洗濯と芝刈り
~~~川にて~~~
あの人の元に嫁いでから何十年と続けてきた冷たい川での洗濯。
もの凄く寒いのに、山に芝刈りに行くと聞かないお爺さんを送り出して、家から15分程あるたいつもの川についたのがだいたい30分前。やっと大体の洗濯物が片付いた。子供のいない私達夫婦の洗濯物は比較的に少ないが、年老いた私にはかなりの重労働。
「あ~~たまには洗濯変わってほしいわ~~」
一人になるとお爺さんへの愚痴が止まらない。何故あの人は毎日芝刈りに行くのだろう。そんなに芝を刈る必要があるのだろうか。芝を刈って何になるのだろうか。何となく、洗濯とか畑仕事をしなくないから芝を刈りに行くと言って、フラフラ遊んでいるだけな気がする。
「休みほしいわー」
駄目だ。わかっていても愚痴が止まらない。昨日なんて芝刈りから帰ったお爺さんが、「見てくれ珍しい石を拾ったぞ!」と見せてきた。「マジか!」と思ったが、一応「すごーい」と言っておいた。夫婦生活には我慢が必要だ。
深呼吸をして川上を見た。広大な山々が広がっている。そのどこかで、お爺さんが芝を刈っているのだろうか。そう考えたら、お爺さんの嫌なところもなんだかどうでも良くなってきた。子供もいない私達夫婦が離婚もせずに生活してこれたのも、何だかんだ仲が良かったことと、私の日々の努力のおかげであると思う。
空には鳶が飛んでいる。急降下した鳶が山に消える。何か獲物を見つけたのかと視線を下に落とすと、滅茶苦茶デカい桃が目に飛び込んできた。
~~~芝刈りからの帰路にて~~~
お爺さんは、芝刈り友達の五作と話していた。
「隣の村が鬼に襲われたらしいぞ。」
「えっ!コワァ~」
以前から沿岸の村々が鬼の襲撃を受けていることは知っていたが、山間部地域の被害を知って、お爺さんは驚いた。お爺さんの長い人生の中で、何度か鬼は見たが、自分たちの住んでいる地域が被害にあったことはなかった。若いころは沿岸地域の鬼を撃退するために何度か徴兵されたが、最近は年齢もあって前線から身を引いていた。
「侍集が駆け付けたころには、鬼は撤退していたらしい。」
「被害はどのくらいじゃ?」
「3名死んだらしい。なんでも、足が悪くて逃げきれなかったらしい。不意打ちだったもんだから、皆、着の身着のままで逃げるのに必死だったらしい。領主も大した抵抗もせずに逃げたもんだから、責任を問われているらしい。」
「まぁ、3人死んで逃げたらそうなるわな。それより、うちの村から合力はしたんか?」
「一応したよ。でもな、間に合わなんだ。救援要請が遅すぎた。鬼に襲われるなんて考えてもいないからしょうがないがな。」
「今頃、領主様は大慌てじゃな。」
「そうそう、暫く若い衆を集めて、自警団を組んで警戒に当たるらしいぞ。それに殿様が侍集で鬼の捜索殲滅部隊を組んだらしい。これで安心だな。」
「そうだな。それにしてもなんでこんな山奥に、、、、、、」
お爺さんは、鬼の襲撃先が、この村でなくてお婆さんが無事である事に心から感謝した。そして、今日拾った変わった形の木の枝を、お婆さんに見せることができることに心が躍っていた。きっとお婆さんは、この枝を見て「わーすごーい!」って言うだろう。前に、かっこいい石を見せた時は、お婆さんとっても嬉しそうだった。それより、気になるのは、山仕事中に、急に鳶に襲われたが怖かったなぁ。