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固定概念

その水のれ……「あ、私の事はマリ姉さんって呼んでちょうだい?」

……、何も言わずに続ける。

姉さんは男から完全に幽体離脱をして浮遊しながら俺を誘導した。

そして、まずはこの店内にある銃を一つもらう。

指をさして持って行けと言われてそれを持った。

姉さん曰く、これは初心者にぴったりのハンドガンらしい。名前は知らないけれど、護身用には変わりない。使いやすいのを選んでくれたのだろう。

その後、銃をもって色々触っていたら少しレクチャーをしてくれて、これでどうにかなりそうだ。

そして次である。

先程何も言わなかったが、とても気になっていた俺になら使える武器。唯一使えるかもしれないという武器だ。興味半分、 恐怖半分で姉さんについていく。

奥のカウンターの下にあった扉を開けそこから下へと梯子で降りていくと、そこには武器倉庫があった。

木箱の中に乱雑に入れられた銃や、段ボールの中に入ってる弾薬などが積みあがっていたりと、あまり整理されていない倉庫だという事が分かる。

それらを横目に奥へ奥へと進んでいく姉さんの背中を追いかけていた途中、姉さんが止まる。そこに何かがあるようだ。

姉さんは止まったと思ったら下に人差し指を向けた。

俺はその指の方向をみる。

と、そこには乱雑に入っていた銃と同じような木箱があった。

「この中には入ってる?」

と、姉さんは指したまま振り返りそう言う。

木箱の中……。そこに何が入っているか?

見たらわかる。それは刀だ 。一本の刀が入っている。多分……。

と、言うのもそれがあるものなのかどうか不安であったからだ。

曖昧。神様と同じだ。これは断言する。

半透明の様な刀。触れられるか触れられないかさえ分からない、曖昧。半透明であるから存在さえ危うい。

が、ただ美しい日本刀だ。と、最初に感覚で思った。

「綺麗な……、綺麗な刀だ」

「ふふっ。刀だったのね。これ。何かわからなかったからすっきりしたわ」

「?」

俺しかはっきり見えていないのか?それが曖昧だから?なら俺は?神様のおかげか?

「私にそれは何かあるようにしか見えないの、棒とも違う、何と形容して良いかわからなかったの。なるほど、刀だったのね。そう見えてきたわ」

「何でこれがこんなところに?曖昧で存在 さえわからない物をここに持ってくることって無理難題なんじゃあないのか?」

「そう。私が持ってきたわけじゃあないのよ。これはいきなり現れたの」

「いきなり?」

「そう、存在が曖昧ってことはそういう事でしょう?いないけれどそこにいるから時に現れることがある。どういう経緯で、か、は知ったものではないけれどね」

と、ふふっと笑う。

「へえ。そういう事もあるんだ。で、何でこれを俺と?やはり曖昧同士だから?」

「まあ、それもあるのだけれど。これ、買い手が見つからなくてね」

「見つからない?客はこれを拒むのか?」

「いいえ。拒むのはこの刀の方よ。いろいろな人にダメもとで挑戦してもらってるのだけれど、買い手が刀を持った瞬間、存在を消して、何も無い ようにして、使わせるのを拒絶するのよ」

「なるほど、そういう事だったか。俺もダメもとで……、か?」

「いえ、あなたは自信あるわ。先ほども言った通り曖昧同士と言う事もあるけれど、あなたには……、いいえ、これは自分で見つけたほうがよさそうね。ふふっ」

と、最後なんだか曖昧に終わらせられた、気になるけれど仕方がない。もう一つの理由はおいておいて俺にこれを当てる理由が分かったところで挑戦してみる。

「でも、刀が拒絶か……。使わないと寂しいだろうに。余程の事があったのだろうな。俺が使えればいいけれど……」

「ふふっ。そう言う考えをしている時点でもう大丈夫よ」

「?」

俺は姉さんの言葉を意味の分からないまま放っておいて刀を取りに行く。

き、緊 張する。落ち着け……。

心を決めて右手を刀に差し伸ばした。そして右手で刀に触れ手を開けて刀の鞘の部分を掴み、そのまま俺の手の中に納める。

成功?

「やっぱり、大丈夫みたいねぇ。ふふっ。その刀、あなたを気に入ったみたいよ。大事にして頂戴ね」

「ああ。大切にするよ。俺を守ってくれる。俺の中の必要な存在だからな」

「そう良かった。じゃあ、これで武器はいいわね?」

と、最終確認。

次は依頼を遂行する番。

「ああ。それじゃあ、依頼を聞こう」

「ええ。はい」

と、一枚の写真を見せられそれをそのまま受け取った。

そこにあるのは白い巨大な教会だ。

さしあたり、そう言った敵をどうにかすること。

「この教会にはエクソシストが一人と何人かの使いがいる わ。エクソシストの力は本物。いつかは私に害も及ぼしてくる。だからそのまえに叩いてほしいの。二度とエクソシストの仕事ができないように教会を壊してちょうだい」

「わかった」

エクソシスト退治、か。

「あ、次いでその人それだけじゃあ懲りないかもしれないから、できたらでいいから更生してきてくれるかしら?」

更生って……。

「できたら、ね」

二度押ししておいた。やり方なんて分かりかねる。

ま、相手は霊を殺しているんだ。やめさせて当然のことだ。そんなこともわからず霊のためにも人のためにもなっているなんてなおの事質、が悪い。それで神のご加護を何て笑止千万。どうにかするのは俺の仕事。

「じゃあ、行ってくる」

「ええ、気を付けてね。倒したら戻ってき てねぇ。私は地下で待ってるわ。ここに宿もあるから」

「うん」

そうして俺は地下を出て店を出て、外へと出た。

とは言え……、

どうしたものか。写真はあっても地図はない。この場合は神様に頼る他何のだけれど、如何せん今出せる感情何て持ち合わせていない。

・・おい。

……。

・・おい、って!!

≪なんだ!神!!≫

・・な、なんだ。逆に。怒っているのか?

怒っている、そうだな、怒っているな。

≪そろそろ名前で呼んでくれないかな?おい、とか、お前、とか、気分悪い≫

ねえ、とかならまだしも、おい、だもんな。気分も害するさ。よくここまで耐えた。と称えたいくらいだ。

今、全く関係のないことだけれど、おい、とか言われてしまうと気に障って話は進まない し、俺の腹立たしさゲージがたまってどうにかなりそうなのでここらで言っておいて良かっただろう。まあ、今後に向けてだと思っておいてくれ。

・・そうか。それは悪かったな。じゃあ、壱夜。

≪なんだ?≫

・・その写真の場所まで行く方法は私と入れ替わって行くしかないんだが。

≪そうだな≫

それしかない。俺もそうだと思っていたし。でもその言い方だと……、

≪駄目なのか?≫

・・駄目と言うか。

珍しく神様は口ごもった。

どうしたのだろうか。

・・それが、な。

と、言う。

それ……?どれだよ。存在が俺の中にある以上何かわからないな。

ただ、持っているものに違いない。あ……、何となくわかったけれど、理由は何?

≪刀?何かまずいことでもあるのか?≫

・・まずい、と言うわけではないのだが。ただ刀自体がな。

≪……どういう事だよ≫

言っている意味が分からない。刀と神様では何か反応を起こして危険なのか?いや、まずくはない、という事はたいして危険ではないという事。それはないか……。刀のほうに何かあるという事か。話せれば一番早いのだけれど、そうもいかず……。駄目だ。素直に聞いたほうが早そうだ。

・・先程姉さんが言っていたことだ。この刀は他の奴が使おうとしても駄目だった、と。

≪それは曖昧じゃあなかったからだろう?それにこれ俺の器だし大丈夫なんじゃあないのか?≫

・・曖昧だから、と言う理由もあるだろうが、それだけではない、と姉さんも言っていただろう。お前が良いんだって。理由は俺は知らないが そう言っていた。多分、お前の人間性の良さに、だろうな。俺も一理あるからな。

≪?俺が凄いみたいに言うな?別に俺は一介の人間でどちらかと言うとだめなほうだけれど……≫

・・そういう事を言っているんじゃあない。いずれ、お前が知識を付けたら分かることさ。

≪そう言うもんか。で、器は俺のなのにダメな理由は?≫

・・相手も曖昧であるという事は。俺の存在を知っているという事。移り変わってもどうせばれるさ。お前に惚れた、という事なんだから、俺が出たら拒絶されるのは当然だろう。

≪あー≫

移り変わったら俺じゃない、神様なわけで。拒絶する刀は俺にしか心を許していないから神様と移り変わった瞬間に拒絶される。そして、刀とは一緒にいられない、と言う事。

… …、でもこれが駄目ならもう万策尽きたのではないだろうか。もともとそれしかありえなかったことが、無くなったのだから。

≪じゃあ、どうすればいいんだ?何もできなくなってしまったのだけれど……。ああ、一つだけあるか……≫

・・ん?何か策が?

≪いや、策ってほじゃあないけれど、ただ、これは刀で固形物なわけだよな≫

・・まあ、そうだな。

≪だったら、簡単だ。そこら辺にあるロッカーでも借りて入れて置けばいいんじゃあないか。動かないし、それでいいだろ≫

・・ああ、それもそうだな。現代人の考え方だ。

私には考えられない考え方だな。

と。

まあ、神様だし。古人だしな。仕方あるまい。

そうと決まれば、俺はそこら辺のビルに入ってロッカールームを探す。

「あ」

と、俺は言った時。目の前にはロッカールームがあり、一つ空いていた。

・・ちょうどよかったな。

≪ああ≫

俺は半開きのロッカーを全開させて刀を持ってそれを入れようとした。

そう、入れようとしただけだった。そこには入らないのだ。サイズが合わないと言った問題ではなく……。刀が入るのを拒んだからだ。

そして刀がいなくなったからだ。

……あれ?刀?手に持っていたはずのものがなくなるという事はあり得るはずがない。曖昧と言えど、そのようなことをする必要はないはずだ。いや、おかしい。手には何か感触がある。人の手?

そう、人の手……。……?

か、刀が人型となった……!としか考えられない。曖昧とは言え決まった形はもうあるはずだろうに……。どう いう事だ。いや、柔軟に考えろ。決まった形と言うのがあっても現にそういう事があるのだから、認めざる終えない。ただ、何かあった、という事にしておこう。

俺の持っていた柄の部分は人の手に代わり、手の方を見た後に四肢と胴体があることを確認した。

身長は目測百五十センチ後半。長髪に子顔。華奢な体なのに豊満なボディ。色気、と言うものは全然感じられないが……。スタイルだけ言えばそれはモデル以上のものだろう。

大体の外見はそう言えるけれど、ここがさすが神様の同類と言ったとことか。刀の時同様に存在は半透明で曖昧で、顔などは鮮明に見えない。

そこは残念だ。

と、状況を鮮明に説明してみたものの。吐き出すことはできてもうまくそれを飲み込むことはできない。

あと、今言えることとしてはこれが刀で間違いないという事と、謎だという事。

そして、人型になるという事は一緒に自分で動けるから心配がないという事で、一緒にいたい、と俺に伝えている、という事だ。

・・なんだ、このレアケース過ぎるレアケースは……。

≪神様にもわからない?≫

・・さっぱりだ。アナログから飛び抜けたものにはかなわん……。

普通に、異例に弱いって言えばいいのに……。その意味わからない比喩が分かった俺をほめて欲しいものだ。

≪ま、進行していくうちに分かるか……≫

・・そうだな。ん?何か言っているようだぞ。刀が。

≪ん?≫

刀の顔を見て口を見た。

確かに何か言っている様だ。けれど、声が出ておらず何を言っているのかはわからない。

伝えようという必死さのみが伝わってくる。何をどうしようか。

「あー、えっと」

何て呼べばいいのだろうか。

刀。と呼ぶのは、神様にお前、おい、と呼ばれている様で俺が嫌だしな。うん。そうだな、名前を付けてあげよう。

そうだな……。刀も人の形も美しい。けれど曖昧であるこの子に……。女の子だろうし……。

「そうだ、鮮。でどうだ!」

刀はキョトンとする。そして首を傾げた。

「お前の名前だよ」

と、言った次の瞬間。俺の手をぶんぶん振って、何度も頷いて喜んだ。

気に入ってくれたようだ。よかったよかった。

由来は、簡単なんだけれど、美しいは鮮やか。曖昧は不鮮明、で、鮮だ。

呼びやすいし、本人も気に入ってくれたことだし良しだ。

・・名前か?

≪ ああ。刀、じゃ、ちょっとな≫

・・ふうん。

≪何だ。神様も欲しいのか?≫

・・いや、俺は神で十分だ。他の奴らと被らないしな。

≪そうかい≫

それならそれでいいのだけれど、本心はどうなんだろうな。やはり曖昧か……。

鮮は歩けるようだし。そろそろ出発するか。

曖昧だから神様と同じことを出来るはずだし。

そうと決まれば、決行しよう。

まず俺が神様を出すとこから、か。

無理矢理感情を動かすのは大変だろうけれど、まあ、思いだしさえすれば……、ああ、悲しみばかりだ。全く……。

哀感、哀傷、哀切。悲しみ、悲しみ・・・。

と言うよりか、空虚、虚しさ。空しさ、か。

スッと変わる。

……あれ。思い描いていたのと違う。まあ、結果オーライだ。

・・じ ゃあ、神様?頼んだ。

≪わかってるさ≫

そして、そこにはいない存在に、写真の場所にはいる存在へとなった。場所が移り変わった。隣に鮮もいる。

ここはまた先ほどといた場所とは一風変わって、白い壁の多い住宅、目の前には先ほどの大きな教会の姿。

ここの情景を言えてもここがどこかなど皆目見当はつかないが、姉さんが危険と言うくらいだ。近い距離にあるものだろう。

しかし、どうしたものか……。真正面から突破するのは怪しまれるだろうし、まず、日本人の時点でおかしいか……。

うーん、と悩む中、神様はそこに立ちすくんでいた、と思っていたら体が戻っていた。

大丈夫か?まあ、何とかなるか、と謎の自信で自分を勇気づける。

この教会に入ってエクソシストにあってどんな奴か見てどうかするためには正面から入っても別に構わないか……。考える必要はなかった。

入ろう。そう決めて手前の門に手をかける。

と、その時。

「何か用かな?」

と、声を掛けられる。ちょうど良い時に帰って来たものだ。

丁度か?いや、ここで会っては駄目だった……。

何か用か、と言われて本当の事を話す奴などいない。ここで会って入る、という事は何らかの理由を付けないとダメなわけで。入れてもらえないわけで。先に入れていればどうにかなっただろう物を。さて、また困りようだ。

まず初めに後ろを振り向いてその人がどんな人か見てみる。

金髪に碧眼、イギリス人だ。イギリス人だろうその人は修道服を着ている。エクソシストとか教祖様の類だろう。

って、 ここイギリスか……。なんだ俺、イギリスくらい知っているじゃあないか。何だよ、神様。曖昧だな。俺の記憶を持っているんじゃあないのか。神様も地理が好きじゃあないとかか。全く。本当に……。

