表裏一体
火照った体にちょうど良い夜風。
銭湯を出た俺。俺たちは、その後、コンビニでお茶と腕時計を買い、拠点に戻ろうとしていたところだ。
ふと思い出した。
神様その後寝てしまったのか反応がないけれど、いいのだろうか。このことはどちらかと言うと神様がしたいことなのだが……。
先ほど言っていた次いで、と言うやつだ。
寝ていることは仕方がないとは言えども、それは疲れによって来るものだけれど、それは一方的すぎやしないか。
何も知らない状態で当たり前でないこと、いや、当たり前のことを当たり前だと思わないことを、この世ではだけれど、それを理解するのは難しい。
自分だけなんて疲れているなどとは思わないで欲しい。けれど、疲れさせたのは自分だという事を思い出してしまうとどうも反抗しずらくて言えない。
≪神様?≫
一応起こそう。
起きなかったら起きなかったでそれまでである。
拠点に帰って寝ることにしよう 。
・・ん、んぁ?何だよ?
ものすごい眠そうな声が出る。
起こしたのは間違いだったか?
まあ、後々分かることだが、ここで今起こしたことを後悔する。
≪なんだ、って、神様の次いで、ってのは何のこと何だよ?気になるんだけれど……≫
気になったら解決するまでなんでも聞くタイプ。
相手は面倒くさいだろうけれど、知識が増える自分にとってそれは、その思いはどうだっていいことだ。
・・ん、ああ。そうだったな。
≪どこかへ向かえばいいのか?≫
・・いや、普通に帰り道に会えるだろう。
会える?
一日のうちに仲間でもできたのだろうか?
約束しているか何なのか。わからない。神様の言うとおりにするしかないだろう。
その後、ことが起きたのは夜風が寒々し く感じてきた山麓に着いた時だった。
・・おい、いるぞ。
と、何かを感じ取ったか、少し神経を尖らせ注意をしている。
そう言う何かと、思ったほうがいいかと思い、自分も身を構える。
・・あそこに何か見えるか?
と、どこを指しているかもわからない状態でそう言うため周りをぐるりと見渡し何かあるか探してみる。
人がいる。スーツを着ている、会社帰りのサラリーマンか何かだと思う。そして、肩を後ろからつかみそこから横に首を傾けこちらを見ているもう一人……、いや、一人と言うよりかは匹だ。そいつは、肩だけでなく足で腹部もがっちりと固定し落ちないようにしている。
小さい。
それは、それを言葉で表すとするなら。
猿。
あの状態を憑りついていると言うのなら、 猿が憑りついているように見える。
≪サラリーマンと猿……≫
目に見えたそのままを言った。それ以外当てはまることがない。
それは確実に猿。
・・そう見えるのか?
≪そう見えないのかよ≫
・・いや、見える。あれは猿。猿の霊。と言うよりかは猿と言う霊がサラリーマンに憑りついた状態だ。何かそういう事があったのだろう。
まあ、何となく、と言うか、思った通りなんだけれど、猿。そのものではないのだろうか?猿と言う霊?そう呼ばれたからそうなった。神に近い物なのかもしれないな。
≪この人には猿の霊がついているという事か?≫
・・違う。猿と言う、だ。別に猿の霊と言うわけでわなく、猿の形をしているからそう呼ばれているだけなのだから。
≪そう……≫
俺 が肉眼で見てそいつが何かと言われれば猿以外の何物でもない。他に形容しよとしてもそれは無理難題だ。だから猿の霊で間違いないと思っていたが、違うらしい。
まあ、違っていたとしても何となくの理解を終えたため次の疑問へと移行しよう。
≪猿の形をしている、ねぇ。なら霊っていうのは全員動物の形をしていたりするのか?≫
・・まあ、人、と言うものを、と言うよりか、生きる者全て、それぞれの形をしている。
≪ふうん。人と言うのがオーソドックスだと思っていたけれど、そうでもないのか?≫
・・いや、そうだと思うぞ。今回のケースは猿だったが、人の霊なんてうじゃうじゃいるさ。だが、別に人の霊なんて気にせずとも生きている。
≪人も霊なんだろ?なら全て同等。同じ霊 じゃあないか。何が違って対するものと、しないもので分けてるんだよ?≫
・・そりゃあ、霊と言う括りで考えればそうなるだろうが……。お前らだって人と言う括りに入れば全て同じと言えるだろう。でも、一人一人は同じか?全体で見る時、個で見る時、それは同じじゃないだろう?それぞれ個性があるから全体と違うものが見える。お前らに巧拙があり、上下があるように霊にもそれがあって、同じ考え方ができる。形が違うが全て霊、と考えるか。全て霊だが形が違い、個がある。と考えるかの違いだ。
≪なるほど。で、人を気にしないというのは、神様の言葉を使わせてもらえば上下の下だから、と言うことか?≫
・・それじゃあ、全体で見ているのとまだ変わらいなだろう。霊と言う括りが人の 霊と言う括りに代わっただけだ。個で見えていない。
≪なら、なんで人は除外されるんだよ?≫
・・まあ、まだ聞け。別に弱いから、下だから除外されるわけではないってことだ。元が人間だからそれは除外されるわけだ。人の形を保っていると言う事は、まだ死んで間もないか、未練がほとんどないのに、いや、わからないでさまよっている奴らだけだ。
≪え?人って進化して動物になったりしてるの?≫
神様の言い方だと、どうしてもそう解釈してしまう。
元が人、という事はそう捉えてしまうのもうなずけるだろう?頷いてくれ。誰か見方がいないとやっていけない。
・・進化?と言うか、どちらかと言うと退化だろう。まあ形が変わると思ってもらえれば良い。と、言っても全部が全部そう ではないから言い切るのは難しいところだが……。
≪?全部全部がそうじゃないってもとは人じゃない奴もいるってことか?≫
・・そう。一つ一つが元から違うんだ。人の霊だってそう括らなければ違うものにも見えるだろう。
≪そうだな。でも、何故人が猿になったりするんだ?普通あり得ないことだろう?≫
この時点でもあり得ないことであるのに何が普通だ……。
・・この世には言葉と言うものがあるよな?
その言葉からどうやって結論が生み出されるのだろう。
≪ん。ああ。そうだな≫
現時点でも使っているしな。
・・その言葉って、どこから用いられてるんだ?
≪え、さ、猿?≫
・・さすがにそこは猿人とか先祖様、とか答えなさいよ。馬鹿かお前は。
……。
いつもの 魅耶との接し方をやってしまった。
いや、でも、猿の話してたし、だな……。
・・で、そいつらはどうやって文字とか言葉を発するようになったんだ?
≪自然にとしか……。何が根拠になったなんて分かるわけないじゃないか。そんなこと完璧に分かったらギネス物だろう≫
・・そう、知らない。分からない、なんだ。だがそれを使う。使わないと生きていけない。言葉で相手に何かを伝えないとどうしようもできない。ジェスチャーとかそういう考えはひねくれ者と言うぞ?
びっくりした。
そう思った俺はひねくれ者らしい。
・・だから、言葉の問題なんだよ。
≪だから。って、一つも伝わってないんだが……≫
・・まあ、これから結論だ。ありもしなかった言葉が、霊をサルとしたんだ 。もっと詳しく言うと。私たちがそれを肉眼で見てから形を判断し、猿、と言う言葉使い、それになる。本当は何者でもないものが名前を付けられることによって肯定される。それは人だってそうだろう。まあ、俺は曖昧だから霊外、つまりは例外だ。
神様のくだらないギャグは置いといて……、
≪最初の言葉の説明は何のためにした。最終的に何もわからないまま帰結して、言葉が霊にどう関係があるか知っただけなんだけれど……≫
・・いやあ、話すと話を脱線してしまうというか、そうなってしまうというか……。本当はつながりは全てあるのだけれど、端折ってしゃべっているからまあ、そういう事になるな。まあ、もう結論に入るか。
≪……≫
それだけで十分なのだけれど。ここから先だけ 知れば分かるのだけれど、何故か聞いてしまう俺がいる。
・・何物でもない霊はその言葉でそれを呼ぶからそれになる。それは個で見たときの話だ。霊の形はそうできているから、元々の形は想像できない。それが人であったかもしれないけれど、誰かが言葉でそう言ったからそれになったのだ。という事。
≪違うと神は言ったけれど、それって神となんら変わらないんじゃあないか?≫
・・違う。私は曖昧。だが、霊達は言葉で決まる。いわば肯定だ。今回であれば、それは誰が見ても猿にしか見えないという事だ。
≪なら、何故それらはと言うか今回のは猿なんだよ?猿になるんだよ?≫
ってあれ、同じ疑問に戻ってきている。
ま、神様が結論と言った。信じよう。
言葉の話も結構必要だった みたいだしな。
・・そう、それでその問題に戻ってきて、それが最終点なんだ。先ほどはまだ話すのはまだ早かったと言うわけだ。
そういう口実でなければいいのだけれど……。
・・それがそう言う行動をとっているからだ。人間とは言えど、動物だったり何だったり、と同じ行動をする奴はいるだろう?それの事を、その行動を、今回の場合、猿みたい、と言うわけだ。だが、お前らがそうならないのは肉体があるからだ。だが、霊は肉体がない、不特定なんだ。だったら、言葉一つ、猿だ。と、言ってしまえばそれの形は猿にしか見えないし、行動が猿なのだから猿だ。
≪つまり、行動がその動物に似ているからそうなると……≫
・・器がないからな。そう言われてしまえばそれにしか見えないし 、ずっと猿のような同じ行動をとっているわけだからそれにしか見えない。肯定される、と言うわけだ。どんな行動で、何が似ていたかは知らないが、言葉一つで、それになる。
≪なるほど。でも、それって強いのか?猿が強いとは言うけれど、何もしなければ何もしないわけだろう。それなら人と変わらないし≫
・・いや、大きく変わる。言葉がそれだけにとどまらないから。確かにお前の言うよう、ただの猿、だったりするかもな。だが、それはただの猿だ。普通の猿だ。
≪何が言いたいんだ?猿は猿だろ?≫
・・どんな、猿かが大切なんだ。肩書と言ってもいいかもしれないな。言葉は何よりも重いんだ。
≪まあ、確かに、死ね。とかそう言う言葉浴びせられて本当に死ぬんだって考えれば、重 いかもしれないな。
・・そう。詳しく言うと……。死ね、と言う言葉を言った本人は別に悪くはない。浴びせられた奴が聞いて実行しただけだからな。勝手に死んだだけだから。ただ、そう言う事になる。言葉が言葉通りになるから言葉は怖い。そして悪いのは言葉なんだ。言葉が行動させるような力を持ち、そうさせる力を持っている。言ってしまえば呪い、催眠のようなものだ。簡潔にまとめると、言葉は何にでもそうさせる。例で言えば、呪い殺す。
≪そこまで聞くと、重い、どころか重苦しくて苦しくて仕方ないな≫
・・いま、そうなっているのも言葉の力だしな。実証済みだろう。言葉と言うか、神の教えとか仏教とかでは、霊払いとか、おまじないとか、魔術とか、言うが、それは呪いだと思は ないか?払うという事は霊はそこにいたくても去っていくという事。完全に霊を悪としか見てない、全体からしか見ていない者どもだ。まあ、それは俺には聞かないが。曖昧だからな。霊は何故それで苦しめられるかはすぐわかる。器がなく言葉を直接受け止めているからだ。戦車が生身の人間に向かって突っ込むようなものだろう。完全死だ。霊を払うという事それはつまり殺すこと。この場合だけだが。それは殺人と何ら変わらない。もともと人でそれが霊になっただけだから。否、もっと重い罪なのかもしれないな。魂を消滅させるようなものだ。
≪ほうほう、それで?≫
話が大分それているがそれは気になるな。ずっと霊は払うものだと思っていたから。違う方法を今から言ってくれるのだろうか?
・・そう、それで、それは俺はしたくない。否、俺たちはしたくない。お前に罪は着せたくないし、俺も罪はごめん被る。ならば、他の方法を探すのだ。自分たちはこういう身だから必然的、と言うか今目の前に現れているんだが、それをどうにかしてどうにかしなければいけないわけだ。それは言葉で殺さず行動で上にと言うか異世界と言うか天国地獄に行かせるやり方だ。おっと、話が全く違う方向へ……。
どこで思い出してんだよ。気になるじゃねーか。最後じゃねーか……。
・・えーと、言葉だったな?言葉は重いという事は霊に付けられた言葉、いわば名前が重いという事だ。霊自体が重たい物、と考えてもいいかもしれないな。器が言葉そのものなのが霊だ。自分たちの器が肉体であるように。お っと、話がそれていく。簡単に言ってしまおう。霊に着いた名前、肩書はそのままの行動を伴う力を持つことは分かったな?
