだ。
「人に噛み付き、巻き付いて、絞め殺す。そして、丸呑みにする」
自分が蛇に巻きつかれて、絞め殺される様を想像してみた。そんな死に方だけは勘弁してもらいたいものだ。
「二階層の通路の壁には人がどうにか潜り込めるほどの方形の横穴が無数に造作されていて、そこが奴らの移動経路になっている。パーティーの中央が曲がり角の中央に差し掛かったとき、パーティの前方の横穴から、飛び出して、襲い掛かってくる。パーティーがそれに対して、対処しようと、てんやわんやになっているとき、パーティの背後から、もう一匹、忍び寄ってきていて、パーティの最後尾の者に噛み付き、罷り角の死角に引きずり込む。そして、絞め殺した後、丸呑みにし、横穴へ去る。前方の蛇が逃げだして、パーティが落ち着きを取り戻したときには、パーティのメンバーが一人消えて、影も形もなくなっているという寸法よ」
前方の蛇は陽動で、後方の蛇が本命か。今度は、前方だけではなく、背後も警戒しなければならないということか。
「でも、一階層と同じで結局は初見殺し。知っていれば対処可能なんですよね」
「そうね。唯、一人だと死を避けられないけどね」
一人で大ヘビ二匹に前方と後方から襲われたら、どうにもならんわな。二階層でも一人になったら、詰みってことか。
「前方の蛇はあなたと私で、後方の蛇はフェリシーとカエデで対処することになるわ。いい深追いは禁物よ。倒すのではなく、己の身を守ることを第一に考えなさい。しばらくすれば、逃げていくから。また、前方だけではなく、上方にも気を付ける必要があるわい。二階層は天井が高く、壁の上部にも横穴があって、そこからも攻撃してくるから。あなたは前方に注意を払っていなさい。私は上方に気を付けるから。そして、蛇を発見したら、直ぐにみなに知らせること」
上からだって? 人間にとっては主な死角は二つある。背後と、そして、上方である。人間は頭に向かって、何か落ちて来ても、それに気付くこともできない。日常生活では、あまり、意識することはないが、それだけにそこから襲われるとなると、恐怖も一入である。
「蛇が二匹で連携して、獲物を襲うなんて話、聞いたことないんですが、コーナーモンキーにしても、コーナーボアにしても彼らの行動パターンは彼らの習性に基づいたものなんでしょうか?」
「自然にはない特殊な環境だから、仕込まれた物か、生来の習性なのか、判断するのは難しいわ。まあ、仮に仕込まれた物としても、三百年も続けているんだから、もはや、習性といってもいいんじゃない」
「なるほど。そういえば、ナガ帝国は様々な魔獣を使役したそうですが、彼らはどのようにして、魔獣を自分達の思い通りに動かしていたんですか」
「犬などのように、私達でもしつけて、ある程度、思いどおりに行動させることができる動物はいる。ただ、ナガ帝国はあまりにも多種多様な生き物を使役したので、当時の人々の中には彼らは魔法使いで魔法で操っているんだと信じている人も多かったそうよ。実際にナガ帝国がどのようにして魔獣を使役していたのかは不明よ」
確かに、犬や馬や鳥など、人々は躾けて、生活の役に立てている。しかし、俺は馬をどう躾ければ、乗馬に用いられるようになるのか、全くわからない。日頃、人が馬にまたがっているのを見慣れているので、いままで、なんとも、思わなかったが、改めて、考えると、動物があのように人間に従順に従っているのは凄いことなのかもしれないな。