と、神様への愚痴はここら辺にしておいて……。

ど、どうしよう。

・・これはチャンスだ。

≪え?≫

俺と言っていることが真逆。本当に利害が一致するのは最初だけだな。ま、神様の意見も聞くこととしよう。

・・チャンスではないけれど。その刀の娘がいることが幸いだったな。

≪どういう事だよ。結論だけ言ってくれ≫

・・刀の娘はお前とは契約していない。存在していなくても存在しているから見させようと思えば見させられるわけだ。エクソシストの仕事は霊退治。刀は曖昧。霊ともいえ る。こいつを霊に見立てて、こいつを祓うという虚言を吐いて中に入ればいいだろう。

≪そうか。鮮が俺に憑りついているように見せれば仕事の依頼だと思って中に入れてくれるか≫

・・そう。

やる価値はある。

「良いか?鮮」

俺は隣にいる鮮に声をかける。

鮮は頭にハテナを浮かべて首を傾げる。

「ああ、鮮は俺たちの話は聞こえない、か……。よし、説明しようか」

そして、説明した。ありのまま。そしておkがでた、と思えば、思い切り俺の背中に抱き着いた。

曖昧とは言え、刀だし、固形物だし。存在するし、先程から触れられるのは俺の中では頷ける。

何かいろいろあったているが今は気にしない……。

「おやぁ?そっちの話の方でしたか。中へどうぞ」

と、俺の後ろを 見て察したようにそう言う。

そのエクソシストは俺を越して門を開け、手で俺を招き入れた。

鮮は少し人の目を向けられるように存在感を出したらしく、それにエクソシストは気づいた。曖昧は曖昧な事なら何でも、どうだってできる。

「悪霊ですか……」

と、歩きながらそういう。

何といきなり。失礼な奴だ。どうせ全てにそういう事を言っているのだろう。俺にそう言ったのだから。ま、ここは乗るけれど。

「は、はい。ちょっと……」

「やはりそうでしたか。ここが教会の中ですよ」

と、誘導され大きな扉からそこへと入る。

大きな聖堂だ。ステンドグラスが貼り付けてあり、長椅子が並べられていて前には教壇がある。

エクソシストは教団へ。俺はそこから少し距離を取る。真ん 中の方だ。そこへ立って、向かい合っている。

何か、上から見下されているみたいで嫌な立ち位置だ。と、思っていると、エクソシストは言った。

「大変だったでしょう。ほんの一万ユーロですよ」

ユーロ?いくらなのだろうか?日本円よりも大分高いのは知っているから、非常に高いことは確かだ……。

「か、金をとるのか?」

「そりゃあそうでしょう。これは私の仕事ですから」

仕事、職業でやっているか報酬があるのは当たり前と言う事か。

当然な権利ではあるけれど(仕事の場合)、当然ではないな。(人として)。自分で求めるのではなく他人からのお礼として後でもらうのが礼儀と言うものだろうに。先に値段を付けて何も考えずにお金を出すなんて正直あり得ない。

それもそう だけれど、それだけではない。

復讐のためになら何となく仕返しをしたくなる理由は分かる(霊の事を知らない状態で)。けれど、こいつは違う。お金のため欲のために、霊を殺す?なおの事、質が悪い。

欲にまみれた何も知らない腐った人間だ。

なるほど神様が敵対意識を持つわけだ。この様な輩は、世界に必要はない。

汚れて汚れすぎて欲にまみれて取り返しのつかない汚染した魂。

また、神様が世界を変えるのではく見方を変えたい、と言う意味もようやく自分の解釈では理解した。

見たくない者、と言うわけだ。汚れて、穢れ過ぎて、それすら目に入れたくない。そこにいる穢れを触りたくない、だから見えないように見方を変える。そういう事だろう。

どうもしないけれど、どうにかな る方法。見方を変える。

だが、それなら俺がこいつらと決闘する理由は何なのだろう。目にも入れたくないものだとしたら、それに触れること、いわば戦闘で交えることを本当は避けるはず、という事。神様の空腹のため?それなら霊でいいはず……。見方に変えるのに大事なのは自意識だけだろうに。何故……。

神様はああは言っているが本当は、本心は俺と同じで、世界を変えたいと思っているのではなかろうか。それなら、良いけれど。たぶん違う、何か理由があるのだろうな。俺より神のほうが上手だからな。

と、それはそういう事にしておいて。

そういう考え方をすれば、俺とエクソシストは敵対組織。

誰かが正で、罪を持った人を殺すことをするのか、誰かが悪で、罪を持った人でも助け ようとするのか。……どちらが正しいことなのだろうな。

全く、分からない。知識不足と言うか、経験不足。知らなさすぎるというわけか。

そうだ、このエクソシストに一つ質問してみるか。確証づけるために。それが俺らから見て、悪かどうか、ターゲットであるかどうかを……。

確認。

「なあ、一つ質問させてくれ」

「答えられる様な質問ならいくらでもどうぞ」

「貴方は、今までどう言った人たちを助けて来たのか?」

「ははは。覚えているわけないでしょう。あなたは、今まで話してきた人の数を覚えているのですか?」

と言うという事は、そう言う事としてしかとらえていないか。

「そうか」

「はい。とは言え、私が助けた人の数を覚えていないのは、大人数を助けたからです けどね。ま、それも違うかもしれません。私はお金のために動きます。対処法なんていつも同じで、同じ言葉を吐く人ばかりで、どうでもいいのですよ。もともと覚えようともしない。覚える価値もない、そういう事です」

それは助け、なのか……。

という、口幅ったい事は置いといて、

「霊も?」

「霊ぃ?そんなもの全て同じでしょうが……。何を言うかと思えば」

馬鹿か?とでも言いたいような言い方をする。呆れ。

これで確定だろう。このエクソシストも他の敵と変わらない。何も変わらない。霊を全体でしか見ない者。

さて。と言うことで、あいつをどうにかしなければならない。更生させる、だったか?

うーん。

俺は今、一介の人間であって神ではない。何もできないという事だ 。言って作戦を立てるのは簡単かもしれないけれど、それを行動するとなると、な……。

俺が今この時点でなすべきことを言っていくか。

霊を蔑ろにしているエクソシストに霊を単体で見せて、それから霊がどれほどの存在か、まあ、ここで言えばどれほど凶悪で強力なものか。それを見せつけて、そうしたらエクソシストは凶悪に屈して、強力な霊に怯えて、どんな形であれ、考え方は変わるだろう。大丈夫。悪い方には持っていかれない、はず。

更生プログラム第一だが……。確実に俺が戦う事となっているな。この場面で霊を見せつける、つまりは神を使ってどれほどのものか見せる、という事だから。

という事で、と言っただけなのだが……。

と言ってもな。

言ったところで、な。

≪神様 !!≫

に、頼らざないといけないわけで。

・・何だ?

≪どうすればいい?≫

俺の案が正しいか分からない、ただの考えであるため、神様の考えた案にゆだねる。

・・何をだ……。

≪あいつだよ。エクソシスト≫

・・何だ。それか。それならお前の考えで合っているはずだ。

≪え?何も言っていないけれど≫

・・まあ、何となく考えていることは察する。それでいける。

察するか。読まれていないか不安になったぞ……。

≪あれ?でも、これのやり方って完全に人を傷つけていないか?傷つけずに畏れさせることなど、到底不可能じゃあないか。この案は罰だな≫

・・そうでもないぞ。力の差を見せつけてやるために戦えばいいさ。

≪だから。それって傷を……。もっと危険のない やり方を、さ≫

・・何を今更。先程だって人を殴っておきながら。

≪あれは正当防衛で仕方がなく……≫

・・仕方がない?それを言ってしまえば、傷つけることは同じであるのだから、そこに理由さえつければ正当な理由として受け入れることが出来るだろう。仕方なく無いぞ。それでも仕方ないと断言して言えるのか?

≪それは……≫

そうだな。何を言おうと結果は同じ。傷つけてしまったことに変わりはない。

≪それもそうだ≫

・・だろう?

≪でも、それでも傷つけるのはどうか、と思うんだけれど……≫

・・ふむ。お前は、そう考えるのか……。なあ、壱夜。お前は人が傷つくというのは何がどう傷つくことを意味するんだ?体か?

≪いや、違うな。俺は人の心が傷つくのが嫌なだ けだ。心を破壊してしまえば、その人の全ては終わってしまう。それを見たくないから、傷つけたくないんだ≫

・・だろう?なら別に体を傷つけることに何も問題はないはずだ。それが人の器だとしても、それは体だ。だが、そう言ってもお前は拒むだろう。お前が戦うのをいや、と考えるのは、その人の為じゃあ無く、体を傷つけられて悲しむ人がいると考えるから。悲しむ人の心が痛む。傷む。なら、考え方を変えるのだ。

先手を打たれた。そう、俺は今神が言った様に考えていた。

誰かがそれを見て心を痛めるかもしれないから。だから、拒むつもりだったが……。神様は次まで考えていたようだ。

・・考え方、と言うか、下限を考えると言うか。人が心を傷めるのは普通の傷をつけたときじゃあ無 く、死んだときや、重傷を負って助からない場面にある時だ。結果しか見ていないからな。怪我をした、と言う。逆に言えば、それ以外はただの心配の杞憂という事で済む話。

≪……。暴力をふるっても悲しみを持つ人が傷がつかない程度にやれば良い、か……≫

なるほど。

・・そう。敵は子供でも老人でもない。一般男性だ。気絶したくらいじゃあ全然平気だろう。心配されるかもしれないけれど、傷まではつかない。お前の心に傷がつくことという事が悲しみから生まれる物、のみだったらな。

≪その通りだよ。俺は悲しみで人が傷つくのは見たくない。それだけだ。他はどうか、なんて分からないけれど、そうだ。悲しみで傷つかせたくはないだけ≫

悲しみは悲しいからな。この場合は……。

・・という事は、この場合、力で解決できるというわけだ。なら決まりだろ。

≪ああ≫

同意しかない。

気乗りはしないけれど……。

いや、違うな。気乗りはするぞ。いや、しないけれど、そうじゃあ無くて。これは別に相手と本当の戦闘をしなくてもどうにかなることだ。力を見せつければいいわけだから。恐怖を植え付ければいいわけだから。格差をつければいいわけだから。思い知らせるんだ。速さでもなんでも、霊にかなわない、という事を。

まあ、そうは言っても、エクソシストと、戦うという形までもっていかないといけないわけだから。そこはどうにかしなくては……。

エクソシストにいきなり暴力を振るか。(わざと当て無いように)、煽って戦闘隊形に持っていくか……。

まあ、 前者、だ、前者しかない。後者は正直。できない、苦手だ。

今の状態なら力は十分にある。よし、行こう。やってみるか……。

「なあ、エクソシストさん」

まあ、俺は、いきなり、なんて無理なわけで……、

「何です?」

闘いの開始の仕方など知らなわけで……、

「今から俺はお前を倒す」

度直球にそう言った。

そこから、攻撃すれば文句も言うまい。馬鹿みたいに思われるが、この際仕方のないこと。

「?いきなり何を言うと、思えば……。あ、そうですか。かわいそうに。憑りつかれたのですね。助けましょう。後でお金は払ってもらいますが」

おっと、馬鹿はもう一人いた様だ。

おもしろい勘違いだ。どこに襲う、って言ってから襲うバカな霊がいるんだろうな。

ま、丁度良 い。

「体は傷つけるかもしれませんが、あなたを救うためです。神様、どうか力を……」

と、エクソシストは、小声で言って言ってから、俺には聞こえない小さな声で何かを唱える。

ナム、とか、イラ、とか。

何を言っているかほとんど伝わってこないけれど、推測するに陰陽師が式神を出すときのように、使い魔を出すために何かを唱えているのだろう。力をかせ、とかなんとか。

ま、そんなことしなくとも別に出てきそうな観はあるけれど……。自分それを従えているのなら。俺にはそれを呼び出すとき、適当に何かを言っている様にしか聞こえなかった。ただのかっこ付け、中二病みたいな物。

どうでもいいか……。そいつがなんといっていようが俺には関係がない。というか、聞くのを避け たいくらいだ。神様曰く、呪いの言葉だからな。

それもそうだろう。言葉で無理やり、従えさせて、言葉で出るように仕向けているのだから……。

・・壱夜、後退しろ。

と、神が俺に語り掛けてきたとき、それはエクソシストの横に、紋章が現れた。

巨大、強大。四メートルほどの巨人。

俺は。神様の言葉に従い、少し後退する。

≪何だ?あれは……≫

・・言わなくても分かるはずだ。神だよ。陰陽師で言う式神。エクソシストで言う使い魔。さて、どう倒すか。これは避けて通れないぞ。

これは……。エクソシストは戦わなくてもどうにかなるが、これはどうにも闘わないとならない。と言う事。俺の心の中で立てた作戦がばれている……。という事、か。さすが神。お見通し、と言うわけ 、か。

・・あれは、神だ。何か抜きんで力があって、特異の得意の力があるはず。炎を出すとか、霊に似ていると思うよな?だが違うんだからな。こいつは力も神様レベルであれば全てが神様レベルなわけで、無料対数と言うわけではないが、それほどの力を持っていて実に強大だ。まあ、それは人の最大値と同じくらいなのだが、それに加えて、抜きんでた力があって、例えば力が強いとか、能力があって、例えば、炎を吹く、とか。それがあるから、かなわない。人の力に加えて特異例があるから。俺らは抜きんでた力もなければ、得意能力もない。俺がお前と同化しているため、器を最大限に使う事しかできないからな。それじゃあ、俺はかなわない。器に入っていなければ余裕であれは倒せるのが……。器 があるせいで力が制御されているらしいから……。うーむ。

神は悩む。

神の強大な力。抜きんでた力は曖昧な神であればなんとでもなることなのだろうが、俺は人だ。俺の器は人で、最大限に生かしても神には到底かなわない、という事。つまりはうーん、とここで言うという事は神様がお手上げ状態で、どうすることもできない。積み、かもしれない。という事だ。

・・それを今、お前がどうにかするやり方として、こいつが何かする前に叩くか、エクソシストが力を使い果たして神を戻すか、がある。

予想が外れた。ただ本当に考えているだけだった。恥ずかしい。

あ、エクソシストが操っている、と言うことは、そいつがそれをここに入れるように力を貸しているという事で、その力を使い果た せば神も必然的に元いた場所へと戻るという事か。

・・ま、後者だろうな。

≪だろうな……≫

・・という事で、頑張って逃げろ。今のお前は感情が混濁しすぎて抜き出たものがない、多分この戦いで俺が出れることはないからな。

マジか……。

やるしかない、という事らしい。幸いにも神が使った名残が体にあるから、少しはどうにかなるはず。あの神の抜きんでた力が速さ、でなければ、な。

「って、熱ッ!!」

炎を吐いた。

神様の例がそのままの形になって表れたみたいな感じだな。

こいつの能力は火を吐くこと、一つ目は逃げる分にはどうにかなりそうだな。

≪こいつ、何っていう神なんだ?≫

・・知らん!!お前の知識不足。

≪そうだった……≫

火を纏ったゴーレムのよ うな奴。見たことないぞ、こんな神……。

≪神様、俺、結構神話の事詳しいはずなのだけれど≫

・・これは神話、じゃあない。本物の神なんだ。神なんてどこにでもどんな形でも存在しているからな。名前がないし、全て把握できたものじゃあないし、分かったものじゃあない。

≪?≫

神と言うもの、式神と言うものは三パターンの中で一番説明がなくてわからない、存在だな。全く持ってわからない。

って、今は話している場合じゃあない。逃げないとまる焦げにされてしまう。逃げなければ!!