≪ああ≫
・・今目の前にいるのは猿だ。だが、どんな猿かと言う肩書は分からないわけだ。例えば、猿で例えるよりか、白虎で考える。虎でさえ危険なのが分かるというのに、次いで、劫火の虎、だとか、暴食の虎だとか、そんな肩書がついてしまえばどうなることか。私であれ苦労するだろう。いや死ぬかもしれないな。別に動物事態の名づけは元々その人に似たところがあって付けられたものだが、肩書は違う。どういえばいいのだろうか。ただそうなった、と言うしかないんだ。何かをきっかけにその肩書がついた、としか言いようがない。憑いた人がそうしたいと思ってそれに 同調してそうなったかもしれない、霊自身がそういう事をするためにそれになったかもしれない。例が分からないだろう?一言言ってしまえばわからないのだ。どんな原理かは、な。ただそれが一番の危険だという事。その肩書はそのまま現実になり霊の力になる。言葉がそうであるから、霊もそうである。だからそれはそれになってそれはそれである。これが全てだ。疑問は?
元々虎が暴食なのはおいておいて……、
≪少しまとめさせてくれ≫
それがそれになる理由はそれに似た行動をとってからそれに似た何かになってそれにしか見えないようになったから。霊と言うのは言葉を器として扱う。多分その言葉がつけられていないのが、ただの霊で、気に障ることがないという奴だろう。で、それが器とい う事はそれ自体になるという事。言葉自体がそれであるという事。言ってしまえば言葉の権化だ。それに加えて肩書と言う重たい言葉がまた加わりその力を加えるから危険で、敵だという事。
……、って何でそれは敵なんだ?葬らなきゃいけないんだ?そいつに肩書があろうとなかろうと、強かろうと弱かろうと、呪いがあろうとなかろうと……、
≪宵明の奴はいったんおいて、それは俺には関係ない話じゃあないか?≫
それは憑りつかれる側の恐怖であって……。確かに自分も霊の肩書で、襲撃の何たら、何て奴がいた場合、襲われるだろうけれど、触れなければいい話だ。
それとも、それが世界を変えることに必要があるのだろうか。
分からない。
・・その通りだな。あの娘を除いたら、関係は ないさ。あるのは憑りつかれる側、そして俺の方だからな。
≪神様に?神様もそれと同等のようなものじゃあないか≫
・・同類にされるのはそれはそれで傷つくが。確かに同等だ。だからこそ狙われるのだ。
≪同類だからこそ狙われる理由があるのかよ≫
・・ある。こちら側、お前が霊とかそういう怪異的なものが住む世界には三パターンに分かれて存在しているのか知っているか?
≪いや、知らないが……≫
・・つ目は憑りついて生きる存在。それは一方的に。人との関係は、霊>人。と言った感じだ。人は気づかれづに霊に憑りつくそのまま支配するもの。一番この世に蔓延る存在。二つ目は俺みたいな存在だ。いわばレアケースで生まれた何とも言い難い曖昧な存在。契約して憑りつく。人= 霊の関係。他にもいるだろうけれど、本当にレアケースだ。この地球上では十人以下だろう。まあ、会う確率何てゼロに近いものだ。私と思えばいいだろう。レアケースだ。三つ目。それは陰陽師やエクソシストが使う、式神や使い魔。関係は人>霊。これに至っては言う必要もないと思うが、言うとするならそいつらは神だったり悪魔だったりという事。それぞれそいつらを使う奴らの力によってどのくらいの間そいつらを呼び出していられるか時間制限があって微々たる時間であるとはいえ、本当の神だ。個々の能力や特殊能力は絶大だ。私でも特徴では確実に負けるだろう、強い存在。こんな感じだろうか?
≪へえ、最後、神様でも負けると思うんだな≫
・・まあ、そいつの特徴に合わせて戦った場合は な。
≪それとこれと何の関係が?≫
・・そいつらと私たちの関係の差はどうだ?
≪パターン1とパターン3は霊か人、どちらかが勝っているけれど、神様の場合は俺と同等と言うか打ち明けて信じあって話している?っていう差?≫
・・そう、そうだ。俺らは関係ができているが他はできていない。それが問題なんだ。
≪どう問題なんだ?≫
・・元々、霊がその人に憑くのは自分と共感できる部分を持っているからだ。同じ行動をとるのはそういう事だろ?
≪ああ、確かにな≫
・・だが、それは共有できていない。ただその気持ちを増幅させてそいつを破壊するだけだ。霊と言うのは言ってしまえば不器用なんだと思う。共有したいがためにそうさせてそして失敗に終わる、霊にとっては楽し いことなのだろうがそれでも共有はできていないことは知っているためどこかで何か違うと思っていて、共有してどうにかしたいと思っているんだろう。式神はすでに人が上に立つことで主従関係ができるために、主に従わなければならない。口答えはできず、どうにか一緒にどうにかしたい気持ちはあるだろうがどうにもできない。それと比べて私はそいつらの出来ないことを全てしている。お前と共有しているし、どうにかできる。しゃべることができる。
≪そうだな。でも何が言いたいんだ?それであってどうして狙わるんだよ≫
・・嫉妬だ。
≪嫉妬?≫
人が持つ七つの中の一つの感情だ。
誰かを羨ましいと思う事から出てくる憎いという感情。
ああ、そうか。そう言う事か。
・・そう。羨 ましいと思うそして憎みそれを消したいと思う。つまりそいつらは俺が成功していることが気にくわないから消そうとする。だから俺にとっては関係ないとは言い切れないんだ。
≪そういう事だったか……。だが、ならどうするんだ?と言うかこちらから戦闘する理由は何だ?来たらその神様のやるやり方でどうにかすればいいんじゃないのか?≫
・・それは俺が世界を変えるために必要な行為だからだ。まあ、理由はあとで言うとして。もう一つ理由があって、腹減ったからそれを喰らいたい。
≪喰う、のか……?≫
何方か、どちらか、と言うと後者のほうが願望的に強いと思うのは俺だけじゃないはず。
・・喰う。内構造はよく分からないが、食ってから、げ……、息を吐けば悪だけ私の胃の中に 残り綺麗な霊の状態であの世に送ることができる。
汚い。
≪最初、絶対げっぷって言おうとしただろ≫
・・ああ。
≪否定しないのかよ!≫
・・まあ、息を吐いても良いことを思い出したから。
≪そう、かい≫
・・そうだ。
≪あれ?腹減らないんじゃないのか≫
・・腹減りと言うか味わいたい。私はグルメ家なんだ。
なんだろう、どちらかと言うとこちらが悪だ。
と言うかそれだけの理由だけ聞くと稚拙に聞こえるな……。
≪ふうん?≫
・・そういう事で話もここまでだ。戦うぞ?
そういう事でってどういう事でか長すぎてあまり覚えてないけれど……。
≪どうすりゃいいんだ。猿に向かって突進でもすればいいのか≫
・・いや、相手もこちらをうかがっている。間合いを 取ることが必要だ。警戒を怠らず静かに待て。
≪警戒ねえ≫
警戒はしている。けれど敵が来たら足が竦んで動けなくなるから意味がない。
つまりは恐怖心が体を拘束しているんだ。
・・恐怖か?
≪ズバリその通りだよ≫
さすがに心情くらいは読み取れるか……。
・・ナイスタイミングだな。
≪?何が?恐怖が?≫
・・そう。言っただろ?お前の感情が動けば俺は外へと出る。今お前は恐怖と言う感情に制御を奪われようとしている。そのまま怖がればいい。
怖いと思えって……。かえってその言葉が恐怖心をなくすのだけれど……。猿に目を合わせると怖いのはまた事実。
これからは他の感情を出すことに努力をしよう。さすがに恐怖は恥だ。
≪なあ、感情って色々あるけれど、と 言うか今日も出していたような気がするけれど、神様は出てこなかったよな?≫
・・ああ。感情っていうのはお前が言った様に色々ある。だがそれって元々何もない時でも少しの感情は揺れ動いているわけだから、そう簡単には私は出ないんだ。出るときは感情が最大に大きくなるとき、他の感情が見えなくなるまで心の中でその感情が大きくなるときに私は出れる。今のお前の中の心が恐怖でいっぱいになるようにな。私は曖昧だから何故それで出るかなんて根拠は知らない。ただ、そういうものだ。あ、お前、恐怖心なくしただろ。
≪ま、まあ、そりゃ、説明入ったら神様に集中するわ≫
・・それもそうか。だが、ならどうするか。あ、少し待て。
≪あ、ああ≫
何かしようとしているわけだが、こ ちらにも伝わるようにしてほしい。
現状として現状を伝えるのが俺の仕事なのに……。
・・もういいぞ。
≪何がだよ≫
・・最近出した感情で一番大きかった時を思い出してくれないか。
最近の感情。
愛情。憎悪。困惑。恥。恨?いや、よく分からない感情。
切なさ。思慕。
サウダージだ。
一番大きかったのは、何度も最後に現れるサウダージ。
郷愁や憧憬とは全く違うものだけれど、その二つがまじりあうならこれしかない。
それを思い出す。
切なくて色々な感情がまじりあう中、出てきた感情を……。
サウダージで悲しくなった感情だ。
家を出るときも、宵明がそういう奴だって思った時も、切なく、愛しく思えてしまう。その時の感情だ。
……。なんでこんなにも…… 。
≪……≫
・・お前は、何故泣いているんだ?
≪あれ……≫
突然に、俄雨のように流れる涙。
≪知っておいて言わせるのか……。悲しい。切なすぎて悲しい。二つの感情が大きくいる。これでもいいのか?≫
涙を袖で拭いながらそう俺は言った。
・・いいさ、感情が大きければ二つでもいい。多分もうそろそろ変わるんじゃ……、ほら変わった。
変わっ、た……?
涙を拭った後で前を見てみる。
なんだ、ここは……。
≪私がいた心の中だ。入れ替わるといはそういう事だ≫
・・なるほど。これが神様が見ていた世界か。
台詞の使い方も変わるわけか……。
それにしても何もないな心の中は。
真っ暗だ。
真っ暗の中にモニターのように映し出されている自分の見ているもの 。
心の中にいるような感覚であるような気もしているし、自分で体を動かしているようにも思える。
困惑。
・・で、神様と俺が入れ替わったわけど、もう準備は整ったのか?
≪ああ≫
・・俺のやることは?
≪まあ、あったら呼ぶが、今回は大丈夫だ。私一人で大丈夫だ。今回の標的はまだ憑りついていない。放浪として今見つけたばっかだろう。背中に憑いて動かないのが洗脳している証拠だろうから≫
・・ふうん、なら俺はここで見守っとけばいいのか?
≪それでいい。見てろ?≫
・・わかった。
神様に全て任せる、と言うのは腑に落ちないが、仕方ないことだ。
ここから見ているのも楽しそうだしな。
今からは自分の目線と言うよりか神様の目線で書いていこうか。
神様と猿 との距離五十メートルほど。
神様は俺の体でストレッチをし始める。
屈伸、震脚、そして息を吐いて……、
「よし……」
と言った。
刹那、猿との五十メートルの距離が一瞬にして0メートルになる。それどころか一メートルを超し、そこでピタッと止まった。
止まったと思えば、左で猿を背中から引きはがし、そのまま猿を掴みまた一瞬にして場所が変わる。
山の中だ。麓から拠点の半分の地点だろう。
と言うか、それ触れるんだ。まあ、神様だからだろうけれど。
中間地点にいる俺らの現状を綴ってみると……、
木が鬱蒼と茂り、斜面は斜めってるのが感覚で分かるだけで草が生い茂りすぎて足元は見えない。そんなところに両足二本で危なげもなく平然と立っている。人間業じゃあな いな。
その後、何も言わずに自分より上のところに生えている木の上に猿を放り投げた。
と言うか……、
・・今の何?
≪走っただけだが?≫
・・走っただけ、って、仮定が見えなかったんだが……。瞬間移動みたいに……。
まあ、瞬間移動なんてしたことないけれど。
≪まあ、お前の体で出せる最大の力を使った。俺は一応器はどんなものかわかっているからこういう風に使えるわけだ≫
体を最大限に生かすということだろうか。
・・神様自体の力はまだまだあるっていう事か?
