傲慢と嫉妬
話し合うことで人は分かり合うことができる、だなんて、君は相変わらず傲慢だよな。そもそもさ、わかり合えた人間はどうなるんだ?君と同じ考えを持つのか?何度話しても君と同じ意見にならない人間は分かり合えない人間か?
その自分の考えがいつも正しい、みたいなところが傲慢だと俺は言ってるんだよ。まあ別に、人が分かり合えるって理想を持つことは君の自由だし、それ自体が悪とまでは言わないよ俺も。俺は人が皆分かり合えるとは思わないがね。
世界が優しくて幸せであってほしいって思うのは自由さ。そんな世界が理想的だってのは俺にもわかる。だが、その理想のために今俺が苦しいことを否定されるのは気に喰わない。
俺が苦しいのは、誰が悪いと言えることでもない。多分な。しいて言えば、そういう星に生まれついちまったんだ、俺は。やることなすこと…いや、なされないこと?成し遂げられないこと?とにかく何もかもくそったれだ。俺の成し遂げられなかったことを俺が努力を怠ったからだなんて言うんじゃねぇ。努力できるってのも、それはそれで天凛みたいなもんだ。本当に努力でどうにかなるなら俺だって何か一つぐらい成し遂げられてるさ。
そうやって憐れまれるのも気に喰わねぇ。俺にだってプライドってやつはあるからな。そもそも不幸自慢がしたくて話してるわけでもないんだよ。君のその無自覚な傲慢が気に入らねぇってだけだ。自分がどれだけ恵まれてるかを自覚する必要もないぐらい恵まれて、自分はストイックに努力したから成功したんだと思っている。ああ、全くわからないだろうよ、君には。
優しくされたところで、原因の判らない病は治らない。病ですらない身体の虚弱さは日常の片手間にできるようなトレーニングじゃ改善できない。生まれついてのマイナスを埋めようとしたら、数少ない美点を磨く時間が足りなくなる。
健康ってのは間違いなく一つの利点だよ。身体の生まれつき丈夫なのは一つの才能だ。多少無理しても体調を崩したりしないやつってのは恵まれてる。俺と違ってな。
俺の身体は生まれつきのポンコツだ。兄弟と同じ病にかかっても俺だけ重症化するし、そもそも俺だけ病気でぶっ倒れたりした。すぐに体調を崩す…なんてのも周囲にわかりやすく言ってるだけの方便だ。寧ろ俺は常に体調が悪い。行動に支障が出るレベルの不調になったのを調子が悪くなったと言ってるだけだ。
俺は健康な人間の感覚が分からない。子供の頃からいつだって、どこかしら不調だった。耳鳴りがしたり、鼻水やらくしゃみやら咳やら痰やらが出たり、頭が痛かったり、腹が痛かったり、腰やら首やら関節やらが痛かったり、尻が痛かったり、穴から体液が垂れ流しになったり、痒かったり、腫れたり、四肢が痺れたり、喉が痛かったり、気管支が詰まって呼吸がしづらかったり、熱が出たり、ただ自分の筋力で自立した姿勢をとることがしんどかったり、頭がくらくらしたり、目の付け根が痛かったり、寒気がしたり、とにかく何かしらの身体の不調の一つも欠片も感じないなんて時はなかった。躯が軽いとか思ったことがない。自分が生きているというだけで苦しい。文字通り、生きている躯があるということは苦しいと、俺はそう感じて生きてきた。死ぬのが苦しいのは知ってる、死ぬかと思ったこともあるからな。生きようが死のうが人生は苦しい。少なくとも俺にとってはそうだ。
どう頑張ったって人の人生は有限だ。生まれたもんは死ぬ。まあそりゃあ、死ぬは不幸だ。何も成せずに無意味に死んでいくのは悲劇かもしれない。みんなで努力してこの世界を変えていこう?はあ、そりゃあご立派な考えだ。で、そのご立派な考えに賛同して努力しないやつは愚か者ってか?は、くそったれだ。世界がどうとかごちゃごちゃ考えられんのはてめえが恵まれてるからだろ。
こちとら普通の人間と変わらない日常を送ろうと努めるだけでも精一杯頑張ってるんだよ。生きてるだけで苦しいんだよ、俺は。別に焦燥感とかそういう比喩的な意味じゃなくて物理的な意味でな。それなのに、わざわざ精神的な苦痛まで自分から抱え込んでたまるかっての。
君だって苦しい?はあ、そうだろうな。身体以外だって人が苦しむ要素はあるんだから君が苦しむ事情だってそりゃあるだろ。けど別に、君が苦しかろうが苦しくなかろうが、それと俺の苦しみは無関係だ。増すことも救われることもない。俺が苦しいのは俺が苦しいからだ。そして君が苦しいのも、君が苦しいからだ。
無意味に熱くなってわけのわからねーこと語っちまった萎える