俺は教会を逃げ回り、ドアまで来た。

くそう、楽しそうに見てやがるな、エクソシスト。楽しんでいるんじゃあないか?と言うくらいのにやけぶり。

どこまでも最低な奴だな。

俺はドアのドア ノブに手をかける。カチャカチャ……、と音はする、音はするが……。

あ、開かない……。

あいつ、霊が逃げ出さないよに外から鍵を閉めたんだ。

逃げ道がない。退路を断たれた。

炎ゴーレムは迫ってくる。

くそう、万事休す……、か。

俺は覚悟を決めて、目を思い切りつむると、トントン、と肩をたたかれる。

「鮮?」

おろしてくれ、と言っているみたいだ。

鮮を下ろした。

鮮は俺の背中からおりて俺に向き合って口パクでこういった。

「だいじょうぶ」と。

言い終わった後、鮮は、曖昧の中でも分かるほどの元気な笑顔を俺に見せた。

どうするつもりなのだろう。まさか、鮮に作戦が…?

鮮は、俺に背を向けゴーレムと向き合う。そしてから、足に力も込めずに少し膝を 曲げてから、教会の天井に届くほどの垂直飛びをした。

天井まで到達する直前で少し空中で停止し、少したってからものすごい勢いで落ち始める。落ちている途中、ゴーレムの脳天との距離が1メートルほどになったとことで、足を振り上げ、振り下ろす。所謂、踵落とし。

それは、丁度狙ったであろう、脳天に直撃する。

瞬間、神の胴体と頭が分かれて飛んだ。それだけじゃあない。体のあらゆる部分が分裂して飛び散っている。

鮮の落ちて来た勢いと、元々持っていた力にゴーレムの体が耐えられなっかたのだろう。

……、ダイジョブ。霊だから。

と、良い風に解釈しておいて……。

えげつないな。ゴーレムとは言え、肉片など飛び散った。

・・多分。まだ、大丈夫だ、俺が喰らう。

ど うやら、死んだか、どうかわからない神をどうにかなる前に、神様がどうにかするようだ。

良かった。

神は俺から半身を出して、それを食らった。

これは……、何度見ても慣れない光景であり続けそうだ。

そう言えば、エクソシストはと思ってみてみると、そこに立ちすくんでいた。次いで、教会の中を見ているが一切ものが燃えることなく綺麗に残っていた。

・・刀の娘はすごい強いぞ。

≪神様ももとの存在になればあれくらいはできるんじゃあないのか?≫

・・いや、俺の力でもあいつを一撃では無理だっただろう。あいつの抜きんでた力は底知れぬ防御力であったはずだからな。それは、俺の力といい勝負だったはずだぞ。神の抜きんでた力はそれほど、すごい。それを、たった一撃でやっ たと言うのは尊敬に値する。

≪?曖昧とは全て同じじゃあないのか?≫

・・そんなわけないだろう。曖昧でいられるのは制限のある範囲内だ。言えば無料対数だな。それは一応図れる単位としてはあるが、無限、と言うだけで鮮明には分からない。範囲がわからない。つまりは範囲の制限がないのだ。だから、そこには差だって生まれる。無限と言われている力にも私の限界があり、それ以上があってもおかしくないという事だ。刀の娘は、無料対数の最高潮にいるのかもな。戦闘に関しては……。

曖昧は無限になんでもできるが、無限と言われているだけで、無限の範囲でなんでもできることが限られている、という事か。つまりは神様にだって限界と言うものがある。ただ、この地球でそんなことあるは ずがないほどの力を持っているから、無限とされて、また、それ以上の力を持っている奴も無限とされて同じようになっているという事か。

個人差はあるという事だな。曖昧にも。ま、生まれにもよるのだろう。

≪なるほど≫

その中で、鮮がすごい子、だった、と言う話、か。

で、決。

ふう……。

・・壱夜。

と、俺にやるべきことがまだあると気づかせる。

ああ、そうだった。最後の仕事。と言うか、これが元々依頼の内容だったのだけれど。

「おい」

「は、はぃッ!!」

教会へ入って、呆然自失となっているエクソシストのもとへと向かい、対面する。

怯えた顔。

成功したか……?

「霊を甘く見るからこうなるんだ。今度からは気を付けて。まだ仕事を続けるのなら、人の 思いを持って、接して、考えて、助けてやるんだぞ」

「わ、分かりました……」

今から焼く、焼きたいのだけれど、火をつけるものが、ないな。

そうだ。

俺はその後、エクソシストに本当に改めた誠意を見せてもらうために、教会を焼いてもらった。

多分、もう、この人は間違えた道には進まないだろう。

この人がまたエクソシストをやろうとするならば、俺はその人が人を助けることを本心に決めていることを願い、そこを後にした。

あっけらかんと終わった。



元の位置、つまりは武器屋に戻ってきた。言うまでもなく神様の力で。

戻ってきたついでに、鮮も刀に戻っていた。時間制なのだろうか。

なんて、ことを思いつつ、もう一つ思う。

本当に更生できているのだろうか?

依頼、ついでにやってみたのだけれど、それが気になって仕方がない。

どんな形であれ恐怖で人を変えられるのは分かるけれど、更生出来るのは分かるけれど、それが正しいやり方で結果としてどうなのか。

≪なあ、神様、俺は更生させることが出来たかな?≫

・・そうだな。まあ、考訂、と言う意味なら更生はできているだろうな。だが、改心する、と言う意味でそれを捉えるとしたならば、それはできないと言えよう。お前が言うよう、エクソシストを やり直す、改訂して改定するのは無理だろう。恐怖を植え付けたんだ。霊に怯えるのは当然。向かい合って霊退治をするなど、出来るはずもない。そんな奴がエクソシストに戻ったところで、失職するのが落ちだろ。だから、改心するとなれば、できていない。どちらでもあり、どちらでもない、という事だ。

怖れて霊の見方を変えること。すなわち、考訂出来て、新しい道に向かわせるという意味でなら更生はできている。が、恐怖がその職を遠ざけてくれた。

畏れて霊の見方を変えること。すなわち、改心出来ず、その職に改めた心でやらせたところで、恐怖心で何もできない。だからこの職は無理。更生はできていない。恐怖がその職を遠ざける。

言ってしまえば、この職に就きなおすことが出来ない、つ まりは更生できていない、で考えた、俺と。この職をやめて新たな道を切り開けた、つまりは更生できた、と考えた俺の、拮抗みたいなものだった。

まあ、どっちもあり得るから、更生できた、で構わない。と言う結論だ。

・・そいえば、お前、あの時、そう言ったのは何故だ?お前はそいつをエクソシストの道へと戻したかったのか?敵を増やしたかったのか?

追及。

≪それは……≫

自分でもよく分からないのが本心なのだけれど……。

・・違うだろう?エクソシストなんて人殺しと同じ、亡くならないといけない職なんだ。だから、そう言ういい加減を言うのはやめてくれ。

怒られた。まあ、神様からしたら当然だろう。

≪悪かった≫

・・わかれば良い、ただ、今私が言いたいのは、お 前は更生し遂げた、と言う事だけだ。それ以上にない。

それは、分かっている。けれど、何かまだ、心に引っかかるものがある。

それは、分かる。

後付けになるのかもしれないが、先ほどああいった理由と、なんとなく繋がる気がする……。

エクソシストは、悪で敵。この言い分、考えだと、それは他の奴らと俺らも変わらない。

神様と俺はエクソシストを、いや、人をそう言う風に全体的に見ているからそう思う。

そう思っていたから、否、思いたくなかったから、俺は改心させようとしたのかもしれない。ああ、言ったのかもしれない。

エクソシスト、と言う肩書の前に一個人で人なんだ。人だからと言って悪なわけではない。今回は悪だったけれど……。

まあ、だからこそだ。一個人で 悪だからこそ、どうにか善良な人に更生させたかったのだ。個人なら悪人で善人に変えられると思ったから。

人を助け、霊を助ける。敵ではなく、同じ意思を持つものへ、としたかったから。ああ、言ったのかもしれない。

全体で見る。それじゃあ、他の人と何も変わらない。全体で見てそれを悪だとして、全てを亡き者にする犯罪者の考えと変わらない、そうも思ったから、ああ、言ったのかもしれない。

そう言った理由は三つあったという事だ。そう思われたくないから、悪を正に変えて自分と共感したかったから、犯罪者と同じ考え、それは犯罪者と同様、で、それが嫌だったから。

一つ目と三つめは組み合わせてもいいかもしれないな。正確に言えば二つ、か。

あまり伝わらないかもしれない けれど……。

ただ、勘違いしないで欲しいのは、ああは言ったけれどあれは咄嗟の事で仕方なく、で、別にエクソシストと言う職に戻したかった、と言うわけではない。どれだけ善人でもエクソシストと言う職をやっている時点で、自体が間違っていると言えるからな。全体ではない。エクソシストという職、単体で考えて、言った結果だ。殺す事以外にやることをしないからな。エクソシストは。

ただ、人を善良にしたかっただけだった。ただそれだけ。エクソシストでも一個人として見て、霊と言うものがどういうものか考え直して、そして気づいて助けるように改心させたかった。エクソシストではなく人間として。

多分、それができなかったから心残りなんだ。

怯えさせて霊を助け出せる人間にで きなかったから心残りなんだ。

まあ、もう悔やんでも仕方ないのだけれど。

神様が言ったように結論、どんな形であれ更生出来たは出来たのだから。

少しはもやもやが取れただろうか……。



そういう事でこの話はここまでにしておいて、武器屋へ入って報告をしていこう。

武器屋の扉へ店へと入る。

そこには誰もいないこと確認してからカウンターへ向うと、神様によって開けられた穴は隅間のないほど完璧に塞がっていたのを見た。

それを見てから地下へと降りた。が、そこにも誰もおらず、どうしていいのか立往生をしていると、それに気づいたか、姉さんの声が横の方から聞こえてきた。

「あら?新しいお客さん?こっちよ」

お客さん?どういう事だ。ま、今は声のす る方へと行くことにしよう。

声のする方。倉庫の横の方へ行く。

と、そこには一つの扉があった。

先程は足元を見ていたため見逃していたのだろう。

扉の中から声がすることを確認して、中へと入る。

「あらぁ。あなただったの。早かったのねぇ」

ドアを開けてすぐ横にいた姉さんはそう俺に言った。

ここは、喫茶店か何かか?

姉さんはカウンターにいて、カウンターの前にはコーヒーを飲む客人、その後ろには丸いテーブルと椅子がセットで置いてある場所で飲んでいる客人。

どこをとってもカフェテリアの様な雰囲気だった。

あ、あと、カウンターの中の一つの椅子にはまだ気絶中の男の人。

「何なんだ、ここは?」

気になって聞いてみた。

「ああ、そう言えば言っていなかったわね、ここがどういうところなのか。まあ、見てくれたら分かるでしょう。カフェテリアよ」

「うん、でしょうね。けれど、なんでまたこんなところに……。そして、どうして姉さんがマスターを?」

「ここは私が経営している店なのよ。ここに来る人はみんな霊が見える人たちなの。そう言う人だけに提供できる隠れスポットと言うわけよ。自分で言うのも何だけれど評判もいいのよ?」

「なるほど、そういう事だったのか」

姉さんがやりたくて作った、と。

ここで経営できている理由は、差し詰め、表で霊が見える人を探してここに呼んで客を増やして満足させることが出来ているからだろう。

まあ、納得した、という事にして、報告か。

「そうよぉ。で、どうだったの?」

「どう、 って……」

まあ、先ほど言ったように全てはうまく言ったとしか言いようがない。か。

「教会を焼いてと言うか焼かせて、更生はしておいたよ。一応」

「そう。それならよかったわぁ」

「それ以上に追求しないのか?」

「何を追及するの?別に嘘つく理由なんてないでしょう?敵に情けでもかけてきたの?」

「いや、それは無いけれど……」

無くはないけれど、結果として差し支えないことだから大丈夫と言えよう。

「なら言いわよ。あなたがそんな人じゃあ無いってことくらい見れば分かるし、信頼するわ」

「そう。なら良かった」

「ふふっ。心配性ね。じゃあ、着いてきて」

「?」

「貴方を泊めてあげると言ったでしょう?」

ああ、そう言えば、そしてこの人の話も聞けると かなんとか……。

俺は一つ頷いてから、姉さんの方へ寄ってカウンターの裏にあったもう一つのドアへと入る。

地下がどれほどの大きさで多さで入り組んでいるのか計り知れないな……。

ドアへ入って、姉さんと大男の人の部屋の様なものもあるし……。

「ここ使ってちょうだい」

と、案内されたのは一番奥の部屋。

中は、こじんまりとしていて、落ち着いた部屋だ。用途を言えば、全て木造のベットと机、テレビと、生活できるだけの用品がそろっていた。人を泊めるのには十分すぎる部屋だった。

俺は中へと入って一息つく。

「どう?気に入ってくれたかしら?」

「十分すぎるほどに、ね」

「フフッ。それはよかった。あなた、私に聞きたい事があるのよねぇ?」

「あ、そう言え ば……」

色々あってすっかり忘れていたがあったのだった。

「ああ、じゃあ……」

「あ、ちょっと待って、私から言いかしら?」

「良いけれど……」

唐突だな……。にしても姉さんから俺に言いたい事?何かあるのか。このなんでも知っていそうな人が……。

「では、一つ。あなたはどうしてここに来たの?あなたは強いとはいえまだ高校生でしょう。何かあったのよね。良かったら聞かせてくれないかしら……」

「ああ、そう言う……」

気になる点ではあるか……。確かにここまでする必要があるのに浅い理由なんて不釣り合いだからな。別に隠していることでもないし良いだろう。

という事で俺は、その後全てを話した。


割愛。



「・・とういう感じだ」

「ふーん。助けるため、 ねぇ……」

「そう。そのためなら俺は……」

「何でもするねぇ……。まあ、若者にしては上出来の心構えだと思うわ。けれどね、それで、あなたが強いとしても相手を助けられなかったらどうするの?」

……、どう。

「それは……」

どうもない。どうしようもない。

何故なら考えていなかったから……。確かにそうだ。神様を頼りにしても最終的にどうにかするのは俺であり、ほかの誰でもない。

本当は始めから助けられる確証なんてなかった。ただ、神様がいたから大丈夫だろう、と高を括っていただけだった。一番何も出来ない俺は何もできない……。そんな奴が人の重い命を背負う?片腹痛い、どころの騒ぎじゃあ済まない……。