≪そうかもしれないし、そうでないかもな。これ以上計れないから何とも言えないが……≫
・・そう。
≪引き離したわけだが、さあ、これからどうするか……≫
・・どう、って喰えばいいじゃないか?・
≪まあ、そう何だが……。こいつがどんな肩書を持っているかと知っていないと、容易に近づけないだろう。どんだけ強くても、体は脆いんだから≫
・・そうか。
と、猿が木の上から神様を襲ってきた。
上から腕を振るって攻撃を与えるつもりだったのだろうが、神様は降って来て猿が攻撃する時、つまり自分の目に入った瞬間、その時に右手で猿を殴ったというか、払うように手を動かし、猿の攻撃を回避したというか、何と言うか。説明しずらい。
それは威力絶大だった。
その払いだけでサルは思い切り吹き飛び、木にその身ごとぶつかった。
霊だから木は折れずに……、と言うか普通霊と言うのは透き通るはずじゃあないのだろうか。
まあ、そこら辺の疑問はあとで聞こう。
≪猿が木 に当たったのは俺たちが存在していると、猿と認めているからだ。具現化を勝手にするのではなく、自分達の見解で猿と言うものは動物で、生きる者、と言う考え方になっているから、壁に当たったりするわけだ。見えなかったり、そう思わなければそうはならない。つまりは透き通るという事だ。
・・なるほど。全ては言葉、か……。
≪そうだ≫
疑問は解決された。
まあ、神様もどういう疑問を持っているかは察してくれたのだろう。
「おい、猿。お前はどういう猿だ?」
し、知らないうちにまた猿の正面にいる……。
慣れていかないとな。
と言うか猿に話しかけているけれど、話すのだろうか。
まあ、霊と言うものは言葉か。言葉があれば話すのが当然か。
見てみると、猿は傷を負っ ている。
壁などのダメージと言うよりかは、神様が振るった力によるものだろう。霊にだけに通ずる力。
後がくっきり残っているのは、神様が掴んだ部分と、払った部分だけみたいだし。
「っく、ひひっ!!」
と、猿は笑う。
なんて不気味な笑い方をするやろうだ。と言うか何がおかしいか。
「お前は凄烈な奴だな!気に入ったぜ!俺と同じじゃあないかい?俺は凄烈の猿。漢字通り凄まじく、烈しい猿さ!!粗々しいと言ってもいいかもしれないが!!」
と、猿は木に持たれたまま俺に手を振るって攻撃をしようとしながらそう言った。
神様は普通に一歩下がって避けた。
凄烈か。
確かに言葉通りではあるな。
荒々しく獰猛と言えばもうそういう事だろう。
結構危険な存在。
と 、言うけれど、神様、今見ていたけれど、最強だ。どんな敵でも関係……、まあ、なくはないのか?
分からない。
≪もう、やってしまおうか≫
・・そうだな。肩書を言い換えてしまえば、荒々しい猿、と言うことだしな。
≪そうだ、では、済ませるぞ≫
・・了解。
と言った後は、口頭だけで話しておこう。
あまりにもグロテスクだったので……。
神様が一方的に猿を殴り、動かなくなったところで、俺の体から半分ほど、身を出して(曖昧な状態)それを丸のみした。
飲み込んだ、時。それはそれはグロテスクだった。
そろそろやめておこう。
SAN値が下がる。
そうして神は満足になって俺の中へと戻ってから、俺が感情の揺れがほとんどなくなったところで器の操作は俺に移っ た。
意外とあっけなかった。
ただ説明が長すぎただけだ。
疲れた・・。
神もお疲れさまでした。
現在は屋上。
魅耶は俺の三分ほど先に出て行って屋上に来ていた、と言う。
屋上と同時に誰も入ってこないように鍵を閉めた。その後、空を見ている魅耶の後姿を見る。
変な性格してなければなぁ。なんてつくづく思ってしまう。が、もう仕様がないことだ。
「あら、来たのね」
ドアの鍵を閉める音で察知したのか、こちらへ振り向いてそう言った。
「……」
と、思えば黙る。
「どうかした?」
と、俺が言う時、魅耶は俺の手を見ていた。
手……、
手 ?それも右手の手。その手には弁当を持っている。
俺はもう一度聞いた。
「弁当がどうかしたか?」
「……」
何故かずっと黙ったままだ。
ただ魅耶の表情が硬い。と、ここで口を開く。
「そ、それは何?」
「見れば分かるだろう?弁当だよ」
「そう。見れば分かるわね。あなた何か隠してるの?」
「……」
そうだった。隠し事は無しだった。
やってしまった。ただそれだけだ。まず弁当を持っていることがおかしい。家にいないはずなのに、何故?なんて言われたら終わりだ。どうする。
「隠し事は仕方ないとして」
いいんだ。
「お弁当、何で持ってるの?」
駄目なんだ。どっちなんだろうか。まあ、駄目なのか。
だとしてもさすがに、見知らぬ女の子と付き合いました 。なんて言ったら確実に魅耶は発狂するか、何かやりかねない。ならば、隠すしかないか。
「え、えっとあの……」
何か、ないか。焦るな。焦燥感は確実に本性を曝してしまう。
家に忍び込んで……、だと、家へ二度と戻らないことを決めた俺にとっては使いたくないネタ。
昨日何かした事を……。
「コンビニで売ってたんだよ。売ってた、うん、安価だったから買って来たんだ」
「……へぇ」
確実にやってしまったようだ。
昨日の出来事で、昨日行った場所で考えた俺が馬鹿だった。これなら本音を言ったほうがましだったか。
なんて文章では伝わらないこの恐怖をあなたたちに与えたい。
「はぁ……。そこまで言いたくないのなら別にいいわ」
おっと、これは予想外だった。今日 はなんだかよく分からない気分らしい。
それならいいとしよう。
「わ、私だって隠し事ぐらいあるからね……」
おっと、これまた意外なことを聞いた。とは言え、そういう経緯だったか。
これだけのキャラを出しておきながらまだ裏があるだと……。ただでさえアップアップだと言うのに、出来ることならもう出さないで欲しい。
「さ、食べましょ……」
「はい」
愚痴はいいのだろうか。
食べる前に愚痴を聞くと思っていた、故、身構えていたがそう考えていたのは俺だけだったようだ。
「ねえ、壱夜君。携帯なってるわよ」
「携帯?」
俺は携帯なんて持っていなかった。そもそも元から持っていない。あんな家系だ。持っているほうが不思議と言っても過言ではないだろう。
けれ ど、聞こえるのは俺の近くから。
身元を弄ったり、目視で探してみて……、あった。
かすかに弁当箱が、いや、ランチトートバッグが揺れているのを確認した。
そして、確認が済んだところで、トートバッグを開いた。
魅耶が少し離れているところで黙っている。何が起きているのか様子を見ているのだろう。
丁度いい。パパッと見て、魅耶には見られないようにしよう。
目線を下に落とし中を見ると、案の定、携帯はあった。が、もう一つ綺麗に折れれた便箋が一枚だけ入っていた。
宵明がこの携帯が何なのか説明するものだろう。
弁当箱を下に置いて、便箋だけを取り上げた。
そして便箋を黙読する。
壱夜さん
内容は何となくお察しできるかと思い ます。
はい、携帯です。
付き合った記念、と言うのは何となく若者らしくて嫌なのですか、使ってください。
あ、遠慮なんてしないでくださいね?私と壱夜さんがいつでも連絡取れるようにしたまでですから。
なんていい子なのだ、俺からあげられるものがないのが痛いところだ。
あれ、もう一枚。
一枚と思われた便箋は二枚に渡っていた。
追伸
このトートバックに隠しカメラ、盗聴器を付けておきました。
変な女が壱夜さんを脅しても大丈夫なようにです。
万が一にそんなことがあれば、私は携帯を使い、あなたを呼び、どうするか確認してから女に一言だけ言いますので、そこだけよろしくお願いします。
宵明より
とのことだ。
恐怖……。
まずい、俺がまずいのではなく魅耶が死ぬ……。
と言うことはこの電話……。
確実にそういうことであろう。それ以外何も考えられない。
俺は携帯を取って宛先を見ずにそのままコールに応じた。
〔あ、つながりました。よかったです。読みましたよね?だから出たのが遅かったんですよね?ならば、そこにいる女の人に代わってください。朝からずっと話を聞いてましたが、よく分かりませんが、殺したいと思います〕
この声の調子と、こちらからの声を受け付けない感じ、まさしく怒っている。
だが、魅耶のためだ……!!
「よく分からないなら殺すな!こら」
〔え、でも、ならどうすれば……〕
俺が少し声を上げて言ったことに宵明は驚いたのか、委 縮して答えた。
「まず、俺の説明を聞いてからしろ」
〔そういうのなら……〕
カクカクシカジカ
説明をしてあげた。
「分かった?」
〔は、はあ、まあ。そういうことなら仕方がないですね〕
「そう、仕方ないから」
〔はい、だからあの人に一言だけ、言わせてください」
「え?」
〔それで、終わらせますから〕
と、声の調子か上がって少し気分が軽くなった。ちなみに俺のほうが。
「ああ」
俺はスピーカーのもとをふさぎながら、生徒会長、と、呼んだ。
「何?」
「何故かは知らないけど、御使命だ」
「そう……」
何も聞かずに俺から携帯を受け取り、スピーカーを塞いだ。
「……」
そのまま携帯を見つめている魅耶。
「どうかしたか?」
「えっと、ど う話せばいいのかわからなくて」
多分、裏表どちらで話せばいいか迷っているんだろう。
が、そんなことは心配無用だ。全部ばれているからな。盗聴器だの、カメラだの、で。
だがまた、うん、とすんなり言ってくれないのも事実だろう。ならばどちらも選ばないのが良い選択ではないか、と思う。
「好きなほうでいいと思うぞ。したいようにしたらどうだ?それが生徒会長さんだろ?」
「うん、そう、そうね」
決心がついた様でスピーカーから手を放し、耳元へと携帯を持っていく。
「えっと、替わりまし……た?」
何故最後が疑問。
「?」
「……」
固ま……った?
魅耶が固まっている。
刹那の時間、一瞬だ。一瞬、自分以外の全てが止まったか、なんて思ってしまった。
ふと青空を見て雲が動き、時間が動いていることを確認した。
昨日の事があった故、今は普通の日常生活を送っている、という事を忘れていたようだ。
仕方がないと言えば仕方がないことなのかもしれないが、それは普通の奴の考えであって、自分の考えとは違う。
神と会い、話、契約までしようとしているこの身なのだ。
それは神といることが普通と言っているようなもの。別に神が悪いとは言っていない。世間一般で見ればそうなるだろう、と言う話だ。でも、今現在、それが普通俺にとっては世間一般のほうがいろいろと非常識に見えてしまう。
神とあったことがまさしく発生の根本だろう。さきほどから神を批判しているように思えるかもしれない、決してそうではない、どころか嬉しいくら いだ。
それでも、それと裏腹に、この世で生きられるのか、どうか、と言う不安が生じる今の俺の考えはどうなのだろう。何故なのだろう。不思議で不思議で仕方がない。
ただ、世間が離れるのが不思議で、どこか空しく儚げで、悲しかっただけだ。
と、一瞬の時間は過ぎた様だ。
魅耶はこちら側へと、大股五歩ほどで届きそうな距離を猛ダッシュで、俺との差、三十センチまで駆け寄り止まる。そして、携帯を俺の胸に押し付け、渡したかと思えばペタッと頽れるように膝と膝を合わせながら床に座り込み……泣いた。
大声で泣き喚き叫ぶ、のではなく、すすり泣いている。目をこすりながら、鼻をすすりながら。
別段、感想もない。ただただ呆れるだけだった。電話の裏にいる子に。
俺は携帯 を耳に当てた。
「何言ったんだ?」
〔一言……、死んでください、と……〕
そんなことを言ったのだろうな、とは予想していた。いや、予想はしていたがまさか本当に言うとは思ってもいなかった。
直接に言う、しかも躊躇なく言っただろうこの子に驚きは隠せない。それよりなにより、恐ろしい子……!!
なんて思っていてもまた一つ、この子は俺のためにやってくれている、なんて思ってしまうと、弱い。ただただそれはありがたいことだから。
けれどまた、それは……、
「さすがに言い過ぎだと思う。ありがたい。俺のためにやってくれてありがたいとは思うけれど、言葉だけは選んでほしい。人を弁えてほしい。説教を垂れるのではなく、これは俺自身のお願いだ。まだやると言うならそ れでもいい、やめるというならありがたいけれどね……」
魅耶だって俺の大事な存在だと思っている。こんなやつだ、とは言うが、俺だって正直言ってしまえばこんな奴なのだ。
仲間、と言えばいいのか、何と言えばいいのかわからないけれど、人生において魅耶は必要、ただそれだけははっきりとしてわかってた。
〔はい……。反省します。さすがに壱夜さんのお友達に失礼をしてしまいました。とんだ失言でしたね。本当に申し訳ございません〕
後悔の念が電話を伝ってすごい伝わる。
「そこまで謝ってもらわなくてもいいけれど……。わかってくれたならそれでいいさ」
〔は、はい……。それはそうと……、すすり泣く声が聞こえているのですが……何かありました?〕
「あ、ああ。さっき の事で生徒会長泣いちゃったんだ」
〔え、それは本当に……なんというか〕
申し訳ない、と言う言葉さえ出てこないくらい、申し訳なさそうな声。
もういいのに……。
「大丈夫。生徒会長は感情がナイーブなだけだから。日常茶飯事だよ」
卓上の上いや、机上の上と言ったほうがいいか。
机上の上では気丈や気情はしっかりしてるけれど、こちら側、内面、実を言えば外面からみてしまえば情緒不安定極まりない存在だ。
愚痴をこぼす理由が何となく分かるのではないか?
