表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

黄昏のメロディ

本編 三年ほど前。グラウ視点。

 一度は手が届きそうになったひとが、再び遠い地に旅立って二年──。

 なまじ昇りつめた地位のせいで、側にいることが出来なくなってしまった。

 茜色に染まった空を仰ぎ、聞こえるはずのない歌声を想う。

 今日の訓練は既に終わり、軍の演習場には人影はなく静かだった。

「閣下、こちらにおいででしたか」

「ブルガか。どうした?」

「執務室にお邪魔しましたら、まだこちらにおられるとの話でしたので」

 私が将軍になると同時期に参謀長になった男は丁寧に頭を下げた。年齢は私より三つ上。

 結果として私が途中で彼を追い越す形になったけれど、彼もルパート陛下に見出された出世頭である。

「閣下に、ご報告したいことがございまして」

 ブルガはにこりと微笑んだ。

「なんだ?」

 仕事の話ではなさそうだ。仕事の話なら前置きなどする男ではない。

「実は、結婚することになりました」

「結婚?」

 私はブルガの顔を見る。

 彼が出世をした理由は私と同じ。つまり、彼がここまで独身を貫いてきた理由も私と同じだった。

 決して摘み取ってはいけない高嶺の花に焦がれてきた者だ。

「はい。おかしいですか?」

「いや──おかしくはない」

 家のことを考えれば、結婚は当然のことだ。私も親類から何度も説教をくらっている。

 養女をもらってからは、周囲も諦めたようだが。

「相手の女性を幸せにできそうなのか?」

「はい。共に歩んで行けそうだと思いました。ようやく、私は区切りをつけることができたようです」

 ブルガは言いながら苦笑した。

「そうか」

「根性なしだとお笑いになりますか?」

「いや──根性がないのは私の方かもな」

 私は肩をすくめる。

「役職を捨てて塔に行くこともできず、かといって、忘れることもできない」

「役職を捨てられては困りますよ、閣下」

 ブルガは呆れたようだった。

「未だ陛下に塔に行きたいと嘆願なさっていると伺っております。くれぐれも自重なさってください」

「してはいる」

 今はまだという言葉は、胸の内に飲み込んでおく。

 陛下との約束を交わしてから二年。

 その約束を心の支えに、その時を待つ。初めて会った時から現在までの時間に比べたら、僅かな時間であるけれど。

 こんなにも長い年月の間、あのひとに会えなかったことはない……それが辛い。

 そばにいても決して触れることのできない女性だ。

 それも辛くなかったと言えば、嘘になる。

 本当はあの場所から連れ去って、自分だけのものにしたいと願っていた。届けてはならぬ想いを抱いて側にいることも辛かった。

「ええ。そうですね。それから──陛下は閣下のことをお認めになっているようなのですから、想いは必ず貫いてください。私の分まで」

 ブルガは大きく息を吐く。

「あの方が好きでした。あの方の歌声を守るためなら、今でも私は命を捨てられます。でも……私の居場所はあの方の隣にはないと、ようやく気付いたのです」

「ブルガ?」

「日が……沈みましたね」

 一番星がキラキラと輝く。

 塔では『儀式』が始まる時間だ。

 柔らかい風が吹く。

 私とブルガは塔の方角の空を見る。

 暗くなっていく空の向こうから、優しいメロディが聞こえたような気がした。

ソフィア一行も出なくてすみません(;'∀')


書籍はSQEXノベルさまにて、発売中です。

よろしければ、そちらもよろしくお願いいたします。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第三回ワケアリ不惑女の新恋企画概要
↑クリック ↓検索はこちらをクリック♪
第三回不惑企画
― 新着の感想 ―
[良い点] 胸が、胸が!! グラウ視点、良かったです!! ありがとうございます!!
[良い点] この作品最初からクライマックスっていうかエピローグみたいなもんだからね、 無理にソフィア出そうとしたらそれこそ一から物語始めなきゃいけないからしょうがないね、 それも悪くないけどな!!
[一言] 各聖女ごとにファンがいて、バトルしてそうw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