自分はバカだった。

けれど、そう言う事を思っていても……。

「どうにしないといけない……」

「策は?」

「ない」

「助は?」

「借りても無駄だと思う」

「貴方は?」

「俺は……?彼女を助けたいだけだ」

「そう。やはりあなたは……」

「?」

「いえ、何でもないわぁ。ま、そうは言っても、現状で無理だったものは無理なの……」

「それはそうだけれど、どうもできないのも現状じゃあないのか?」

「そうね。現状の場合はね。でも、どうもできなくてもあなたはその子を助けられる方法はあるわ。本当はそのつもりで切り出した話だったしねぇ」

「そうなのか?」

それが俺に出来る唯一の方法だとしたら、俺は是が非でも挑戦するだろう。

「助けられる方法、と言うか、あなた次第でどうにでもなる私からのアドバイス。 一つ先を知っている私からのアドバイスとして受けっとってほしいのだけれどぉ……」

俺はコクっと頷いた。

「もう一つ言っておくとやり方じゃない。貴方が今からやるべきことよ。多分、貴方がその女の子を助けられなかったとしたらそれは貴方が何も知らないから。知らない、と言ってもその女の子の事を知らないからじゃ無いわよ?それも大切だけれど、そうじゃあ無くて。貴方は、地球と言うものが、人と言うものが、存在と言うものが、人生と言うものが、何かをわかっていない。何も知っていないから助けられなかったのよ」

「……?何も知らない?そりゃあそう言うものだからじゃあないのか?それは考えることなのだと思うが……」

「そうねえ。伝わりずらいかもしれないわね。けれ ど、事実、知らないことを知るのよ。考えるのは知ろうと理解するから」

「?」

「ああ、まだ伝わらないかもしれないわね。ま、何を言おうと私はそうしてきたわ。全てを知ってきた。何でもかんでも、知った。知らないことを全て知った。作り出したのではなく知ったのよ。意味が分かるときはいずれ来るわ。私が言いたいのはそういう事」

「知識を増やして来い、と……」

「そう。貴方は何も知らないから世界を人を見て学んできたほうがいいわ。その女の子だけじゃあない、貴方が言うよう、世界を変える手がかりだってあるかもしれないわよ?」

一理ある。と言うか、こんなに身近にそうして成功した人が目の前にいるんだ。大切なアドバイスとして受け取って置くのが当たり前だろう。

「 そうする。俺は確かに何も知らないから。姉さんが言った意味でさえ理解できないほど何も知らないから。それを知れると、全てを知れるというのなら俺はそのアドバイスを受けるよ。失敗したら、ね」

「ふふっ。そうね、失敗したら、ねぇ?」

そうは言ったものの俺が何も知らないのは事実。多分、成功しても世界を変換できるのなら俺は喜んで旅に出るだろう。

結論。

最終的には旅に出る。誰の為でもなく俺自身のために……。

自己満足。

最終的に人はそれでいいんだよ。自己満足についてくるものが幸せと言う、人と言う、大切と言う、ものなら、それで……。

全て他の人のためになって自分のためになるならそれ以上はない、それこそ一番理想の変化後の姿、だよな。

「あ、そうそう 。貴方も聞きたいことがあるんじゃあなくて?」

「あー。そう言えばそうだった。けれど、俺はどうせ聞いても分からない、で終わらせそうだから、知識を付けてから聞きに来る」

「そう」

「でも、一つだけ聞かせてほしい。姉さん、は、どのくらいの知識を付けて成功者となったんだ?」

「成功者、ねぇ。まあ、そうね。ざっと二十年よ」

「に、二十年……」

「そう考えすぎないで?私とあなたでは立場が違うでしょう?あなたは最初から知っていることもある。私はゼロからのスタートだったからスタートラインに立つことさえ大変だっただけ。だからそう今積めないで。大丈夫、貴方なら一、二年でどうにかなると思うわ」

一、二年。

先程の二十年からしたらあっという間かもしれないけれど、現在時刻から見れば結構な時間だ。

まあ、やるしかない、からそれ以上は言わない。

「そうか。ありがとう」

「本当にもういいの?」

「ああ。さっきも言ったけれど、聞いても分からないことだらけだと思うし……」

「そう、じゃあ、私は店に戻るわね?疲れているんでしょう?今から寝たらどう?一応夕食は作っておくから食べれたら食べておいて?」

「ありがとう。恩に着るよ」

「いえいえ」

そして、去っていく。

ああ、疲れた。毎回疲れているような気がする。これは慣れるも何もなさそうだな……。







「もう、出ていくのか?」

がたいの良い男の人は、俺が出ていくときに声をかけてきてくれた。

生きてて ほっとした。本当に。

「ああ。世話になったよ」

朝、起きてから一時間ほどたったところ。時間で言えば九時過ぎだ。

朝食を頂いて、刀を持って宵明のところへと行く準備は万端だ。急ぐわけではないけれど、早く終わらすことに越したことはない。

「そうか……。じゃあ、気を付けてな?」

「うん」

「また来いよ。あいつも歓迎してる、って、言ってたぜ」

姉さん、か……。

男の人の中に眠っているらしいから、会えなかったのは残念だけけれど、仕方ない。

「わかった。じゃあ……」

宵明のもとへ、行く、か……。

まずは鮮を人型にして。

神は呼ばずとも……、出てくるはず。

俺は俺を叱責する。何もできない、役にも立てない、必要のない自分に……。

・・よし。

神 と変わる。

神は何も言わずともそこには存在しなくなり、いつもの山麓へと存在した。

また、神とは変わる。鮮もまた刀に。

自分を責めるのはもうやめよう……。自分でしておいて何だけれど、結構傷つく。

時差のせいで今の時刻は夕方だ。時計を見ると、五時過ぎたころだ。

さて、着いたわけだけれど……。山に登りたいわけだけれど……。

上るに登れない、と言うか、上りたいけれど登れない、と言うか……。

敵が数人いる。丸一日、で俺を捜索していたわけではないだろうけれど、それでも相当な時間を俺の捜索に費やしている。

やはり、向こうから見て霊とはそう言う存在なのだろうか。

……。

どうしたものか。入るに入れないのはそのせいだ。

俺らが思っていた以上に敵は 警戒している。入れない、と言うか、ばれずに入る事が難しいからこう立往生する形になっている。

神様と変わってしまったし、二度変わるのにはつらいものがある。という事で自分で何とかしなければならない。

まずは、山へとバレずに潜り込むことが先決だな。

倒してもいいのだけれど、それだと手間がかかってしまうし、やはりそうするしかないか。

入りずらいだけで入れないことはない。

ただ、俺が疲れるだけだ……。先ほどああ言ったのは疲れるのは嫌だ、という事だったのだけれど……、何も手がないのなら仕方がない。

面倒くさがりはいけない、という事、か……。

入るか……。

バレたら……、まあ、大丈夫だろう。今は神様の力があるだろうし。あまり深く考えない方がよかっ たかもな。

さっと裏へと回り山へと入り込み、茂みに紛れ込むことに成功する。

………………。

じっとしているだけなのだけれど……。これは……、さっさと駆けあがったほうが早いか?どうせ神様の力を持っているのだ。

最初からそうしておけばよかった。焦ると本当に駄目だな。

この際バレても関係ない。どうせ早すぎてわからないのだから。自分がリスクを追う事は分かるけれど、それくらいする価値はある。自分は何もしていないのだから、それくらいは……。

良し。

茂みから立って草から半身が出る。

がさっ、っと、草が音を立ててすぐそこにいた敵にばれる。

そして、敵はこちらへと向かう。追い出そうとするのか捕まえて退治するのかはわからないが、今は上へと昇ろう。

俺は最大の力をさすがに出すのはやめて(だしたら死ぬ)、五、六割に抑えて上へと駆け上った。

敵は、追っては……。来ていな……い、はずだったのだけれど……。あれ。

来ていた。と言うかそれどころじゃあない。追い抜かれた。しかも二人に。

……、制御していたとは言え人に抜かれるような力か?神様が使う力が。

あれは確実に実態であり人間である。

ますますわからない。どういう状況なのかさえ整理ができていない。

「はぁはぁ……」

俺は呆然と立ち止まり、呼吸を乱した。

乱す?何故そんなことが起きている。五割の力で?呼吸を乱す、という事は最大限に力を使っている、という事。

矛盾。

前、俺が使った時はそうはならなかっただろうに。何かがおかしい。

向こう が速いのではない。俺が遅いの、か?

と、頭の中で色々考えているところで、俺を抜いていった二人が俺と少し距離を取ったところで立っている。

そしてそのうちの一人が呆然と立っている俺のところへと駆け寄り、息を吸い込んで、吐くときに両手で俺の胸のあたりを押す。

「はっ」

と、力強く力を入れて。

刹那、俺の体には衝撃波が走り、後ろに飛ぶ。

俺の知っている限りでは、合気道の様な物と考えられる。

伊達に霊退治などそう言う系の仕事をしていない、と言う事か……。

俺は地面に手を突き何とか体が転げ落ちるのを死守して、体制を立て直し向き合う。

いや、今はそんなことはどうでもよい。よくないけれど、今の問題はそこじゃあ無い。

確かに俺が神が使った時の力を持 っているままだっていう事だ。

麓の方にいた奴らは俺には追い付けていなかったのが良い例だろう。なのに、その後がおかしい。

俺は息が上がって、しかも追いつかれる始末。神様が劣った、と言うか人の最大値が劣った?たかが普通に鍛えただけの人に……。

何が起きている……。正直何もわからない。お手上げ状態だ。

と、そんなとき、

・・現状でのお前自身の最大の力じゃあ鍛えている奴らの力にはかなわない、という事だ。変わらないとまずい状況だ。

ナイスタイミングの神様。

質問攻めにしてやろう。

色々言ってくれたお礼だ。と、言いたいところだけれど、本当のところそうはいかない状況らしいしな。思っていることだけ、聞いていくことにする。

≪俺の最大?俺自身が持っている?それは神様が使った後の力では無い、と言う事か?≫

それならば先ほど、俺が速さで負けたことも頷けるけれど、一つおかしな点がある。

≪俺にそんな力は……≫

・・ない、か?

≪……≫

そう。……、そのはずなんだ。今の俺はない、はずなのだけれど……、

≪俺の全力がこれほどなのか?≫

・・まあ、俺から見ればまだまだだが、お前はもとから優れている。自分でもわかっているのだろう?

≪……≫

それは知っている。人よりは出来ることくらい。けれど……、

・・だったら、ないはずない。いや、違うか。出せるはずがなかった、か?

≪……≫

そう。それだ……。

こう言う風に走れるなんて自分では思ってもいなかった。

・・ま、あんな家系で生きてきたんだ 。当然と言えば当然、か……。

そう、当然の事。あんな家系に生まれて、健康に気を遣う暇などどこにもない。どころか生死さえ危ういくらいだ。

・・とは言えど、当然なのはそれだけだ。お前がそこにいたのが原因だとしたら、のみの話。お前は今、その境遇にいないだろう。だったら話は簡単だ。逆の発想。お前はそこにいない。そして、普通に人であるべき生活を少なからずしているわけだろう?だったら走れても当然じゃあ無いか?

≪それもそうか……≫

・・だろう?

俺が生活習慣を変えただけだ。

普通に食事をとって普通に寝て過ごしただけ。

・・そう深く考える必要はないんだ。

そう深く考えなくていい。俺は洗脳されたようにそう思っていただけだったのだ。あんな家計のせい で、人生お疲れ様でした状態がずっと続くと、そう思っていたせいで、死ぬ、と思っていたせいで、俺は何事も何もできなかったのだ。

現状でも何もできないけれど、そういう事じゃあなく、俺自身の力で俺の体も何もできない、と思っていたという事だ。

神様に体を渡した理由もそこにはある。

・・お前の疑問はもういいだろう?次は俺の事をいう事を聞いてくれ。直球に言う。俺と替われ。

神様から言ってくるなんて……。それほど危険だという事なのだろうか。

・・あれには確実にかなわない。お前がどれだけ運動神経がよかろうがあれにはかなわない。早く……、早くお前の体に叩き込みたいところでもあるしな。最大限に生かせる力を。

≪なんでまた、神様じゃあ駄目なのか?≫

・ ・前も言わなかったか?私は最大限に力を生かせるが、それ以下が出せないんだ。つまり制御はできない、人を殺してしまう可能性がある。だから俺が人間相手で戦う時は考えなくてはいけないんだ。毎回毎回そんな考えていられる余裕もないからな。

≪あー、言ってた気がする≫

制御と言うものを知らないのだ。最大限に生かすやり方しか知らない。

曖昧だから、二社選択しかないのだろう。制御できるができない、ではなくて、体を最大限に生かせて生かせない。だろう。

つまりは、生かせない、からこそ制御できずに最大限で生かすことしかできないというわけだ。

今回は仕方なく、か。やり方あっての事だろう。

・・さ、そういう事で早くしてくれ。

≪そ、そうだな≫

とはいえど、ど うしよう。落ち込むのは嫌だしな。

・・早くしないか。早くしないと消滅するぞ。ささっ、早く!!

≪うるさいなっ!今やってるよ!!≫

早くしないと消滅するぞって何だよ。お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ的なノリ。それ、脅しか……。神様、いろいろな意味で腹立つ。

≪くそっ!もう嫌にな・・・え?≫

・・変わった?

≪はは。凄まじく早い交換の仕方だ≫

怒りの感情をうまく逆手に取られた。

つまりは乗せられたという事か。この六行ほどで……。

っく、本当にこの神様、いつかやり返してやろう。いつか、いつか来るといいなぁ。

「おっと!!」

俺と神様が入れ替わった瞬間に刀は下へと落ちる。

どうやら本当に俺しか扱ってはいけないみたいだ。

そして人型へと変形 した。

・・そう言えば鮮に話しておけばよかったな。じゃあ神様?頼んだ。気分は乗らないけれど。

≪そう言うな。さっさと終わらせるから許してくれ。そのために俺はあんな手を使ったんだ≫

自分が悪くないみたいな言い方するな。神様は。

俺にとっては悪いことだが現状に関してはそうならないのが悔しいところだな。

≪じゃあ行くぞ≫

と言ってから神様は、一瞬で追い抜いた二人の元まで行き、一瞬で二人を脇に抱え、一瞬で麓まで戻り、二人をそこにおいて、一瞬で頂上まで駆け上がる。

さすが神様。神業だな。これについてきた鮮も鮮だが。

≪ほら着いた≫

まあ、着いたのはいいのだけれど。第二の関門と言ったところか?