簡単に言ってしまえばガラスのハート。だ。まあ、言わなくても分かるだろうが……。
〔そうですか。壱夜さんがそういうのなら大丈夫なんでしょう。安心しました〕
切り替えの早さが異常。
まあ長所なのかもし れないから、いいことなのかもしれない。
〔あ、私もう昼休み終わりなので、切りますね?〕
「?ああ、また……」
電話が切れ、ツーツーと音が鳴っている。
昼休みが終わりや始まり、それどころか授業の始まりなどで、ほかの高校と多少の誤差があると言えど、ニ十分も誤差ができる事があるのだろうか。驚いた。
地方でも広いと言えるなら、世界はどれだけ広いのか……、なんて考えてしまう。
今日以上に自分がここまで小さい存在だなんて思った日はないな。
それは嬉しいことだとまた実感した。
外れた存在が大きいどころか小さいなんて、少しばかし嬉しい。大きな括りでは地球に存在している生命に見えるのだから。ただただ生きている存在に。
まあそんなことを言ってしまえば 誰だって、何だって存在するのだけれど。言ったのはそういう事で合っているから否定はしない。
「……、大丈夫か?」
先程日常茶飯事だ、と言ったのは嘘ではない、のだけれど、ただこのケースは初めてだからどう接していいのかさっぱりわからない。
あれ、でも同じことだろうか。いつも他人から言われた愚痴を俺のところへ持ってきて利かせるだけだもんな。そう考えることはないのか。
一人で解決をしてしまった。
「うん……」
魅耶はそう言って、手を俺のほうへと伸ばした。
引っ張り上げろ、と言う事か。
そう解釈してから手を取って引っ張り上げた。
「何か言われたのか?」
「死ね……、って。見知らぬ女の子に死ねって」
「……、まあ、あの子流の照れ隠しの挨拶だ、 と思う」
「そう、なの?」
なわけないだろう。
まあ、魅耶ってやつは頭が良いけれど、世間体とか生活に関するスキルは持ち合わせていない。
あれを挨拶で通すくらいのレベルだ。
「そうそう、ツンデレってやつだと思う。まあ、人違いで、ただの迷惑電話だったらしい。謝っていたからそれで許してくれ……」
すごい嘘ついてしまった。どころか、意味が分からない状況になってしまっているな。宵明との会話の間が……。
「へ、へえ。わかったわ……」
すすり泣きを止め、通常の、平常運転に戻る。
この世界の奴はみんなこう言う風に切り返しが早いのだろうか。甚だ疑問である。
「で、その弁当箱は何なの?携帯出てきたりしてるけど……」
「え?言うの?」
「あれ、言いた くなかったんだっけ。ごめん、忘れてちょーだい。でも、その代わりに何だけど……」
「……?」
魅耶は屋上に来た時にいた定位置に戻っていった。
ちらちら、こっちを見ている。来い、と言っている。
そちらへ十歩ほどで向かった。
「これ食べて……」
「これは?」
「家庭科の余った時間に作ったの。あなた昼がないというから作ったのに、持ってきてるなんて思わなかったから……。無理して食べなくてもいいけど、食べれるなら食べて?」
家庭科か……。家庭科で作った!?
「うれしいけれど、それはどう言う事?」
「家庭科の時間に作ったて言ったのよ」
「いや、それは分かるんだが……」
そうじゃなくて……、
家庭科の時間は二、三時間目だった。作るには十分な時間 だろう。でも、そうじゃないだろう?
「材料は?」
「冷蔵庫に入ってたわ」
「それ、多分他で使うやつ!!」
と言ってももう遅いんだけれど……、
使う人、びっくりするぞ。何が!こそ泥か!?狸か!!みたいに……。
大事にならない事だけを祈っておこう。
「あら、そう、まあ、いいじゃない。減るもんじゃないし」
「減るっ!全体的にっ減ってるっ!」
「まだ、余ってるけど?」
「いや、それでも減ってる……て、量の問題じゃあないんだけど……、量の問題もあるけれど」
「まあ、いいじゃない、やってしまったものは仕方がないじゃん」
ないじゃん、って、軽いな……。
って、やってしまったものは仕方ない、なんて言い訳通るわけもないよなあ。
本当に大事になら なきゃいいが……。
「はい、食べてみて?」
と、魅耶は俺を座らせて自分も座ってから、四角い容器を取り出し、その蓋を開けた。
「おお……」
ご飯が食べたくなる良い香りがする。
肉、ニンジン、ピーマン、キャベツ、モヤシ、が目に映るそれは、シンプンルな野菜炒めだった。
と言うか、魅耶、どれだけの食材たちを使ったんだ。
いい匂いがするけれどおいしそうだけれど、おいしそうに食べれそうもない……。
俺は一口、口にそれを放り込んだ。
……、絶品だ。そこまで思わせる。
「……」
驚き声が出ないほどにうまい。はじけそうだ。
が、食レポとか俺は無理。ただただうまかった。
「どう?」
「うまい、すごいうまいよ……」
俺は全体をキラキラさせながら答え たことだろう。見える人には後光が見えたのでは……?
「そう、よかったわ!今、感想だけ聞きたかったから、帰ってからまた食べてちょうだい?弁当を先に食べて」
「ああ。そうさせてもらう」
そうさせてもらうのはいいのだけれど、容器……。
まあいいか。
「そういや、愚痴は?」
「今日はもういいわ」
珍しい、今日の日まで言わなかった日などなかったのに。宵明のあの言葉で泣いたことによって発散したのか?
「私、もう行くわね……」
「はいよ」
「また、明日ね」
「ん」
多分、女子たちが待っているのだろう。人気者だからな。
人気者は少しの時間しか表を見せることができない。つらいのかどうかは本人から聞いたことがあるが、答えてくれなかった。
魅耶は鍵 を開けて去っていった。
俺は弁当箱を開けてずっと食い続けるだけだった。
めちゃくちゃ美味だった。
それだけだ。
拠点へ帰ってすぐのころ。
あれ、非通知じゃない。あれ、これ……。
俺は携帯のバイブ音が鳴っているのに気づいて画面を見ていた。
宵明が自分以外を登録するわけないだろう。間違って、なんて宵明らしくないし、と言うかまずこれとの接点はあったのか?いや、あるわけないか。初対面、知らない、と言ってたのに。なら何故。
俺が知っている名前に間違いない。
八島 魅耶。
通知画面のど真ん中にそう書いてある。
ま、どうあれ知り合いか。話をするのが手っ取り早い方法だ。
と、言う事で、緑色の受話器をタップして、耳に当てた。
「なんだ。魅耶」
『うわっ。いきなり名前で呼ぶなんてびっくりしたわ』
「ああ、ごめん。学校じゃあないから、と言 うかこっちのほうがいつも通りじゃないかい?」
『それもそうね。だったら……。三分の遅刻よ!!』
「だったらって何だ!!無理矢理叱る口実作らなくていいから。そのまま今日電話した理由を……、ってそう言えば、何故この電話番号を?」
『え、記憶しただけだけど……』
「はい?」
『だから、昼の時に見たんだって、どう見たかは忘れたけど、一瞬見えたから覚えたの?understand?』
「あ、あんだーすたんど」
これが天才か。と言うかアンダースタンドを平仮名でいう事により俺の馬鹿さが際立つほうが問題か?
瞬間記憶能力の良さ、と言うか全般的に一度覚えたものを忘れない、恐ろしい脳の持ち主。もう、何か違うものを見ているような気がする。
まあ、知っていたことだが。何 を言ったって天才は天才のままだ。
「それで、電話してきた理由って何なんだよ」
『あ、そうそう。私の愚痴やっぱり聞いてちょうだい』
あ、なるほど。さすがにあれだけでは表は出し切れていなかったようだ。
「わかった。言ってみ」
『あ、その前に……』
「何だよ……」
コロコロと話題転換する奴だ。まず、話題にも入れていないけれど。
『うん、今日の朝、すごい美少女見つけてね?話しかけようと思ったけど近寄りがたい子でね。でもやっぱり可愛いの。ストレートの髪で、綺麗な黒髪でね。目はクリッとしてるのにどこかおっとりしているような……』
……思い当たる節が一つあるのだけれど。
さすがに言うのはやめておこう。昼の時の電話の向こうの相手って言ってしまえば 、画面向こう側で泣き崩れそうだ。
一概にはそうは言えないが、予想は80パーセントは当たっているだろう。
話を続ける。
「で、それでどうしたの?」
『それだけよ?』
「それだけかよ!」
それだけだった。誰とも何をしろとも言わず、ただ聞いて欲しい話だった。
多々あるから気にはしていないが。
『ふふ、良い突っ込みね?』
「あ、ありがとう」
別に何とも嬉しくもないのだが……。
まあ、それは良しとして……、
「愚痴はいいのか?」
『え?もういいわ。それだけよ……。本当は生死を確認したかっただけだしね』
なんだかんだで心配してくれているんだよなあ。実に優しい奴だと思う。
「ありがとうな」
『べ、別に心配なんてしてなかったし……!』
さす が、一応ツンデレキャラを忘れない、真面目さん。
「じゃあ、もういいか?」
『う、うん!、また明日!!』
そしてキャラを忘れる生徒会長……。
「ああ」
そして電話を切った。
疲労困憊。
神様に体を使われた後の疲労等々ひどい……。
床に布団を敷いて寝る準備は万端だけれど、神様がどうしていくのかが疑問だ。
また長い説明が始まるかもしれないが、了承してくれ。
神様寝ているか否か、分からない。が、とにかく疑問を持ったら解決しないと嫌な質なんだ。うん、聞いていこう。
≪なあ、神様?この世を変えるって本当に出来るのか?≫
と、神様の否応なしに質問をぶつけた。
・・んあ?何が言いたいんだ?
否応の応だったな。
≪いやさ、神様の実力は認めるけれ ど、霊の量が不特定すぎやしないか?ざっと一億ぐらいいそうだしな。しかも殺さずだろ?気を使ってやらなければいけないし……≫
・・?何を言っているんだ?それ人違いじゃないのか?
≪?≫
いや、神様以外そんなこと言う奴いないだろう。世間でそんなこと言うや……、魅耶、言いそうだな。
まあ、いいや。
≪なら、神様の目的は何なんだよ?≫
・・世界を変える?
≪それだ!!≫
・・?世界を変えるって、あ。そうか、解釈の仕方が違っているのだろう。どうやって世界を変えると思っているんだ?
≪……、世界は地球全体だろ?で、その地球の中の汚い部分、いわば悪?悪みたいな物を倒して世界を変革させるみたいな……≫
・・そんなこと個の力でどうにかなる問題じゃない だろ。普通に考えて。
神から言う普通とは何なのかが疑問だ。普通じゃあない者に普通と言われても……、
≪まあ、俺から見たらそうかもな≫
だから、俺を強調してそう言っておいた。
・・だろう?だが、まあ仕方としては間違ってはいない。間違えているのは規模だ。先ほども言ったように地球上全てなんて不可能。だから規模を小さくするのだ。
≪規模を小さくする。地球から規模を小さくするのか?≫
・そう、地球規模ではなく、俺たちの規模で世界を変えるのだ。世界価値観を変えるといったほうが良いか。見方を変える、だな。
≪見方を……。という事は靄とかオーラを見えない様にするという事か?≫
・・まあ、そうだな。それが私の中での悪だからな。自分の見方を綺麗にする ために世界を変えるという事だ。
≪ふうん?≫
なるほど、意思は分かった。自分の世界の見方を変える。ね。けれど、それ……、
≪それは本当に綺麗になるのか?≫
・・そりゃあなるだろう。見方だけでも変わればそれは変わったことと変わりないさ。ふう、眠い。もういいかい?
