話の合い哀
主人公が人を生かせようとしています。
どーも、僕だよ。最近はとても暖かいなぁ。草が生えていて、回復するのに役立つよ。もちろん、精神面でね。
「今日はどんな人が来るかな!心に怯えた人間!美しいね!」
あ、遠くから人が見えてきた。
どんな人なのかな。どこまで深く沈んでいるのかな。
「こんにちは。あなたが復讐家ですか?」
「うん、そうだよ。」
「そうですか。ならこのお話ができますね」
「どんな話かな?」
「人間が嫌なんです。あまねく人間が憎々しい。あなたは他の人とは違うんでしょうか」
「それはわからない。一人一人によって感じ方は違うから」
「復讐家は何を思って生きているんですか?」
「んふふ。生きる理由か。ないね。」
「ないのですか。なら何故生きているんですか」
「死ぬ理由もないからだ。死後はどうなっているか誰にもわからない。今生きている世界の方が死後のことより、よく知っているよね?
僕はこの世界でやりたいことをやってみたいんだ。友情や愛情に縛られない、挑戦をね」
「なんとも輝かしいですね。眩しすぎて吐き気がする」
「おや、僕は君の好みの人間じゃなかったか」
「そうみたいですね。夢を持っている人にはわからないことですよ」
「僕は逆に考えたんだ。生きる理由はない。ならば、死ぬ理由を探そうとね。どっちも理由はなかったけど」
「きらきらしてますね。あなたは自分に自信を持ってる」
「そうかな?」
「そんな人間が私は憎いんですよ」
「そこらじゅうにいるよ。君が言う人間は。復讐対象としては多すぎるよ」
「でも、そうでもしないと私は安心できない」
「君の願いは安心かい?」
「そうですね。愛情が欲しいです。みんなと同じように愛を」
「君は同じになろうとしているのかい?憎む対象と」
「部分的にそうですね。みんなが羨ましかった」
「そうか。君は復讐相手の的をしぼれてきたかな」
「あなたは復讐中には一人しか殺さないんでしょう?なら、私を殺してください」
「ほう。なんでまた。幸福が死後にあるとは限らないのに」
「この世界には幸福なんてないと気付いたからです」
「死はいつでも君のそばにいるよ。その選択はいつでも取れる」
「世界が嫌なんですよ!あなたにはわからないでしょうがね!」
「んふふ。死後に賭けてみたくなったのかい?」
「そういう事です」
「君を生かせようとは思っていない。でも、なるべく後悔を無くして欲しいからね。いくつか検証をしてみよう」
「なんでしょうか」
「君は何かに熱中した事はあるかい?」
「ないですね」
「本当に?つい目が離せなくなったとか、見蕩れてしまったとかない?」
「あ、ありましたね。子供です」
「ふむふむ」
「子供は無垢で、嫌な事は嫌と言い、好きな事は好きと言う。反応が予想できなくてね。かわいいんですよ」
「子供を追究してみたらどうかな?」
「言われると思ってましたよ。私を説得してきた人に何回も言われてるから」
「でも君は考えを変えなかった」
「世界は悲劇で満ちていますからね」
「じゃあ、最後の問答だ。君は死んでからどうした
い」
「死後の世界があるなら、そこで楽しみたい。死後の世界がないのなら、そのまま霧散するまでですよ」
「あなたは僕と話が合う。もっと話していきたいんだけどね」
「まだ苦痛を感じろと言うのですか」
「いや、共感できただけだ。君の苦しみに」
「私の苦しみには共感できませんよ。悲劇を感じたことがなさそうなあなたには」
「んふふ。依頼者に自分自身を殺せと言われても、僕の信条に反するからね。すまないけど受けられない」
「ここにきた意味がなかったです」
「その言い方には少し傷つくな」
「あなたに救いを求めた私が馬鹿でした。やっぱり人は、私とは合わない」
「それが君の世界の生き方だね。全てを否定して、自分だけを認める」
「なんと言われてもいいですよ」
「説教臭くなっちゃったね。これは、ただ語っているだけだよ。世界の生き方は千差万別。君に合った生き方がそれなのかもしれない。悲劇に目を向けて、世界に絶望する。心に刺さるねぇ」
「もう話したくありません」
「生き方を変えてみたらどうかな」
「どういうことですか」
「君は悲劇をずっと見てきた。それを経験した。次はどこを見てみようかな?」
「なるほど。少しくらいはここにきた価値はあったようですね」
「それならよかった」
「では、さよなら」
「うん、またいつか」
「もう会いませんよ」
依頼者が去って行った。
これは失敗になるのかな。うーんでも、依頼した本人は殺せないしなぁ。
久しぶりに心の内を語り合った気がする。心が充実したよ。僕を共感してくれる人は少ないからね。僕も比べちゃうから。
人を殺さなかった依頼は初めてかもしれない。僕も貴重な経験をさせてもらったよ。あ、記憶を消すの忘れちゃった。