門番が立っている。それは当然のごとく門の前で。

人が二人だ。男と女。どちらも二十代前半と言ったところだろう。装束を着て、まさに陰陽師と言う感じだ。

その二人は俺と対面するとともに構え、モーションに入る。男は帯から、女は胸の谷間から、紙をだした。考えるまでもなく式神を出すものだろうな。

紙から神を、ねぇ。誰が考えたのだろうか。

ま、それはおいておいて、この状況は先ほどよりまずいのではなかろうか。

式神が二体、つまり神が二体。つまりは現時点の神より強い存在が二体。

今現在、神様が俺の体を乗っ取っているせいで強さは激減されているからな……。

≪壱や、これは勝てん≫

・・ああ、分かってる。ならどうするんだ?冷静そうに見えるけれど、俺もう慌てだしそうなんだ。

≪まあ、死ぬかもしれないこと だから仕方がない≫

・・そうは言うが神様も危ないんじゃあないのか?なんでそんな冷戦なんだよ。

≪確実に勝てる戦だからな≫

・・確実に?

≪そう、確実だ。忘れるな。お前には最強のパートナーがもう一人いるだろう≫

・・あ、そう言えば。

昨日、炎を纏ったギガンテスの様な神を一撃で粉々にした強い見方がいたのを忘れていた。

と、思い返しているうちに式神は出てきている。

それは双子のように似ている牛。二本足で立っており、斧を持っている。

神話で言う半人半牛、ミノタウロスだろう。

・・じゃあ神様、早急に鮮に伝えてくれ。あいつらを弐体倒してくれ、って。

≪ああ≫

神様は少し後ろにいる鮮と対面する。

「刀の娘。お前の主人からの伝達だ。その半人半牛 を倒せ、だとさ」

と、神様にしては普通にそう言った。神様の願いでもあるからな。あるが……、

プイッ、とそっぽを向く鮮。

どうやら本当に俺の言う事しか聞かないらしい。神様が困惑しているのを見るのはなんか気分はいいのだけれど、今はそんなことを言える場合じゃあ無いか。

鮮のキャラはキャラで大変だな。

≪おい壱夜≫

・・何だ?

≪殴っていいか?≫

・・いいわけないだろう。神様がそんなことしたらやり返されるぞ。俺の体が木っ端微塵に。肉片が残れば良い方なんじゃあ無いのか。

≪だろうな≫

分かってて言ったのか。イライラをどこにぶつけていいのかわからないだろう。

・・変わるしかない、と言うことか。そろそろイライラもないし、神様自身でかえられ るのだろう?

≪ああ≫

腑に落ちないようだが、仕方がない。

スッと変わる。

「鮮?」

と、俺が声をかけると、ぱあっと雰囲気が明るくなり、俺の手を取ってぶんぶんと上下に振る。

腕もげる。いやマジで。

と言うか、よく見分けがつくものだ。まあ、言い方や性格ですぐ分かるか。

「よ、よし、一度手を放して……、よし、今日も元気だな。じゃあ、ちょっと聞いてくれ。あの弐体の牛を倒してくれないか?俺たちの敵だ」

「はーい」と口パクでそう言って笑顔を見せる。

と、そこまではよかったのだけれどその後も口パクは続き壱〇〇回ほど頷いておいて敵へと向かわせた。

鮮が式神を倒しに行くときまた刹那の時間が現れる。

刹那にして、ミノタウロスの元へ行って、頭を掴み 、刹那にして地面にそれは叩きつけられ、刹那にして、それはバラバラ。

が、顔面がない……。

笑顔でブイをしている鮮は悪魔にしか見えないけれど、正直とても助かった。

そしてから鮮は俺の横へと戻ってきた。

陰陽師二人は膝から頽れ戦闘不能。式神を得体もしれない物体が刹那に亡き者にしたのだからな。あれ?これって殺しなのか?いや、違うか。

神だから結構なんでもありだから復活するか。そう思っておこう。

・・安心しろ。神は死なない。何度も蘇る。神だからな。

と、俺の内心を呼んだようにそう言う。

神様は時々本当に心臓の悪いことをする。

さて、そういう事で進もう。ラストは近い。

俺は二人が守っていた扉を開け、中へと入る。

裏口だったようで枯山水があ り奥には縁側がある。

と、そこに見たことのある一人と見たことのない一人がいる。

一人は女。俺がよく知っている子。綺麗な黒髪のロングにおっとりした目を持っている。巫女装束的な衣装だ。そして、もう一人は男。初対面。黒髪のロングで後ろ髪を結んでいる。顔はきりっとしていてイケメンの部類に入るだろう。こちらも巫女とはいかないが、装束を来ている。

それは宵明。そして本当に知らない男だが、先輩の陰陽師と捉えられる。

俺は驚いた。

何がって言われれば宵明以外にないわけで。

彼女の表情はいつもより明るく、笑っている。吹っ切れたように見えると言えば見える。

「あれ?壱夜さんじゃないですか?わざわざ殺されに来たのですか?」

また俺は驚く。その言葉に。い や、薄々計算外になることは知っていたが、これは計算外と言うか、異例と言うか……。ただただ俺には理解できなかった、いや、理解したいと思わなかった。

ただ一つ理解できたとすれば、霊を殺す、ことが今の宵明の目的ではなく……、

「俺を殺す?」

「はい!一石二鳥なんですよ。霊も殺せるしこの恨みもなくせますからねぇ」

「……俺への憎悪」

ボソッ、と俺は呟いた。

今、頭の中に一つ最悪なパターンが浮かぶ。

それは一番してはいけなかったことで、一番危険な事。

・・まずいのは分かっているな?

と、神様は云う。

今よぎっただけのものが確定に変わった。

方法は分からないけれど、最悪な事態になったことに変わりない。

愛し、愛しすぎるが故に俺を憎むことにな った。

≪ああ≫

・・この状況を作り出したのは間違いなくそこにいる男の陰陽師だろう。巧妙な言葉でも使ってあの娘の思っていない気持ちを吐き出させたのだろう。お前を簡単に駆除するためだけにな。

≪言葉も呪いで一番恐ろしい、と言うのがよく分かるよ≫

俺を駆除するためだけに宵明を使って、か……。一人を道具として使う一人。うまく言えないけれど、これは普通の考えじゃあ無いことは分かる。人が人として扱っていない、と言うのはどういう事なのだろうな、と言うことだ。

・・ああ。これは言葉を使って行った言葉の上書きだ。私たちが最初に先手を取って恨みを新規作成したように、あいつが恨みを上書きさせたんだ。同じように言葉を載せて洗脳したようにそう思わせて。

≪あいつのせいで策は全て台無しになった、と言うことか≫

・・まあ、ほとんど、な。全て、ではない。恨みを出す方法は変わらない。ただ形が違っただけだ。安全なやり方から危険なやり方に変わっただけだ。だから結果としては変わらない。自分たちで立てた計画が台無しだっただけで、結果台無しになったわけではないさ。

≪まあ、そうか……≫

・・そうだ。しかも今は危険は半分もないだろう。お前には刀の娘もついているしな。やり方は変わらんさ。お前が俺の変わりの仕事をするだけ。あとはお前の覚悟だな。さて、どうする?

≪やるさ。ここまで来たんだからな。恨みを俺に持たせる、リスクがあっても結果助けられるならそれでいいさ≫

・・そうか。じゃあ任せるぞ。

≪ああ、少し気持ちつらいとこはあるが、やるだけやる≫

ここからは俺の独り舞台。今まで他に頼ってきたツケが回ってきたのかもな。それはそれで本望だ。俺が出来ることだから、俺がやったって実感があることだから。

まずはあいつを外に出すこと。つまりは宵明の恨みを最大限まで持っていくという事。もっと言えば、俺が恨みを募らせることを言うだけだ。

と言う事は恨みを最大まで募らせれば霊は外へと出てくる、という事だ。

あ、そう言えば、俺もこの間知ったばかりなのだけれど、感情には器量の最大値があるそうだ。

前までは最大値などないものだと思っていたけれど、違うらしい。詳しくは教えてくれなかったが、そうらしい。まあ、なんであれ限度と言うものはあるらしい。神様のように。それ は無料対数でも、という事だ。

恨み=霊、の方式だから、出てくるのもうなずける。感情の最大値があるとするならば……。

まあ、あるのだろう。神様が出てくるのがいい例だ。

俺は口八丁はそこまで得意ではないけれど、自分を嫌わせるのには熟れて、慣れている。理由は、まあ……いいか。

ここら辺にしておいて……。

「殺したいのか?」

「そうですね」

「じゃあ、殺せよ?」

「え?」

え、って、何だろうか。まあ、気にせず続けよう。

「殺したいのだろう?なら実行すれば良いじゃないか。それでいいだろう?満足できるならそうすればいいさ」

煽りに行く。

「俺の存在が憎くて消したいのだろう?なら、ほら早く。憎しみを俺に向けろよ。恨めよ」

「……、あれ、私は今 何を?」

と、キョトン、とそう言う。そして続けて言う。

「私……、壱夜さんを殺したいのでしょうか?確かに……、確かに私は憎んでいます。でもそれは貴方ではない……。私の中にあなたは殺したいほどに憎んでいるのに、何かわからない。私は……、私は、いったい何を……どうすれば」

「な、なにがどうなっている……。宵明、お前は俺が憎いのだろう?」

俺にも状況が飲み込めない。

「い、いえ、それは違います。私の中にあなたの存在は大きい。けれど私は私であって……、憎しみにはなっていない。貴方はただただ私の愛人。何故私は憎い。分かっている。憎しみが私からあふれ出て憎いのは分かっている。でも……、何がなんでどうして……」

俺への憎しみがない?洗脳だと気づい た、と言う事か?

いや、違う。もともとこの子は自分の存在を確執していたんだ。だから洗脳されていても気づいたんだ。思わされていたとしても気づいたのだ。段階を踏んで恋をした故に自分を知っていて、俺の言葉で目が覚めた。

すごい……。

としか、言葉が出てこない。

だって、ほとんどの人が自分の存在を知らないまま生を終えていくというのに、この子は知っていて、次の段階を踏んでいる。

本当の人とはこう言う生き方をするのではないだろうか。なんて思った。

まあ、この一面だけを取り除けば、だが……。

それでも、恨めしい、と言う感情だけは抜けないのか。

自分を知っているからと言って、恨んで敵と思う、ことは変わらないらしい。まあ、当たり前と言えば当たり前か ……。

ああ、そうか。今なんとなく思いついた。

多分、自分を知るという事は自分が何を目的にして生きるかを知った、と言う事だろう。それなら納得がいく。

そうだったのなら俺が恨みの対象だ、なんてすぐ思わなくなるだろう。他に恨みの対象があって自分の目的をはっきりとしていれば。もっと言えば、俺の存在もどのようなものか知っているから、とも言えるな。

自分が何で何の目的で生きているか、それを知っているから俺の存在を憎まない、と言う理由と、自分の恨みの対象が霊にあり、それを殺すことが目的だから、違うと実感した。この弐点からあいつはおかしくなった。

……おかしくなった?少し違うな。付け足し、だ。

普通はそれなら自我を取り戻して終わりなはず。だけれど 、先ほど言った通り、おかしくなっている。

そうなるのも何となくわかるのだが……。

それは先ほど言った通り、付け足しだ。

ただの考えなのだけれど、多分、そこに洗脳が来たのが悪かったのではないか、と思う。人の言葉だ。霊の言葉ではない。

霊は、その人と共感したいだけだから、その人が恨みを持つものに共感して、恨みを増加させるだけだけれど、それが本当の人になったら話は全く違ってくる。

人は人だ。共感何て求めない。己の欲望のために生きる者。言葉も操れれば人も操れる。恨みも変えられる、と言うわけだ。

だから恨みの矛先が変わって分けが分からなくなったのだろう。

付け足し。

自分を保っていたとしても他の人に言われたことを信じてしまえば、保っていられ なくなる。

今回の場合はあの後ろにいる男の陰陽師が宵明にそう吹き込んだのは良かったけれど、思い出した時に何を目的にしていたのか忘れてしまった、という事だ。

まあ、俺のひらめきはそこら辺にしておいて……。

今考えるべきは、一時的なものだと思うから待っていればまた神様に矛先は向くのだろうけれど。

その前にその一時的なもの時にどうしていいのか分からない。宵明がどうなるのかさえ不安なところなのに……。

と、言う事だ。

計画が狂いっぱなしだ。

「わ、わた……」

「?」

どうしたのだろう。

「あ、ああ……」

宵明は髪をくしゃくしゃしてから、体を縮込めた。

「ぁぁ……、ぁぁぁぁああああああ!!」

そして叫喚する。

俺はただただどうすることも なく、どうにも出来ないことを悟って、少し立ちすくんでしまった。

頭の中は真っ白になるどころか、考えすぎて何も無いように思えてきた。

劈くような悲鳴はまだ続く。

「な、何だ!!」

俺は宵明に寒気を感じた。

目の前にいた宵明は宵明でない?

宵明から前見たようなどす黒いオーラが出ている。前とは比にならないほどの多さだけれど。

それに俺は悪寒を感じていたのだった。と気づいた。

・・感情が入れ混じってるんだ。

≪感情が入れ混じっている?≫

何が何だかわからない俺に伝えてくれるようだ。

・・そう。恨みの目的が明白になっていない今、何に恨みをぶつければ良いかわからない事への苦痛と、元々心の中にある恨みの念。その二つが感情として入れ混じって、ど うしていいのか分からなくなった。恨みを持って困惑の感情を持っているという事だ。まあ、そんなことされたら誰だって自我が崩壊したっておかしくないだろう。まあ、こっちからしたら策の手間が省けて良い状態なのだがな。

ああ、そうか。チャンス、とも捉えられるのか……。

感情の増幅の事を考えれば早い。

俺が感情を二つ動かしたことで神様が出てきたように、そのままの状態を保たせていればすぐにでも最大限には達するという事だ。

俺はあまり気乗りはしないけれど、致し方ない。

≪少し、待つか……、とその前に……≫

俺は宵明後ろにいた陰陽師を見る。

話をしてみたい気もするからな。

宵明に隠れて見えない、と思っていた時、陰陽師が屋敷の中へと駆け込むのが見えた。何をする気だ……?

俺は一度宵明を越して屋敷を除いた。

と、そこには退治する用の装備を整えている陰陽師。

そして、そいつは恐然、驚愕、と言った顔つきで、それは怖れであって畏れであって、恐怖であって、驚怖といった感情を持ち合わせていた。

「何故……」

俺は呟いてしまった。

何でそんな顔を……、敵を見るような、いや、もっとひどい……、悪魔を見る目で宵明を見てたんだ……。

……、仲間なのに宵明がどんな奴かを知らなかったのか?ただ霊が憎かった人間で終わらせていたのか?もう、生きている存在が嫌になってくる……。わけわからない。

「あれは何だ!!宵明?いや違う……。敵だ!化物だ!」

と、陰陽師は装備を整えたところで、再度宵明がどんな奴かを確 認する。

「敵……?それどころか……、化け物、だと?」

「そうだ!!お前と同じ存在じゃあないか!倒すのが私の職業だ!!」

「……。俺と同じ、か。言っている意味が分からないな。あいつは見方じゃあないのか?」

「何を言っている?悪がついた時点で敵は確定だろ!あんな化け……ぐふぅっ!」

「それ以上は言わせるかぁ!!」

俺は怒り交じりでそいつを殴打した。

・・い、壱夜!!