≪ああ≫
いや、綺麗にはならないだろう。
見方が変わったとしても世界が変わってないわけだからそれでは何も変わっていない。
見方を変えるためにそいつらを殺してから見方が綺麗になる、と言う考え方と、自分の周りだけでも変えて綺麗にしたい、と言う考え方、と言うか、言い方だと、ニュアンスが大分変ってくる。
俺が言いたいのは神様のやり方に問題はないと思うけれど、言い方に問題があり俺が不 満を持つという事。
見方だけならどういうやり方したって自分の願望をかなえるためだけだ。いつか、やり方を変えて見方を変えることになるだろうさ。
いわば自己満足だ。
それは間違いだと思うからそう言う。
間違い。
何が間違いかと言えば難しい話なのだけれど、言うと、それは恨みを持って闘う奴らとそう対して変わらないという事。
恨みをもって遂行するか、欲望をもって遂行するかの違い。違いだけれど結果としては何の変りもない。
最終的には欲望をもって目的のためには何でもするように気がする。たとえ、人を殺してでも。
仕方ない、と言うだろうが、何も仕方がない事じゃあない。目先しか見えないから道が一本なだけだ。
前言撤回しよう。
見方と世界を変えるのは全 く違うものだ。正反対と言えるかもしれない。
俺が言う世界を変えるはどういうものか言葉にしずらいけれど、ただ言えるのは俺の意見は自己満足であっても全て持った自己満足であって、何もない自分だけで精いっぱいの自己満足でないという事だ。
神様のようにはうまく言えないけれど……。神様がうまく言っているかもよく分からないけれど。
ただ、全くの別物。
俺と神様の意見は反対にあるという事だ。
間違っているというよりかは俺が反対の意見を持っているというだけだ。
今、あと言いたいことは……、
そうだったか……。残念だった、という事だけだ。
そう言えば、意見が合致したのは綺麗にしたいと言うところだけだったわけだな。
ま、これは仕方がないか。契約をしてし まったのだから、反対なんて言える訳もなく、従うしかあるまい。
器を使ってくれている。俺の身を保ってくれてもいるしな。と、思うだけ。
それだけだ。それだけでないけれど、それだけの事で、この世で世界でそれだけの事で終わること。ただ俺が損をするだけの事。
これは文章にだけ書き留めておく。
従うとは言えども、同等である。
本当に危険なとき、大切なもの、宵明や魅耶を傷つけることになったときは、この身を犠牲にしてでもこの気持ちを伝えて神様と考え直させてもらおう。抗おう。
そんな時が来たら。……って、すぐにでも起きそうな気はする。
と、思いながらそのまま寝に入った。
今日は良く寝れるだろう・・
屋上
そこには魅耶はおらず、人がいなければ何もない。
ここに来てから十分。時刻は八時十分。
朝の行事を終えここに来たのだ。
いつも魅耶の方が早いのだけれど、珍しく俺の方早かった。まあ、来る時間もいつもより早かったわけだけれど……。
別段、何か早くなるようなことをしていたわけではないのだけれど、ただ、あんなに疲れていたのに早起きで、早く準備ができたから来た。だけの事である。
と、待つこと十二分。
魅耶が来たのが分かる。
階段の音が聞こえたから、と言うわけではなく鼻歌を歌っているの声が聞こえる。まさに魅耶。
なんだか、今日はやけに上機嫌だ。良いことでもあったのだろうか?まあ、どちらにせよ、何か愚痴でなくても聞かさ れるか……。
ドアノブが回り、ガチャッと音を立てドアが開いた。
そして俺に気づいたのか、笑顔で手を振りながらこちらへと寄ってきた。
魅耶の良いところだな。
鼻歌を歌っていて、何も隠すことなくそのままの表情で寄ってくれる。一言で言えば素直だ。いつものキャラとのギャップ。
良し悪しは状況によるけれど……。
まあ、それでキャラを忘れるやつなんだけれど……。
ツンデレキャラ……、まあ、この話もまた愚痴を聞くことになった時にでも話そう。
「何かいいことでもあったのか?」
挨拶よりも先に尋ねることにした。
「ん?いや。強いて言うなら自己満足かしら。昨日からね」
と、魅耶は笑顔を絶やさない。
この情緒不安定少女が夜からのこの長い時間、同じ感情 を保ち続けていたというのか……!
これは素で驚いた。
それほどの事だ、として捉えておこう。変な追及は少女にとって敵。情緒を壊してしまう可能性があるからな。
……、そうだ。ちょうどいい機会だし、こちらからの相談に乗ってもらおう。
「相談に乗ってくれない?」
「え、嫌よ?」
「なんで!?」
笑顔で嫌よ、と。明るいトーンで嫌よ。と、言われた。
「で、何?」
「?」
「相談あるんでしょ?」
乗ってくれるのかよ。
あ、一種のツンデレっていう奴か。
キャラ忘れて戻そうとしたのだろうが、中途半端過ぎて状態が悪化してる……。
と言うか、いつも通りの魅耶だ。
何も変わらない。平常運転であった。
「ああ、本音の聞き方ってやつを教えてほしいんだけれ ど……」
昨日の神様との話でも合ったように、宵明をどうにかしなければならない。
それは、宵明がどういう人、と言うか、それこそ陰陽師かどうか、と言う事である。まあ、宵明の情報が少なすぎるのだ。
だから聞きたい、と言う事なのだけれど、ほとんど人とかかわりを持たないどころか、会話すらしない俺だ。
そんなことで、普通の事でも普通じゃあない俺は、こんなくだらないことを、普通の事を完璧にこなす最強の味方で幾万と話をしていることだろう魅耶に聞いたのだが……、
「え?は?何?」
突拍子もなさ過ぎた、と言うか、世間離れと言うか、完全にコミュ障のような疑問であったため、魅耶はどうやら動揺しすぎてうまく言葉が出ていないようだった。
動揺と言うかすべてが疑 問と言うか。
顔がいつも通りの完全生徒会長とはかけ離れた……。どちらかと言うとこちらの顔のほうが、あたふたしたコミュ障のようだった。
俺がしてしまった情緒不安定少女。ここは責任をもって俺が元に戻そう。
んんっ、と、咳ばらいを一つ。
と、魅耶はハッとした顔をしてから、いつもの毅然とした堂々たる風貌を見せた。
気づかせれば何とかなるのが魅耶である。
「……で、何だっけ?本音の聞き方?」
俺の疑問が戻ってきた。どうやら解決をしてくれる様だ。
「そう」
「そんなの本人に直接聞けばいいじゃない。言いたいんだったら言えばいいじゃない。状況がどうあれ言うべきことなんでしょう?それならそうすればすればいいじゃない、違うかい?」
……仰る通りで。
考えてもみればそれだけで済む事じゃあないか。
何も考えることはなかった……。俺は何に迷ってた?
多分、分かる。いや、絶対に分かる。
本音の聞き出すことは簡単であったとしても、それを聞き入れることは容易なことではない。
迷いはここに生じる。
言い方を変えれば、
本音を本音だ、と思いたくない。
現実逃避。
怖いんだ。どうにかなりそうなくらい……。
「これで解決かしら?」
「あ、ああ。ありがとう」
してやったり、と言う顔をしている。
してやってはいないのだけれど……。
にしても愚問だったな。全く。
本音を聞き入れるには?・・なんて質問をしなくて良かった。これ以上の愚問はないだろう。
でも、愚問であっても、そこからの解決は何も生まれな いけれど、ただどうすればいいのかは分かった。
・・覚悟。
覚悟を決めなければならない。神を受け入れたように本当を受け入れなければいけない。次へと進むために。
とは言っても……。
どう行動を取ればいいのかは皆目見当もつかないのだけれど……。
「では……」
と、話を切り替える。
次は俺の現状報告と愚痴タイムだろう。
「どうぞ、壱夜君」
「はい。えーー」
どうしようか……。
と言っても、どうも出来ないのが現状であり、どうしようもないのだが……。
『銭湯へ行って、その帰りに猿退治をしました』なんて、現状報告をしたら、信じる以前に、ネタとして取り上げられ、謎の突っ込みをされる。
そんなのは信じられない、よりも質が悪い。そして愚痴での疲労だ けでも十分なのに十二分になってしまう。阻止せねば……、
と、言う事で……、昨日、俺が取った、行動だけを伝えることにした。
「えーー」
なかなか進まない。俺が、取った行動を言えばいいわけだから。決して騙しているわけではない。……よし!
「俺は・・」
と、猿と宵明のこと以外を有体に言った。
宵明の事も言えるはずがないだろう。
ただ、騙してしまったのは事実。
「・・と言う感じだ」
「ふうん?銭湯行ってから私と話をしたの?」
「ああ、そうだけれど?」
何か問題なんてあるのだろうか……。ないはずだ。
「な、なんて汚らしいっ!」
「えぇっ!」
何故。
「何故あなたと話したのかしら!嫌気がさすわっ!」
何故はこっちのセリフだ。
「そこまで 言われるっ!?」
いきなりの罵詈雑言。
全くいつまでたっても人を飽きさせない子だ……。いろいろな意味で。
と、言うか。俺はその時どちらかと言うと綺麗なはずだ。
猿と戦った、と言うか一方的な殴り合いをした所為で汚くなったか?いや、猿の話はしていないはず……。
じゃあ、な・・ああ、そういう事だった。
魅耶はいつまでたっても魅耶であって、変わらず……変人だった。
「……」
「あれ?伝わっていないの?ツンしたつもりだったのだけど……」
ツンしたって何だ……。いや、分かるけれど……。
どちらかと言うと、この場面はデレする場面じゃあないのか?シチュエーション的に……。
「いや、それじゃあ、ただの悪口言う女だよ」
悪口どころの騒ぎではないけれ ど、魅耶の精神を保たせるためだ。このくらいでないと駄目だ。
「そう……。勉強しなければいけないわね」
普通にしていればいいものを……。まあ、それはそれで面白味にかけるというものか?
ただ、一言。残念な子だよ。
「ツンしてなかったのね」
いや、ツンはしていたよ。最上級のツンはしていたと思う。ただ場面が違う……。
ツン、真逆。
やはり、全てが表裏で出来ている。どこもかしこも裏表は面倒そうだ。
「そういう事で現状報告は終わりだ」
無理矢理に押し切る。
「そう……、勉強しなきゃ」
聞いちゃいない。
と言うか、まだ言ってるのか。
ツンデレの勉強って何だろうな……。
こいつの事だ。本当のツンデレと言うものを知らずにそういう事を言っているの だろう。学力はトップでも現代っ子の色々な知識で競ったら間違いなくドベだ。
それでもこいつがツンデレにこだわっているなら根本から変えて意味の分からない勉強をした方が良い気がするけれど……。
とは言えど、
俺も実のところよく分かっていない。
あのような家庭にテレビを見る時間なんてあると思ってはいけない。
ただ少しの知識はそこら辺の所謂、オタク、と言うやつがぐふふ、と話しをしているのを、ドン引きしながら聞いていたからで、それ以上は知らないからな。
けれど、その知識と、魅耶の知識を照らし合わせると合点が一つもない。
さすがに俺でもどうにかしたほうがいいと思うわけだ。
まあ、どうでもいい話なんだけれど……。
「頑張って」
「べ、別に応援され たって嬉しくないんだからねっ!」
「それだっ!」
なぜ今できる。
自然だっただろうな。
やはり、自然が一番。そういう事になった。俺の最初に思っていた自然とは違ったけれど、結果オーライ?
「えっ!?出来たっ!?不自然じゃあなかった!?」
いや、違った。普通に狙ったのか……。
自分、恥ずかしい。
それほど、キャラが作れていた……、と言う解釈をしておこう。さすが天才、何にでも対応できる?って?本当羨ましいよ。やっていることはともかくとして。
「ああ、まあ……」
やる意味ある?
とは言いずらい。から……、
「うん、頑張って?」
それしか言葉が出てこない。と言うかそれすら頭にはなかった。ただ、先ほど言ったことを復唱しただけだ。
「うん! !」
元気いっぱい。
「それで、愚痴は?」
「今日はいいわ!!気分がいいもの」
別に良いという事で、ないわけではないだろう。と言うか確実にある。ない日なんて世界滅亡する日ぐらいだろう。
ま、何方にせよ、愚痴はない。という事だ。
だがまだ警戒はしておく。何をするかわからないのが不安定だからな。
「そうか。じゃあ教室戻るかい?」
「うん!!」
そう言えば最近、愚痴と言う愚痴を全く聞いていないな。
嬉しいことではあるのだがどこかもの寂しい感じだ。いつかここに書ける日が来るのだろうか……。
・・・・その後、俺と魅耶は教室へ戻って普通である授業を受けるのであった。
昼、魅耶に呼ばれる。屋上である。
察 すると思う。覚悟をしていてよかったと思う。
「……何か?」
「……愚痴を聞いてください」
敬語でそう言う。
四時間のうちにあったか、先ほどの別にいいものが別に良くない物になったか……。
まあ、俺は、
「はい」
と、敬語で答えるだけだった。
魅耶と関係を持つということは一筋縄ではいかない。
これ、思ったの百四十日くらい。
つまりは毎日だった。
「有難うございました。さようなら」
と、全ての課程が終わり、拠点へと一直線……、と言うわけではなく、いち早く学校を出て神田提灯神社へと向かう。
向かう理由は後にしておいて、すぐさま向かおう。
下駄箱へ向かい靴を履き替え校門を出て麓。
その麓で山を登ろうと足をかけた瞬間、一 人の少女が俺の目に映る。距離は五十メートルほど離れているところ。
少女はこちらをガン見している。ように見えるだけかもしれないけれど……。
追っかけファン?
なんてことはあるはずもなく、知っている顔。
魅耶。
何故ここに?
と言う疑問もあるけれど、どうやってここに?のほうが先の疑問としてあるかもしれないな。
あれだけの人気ぶりだ。追手がいないわけがないのだ。それこそ追っかけのファンとかいるだろう。
まあ、その先の疑問でも魅耶と言う存在を全て知れば、そんな疑問も一瞬にして消えよう……。
魅耶、と言うやつは人前では全てが完璧な超人だ。
完璧であるから全てが非常なわけで、力が強ければ足も速い。
超人だ。
普通の男より、ではなく、どんなア スリートよりも、だ。……比べるところを間違えたか。正直言うと比べる者がない。
ただそれは人を超えた力。完璧超人なんだ。
言い方を変えて、世間一般から魅耶を見てしまえば、化物、ならぬ化者、だろう。
世間一般ではという事だけであって自分が化物なんて思うはずもない。神を知っているから、昨日の神を知っているから、な。普通だ。どこを普通と置くかの違いだけである。
魅耶の話をする時は世間一般と自分を絶対に比べてしまう。
表と裏。
世間が裏か表か、自分が裏か表か、なんて分からないけれど、ただ魅耶が表裏の存在であるから世界と自分が裏か表か、あると思ってしまうだけだ。本当にあるかどうかも分からない。全て、何でも曖昧なのがこの世界なのかもしれないな。言 葉で飾られる世界でもあるし。
まあそれは置いといて、だ。
「壱夜君!!」
と、呼ぶ声が聞こえた、と思ったらすでに目の前にいた。
目に見えなかった。見えないほどに、目で認識できないほど早いのだ。さすがにいつもは制御しているだろうが。
にしても普通、とは言えないかもしれない。神様のほうが足は速いかもしれないけれど、見えなかったら同じことだ。神様に言わせれば、体を最大限に使っている、だろう。あれ、普通か?よく分からなくなってきた。まあ、魅耶はよく分からない奴であるし、まあ、良いとしよう。
「何か用か?……って何その荷物?」
遠目で何か大荷物を持っているのは知っていたけれど、何故かそれには触れてはいけないと誰かが言っていたような気がした。
にもかかわらず、触れてしまった。触れてしまったのはただそれがその荷物が思っている予想より遥か上を言っていたからであったためだ。
自然現象。
と言っても、それぐらいは予想していたかもしれない。ただしたくなかっただけで。触れたくなかった、と同様に。
正直現状どうなっているかを伝えるのは億劫であるけれど、やるしかないか。
目の前に映し出された光景からは、女子は非力であり、か弱い存在、と言う方式が打ち砕かれる様子がとれる。
魅耶は三十冊ほどの教科書類を右手の手の平に乗せて持っていた。
驚愕。唖然。
どんなバランス力、と言うか、力、と言うか、速さと言うか……。ただただ半端じゃない。
全て兼ね備えているとは言えども、見たくない光景であった。
あ……。
と、こんな時に持っているものを見て思い出す。
「何か?じゃないわよ!今日からテスト週間よ?持って帰らなきゃ!!」
そうだった。
テスト週間。テスト勉強をする週間だった。
俺の教科書三十冊ほどを届けに来てくれたようだ。
「ああ……。わざわざ届けてくれてありがとう」
「いえいえ……。あ、重いよ?」
俺が魅耶から両手で教科書類を受け取ろうとしたとき、そんなことを言う。
片手で持っている、しかも女の子に、そんな言葉を言われるなんてショックだ。言われたくなかった。言わないでくれ……。
「っと」
魅耶から教科書類を渡される。
何だかんだ言って本当は軽いとか?最近教科書触っていなかったから。と言って本当に軽かったら怖いけれど。
そし て、受け取った。
重っ!・・くない?どちらかと、いや確実に軽い。
どういう事だ?本当に軽くなること何てあるはずがないだろうし……。
力の増幅。
昨日、神が俺の器を使っていたから、体自体が力の使い方を覚えたのか?知らない。
帰ったら神に聞くことにしよう。
「おっ!さすが男子ね!!」
……嬉しくない。どころか悲しくなってくる。
片手で持ったやつのセリフではない。一介の女の子としてのセリフなんだろうけれど、今更何をしても無駄だ。魅耶の行動は驚愕過ぎて頭に残ってしまったからな。
変人は健人で健在だった。
「あ、ああ。そう、ありがとう」
お礼だけはしておいて。
「おっと、時間だ」
魅耶は腕時計を見て時間を計っていた。
生徒会の仕事か何か があるのだろう。真面目だからそういうところは本当にしっかりしていて見習うべき生徒だと思う。
「じゃあ私は用事あるから行くね?」
「ん。ああ、ガンバ・・ってもういない……」
目の前にはもう姿はいない。
突然現れて消える。神様みたいな……、曖昧な存在だな。
蓋然。
神田提灯神社。
鳥居にそう書いてある。そこはまさしく神社だ。
鳥居の隅に教科書を置いてから、そこをくぐって中へと入る。
えーっと、まずは、そうだ。
≪神様?≫
を呼ぶ。
必要不可欠な曖昧。不可欠条件神様。
・・何か?
応答した。
≪今から宵明の……えっと、本音、と言うか、本心と言うか……。陰陽師とか祓い屋とかの類かどうかあいつがどういう 奴か聞いてみることにする≫
あいつかどういう奴か。敵かどうか、危険かどうかを聞かなければならない。
宵明がそう言った陰陽師の類だ、と言う確率は十二分にある。
だから俺は、低確率にかける、なんてことはもうしない。
ただ、確認して覚悟を決めるだけ。それだけの簡単なことでそう大したことではない。今はまだ……。
・・ふうん。覚悟を決めるのか。よし、そうと決まればしっかりやり遂げろよ。と言っても言うだけだ。簡単だろ?
そう、すごく簡単な事。質問をしてどういう存在なのか聞き出すだけ。
≪ああ≫
・・だが知ってどうするつもりだ?どうにかしなければいけないのは分かるな?
≪分かる。けれど、それは今決めることじゃあない。神様は即にでもどうにかしたい と思うけれど、俺には時間をかけて、心を作らなければいけない≫
俺はあいつが好きだから。好きだからこそ・・する覚悟をしなければいけない。
・・まあ、お前の場合それもそうだな。今は今、か。
≪そう≫
・・おっと、噂すれば、だ。
宵明が来た。それと同時に神はしゃべらなくなる。
「壱夜さん……」
「よ、よう」
挨拶をした、けれど俺はどれくらい動揺しながら挨拶をしたのだろうか?初の試みと言う物はどうも苦手みたいだ。
覚悟を決めて来たつもりだったのは心……、だけか。体は正直に震えている。
「ここに来ては駄目と言ったじゃあないですか?」
と、俺の手を引いてそこから即座に出ようとする。
それは危険だから、よりも、やはり他の理由がありそうだ。
「 待って!」
俺は引かれた手を逆に引っ張り止める。
「わあっ。な、何でしょうか?」
急に引っ張ったために素っ頓狂な声を上げる。
「えっと……」
魅耶から聞いた本音を聞くための、と言うか何かを聞き出すすべはやはり俺には向いていないようだ。
俺は俺のペースで、だ。
「何で……。そこまでして俺をここの場所から遠ざけたいんだ?」
前と同じ質問。
「また、その質問ですか?」
うんざりとした様な顔でそう言う。
まあ、同じ質問をして、それはこの子にとって嫌なことだろうから、仕方ないけれど。
「前も言ったでしょう……?」
「霊が危険だから?」
「そうですよ。わかっているんだったらなんでまた聞いたんですか?」
面倒な……。と面倒ぐさがった。
そう なんだけれど。そういう事ではないんだ。
質問の仕方を変える。と言うか、その後の疑問。先程のはただの確認。
「危険……」
「??」
「危険って、それを、霊を危険って何でそう言い切れるんだ?」
これで少しずつボロが零れればいいのだが……。
「??」
とぼけている……?
「霊っていうのはどちらかと言うと、危険、と言うイメージよりかは、恐怖や畏敬の念、と言ったイメージのほうが強いじゃあないか?」
「それは表でそれを見ているからです。裏から見れば全く違うものですよ」
「全く、ね」
存在が同じである以上、全く同じであるものに変わりはないのだろうし、体験者の情報が一番信じられる。
個で見ているか、全体で見ているかの違い。
宵明は完全に霊を霊と してしか見ていない。それがどんなやつかを知っていないからこういう風なんだ。
「宵明から言わせればどれもこれも同じで、全ては危険な存在だと?」
一匹の霊がそうだったから、霊と言う存在をそれと仮定して全体としか見ていない。
いわば、視野が狭いという事だろう。それほど何かに熱中している、という事でもあるか……。最終的結論として、霊を毛嫌いをするから、それがたくさんいるこの神社にはいたくない、と言う話。
危険と言うよりか自分が嫌い、だから。だろうな。
「そう、です。全部そう!!危険な存在で……全て抹消しなければいけない!!」
どす黒いオーラが再び宵明を包み込む。
俺にとってこれこそ恐れなのだけれど、覚悟を決めたんだ。逃げるわけにはいかない。・
恨み。
何があってそうなっ他のカ聞くチャンスだ。この際いろいろ聞かなければ……。
「何故そこまで……。宵明、いつまでお前は危険だから、の一点張りなんだよ。理由は他にあるんだろう?お前今、顔が……」
人の形相をしていなかった。
なんて言える訳もなく……。
「いや、そうじゃあなくて……。何かあって、何か知って、何かする、からそこまで必死になるんだろう?」
「そう、ですね。何かあるから、何かを教えたくないから、危険、としか言わなかったわけですし。それ以上でもそれ以下でもありませんよ。それでも危険なことは変わりありませんから、警告でいいのですよ。壱夜さんは何も知らなくていいんです」
「その何かは俺に教えるとまずいことなのか?」
「いえ、 そう言うわけでは……」
「なら……「ただ、言う必要がないと判断しただけです。必要だと思いますか?」
危険以上何でもなくそれ以上は必要がないから、しゃべらない、それは正しいと思うけれど……、
「必要ないと思う」
「なら言う必要は……「いや、教えてくれよ」」
「何故そこまで……」
「ただ気になるだけだよ。危険に、その裏には何があってそうなっているのか。単に気になっているだけ」
だから、教えてほしんだよ。
「だから、俺が気になっているだけだ。必要はないけれど気になるから。それだけだから、無理して宵明はしゃべらなくてもいい。ただ喋ってくれるなら教えてほしい、だけだ」
さあ、どうなるか……。
こうは言ったものの……、答えてくれないとこれはま ずい。一種の賭けだ。
答えてくれなかったら最終手段。
「そう、ですか。わかりました。そこまで気になるのなら話しましょう」
気になるアピールが良かったようだ。これまず一安心だ。
「ふう……。話すのは初めてですが。愛する人なら」
「……」
と、胸を摩って覚悟を決めた様だ。
どうやらうまく言ったようだ。けれど、愛する、その一言が引っかかって話を聞けるかどうか……。たまったもんじゃない。
本当にそう思っているのか……。気になって仕方ないけれど気にしても仕方がないわけで話を続けさせることしかできない。
「んんっ……」
と、話す前に咳払いをして、
「私は」
話す。
「私は私の家族は霊によって殺され……、いえ、消されました」
「……け、消された?」
霊によっての時点で非常で非情な話なのは分かるけれど……、消されたって、何が家族を……。あ、霊か。
吹っ飛んだ話であるために頭の整理が追いつかない。
「跡形もなく消えました。肉体も……消えた、と言う事実も、存在さえも消滅させられ、無にさせられました」
「どう、言う……」
謎。
霊の仕業で人が消えた……?
「そのままの意味ですよ。霊が私の家族を消しました。それだけです。壱夜さん」
いや。それだけの事、って言うのは分かるのだけれど、そんなことあり得るのか?どうやってそんなことが……。
言葉で手短にまとめて話せばそれで理解ができる。しかし、この場合は……。そうなった仮定が気になる。気になりすぎる。
「壱夜さん?」
「あ、ああ」
ふう、まだ何も聞いていないじゃないか。心を落ち着かせて聞くだけだ……、よし。
「霊の肩書……、って言ってわかりますか?分かるのなら話が早くて助かるのですが……」
「ああ、霊の力の根源で器って言う」
神様が言っていたやつだ。
言葉=器が成り立つ霊。それがあるから言葉の意味が本当になり、力になるという……。
これは纏めて説明するのは俺には難しい。
「知っているのですね……。珍しい、と言うか詳しいというか……」
怪しまれている?まあ、どちらにせよ、最終的にはばれる、と言うかばらすし。仕方ない。
「え、ああ。それってメジャーじゃないのか?」
「いえ……、本当を知っている人は知っています」
本当?