≪大丈夫、もう冷静になった≫

・・……。

さすがに神様もびっくりしたようだ。

俺は殴打した陰陽師が部屋の中に再び戻る(吹き飛んで強制的に)のを見てそちらへと足を運んだ。

「悪?敵?化物?ふざけるな!お前は今まで宵明を見て来たのか?そりゃあ、あの霊は敵かもしれない。けれ ど、あいつの存在自体を否定するなよ。お前が、たかがお前が!あいつはあいつだ!霊じゃあない!なら、なんで宵明自体が敵なんだよ!助けようとせず殺そうとするんだ!!何か違うか!?間違ってなどないだろう!!一人の存在に弐つがいるからそれが敵なのに……。お前はなんでそう言う風にしかそれを見れないんだ!!」

「……」

「味方、で変わりないだろ!……、お前、何言っているのかわかっていないんだろ。もう良いよ。俺は俺がしたいことをするだけだ。だからお前がしようとすることは俺が全力で止める。俺はあいつをたすけなくちゃならないからな」

一言加えれば、こいつのせいで宵明がこうなったのだけれど、それは今となってはどうでも良い。俺は俺自身だから。

・・もう、良い か?

≪ああ。陰陽師にやられる前に俺がやる≫

もう、陰陽師はいいや。

ただの殺人鬼だった。自己防衛のために人を殺す。他の犯罪者たちと何ら変わらない、から放っておいても……。

俺は宵明の方へと戻って対面する。

と、そのために映ったのは予想以上のものだった。

大丈夫か、と思うくらいに、禍々しいオーラ、つまりは霊が宵明を纏っていた、人の原型は無い。

≪これが……、霊?≫

・・霊だ。感情が歪んでいるせいで形が歪んで何かわからなくなっているだけだ。

≪なるほど……≫

様子見か……。

出たはいいが、宵明が思い出さないと、霊もどうにもできない、と言うわけだ……。

後は神様に代わって恨みを喰ってもらうだけなのだが、如何せんそういう事だからな…… 。

「お前が……」

と、ふと後ろから聞こえる装備をした陰陽師から聞こえる。

「お前が言いたいことはこいつを守るってことだぞ!!陰陽師で、霊なんだろ!?助ける必要なんてないはずだ!!」

「そうかもな……」

「そうかもな、って。お前は何なんだ!!霊退治の邪魔をしたいのか!?」

「そんなことは言ってないだろう。俺は俺がしたいことをするだけだ。逆にお前は何なんだ?何を考えてるんだ?元々、お前の弟子であった陰陽師を殺すのか?」

「陰陽師が霊に憑りつかれれば当然の報いだ!!殺すさ!!そいつもそれを望んでいる!わかってくれるはずさ」

「分かる?何が分かるんだよ。お前のせいでこうなって、お前が殺す?そんなのお前が悪い、ってこと以外分かるはずがないだろ」

「そうじゃあない!霊退治のために生きている存在なんだよ、陰陽師ってのは!!命を張って霊退治をして何が分からない!!」

「言ってることが分からないんだよ。お前がそれを殺すのは陰陽師のためか?お前がしたことをお前が最後までしでかすのか?それをこいつが望んでいる?思っているとでも思っているのか?そう考えているからお前は宵明を分かってやれないんだ。陰陽師だからどうした、敵だからどうした。同じ人じゃあ無く立って、立っているのは宵明であって、それ以外ないんだ。だったら、俺は助ける」

そうか、こいつも同じなんだ。誰とも変わらない。何かを全で見るんだ。壱で見ようとしない。だから……、だから自分が思っていること、それそのものが陰陽師の思っている こと、と勘違いして、それを誰もが望んでいる、と思っているんだ。

それは、自分が正しいと思っていることで、自分が一番だとでも思っていることだ。

……、悲しい、としか言いようがない。

「何故……」

「俺が生きるのに必要な存在だからだ。それ以上に何か必要か?」

「……」

「お前の生きる価値観と人の生きる価値観を合わせるなよ……」

「……、ぁあああ!むしゃくしゃするな!!説教か!!更生でもしたいのか!!」

「ああ。俺はお前の考えを変えてやりたい」

「それだってお前の価値観じゃあ無いのか!?」

「それもそうだな。でも、それでも俺は俺の価値観で生きている。お前に押し付けるんじゃない。俺は伝えるだけだ。お前が決めればいいさ」

「そうか。俺が決 めればいいんだな?」

「ま、変える気はないだろう、な……」

これっぽちの言葉を並べただけで、理解できていない人は、人の器を持つものは変わらない。

「俺は霊を退治するだけだぁあああああああああああ!!」

「そうか。それはそうだな。うん、そうれしかないか……。俺は全力でそれを止める。たとえ一瞬でも、宵明を助ける前に守ることが出来るのなら、俺はそれを全力で止めよう」

多分、いや、絶対に、俺は死ぬだろう。

神の力を持っていたって何だって、存在を守るのは自分の命を守ることより重いことなんだ。今の俺には重すぎて自分はつぶれる。けれど、今やらなければ、宵明は死ぬ。

俺は復讐をしてほしい、とは言わないけれど、ただ、生きてほしい。いつか本当の目的を知 るときが来るだろうから、それを見つけるために、生きてほしい。

「宵明、じゃあ、またな」

「うぁぁあああああああ!」

陰陽師が何をするかなんて予想何てできない。目に見ることすらできない。

ただ俺は宵明の、動かず悲鳴を上げ続ける宵明の体を自分の体を引き換えに守る。

陰陽師は先ほどの掛け声とともに、防御用で使う錫杖を武器にしてそれを投げた。

身体強化の術でもやっていたようで、左手は筋肉ムキムキで、投げたその力で速さは、一瞬で宵明の体に突き刺さるほどだった。

宵明の体を守るのは俺だった。そのため突き刺さったのは俺の体だったが……。

しかも、一撃で心臓を持っていかれた。瞬時に棒を持って、宵明には届かなかったものの、移動時間、一瞬で宵明の裏ま で回るのに精いっぱいでそれだけしかできなかった。

「ほ、本当に敵である貴方が陰陽師であり、霊である宵明を助けるのですね!!!」

「て、き……、ねえ」

駄目だ。意識がもうろうとする、心臓貫かれてまだ生きている理由は分からないが、もうじき死ぬから関係ないか。

「先ほど言った通りだ。ま、俺はもうどうすることもできない。やりたいならやればいいさ。俺が出来ることはもうないから」

そしてから、俺はぼそっ、と宵明につぶやいた。

「早く、意識戻して……くれ。死んでほしくはない。……この声が、届いているか、は、分からないが……。届いているはずだから、言う……。生きてくれ」

死は突然にやってくるものだ。

誰がどう粋がろうと、どうあがいていようと、何を していようと、何を言っても、死ぬときは一瞬んだ。

それがくだらない死に方だって同じだ。

ま、多分、俺は戻る。俺には神様がいるからな……。はは……。

だから、先ほど、あそこまで言っておいたんだからな。何をするは分からないが、今から分かることだろう。という事で死んでおこう。



・・そして俺は死んだ。



「……壱夜、さん?」

と、声が聞こえるのは俺が死んでからの事。

何故私はこんなことになってるの?私は霊に憑りつかれてたの?壱夜さんは……、死んだの?

宵明の中は分からないことだらけで混濁していた。

俺の体を見ている。スッとどす黒いオーラは中へと閉まっていった。理性を取り戻したようだ。

そして、宵明は俺が死んだことに気づく。錫杖で貫かれたのを見てから。

そして、気づく。それを誰がやったのかを……。

「ゴウセンさん?」

「おっと、次は貴方の番ですよ?死んで詫びなさい!!」

と、宵明に向かってその体のまま飛んでくる。

「私を殺すのですか……。貴方が……」

「ふふ、分かってくれますよね?宵明?」

「わかり……、ませ んよ。私の大事な人を殺しておいて仕方がない、で済むとお思いですか?あなたがいつ私を助けました?あなたが私に何をしました?あなたは私の何を知っているのですか?」

「知っていますとも……。貴方は霊を殺すために生まれてきたのでしょう?」

「何が知っています、ですか。……何にも、私の何にもわかっていないじゃあないですか?いい加減、その利己的な考えをやめてくださいよ。私の今の気持ちがわかりますか。唯一私を分かっている、分かってくれている、必要な大切な人を殺された私の気持ちを分かると、分かると……、言うのですかぁあ!!」

「あなたも、そう言うのか。それも霊のせいでしょう。一撃で葬ろう」

「貴方は、してはいけないことをした。一撃で葬る?葬るのはこっ ちの方ですよ。貴方が私の人生を全て台無しにした。その罪を背負いなさい。まあ、貴方を殺してしまっては貴方と同じ、それは嫌なので殺しませんが、それほどの覚悟はしてください」

「……」

瞬間、ゴウセンと呼ばれた陰陽師は左腕に力を込めて殴打しようとしたが、宵明は再度、恨みを纏う。

それは先ほどのもまた比べ物にならないほどの怖気、そして威圧感がある。

そして、恨みを持った霊に宵明は感情を支配され、体を支配され、全てを失った。壱夜を殺した罪を報いさせるために。

それは必然であったが、宵明が狙ったことではなく、霊が狙ったこと。(宵明は恨みを持っていることしか知らず、霊を持っているなんて知らないからな)つまり、霊に乗っ取られたのだ。恨みを増幅させ、 感情が最大限になり、俺がいないせいでそれは完全体となった。

今は手につけられない、状態にある、か。

曖昧の神は手を打つことにした。

さて、壱夜は死んだ、か。まあ、あいつも分かっててやったのだろう。ならば、話は早い、か。

神は俺の体から一度身を出した。

一度、恨みを喰おうか迷ったけれど、俺に決着を付けさせるためにやめてくれたようだ。

「おい、刀娘。人型に戻ってくれ」

と、俺の体を出て早々、右手に持っていた鮮に話しかける。

すると、鮮否定することなく、人型に戻る。

「やろうとしていることは……、分かるよな?」

コクっと頷く。

「よし、じゃあ、手伝ってくれ……。これも壱夜のためだ」

もう一度頷く。

そして、弐つの存在はそこにはない。






暗闇。真っ暗だ。

モニターもなければ何もない真っ暗闇だ。

俺は死んだのか?それすら疑問だ。俺は誰なのだろうか。何も思い出せない。何をして来たのかも思い出せない。

まあ、死んだことは確かなのだろう。

俺の体は無い。存在が無いように何もない、暗闇にいるのだから。

……。さまよっている。いや、そこに立ち止まって何もしていないのだ。何もしても無駄なような気がする。何もしないでおくのが一番だろう。

「おっと、新しいお客さんかね」

と、何やら声が聞こえる。どこにいるのかも、何がしゃべっているのかさえ分からない。暗闇に一つ聞こえた。

「誰だ?」

俺は、一応、応えてみた。

「誰、と聞かれたら困るが、一人の存在 さ。例えば、ワシは、普通に生きた爺さんであったり、青年時に病気で死んだ一人であったり、事故死した悪人であったり、と、したものだ」

「……?」

「言っている意味が分からない、か。お前の中の記憶にそう言った記憶はないのか?まずはお前は誰だ」

「俺は、誰か……。壱夜だ」

「それだけか?」

「それだけだ」

「ほう、これまた珍しい奴が来たものだ。初めて生まれた、と言うわけでもないだろうから、レアケース、だな。間違って入り込んだか、何か」

「なあ、爺さん。言っている意味が和からなのだけれど、知っていることがあったら教えてくれ」

まあ、少しは見当ついてるんだけれど、俺がここにいる理由は思い出せない。

「そうだな。ここは俗に言う、地獄、と言うやつ だ。まあ、そう呼ばれているだけなのだがな。世間で言われているようなことは行われていないが、ここで何もしないでずっと過ごさなければいけないし、転生さえしてもらえない、苦痛があっているからある意味間違いではないがな」

「地獄、と呼ばれているだけのところ」

「そうだ。それだけのところだ。あの世に変わりはない。ただ、現世でした行いで決められた位置がここだ」

「あんたが所謂、地獄にいるのは、そう言う行いをしたからっていう事か?」

「そう。俺がどうしようもない悪事を働いて、ここに来た。反省するさ。ま、それでもどうにもならないから意味のないことなのだがな」

「なるほど。そう言うところか」

俺は何か悪いことをしたのだろうか?