真理とかそういう奴だろうか。よく分から ない。
「そういうものか」
「はい。で、それを知っているのなら話は早いです。私の一家を消滅させた霊はその肩書を二つ持っていたのです」
「ふ、二つ?」
って、どのくらいすごいのかわかりかねるけれど、分からないまででもない。
神様が前言っていた例。
白虎、それに肩書……。
確かに一つだけでもおぞましいと言うのに、二つって……。それは敵にはしたくない。
例にすればそれは分かるけれど、やはり聞いただけでは何も理解を得ない。見たら早いのだろう。
あ、そうだな。
≪二つってやはりすごいのか?≫
こういう時に神様だ。
・・ああ、相当。マジやばい。隠し必殺技が二つあって無制限に打てると思えばいい。
げ、現代っ子だ……。曖昧、何やってんスか。
≪わ、分かりやすい……≫
それは相当に分かりやすかった。
「二つです。一つは怨憎。もう一つは……、消却です」
怨憎の何か、そして、消却の何か。か……。
家族がいなくなった理由、分かった気がする。
ただ俺が言葉と霊を結び付けていなかったからだった。整理はできた。
「なるほど……。危険ってそういう事か。そしてそれが憎いんだろう?」
「はい……」
あれ??どういうことだ。何故……。
「そう言えば、何で宵明だけは家族の事覚えているんだ?」
消却、全消却。
つまりは、その事件が消され、肉体が消され、存在が消され……、記憶が消されると言う事。
消却=無。
そう考えるなら、受けた本人だけでなく、他人にも関与する。
普通だったら、誰の記憶にも 残らないはずだろう。事件もなく存在もないのだから、認知されるはずがない。
無いものと認知されて、それは無いものであって、記憶がない物であって、何もない黒だ。それこそ真っ暗だ。お先真っ暗、何も考えつかずもう、いない。
「ふむ。確かにそのままでは謎のままですね。わかりました。私の回想とともにお話しましょう。それが手っ取り早いです」
コホンッ、と一度咳払いし、話をリセットする。
「私は、普通の一家の三人姉妹の長女として生まれました。私が生まれて物心ついた時から思っていました。世間一般では『幸せな家庭』いえ、私もそう思っていました。ですが、そう思っていたのも、束の間でした。小学三年生のころにそれは起きました。消去の仮定、とでも言いましょうか」・
「そ、それは……?」
すごい話になりそうだ。
「父、母。の離婚です。私は母に引き取られました。原因は不明です。と言うか、小学三年生で知っていることなど少ない、ないに等しいです。知らないうちに何あった、としか言いようがありません」
離婚か……。母親からしてみればすごく重荷だったんだろうな。
「そこから母は狂い始めます。口を開けばいつも『憎い』と、言います。全てが憎い……と。最初の方は私たちにはそうは言わなかった母がどんどん憎しみを背負ううちに私たち憎しみを向けるようになり、最終的には、ご飯を与えられず、暴行を振るうようになりました。そこから、母からの手がきっかけか、私が憎しみを覚えたのかきっかけは分かりませんでしたが、ただ、霊が見え るようになりました」
「なあ、やはり、その時は母が憎かったのか?」
「いえ、どちらかと言うとどうすることもできない自分に嫌悪していました。霊が見えてからはその霊の一点張りでしたが……」
憎しみがやはり引き金か……。
≪神様≫
・・ああ。もうこの時点で霊は憑いたな。憎しみが霊をおびき寄せて感情を同調させたんだ。
「そうか……」
「はい。もうそこからは流れに沿ってで、簡単です。私が霊を知って気づいて、見ていたとしても私は小学三年生。どうすることも出来ません。ただ、家族が崩壊……、消えるのを待つだけ。そして家族は知らないうち消え去りました。私は消えなかった理由は正直わかりません。理由も消されてしまったのかもしれませんね」
「最終的には謎 だと……」
「はい。私が霊に関りを持って、恨んだのはこういうわけです」
詳しく言えば……、と、宵明が付け足す。
俺も人のこと言えないほど壮絶なのに、上を行く。
多分、と言うか察するに、宵明が消されなかったのは、霊が既についているからそいつが何かしたか、霊同氏はそういう仕様か、と考える。
本当のところ、神様に聞くのが早いのだけれど、今はそんな状況じゃないしな。
「それから陰陽師を知り、それになって、退治をしています」
恨んで殺しているんだろう。
こんな人生を送って、恨むな、と言う方が無茶だ。
だけれど。俺にはできない。恨みでその恨みで霊を傷つけ周りを傷つけることになるのなら、それは間違いだと思うし、どう言ったらいいのかわからないけれ ど……、欲望だけは、目先の目的だけは必ず他を犠牲にする。自分がそれで恨まれるなんて許してはいけない。だからそれは違うと思う。
やはりうまく言えないけれど、とにかく駄目だと俺は考える。人がではなく俺は考える。
「私の全てです」
「うん。話してくれてありがとう」
「いえいえ」
経緯はこんなもんか……。
消えて憎んで陰陽師になった。
……仕方がない。
仕方がないけれど、間違いには違いない。
目に見えて分かる。
俺にならどうにか出来る?
こうなったのは宵明に誰もいなかったからだ。助けてくれる人が誰も……。そして信じられる人も。
それで自分で自分を助けることに決めたんだ。他人ではない、自分自身で全てを背負い込み、自分で解決しようとしたから 。
現状に至る。
俺は……。
この現状を打破する術をさがさなければならない。
愛した、たった一人の大切な存在だ。宵明の気持ちが、ではなく、自分の気持ちが、である。
助けたいとう素直な気持ち。
自分を壊してだって死んでだって助けたい。そんな価値があるから俺はそう言う。
だから、どんな方法を使っても助けよう。
神はどうにかしなければいけない、と言った。
どうにかする仕方は神様のやり方でなくてもたくさんあるはずなんだ。
どうにかするならどうにかしなければいけないわけで、どうにかするんだ、自分の考えで。自分の意志で。
と、考え、決心がついたところ。
そうだ、な。
神に俺の気持ちを、思っていることを全て話そう。どうにかするために。どうにか できなければ、後は神様任せだ。
「あ、そうです!」
と、宵明は手をパン、と叩いて、話題を変える。
さすがにこの空気はつらいよな……。
「どうかしたのか?」
「あ、えっと……、はい」
はい!
と、手渡しをさせられたのは弁当箱だった。
俺はわからないままそれを受け取り首を傾げる。
「弁当?」
「はい……。すみません。今日はちょっとした用事があってあそこには長居できません。と言うか実は今日、拠点に手紙とこのお弁当を置きに行こうと思っていたのですが……。その手間が省けましてね」
「そうだったのか。それだったら悪いな。止めて」
「いえ、壱夜さんを見れたのでかまいません」
「……。そうか。じゃあもう行くんだろ?気を付けてな」
「はい。明日 は……」
「ん?」
「明日は壱夜さんがどんな人であるか教えてくれたら、嬉しいです。そして、これからどうするかを……」
と、言って俺の声を聞かずに帰っていく。
宵明はどんな存在なのか薄々気づいているのだろうな。
それは陰陽師の直観がそう感ずかせるのか、どうだろうか?
まあ、何でもいい。本人には知らせなければならないからな。先程宵明が言っていたどうするかについても……。
「俺も帰ろう」
ポツリとつぶやいて拠点へと変える。
あ、帰ったら神様と話だな。
・・おい。
≪んあ?≫
・・あの娘……。
≪ああ、宵明のことか?≫
・・そう、あいつがどんな奴かやっとわかったな?
≪ああ≫
と、言うわけで、先ほど 言っていた考える時間がやってきた。まさか、神様が切り出すとは思わなかったけれど。まあ、そんなでその時間がやってきたわけだ。
拠点のソファーに腰を掛け、神との会話をいまから始めるところである。
≪黒≫
黒だった。紛れもなくドス黒い黒だった。恨みが黒、それ以上に何もない。
これからの考え会談で話すことはその黒をどうするか。黒の持ち主宵明をどう対処するか、である。対処、まあ、俺から言わせれば助けること、なんだけれど……。難しいだろうな。
・・そうとなると、あの娘をどうするか決めていかないといけないわけだが。
≪そうだな。神様はどうするのが良いと思う?≫
・・お前がどうしたいか?だろ?
≪それもそうだ≫
これは俺の問題であり、神様の問題でな い。どうにかするのは神様ではなく、俺自身だ。
神ならどうするのだろう?やはり宵明の手を、傷を加えて霊を出して、喰い殺す、と言う様なやり方だろう。
≪俺は……助けたい。神様はどういうかは知らないけれど、俺は俺の大切な人をこの手で助けたい。自分がどうなるとそう言う存在だからどうにかしたい。傷つけずに、霊をどうにかしてやりたい≫
・・自分は傷ついてもいいと?
≪ああ≫
・・覚悟はあるか?
≪ああ≫
・・いいだろう。傷つけずに敵を倒せるのなら是非もない。お前に賛同する。俺は必要最低減の傷は仕方がないと思うが無傷で済むならそれ一番だしな。
それでも、そんな考えでも神様は自分の見方だけを変えようとしているのだろうか。
俺にはそうは思えなかった 。こんな優しい神様が他を犠牲にして一人変わるなんて……。多分、薄々感ずいているのだろう。見方を変えることがどういう事か……。それでもそう言うのは、本当に世界を変えるのは不可能でどうしようもないと思っているからかもしれない。それか、世界を大きく括りすぎて、自分の世界と言うものを知らないか。そんな気がする。そうだ……、
決めた。
俺は神様の考えも変えることにしよう。神に世界はまだ変えられるという事を証明しよう。人を助けて、世界は変えられる、と。傷つけずに変えられる。と。
絶対できる。そう、思って、今はただ、神様に今までの気持ちも加えて……。
≪ありがとう≫
と言っておこう。助けられたのは本当だし。変えることができるようになったのも神様の おかげだし。
命の恩人だし。
・・それはいいが、お前が言った言葉だ、何か良い作戦はあるんだろうな?
俺の気持ちと、謎の決意表明は置いといて(結構恥ずかしい)、ここからは真剣にどう助けるかの話だ。
≪いい作戦かどうかは分からないけれど、策はある≫
・・聞こうか。
と、言う事で俺は俺の策を呈した。
これは、説明しずらく神様にしか分からないだろうから、策は実行されるときにでも話していこう。
と言うか現状で理解してほしい。
・・ほう、なるほど。良い案で面白いあんじゃあないか?実行するだけはある。
どうやらうまくいったようだ。
神様もお気に召したようだし。
神様も先ほど言ったように傷つけることをしないならしないほうが良いと言っていたから、 この策はあり、だと考えたんだろう。優しさはあるのにな……。
・・だが……、
≪?≫
・・説明下手だな。
神様には言われたくないもののそれ以上だと自分で確認しているから言葉もない……。
・・気持ちとやりたいことは分かったが、やる順序と解決法が少し不安定だ。そこは俺が支持するがいいか?
≪俺が頼みたいくらいだ。という事で頼む≫
・・わかった。じゃあ、最初はお前が言ったようにやるぞ。
≪最初の方法はそれ以外ありえないし、考えるまでもないか……≫
・・そうだ。と言う事でお前、もう寝ろ?
≪……何で?≫
・・体力温存だ。ただでさえ体力のないお前だ。入れ替わる前に倒れられたら元も子もないだろう。
≪まあ、そうなんだけれど……≫
まだ六時なん だが……。そして栄養分を取らないほうが体に悪い気がする。
・・……、寝ろ。
≪はい≫
と、返事をしておいて……。
神様は寝るだろうから、俺は行動する。
弁当を食べる。その後、寝る準備とか明日の支度等を済ませて、寝るのは、九時を回ったところであった。
・・ばかやろう……。
どうやら起きていたようで、俺は……、
≪ごめんなさい≫
と、だけ言ってから眠りについた。
朝。
そこにいる。
そこにいる彼女は俺の彼女だ。その彼女は陰陽師であり俺の天敵だ。
そんな存在でありながら俺の隣に座っている。
いつもと同じ朝で、知り合ってから四日目の朝。まだ四日目とはよく言ったものだ、俺から見たらもう四日目だ。
まあ、同じ朝とは言えども、四日目の朝とは言えども、俺たち自身は同じではなかった。
俺も宵明も顔は無表情で緊迫した空気が漂っている。
二人ともが覚悟を決めた顔だ。気持ち全部、神経全部をとがらせてそこにいる。
宵明は分かっていた。絶対にわかっている。俺がどんな存在なのか、今から何が起こるのか。
待つ、俺の口から放たれる言葉を……。
俺は言うだけ。感情を押し殺してそれを言うだけ。宵明とどうしていくかを。
言う、ただその言葉を宵明に……。
普通の人から見れば今からいう事は早い、と言われる行為だ。でも、それは世間一般から見た考えだ。個々では違う。当たり前だけれど。
宵明がこの四日間どう過ごしたかなんて分からない、知らない。けれど、俺にとってはすごく長く、深く楽しい時間だった。居るだけで幸せを十二分に受けた時間だった。
要る時間自体は、それこそ世間で言う、早い。だったかもしれないけれど、思う時間は途轍も長く、途轍もないほど……。
長かった。長かったから、今から言う、行う行為は、自分にとって一番やりたくない行為かもしれない。
けれど、やらないといけないのだ。宵明を助けるためだけに。
自分を犠牲にすることは悪い事か?
と言っても、悪い、と言われてもやるしかないのだが……。
何を言われてでもしてでもやり遂げる。俺のためではなく宵明のために。
という事で行動開始しよう。
心を落ち着けて……。
ふう……。
切り出す。
「宵明」
「はい。壱夜さん」
情を出すな。悲しみが出る。
ああ、残念だな。愛しながらに……。残念で残酷だ。
なんて言葉が宵明を見るだけで出てくる。
さっさと終わらせた方が、自分にとっも、宵明にとっても、楽に済むだろう。
「俺た……「ま、、待ってください!!」」
言葉を拒まれる。
長引かせたくはないのだけれど。
にしても何故だろうか。
俺に対して抱く感情なんてものは宵明にはないと思っていたけれど……。思いたいのだけれど。
俺が、と言うか 、神様が推測としてだけれど、宵明が俺の事をどう思ってどうしたいと思っているかを分析して理由を考え、俺もそのように思っていた考えは外れたのだろうか?