それほどの場所ならそれ 相応の事をしているはず、人殺しとかそう言うのを。

「そう言うお前はそれも覚えていないのかい?」

「まあ、思い出せない。罪っていうほどの罪ならわからない、ただ」

「ただ……?」

「いや、何でもない」

一つ思い出したことがあった。俺は死んでいて死んでいないことを。生き返ることを。

今地獄に落ちた理由は俺が自分自身をいらない、と思っているからだろう。人の命は重いというのに。

ここでわかっておいて、思い出しておいて良かったぜ。改心する決心もついた。次来るときは天国と呼ばれる、階層の高いところに行きたいもんだ。

「そうか……」

「ああ。だが全部思い出した」

そう、神様を知ったら全てを知った。あれはあの存在は全てに関与していたという事だ。

はあ、待つ、それが今か。またかよ。

急に思い出したと思えば、次の問題、ねぇ。ま、あれのことだ。すぐにでも存在はここにあるはずだ。

「そうか、まあ、遅いことだがな、もう既に。じゃあ、私は行くよ。新人がどう言う奴か見たかった。ただの暇つぶしだったのでね。じゃあ行くよ」

と言って声は聞こえなくなった。

まだ俺は間に合うさ。全て取り戻すさ。俺にはそう……、

「おい、壱夜」

俺の前にそれは現れる。曖昧である存在が。久しぶりの狐姿での登場。

そう、神様がついているのだから。鮮も、な。

「なんだ?神様?」

「調子はどうだ?」

「魂に調子もひったくれもあるかよ」

「いつものお前だな。ようし。じゃあ」

「戻るか?」

「いや、まてここでお前に一つや ってほしいことがある。おい、刀の娘」

「言われなくても……」

と、聞き覚えのない声が一つ。

「そ、それ」

俺は声の持ち主を見た。

肉体はないけれど、それは曖昧ではない。

それは、普通の女の子だ。しかもクラスでナンバーワンにでも輝けそうな。

淡く薄い赤みがかった長髪。童顔でぱっちりとした大きな目。身長は150少しなのに、その体に合わない、ナイスバデー。

無邪気で元気な子のようだ。

ま、今は神様の言葉が気に入らないようだが……。

それはおいておいて、この子……。

「鮮か?」

「うんっ!鮮だよっ!やっと喋れるね!こっちは融通が聞くみたい」

と、俺が鮮を呼んだ瞬間。神様を踏んで、対面した。

「おい、何でもいいから、早くしてくれ。時間がない んだ」

「もうっ。分かってるよ!!じゃあ、単刀直入に言うよ?」

「な、何だよ」

俺だけ話についていけていない。

次いでで言うと、この子にもついていけていない。テンションが高すぎる。何でこんな子が俺を選んだのか、本当に謎なものだ。

「うん。私と契約してほしいの……」

「……?契約?」

神様と同じものだろうか……。

「うん!!それじゃあ急ぐからー……、少しここを離れようか!話ずらい話、て言うのもあるしね!!」

「お、おう……」

何が何だかわからないけれど、まあ急いでいるのは俺もだからみなまで言う必要はないだろう。

「えっと、曖昧な存在さん。壱夜飛ばしてっ?」

「分かった」

と、言うと神様は俺の中へと戻り、否応なく俺の体を乗っ取り、俺 の目の前にはモニターが現れる。まあ、真っ暗なんだけれど。

ってか、

「あれ?」

「ここはあの世だ。普通俺らみたいな存在がこっちにいる世界。なんでもできるのは俺たちだ」

なるほど。それもそうだ。

「よし、じゃあ行くぞ」

「え、どこに……」

「はい、着いたよっ!曖昧さんどいてッ!早く壱夜と話すの!!」

「お前……」

そして俺と神は変わる。

「変わったね?それじゃあ始めるよ?」

「ま、まて、ここはどこだ?」

「えっと、まあ、人の少ない現世だね」

そこはどこかの空き地だった。確かに人は通らなさそうだ。

「はい、話すよ?曖昧さん、鼓膜破って」

「怖いこと言うな。俺の鼓膜破らなきゃいけなくなるだろう、それ」

「あ、そっか。じゃあ、それに聞 いていないように言っておいて」

≪だそうだ≫

・・無茶苦茶言ってるな。まあ、仕方ない。あいつはお前以外には全て辛口なんだ。今は目をつむっておく。大丈夫だ、とでも伝えておいてくれ。

≪わかった≫

「分かったらしいぞ。あと、急ぐ前に少しいいか?」

「え?何っ!?告白っ!?」

「いや、状況考えてくれ……。俺と鮮が契約を結んだらどうなるんだ?」

「えっとねーー。何言って言われれば困るけど……。うーん。私と話せるようになる?」

「……、ここ現世だろ?喋れてないか?」

「あ、そっかーー!なんでだろう」

天然かよ!

「いや、知らないよ。まあ、それは一度あの世に行って、俺がお前を喋れる曖昧な存在だと分かったから、と言葉で決めつけたからにしておこ う」

「おおー!曖昧ならではだねー!で、何だっけ」

「契約する利点だよ」

「うーん。正直これと言ってないんだよねー。今で十分どうにかなっているから。ただ私たちの関係を形として結んで、より強固なものにするてきな、何か、かな?」

「あー、そう言う」

まあ、考えるまでもなく神様が考えたのだろう。喋れた方が良いだろうし、関係も結んでおいて信頼感が高まるなら本望だしな。

「そう!だから!と言っても、契約って言ってもなー。私が一夜にあげられるものはあるけど、私は何が欲しいのかわからないんだよねー」

「ああ、そうか」

「うんー。まあ、そのままでいいんだけど、曖昧さんが駄目っていうからさ」

「そうか……。そう言えば、お前も曖昧な存在なんじゃあ…… 」

「うん。確かに私は曖昧だよ?」

「でも、形はあるし、変形できるのは何でなんだ?」

「まあ、それは私が霊であって曖昧ってことだからなんだよねー」

「どういうことだ?」

「昔のころ、私、妖刀だったんだー。ううん、もっと言えば一つの破片だったんだけど……。で、その刀が壊れたときに私は一つの存在として生まれたんだー。生まれたのは良かったんだけど、私、刀で動けないし、霊だからほとんどの人から見えていない存在だったんだよ。そこで見える一人に一つの言葉を浴びせられたんだよ。お前は歩く刀だ。って意思を持っている人の様な刀なんだ、って。そこから私は人にも刀にもなれるようになったの」

「なるほど。でもそれじゃあ霊だけの話じゃあないのか?曖昧にはどう してなったんだよ」

「うーん。それはよく覚えてないんだけどねー。ただわかっているのは、誰かにそうされた、と言うよりかは自分でそうした、って言ったほうが早いかもしれないなー」

「自分で?それはどういう?」

「私には自我があるようだ、ってその一人の人が言った様に私には一つの自我を持ってたんだよ。だからね?私は霊であって自我を持ってたの。私は自分が霊だって知っていたの。だから私は曖昧になった。霊っていうのはいて、いない、存在でしょ?だから、私は自分でそう思っていたらいつの間にか、全て曖昧になってた、ってわけだよ!」

「はあ、なるほど。自分自身で言葉を使った、と言うか、その通りになったというか」

「そう!」

「それで、今の存在に至ると……」

「そう!」

まあ、前いた場所にいたのはどんな経緯があったかは今はいいとして、もう一つ疑問に思っていることがあるんだよな。

「もう一ついいか?」

「結婚!?」

「発展の仕方って知ってる?まあ、それはギャグとしておいて……。お前さ。今まで人を拒んできたんだろう?」

「うん」

「それは何でだ?」

「なんで、って言われればよくわからないなー。ただの直観としか……」

「俺も?」

「うん、そうだよー。直観で信頼できる、思えたから壱夜を選んだよ?まあ、実際当たってると思うけど」

どういう直観でそうなったんだろう。俺の性格上の問題?わからないな?

「ふぅん?ここらで良しとしておこうか」

「そうだね!でどうするー?私の欲しい物……」

「うん、そうだな。お前はどうされたいんだ?」

「え?いっぱいお話してほしいだけだけどー?」

「……。それはできるけれど、お前の命を預かる引き換えにはできないな……。さてどうするか……」

「うーん。だね」

「そうだ。一ついいのがあった」

「えー、何?」

多分。この子はずっと一人だったのだろうし、何も知らないし、それに……。

「お前は何で存在しているのか知っているか?」

存在している目的がないのだろう。

この子はいつも一人だった。刀ではなく、一つの存在、俺の前にいる鮮は。

寂しかったのだろう。俺と隣にいる存在にそんなことをさせてあげたくない。この子にはずっと笑っていてほしいからな。

やはり、俺が与えるものはこれだ。

「人を切るため。ご主人を守るためだけど……」

「そうじゃあない。お前が存在したい理由だよ。それはお前の刀としての使命だろう」

「そんなこと、言われたらわからないよー。ただの武器としてしか扱われてこなかった私だもん。存在理由なんて、ないんだよ」

「じゃあ、欲しいか?」

「え?」

「存在理由。お前はそれじゃあ生きていない、のと同然だろう?」

「え、欲しい、と言えばくれるの?存在していい存在になれるの?……無理だよ、ね?」

「……。無理じゃないよ。俺はお前を戦いの道具にするかもしれないけれど。お前は見ている限り普通の女の子だ。俺が隣にいる限りお前は鮮で。存在理由は俺がお前を必要とするからだ。それは駄目か?交換条件だ」

「だめじゃない。けど……」

「俺はお前がいれば助かるし、お前がいないとどうにもならないんだ。戦いの面じゃあ無くてもな。だからお前は必要な存在で、お前が生きる存在理由は俺が与える。俺は別に何か、するってわけじゃあないけれど、そんなのでよかったら、契約。結んでくれないか?」

「そ、それなら私はちゃんと生きてられるし……。交換条件としてそれを求めるよ!ほんと……、本当に……」

ま、簡潔に決まったけれど、それだけの事なんだ。言葉なんて言えばすぐ解決するから。

「?」

「ううん、なんでもない。ただ私の選んだ理由はやっぱりそこにあったんだなー、ね。思っちゃてね?」

「言ってる意味が分からないけれど……」

「それでいいんだよ。さ、そう言う事で私は貴方に力を……」

「俺はお前に存在理由を…… 」

「「与える」よ」

ただ口で交わした、口約束みたいなもので、軽い言葉だったのかもしれないけれど。今から二人で歩む道や行動はすごい重たいものだ。

軽いなんてものじゃあない契約。それこそ強固で一生ものの契約だ。

俺の存在理由が鮮にとってそれほどのものだったら、だけれど……。

「壱夜……」

「何だ?」

ふと、おれが応答すると、鮮は俺に抱き着いた。

「お、おい!何だいきなり!」

「え?ふふふ……。私は……、ま、それはおいておいて、しただけだよー。さ、気が済んだから……、もう行こ?」

と、次は離れてそう言う。

「そうか……」

これ……、後でもできたことなんじゃあ……。闘う前に信頼を強めておいた方が良い、と言うのも分かるけれど……。

≪神 様?≫

・・お前が感情動かさないとダメだろ。

≪え?あ、そうか。ここは現世か……≫

・・ああ。頼むぞ。

≪わかった≫

今の俺には鮮がいて、神様がいる。

これほど心強い存在はいない、俺は安心できる。

安心感。安堵、だ。

俺は心を落ち着かせて安心した。この二人がいることに、ありがたいことに……。

そして変わる。

・ふう……。

≪珍しい感情で変わったな?ま、いいか。じゃあ……≫

・・行こう、終わらせに。

存在は宵明のもとへと飛んだ。

≪着いたぞ≫

・・ああ、それにしてもここは……?

先程の屋敷、ではあるのだろうけれど、先程と場所が違うため、現在地がわからない。

そこは、薄暗く、少しかび臭い。足元、左右、上以外どこを見てもものが置い てある。陰陽師の道具が入っている倉庫だろう。

まあ、それは良しとして、早くここを出て宵明の状態を見ることが先決か……。悪い予感しかしないしな。

神様は入り口らしき場所を見つけ、戸を開けようとするが、開かない。

≪?開かないのか?≫

・・ああ、ここは蔵の様な場所で、手前から南京錠でもかけてあるんだろうさ。

と、言ってから、神様は扉に向かって回し蹴りをした。

扉は案の定粉砕。粉々になる。もう、驚かない。

鮮は倉庫の前にいた様で、粉砕された扉の破片が顔の前に来るたびに、蹴って遊んでいた。

何も言わずに神様は宵明がいる方へと向かう。

ここは、裏のようだから、屋敷の中を突っ切ればいいものを、律儀に横から回り込んで向かっている。

それに気づいたか、とっとっとっ、とかけて追いかける鮮。

途中、面倒くさくなったのか、真ん中を突っ切るように走る。

・・何だ、最終的にそうするのか……。

≪敷地内がでかすぎなんだ。大回りしていたら時間は倍かかるぞ≫

・・確かに。同感だな。

さすがにこの敷地内はでかい。俺でも分かる程に。

と、言っているうちに何か知っている場所に出た。

俺が陰陽師を殴打して吹き飛ばした部屋だ。タンスの中は散乱している。陰陽師が装備を整えたときだろう。

まあ、それは良しとしよう。それにしても、肝心のその陰陽師と宵明がそこにはいない。

ふと、神様と鮮はそこを下り、そして外に出る。何かを感じたのだろう。瞬間的なことだったから。

そしてから、右を見る。

そこに……、いた 。

何か、いた。

悲鳴など何も上げていなかったけれど、悪寒はする。それを見るだけで悪寒がする。

それは宵明、と言うよりかは恨みの霊だった。

宵明の原型が少しもない。恨みは宵明をすべて乗っ取り、全長は五、六メートルになるといったところか。現状ではそうしか言えない。こいつがたったらの場合だ。ということで、こいつは四肢を地につけている。動物よりの霊、だ、という事だ。

もっと具体的に言えば、狛犬。神社などそう言うのも含めてそう思った。

正直目の前で無くしても映った画面の奥にあったとしても、それに俺は怯えた。怖かった。

今までの何よりも……。それは霊だから、と言うよりか、恨み、と言う感情を恐れたものだった。

≪っち。まずいな……≫

・・どう したんだよ。

出方が分からなくともそれを見れば喰う事をする神様が警戒をしている。

≪あの娘、完全に体を支配されている。あれを助けるなど……≫

・・無理なのか!?

≪いや、そうではない。こちらも覚悟をしておかなきゃならない。

・・覚悟ならできているが……。

≪死ぬ覚悟か?俺も死ぬんだぞ?あの刀も、だ。その覚悟ができているというのか?≫

・・それは……。

≪出来る訳ないよな?だが、まあ、そんなことも言っていられないな。さて、考えどころ、何だが……。避ける、と言う選択肢は?≫

・・わかりきったことを聞くなよ。あるわけないだろう……。

≪だと、思ったが……。本当に参ったな……。万策尽きたぞ。助ける、と言うことの……≫

「あ、ぁぁあ」

ふ と、うめき声が聞こえる。下のようだ。

神様は目線を下にやる。

「なんだ、まだ生きてたのか?」

そこにいるのは息をするのがやっとな陰陽師だった。

「お、お前は、あれを助けるのか?あの化物になったあれを助けようというのか!?」

「まあ、そうだな。器の持ち主に従うまでだ」

「持ち主?お前は……、そいつに憑りついている奴か!?同族だから助けるのか!?」

「何を言っているんだ?あんなもの、どちらかと言うと敵だろう。敵も味方も構わず攻撃してくるだろうし……」

「なら何故?」

「俺は別に何とも?ただ、器を借りている奴の話を聞いているだけだって言っているだろう。俺はそいつがしたいように従うまでだ。あ、あと、器の持ち主から、化け物でもなんでも、一つの存在で元は宵明で変わらないなら、助ける理由はあるだろ。助けられなくてもどうにかしたいから、やるだけだ」

「お前は一体、何物なんだ……」

「曖昧だ。お前みたいな浅い範囲でしか物事を捉えられない存在だ。あと、お前、大事な器に異物で刺しただろう。お返しだ。殺しはしないが……。俺の苛立ち分、それで感謝しろ」

「うがッ」

神様は足元にあった陰陽師の頭を足で踏んで地面に植え付けた。

容赦ないな……。

「さて、どうせ敵味方構わず、来る奴を拒んでいるんだ。いつかこちらに気づいて攻撃してくるだろう」

・・で、攻撃して来たらどうするんだ?叩くわけにもいかないだろう?

≪いや、叩く。体さえ傷つけなければいいわけだ。外身は完全に霊で覆われている≫

・・ でも、神様打撃系の武器しか持ってないだろ?

≪だから、俺はお前と変わる。俺が少しの間体使って様子見してからお前と変わる。刀の娘と一緒に叩け。最後くらいはお前がしっかりやれ≫

まあ、その気持ちはありがたいけれど……、

・・それじゃあ、打撃攻撃となんら変わらないんじゃあないか?まずまずの話、攻撃したら駄目なんじゃあ……。

≪いや、刀で皮をそぎ落とせばいいんだ。恨みと言う霊とそれで引きはがす。そして俺が喰えばいい≫

・・いい……、って、結構、高度なこと言ってるけれど……。

≪高度な技をさせるための俺だろう?

・・まあ、そうなんだけれど……。

何が嫌ってそんなことじゃあ無く……、これは云ったら神様に甘ったれるな、とでも言われそうだからやめ ておこう。

・・いや、分かった。じゃあ、神様ウォーミングアップを頼んだ。

≪了解だ≫

「っと!いきなりかよ……!」

神様はいきなり攻撃してきた狛犬をよける。

先程まで気づかれていなかったはずなのだが、気づかれ、気づけば目の前まで突進していた。

神様でなければ、やられてたぞ……。

にしても、今のは何だ。神様と同じように最大限に体を使ってる。乗っ取る、とはそう言う事か。

それからと言うもの、行動が早すぎて綴ることさえ許されず、神と犬は闘っていた、としか言いようがない。と言っても、神様は逃げる一方だけれど。まあ、仕方ない。

≪体が馴染んできたな。そろそろいいか……≫

・・え、ちょっと待って。心の準備が……。

と言った時にはもう遅かった 。瞬時に入れ替わる。

「うおっ!!」

俺は変な声を出しながらそいつを避けた。

≪神、ウォーミングアップ出来たのはいいけれど、こいつの情報はどうなったんだ?肩書は?それをやるためにも出て来たのでは……≫

・・あ、気を遣う事に必死で忘れていた、まあ、今の体なら問題ないだろう。さ、来るぞ。

あ、って。まあ、何を言っても仕方がない、か。

と、言うか結構逃げれるな。

話している間も結構避けられている。

身体全部だから、目もよくなったのか?よく分からないが、そういう事にしておこう。

で、えっと、俺のやることは……、

「鮮!!」

俺はそこにいる鮮に声をかける。

「はーい」

と元気よく答えてこちらへ来る。攻撃を避けながら。

「どうしたのー?」

こいつ、今までそこで立っていたのか……。まあ、俺がいない以上そこにいるのは当然か。何もできないだろうし。

「刀になってくれ。あれをどうにかするから」

「うん。いいよー」

別段、理由を聞くわけでもなく、鮮は頷いてから、刀になった。

右手で柄の部分を掴んで戦闘開始だ。

あ、そう言えば、はっきりした色がある状態で見たのは初めてだったな。

美しい。

ただ、その一言で片づけられる様な美しい刀。

妖刀と呼ばれている様に色が薄紅色、と変わっていた。鮮明に言えば、刀身、が。だが。柄の部分が紅色だ。

綺麗だ……。

「あ、あぶねえっ!」

刀に見とれている場合じゃあ無かった。

爪が俺の顔面を削り取るとこだった…。

真っ黒い狛犬、 やはり怖いものは怖い……。

なんて言ってもいられないわけで。

何度も何度も攻撃してくる狛犬に逃げることしかできていないのは事実だ。

・・切らないと、本当に駄目になるぞ。

≪わかってる!≫

分かってるけれど、どうしても切り出せない。

情が入るからか?そうかもしれない。やってしまえばこっちのもの、か……。

良し一撃入れるか。

俺は狛犬が俺を上から押しつぶそうとした瞬間、上に飛んで、オーラの様な皮のようなものを剥いだ。

血が出ることもなく、スッと切れる。そして、オーラの様な皮は下に落ちて、その部分が……、再生した。

・・再生……。また厄介な、肩書だな。

再生する狛犬、ってか……。

「あれー。剣の先が腐敗してきている。もう一つの肩書は腐敗だね。あ、あと、その前に私に入り込もうとしているから、侵食する狛犬、だー」

三つも……!これは大惨事になりかねないのでは……。

「って、大丈夫か?剣先どころか、こっちまで腐敗してきそうな勢いだけれど」

「えっとー。切り落として?私は曖昧だから何度でも再生するよ。痛みもないから心配しないで」

と、俺が心配しようとしたことを鮮は大丈夫だ、と先に言った。

という事で、俺は刃先から真ん中の部分までを両手で曲げるように折った。

刹那、新しい刀身が生えて来た。

「これで良しだね。でも、これじゃあ手の出しようがないねー。いくら腐敗して再生できても、あっちも再生するわけだし……」

「剣を何度も折るのは嫌だしな」

「急速に終わらせるぞ!戦えないんじゃあ意味がない。俺が喰う!」

「って、神様!?」

俺の胸の内から狐が出てきていて、食う準備は満タンだ。

「喰うのはいいけれど、剥がさなければ意味がないんじゃあないのか?あと、侵食しないのか?」

「可能性が下がるだけだ。確実に行きたかったが、この際だ。仕方がないだろう。あと、浸食については大丈夫だ。俺は喰って浄化するから、なんとかなる」

「そうか……。そう言えば、鮮は曖昧だけれど、食う事は出来ないのか?」

「私は、本物の曖昧とは形が違うし、元が霊だからね。そう言うのはできないかなー」

「なるほど」

「じゃあ、やる……ぞ?」

と、神様は疑問形。俺は一瞬で後退した。

危機を感じたというか、びっくりしたのだ。

削ぎ落として再生している最中 、一人の女の子の悲鳴が聞こえた。考えるまでもなく宵明だ。

「意識があるのか?どうなってんだ?」

「本当にまずい。今の悲鳴で手の打ちようがなくなった。もうこれを助ける方法は……、ない」

「な、何だよ。そんなにやばいのか?」

「最初から余裕しゃくしゃくどころか、危機すれすれでやってきたから、無理になるのも一瞬だ。今ので確信がついた」

「だから何だよ?まったく話が入ってこないけれど……」

「ありゃりゃー。あの子。完全に体を支配されちゃったねー」

神の変りに鮮が答えた。

「え?もともとそうだったんじゃあないのか?」

「外身ではなく、内面まで憑りつかれている。全てが娘と繋がっていう事だ。つまりはあれ自身が娘みたいなもの。痛覚も何もかもな。あ の悲鳴は傷を付けられて痛かった時の悲鳴だろう」

「宵明が霊になったのか?」

「そうじゃあなく、霊が宵明になった。乗っ取ることをしたのだからそういう事だ」

「なんで、食えないんだよ?それじゃあ」

「全てが繋がっている今、喰うなんてことしたら、あの娘事喰らってしまう。それでもいいのか?」

「……。それは駄目だ」

「だろう?」

「何か方法はないのか!?」

「無いな」

「あそこに宵明自身はいるのか?」

「まあ、乗っ取られた、とは言えど、元々の宿主は娘だしな。あの中のどこかにいるだろうな。探すことなど到底無理だろうが。まず、体内何て入れたものじゃあない」

「という事は……」

「万策尽きた。悪かったな。何もしてやれん。諦めろ、としか……」

狛犬。

侵蝕する狛犬。腐敗させる狛犬。再生する狛犬。

それは言ってしまえば、外敵強敵怨敵無敵。絶対に勝てはしない、そして手の打ち様がない相手。

けれど、俺はそんなこの子を助けたい。なんとして、……でも。

何となく助からないことは分かっていた。だから、俺は考えていた。ずっと一人、心の中で……。

姉さんは言った。今助けられなかったら、後で助ければ良い、的なことを。それだったら、今は助けなくてもいいという事だ。ただ、この現状でのあの狛犬を殺さずどうにかすればいいという事。

「一つ。試したいことがあるのだけれど、いいか?」

神様は先ほど言ったんだ。宵明は心の中にいる、って、なら……。

「え?退治できるのー!?」

驚いたように鮮はそう言った。

「 いや、そうじゃあないよ。宵明は心にいるんだろ?」

なら……。

「話して宵明に戻す。理性を戻せば、恨みは支配をやめて、宵明に戻るだろう」

「助けるのではなく、保留させるのか」

「そう。声は届くはずなんだ。だから、やらせてくれないか」

俺はいつも何もできなかった。神にはいろいろ助けられて、戦いでも鮮に助けられた。だからこれくらいは自分でやりたい、自分の願望である。

「それは、別に構わない。お前が決めたことだろう?だが、その後どうするんだ?助けるために手を打つんだろ?」

「ああ、そのことなら……。旅に出ることにした。姉さんも言ってたし、そこで得られるものは多い、って」

「それがいいね!いいよー!私はいつまでも壱夜についていくよっ!」

「 ありがとうな。鮮」

「そうか。それが私も一番の策だと思うし、まずは目の前、か……」

「そうだな……」

鮮を人型へと戻して、神様は中に戻って、攻撃を避けながら目の前まで向かった。そして、話す。攻撃を避けながらだけれど、届くはずだ。

原因があれだとするならば、まだスキはあるはず……。まずは、俺の気持ちをここで伝えておこう。いつまた会えるかわからなくなるし、真正面で言うのは恥ずかしいからな……。

「宵明、お前は優しい奴だな。俺が死んで俺のために陰陽師の師であるあいつを恨んでくれたんだろ?そうそうできることじゃあないよ。それだけ思っていてくれてありがたい。それ以上他はない。……ありがとう」

行動が一瞬止まった?

狛犬はぴくっとしてからまた動 き始める。中で葛藤しているのだろう。

「俺は間違っていなかった。俺はお前を恋人にして間違っていなかった。大切な人のためにそこまでしてくれる。そこまで大切だと思ってくれている。俺はそんなお前が必要な存在だから……、さ。だから、そんな恨みに負けないでくれ。お前を認める、全て受け止めてやるから、帰って来いよ……。な?」

狛犬は、いや、宵明は行動を止めた。瞬間的にではなく、本当に止まった。そして、形は宵明に戻った。戻る、と言っても完全ではなく纏った、一段階前の状態だ。

「行動が止まる、という事は聞こえているんだろ?ほら、戻って来いよ」

あいつの今の恨みが陰陽師によるもので俺の死が引き金と言うのなら……。

「大丈夫。俺は生きてるから、安心しろ 。恨むのは俺だけでいいだろう?」

お前はお前のままがいいのだから。

俺は纏っている状態で宵明を抱きしめた。「大丈夫、戻って来い」、と、何度も耳元で言いながら。

と、何度か言っていると、スッと恨みのオーラは宵明の中に戻っていた。

恨みのもとを断てば、それは元に戻るということだ。ま、中にまだいるのは、霊が憎いと思っている感情からだ。これは、また今度どうにかする、と言った課題だな。

「壱夜……、さん?壱夜さん!!」

どうやら理性を取り戻したみたいだ。

俺は理性を取り戻した宵明を見て。ほっと安どしてから、抱きしめるのをやめた。

「大丈夫だったか……。良かった……」

「はい……。壱夜さんが声をかけてくれましたから……。でも、私、どうしましょ う!大変なことをしてしまいました!」

と、わんわん泣き始めてしまった。

まあ、あれだけやったら。霊とリンクしていた、と言うのなら全てを覚えているのだろう。

「大丈夫だよ。悪いのはあっちだしな。そして、これだけの被害で済んだんだ。何も言う必要なないだろう」

「でも……、でも!!」

陰陽師を続けることが出来なくなる不安や、人としてやってはいけないことだ、なんて思ってたりすることから、そう言うのだろう。

「宵明。お前は確かにやったことはひどいことだ。死んではいないものの、このまま触らなかったら、何百人も死んでいただろう。けれど、結果、違うだろ?それだけで済んだ。それで済む話なんだよ。もう陰陽師には戻れないかもしれない、けれど、別にもういい だろう?本当はどういう職業か知った時点で、お前はもうやるべきじゃあ無いさ」

「え……」

「それじゃあ、目的を失う、ってか?違うだろ?お前は霊が憎くて殺すことを目的にして生きて来たのか?違うだろう?お前は、家族を殺した霊が憎いんだろ?霊が憎いなんて、どこにいる霊も憎いわけじゃあなんだろ?だったら、陰陽師なんて必要なくないか?目的の意味をはき違えるな。お前が倒したいのはその霊のみだろう?ほかの霊が何かお前にしたか?してないだろ。だったら、さ。そうなって丁度良かったんじゃあないのか?」

「それは……。そうかもしれません。私はただの恨みのために何の害もない霊を殺していました。陰陽師とはそう言う職なのですね。これは私が今までしてきたことへの言い 訳かもしれませんが、多分、ずっと私の中にいる霊に言葉で負けていたのでしょうね。だから私は全てが憎くなった……。ありがとうございます。壱夜さん。私は別に全部の霊が憎いわけではありませんでした。私の目的は家族を殺した奴を、殺す、いえ、それじゃあ何も変わりませんね。成仏でもさせたいと思います。いっぱい経験して私はその霊さんに教えてあげます」

ああ、予想以上の答えだよ。宵明。本当にすごいよ。神様が来てからしかわからなかった俺とは全く違うな……。

「言いわけじゃあ無いさ。その通りだ」

「でも私まだ不安なんです」

「また、霊に憑りつかれて、そう言う考えが浮かんで来たらどうしよう、って?」

「……はい」

宵明は俯きながらにそう言った。

「大丈夫。 俺が助けてやる。お前がそうしたように。何とかするさ。時間はかかるかもしれないけれど……」

「そ、そんな……!壱夜さんにそんなことまで……!」

「いや、させてくれ。お前をまた悲しませたくない。俺はお前の恋人だ、必要な存在でいなければ俺は生きていけないから、それくらいの事はする。その理由だけじゃダメか?」

「いえ、そんな……」

「なら、俺がどうにかするさ。それまで待っててくれないか?我慢していてくれないか?」

「待ってて……、て。何で長い間会えないような言い方をするのですか?」

「ああ、お前を助ける方法とか色々なとこを回って体験して経験してくる。まあ、簡単に言えば旅に出てくる」

「え?それじゃあ私もついていきます!それなら私も頑張れます !」

「俺は一人で行く。大変なことに巻き込みたくないし……。分かってくれ」

神様の力で飛ぶから、行けない、と言うのもあるだろうし……。

「それはどれくらいですか?」

「ん?」

「どのくらいの時間旅するのですか?」

「分からない。けれど、三年くらいで帰ってくる」

「三年……、ですか。分かりました。待ってます」

結構融通が利く、心の広い子だ。

「でも、一つ約束してください」

約束?

「……何だ?」

「私は待っていますから、気を付けて……」

「何だよ。それは……。ま、分かったよ」

「それは良かったです」

と、笑顔を見せた。

そんな顔は初めてだな。

本当の宵明を見たような気がした。

よし、今決めた。今から向かおう。旅して早く帰ってく るためにも。

「じゃあ、行ってくる」

「もう行くのですか!?」

「ああ、すぐに言ってすぐに帰ってくるために……」

「分かりました。では、気を付けて」

「ああ」

ふう。

一応、喜び、か。色々中とに関して。今日はそれだけだ。

さて、行くか……。

俺と神様は入れ替わる。

・・神様?

≪わかっている。早く終わらるぞ≫

「刀の娘、行くぞ」

鮮はコクっと頷く。

そこから存在は消えた。ただ、宵明を残して。

そして俺は経験の地へ存在した・・。


以上でした

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