まあ、本人から直接が一番早いか。所詮は推測であるからして。
ただ、万が一に推測が外れたとして一番思いたくない思いを持っていたとしたらそれは……、嫌だな。
片思いで、一目惚れ。それで終わらせたい恋だった。
両想いなんてなったときには、悲しみが絶えないじゃあないか。
「壱夜さん」
「え?あ、はい」
「まず、貴方がどういう存在なのか、どういう人なのかを教えて頂きたいのですが……」
ああ。
そう言えば昨日、分かれるときにそんなことを言っていたか……。
それは……、
まず最初に、それだけは聞きたい、 と言うことだったのだろうか。
それとも、少しでも結末を遅らせるために切り出した話なのだろうか。
何方にせよ、俺は言う存在であり、それだけだ。
「分かった」
心をもう一度整理して……。
分かっているんだ、宵明は。なら考える必要なんてないさ。
言う。
「宵明はもう察していると思うけれど、俺は曖昧と言うやつと契約を結んだんだ。簡単に言ってしまえ霊の類に憑りつかせた、かな。だから俺は宵明が言う退治しなければいけない存在だ」
「……。やはり。察していました……」
「あれ?狐。でしたっけ?」
「狐、と言えばそうらしいけれど、そうじゃあないと言えばそうらしい」
「本当に曖昧な存在なのですね。聞いた事はありましたが、存在は初めて見ました」
「まあ、曖昧が言うには相当なレアケースらしいしな」
「何となくそんな気はします。考えれば知っていたことですし、確認のみでしたから、それ以上はありませんよね」
と、言って笑う。
それだけの事、にどれだけの重みがあるのだろう。
そして、宵明はまた口を開く。
「……私、どうしたらいいのでしょうね。恋人が敵なんて……」
どうしようもない、のが現状ではある。
宵明からそう言う事を言ってくれれば、俺はどうするか指摘するだけだ。どうしようもないものを無理やり解決させる方法を。
「そうだな……。俺とお前は敵同士。俺は曖昧な存在を持って、お前は恨みで霊を殺す陰陽師の肩書を持っている。これは相反するものではないけれど、敵という事には変わりはないよな。俺は そういう存在でお前はそういう存在だ。結果論だけ言ってしまえば、俺とお前が分かれる。それ以外方法はないんだ。両方が傷つかないようにするやり方としては。な」
方法として、宵明が霊を殺すのをやめるか、俺が神様と契約を切るか、と言うのがあるけれど。最終目的がそれをしないと出来ないというのに、そんなことできる訳ない。
闘うなんて方法は存在さえしない。
何方が傷つくのは嫌だし、何も生まない、どころか何もかも失う。それこそどうしようもない、ことになってしまう。
と、すると、方法は、安全な方法は、別かれる、以外の方法はないわけだ。
そのまま過ごす、と言う考えは……、考えたこともなかった、けれど、それも最終的に戦いに発展するだろう。反対は対立している から反対であり、くっついてしまえば、それはどちらかに味方した、と言う解釈になってしまう。
つまりは、反発しないとやっていけない。という事だ。
そして、触れないのが一番、なんだ。
と言うのはただの言葉で本当は、共存なんてしようと思えば出来るだろう。
二人ともがそれに対して触れなければいい話なんだ。
けれど、そうはいかないんだ。
宵明は恨みのせいで霊といることを毛嫌いして俺をどうにかしようとする、俺は俺で恨みで霊退治をすることを間違っていると思うからそれを止められずにはいられない。
いつものことだが……、何を言ったとしても最終的に結果は同じだ。
「別れるしかないんだ」
と、俺は二度押すようにそう言った。
話を進めるために、今、現状そうするしかないんだ。
本当に、現状にそう思っているだけで、俺が最終的に導き出した結末にはならないかもしれないけれど……。
まあ、それで宵明が助かるだけそこは良しとして……。
そう思うのは先ほども言った通り、宵明は……、
「もう、お疲れ様だ。宵明」
「え?何がですか?」
動揺。
「俺が好きだってことは演技で、もともと俺の存在を知っていて近づいて、殺すために、フリをしていたんじゃあないのか?もう隠す必要はない。俺とお前は別れて、別々の道を歩むだけだ。俺も殺されるわけにはいかないから、遠くへ逃げるけれど」
「そ、そんな……!」
頷いてくれ……。
片思いにさせておいてくれ……。せめてもの願いだ……。
「そ、そんな事はありませんよっ!これは私の本心で すよ!?紛れもない……、なのに、それなのにそこまでひどいこと言うんですか……。う、うっうぅ……別れるのは嫌です……」
と、泣き始めてしまった。
悪い。
そう思っても、俺はやめるわけにはいかない……。
「本当か?」
「本当ですっ!」
俺は宵明の声にびっくりして声がでなかった。
「あ……。いえ、すみません。でも、それは違います。合ってますが違います」
曖昧?
「どういうことだよ」
「その霊を退治する、という事については否定しません。未来の先読みの出来る陰陽師さんの未来予知を受けてからあなたと言う存在がどんな風になるか、それをを知って近づきました。そのために近づいたと言っても間違いではない、という事です。でも、勘違いしないでいただきたい のです。祓うために私が行動した理由はそれではありません。悪を祓うのは当たり前ですが、あなたを助けたかった。あなたを好きになってしまったから……。霊がどうこういう前に私は貴方に恋をして、悪霊を、苦しめる者を取っ払おうと私は動きました。だから、私は貴方の事は……」
大好きです、と。
好きだから人を助けたかった。
……。なんだ、恨みだけじゃないんだ。と言っても霊に恨みを持ってるんだからそれも当然なのかもしれない。けれど……。
宵明の気持ちはありがたいが、嬉しくてたまらないが……、助けられるのは無理だ。
まず、俺の曖昧は俺は苦しめるやつじゃないし。宵明もわかっているだろう。
両想いで片方ずつが愛に愛していたせいで……、感情は爆発しそうだ。
辛く、悲しい。欲を出してしまえば……、別れたくはないな。
ただの欲。
「私は壱夜さんを助けたい……」
「俺自体が敵なんだよ……。好きでもどんな感情を持っていたとしても、それだけは帰れない事実。助ける、それは俺自体を倒すことだ。それはただの殺人だ。俺を消したいのか?それでも助けたい、否、一緒にいたいというなら、宵明が陰陽師をやめるしかない。できるのか?」
「壱夜さんを消したいなんて……。陰陽師をやめるのは、無理です」
「だろう?」
もうひと押しか?ここから少し力技になってしまうかも……。
「それでも!どうにかして助けたいのです!!助けて私の彼氏に戻ってください!!」
ありがとう。と心の中で思っておこう。
それだけ言ってくれれば十分だ 。
やはり、俺が助けなければいけないな。
宵明は俺を見ている様で霊しか見ていない。俺がどうでもいいから、ではなく、俺に憑いている霊が憎いから、そちらにしか目がいかないんだ。そんな状況で助けようとしたって俺を殺して、自暴自棄になるのがおちだろう。
だから、そんなことになる、助けられる、そのまえに手を打つ。先手必勝だ。
男としても俺はあいつを助けたい。犠牲はつきものとはよく言ったものだ。犠牲なんてなしでもどうにかしてやるさ。宵明が間違っていることを証明してやらないと。
「霊は俺と契約を交わしている。どうしたって無理なものは無理だ。言わば俺自身かもな。まだそれでも俺を助けるというなら俺とお前は対峙しなければならない。彼女にはなれないんだ。 やっぱり、俺には霊がいるから。憑りついているから」
「憑りついて……、いる?」
食いついたか?
「そう、俺の中の奥深くで潜んでいるんだよ」
少し、霊が悪いと思わせ……、
「潜んで?それって、契約ですか?違うじゃあないですかっ!!なんで……、なんで、霊はいつもいつも私を不幸にするのっ!?昔だって……、今だって!!なんで私だけ……、やはり、憎い……、憎いっ!!きっと壱夜さんは契約を結んだと勘違いしているんだっ!私が助けなきゃ……、憎い霊を殺して!!」
憎ませる。
効果絶大か……。これで、霊まで出てきてくれたら、よかったんだけれど、そうもいかないか。
ま、成功か。
憎ませて恨みを俺に向けさせて、増大させて、あらわにさせる。
神様曰く、 露わにさせることにより霊は力は上がり膨大なエネルギーを持つようになるが、器に入りきらず外に出るようになるらしい。
それをたたけば……、ってことだ。
最終目的は宵明の後ろについた霊を取っ払って、恨みで霊を殺すのをやめさせ、陰陽師をやめさせることだからな。
それが助ける、方法。
もうひと息……、助けるために俺の心が傷つくのは……、多少は良しとしよう。宵明は仕方なくはないけれど、耐えてほしい。結果さえ良ければそんな心はなくなるだろうから。
「霊のせいだ。霊のっ!!」
宵明の頭にはもう既に霊しかいないようだ。
丁度いいタイミングか……。
憎みをもう少し膨らませてから、次は停滞させる。
≪神様……≫
・・タイミングはばっちりだ。じゃあ。
≪ああ≫
・・お前、今どう思ってるんだ?どんな情がある。
≪俺は……、世界が憎くて、宵明が愛おしくて、こんなやり方でしか人を助けられない、自分が最低すぎて、自分に嘔を覚える。言えば怒りだ。自分自身への≫
・・憤怒、な。もうそろそろ感情が爆発しそうだな。良い調子だ。もっと自分を憎み攻めろ。
人ひとり助けるのに人を悲しませる。俺は何て奴だ。
怒張する。
怒り、怒気、だ。
ふと……、あたりが真っ黒だ。どこもかしこも真っ黒だ。あるものとすれば正面に大きなモニター画面だった。宵明が映っている。
成功したらしい。
「壱や……さん!?じゃないっ!!」
座っていた宵明は立ち上がり後退する。
「誰ですっ!!狐ですかっ!?」
「ほう?霊感の力か?人 間にしてはいい警戒心だな」
神様は立ち上がり、腕組みをしてドンと構える。
「私の前に現れたことを後悔しなさいっ!!そして壱夜さんを返しやがってください!!」
口が乱暴であるのかないのか……。
「なんでそんなことしなければいけなんだ?」
「壱夜さんをたぶらかしている霊は貴方でしょうッ!?私は知っています!別れようなんていう事になったの貴方のせいですっ!」
「別れ話を持ち出したのは俺ではないが……?あいつの考えあって行動だ。そう言えばお前にいっておくことがあったんだ」
ん?言う事?そんなこと聞いてないけれど……。
「お前、自分の欲のことしか考えてしかないんじゃあないのか?あいつの気持ちは無視か?俺は自分自身とあいつが言っておきながらに退治するのか?……滑稽だな」
笑止千万だ。
「あいつの気持ちを汲み取らずに何が助けるだ?あいつにとっては、最善の策で苦渋の決断だったんじゃあないのか?」
「どうせ……、本当は私を倒すために来たんじゃあないんですか?愛する、なんて嘘です。逆を突かれ、私が不覚を取ったのです。だって私をこんなに不幸にするのにそんな……」
宵明は泣き崩れ、床に頽れた、と思えば、右拳で床を力強く叩いた。
床は衝撃で破壊される。
木片が飛び散り、家具が全て床に落ちて壊れる。
俺の拠点が!!なんて言っている場合じゃあなく……。
神様は崩れたと同時に床が支えられていた木に乗っかる。
宵明はそのまま地面に着地した。
「本当にお前……、そう思っているのか?」
「え?」
「いいか。私の発動条件は感情の揺れ。言えば感情が最大限に現れたときにでてきくる」
「それが何か?そう言う条件ならやはりそれは嘘じゃあないですか……。愛情という感情で今まであなたが出てきていない、ってことはそういう事でしょう?」
「それは違う。感情で出てこなかったのは、契約を結んだときに決めたあいつの望みだからだ。器を使わせる限りに望みを叶えさせる条件でな」
「?」
「契約の時あいつは言った。お前といるときだけは俺は出るな、ってな。意味……わかるよな?」
「……」
「あいつはお前が好きでたまらないから、ずっと一緒にいたいと思っていたし、楽しみたいと思っていた」
そこまで神様に伝わってたのか……。恥ずかしい。
「そ、そんな事 嘘かもしれないじゃないですかっ!!」
「そう思っているのか?」
「……、そんな。どうしろっていうんですか!?だから別れろと!?なおの事別れたくありませんよ……」
「そうかい?」
「何なんですかっ!!……もういいですよ。壱夜さん、今助けます……。貴方がどう思っていたとしても私の気持ちは変わりません。狐のせいでっ!!死んでください!!」
突然だった。
木の上に一回の跳躍で乗る。そしてこっちにお札を張ろうとして来る。
「愚かな」
・・今か?
≪ああ。入れ替わる。一瞬だけな。できるか?≫
・・やるしかないだろう。
≪それもそうだ≫
・・神様、ありがとう。
≪ふ、全て終わってから言ってくれ≫
そして、入れ替わる。と同時に、お札を胸に張ら れる。
「宵明」
俺は宵明を見下ろした。
「ど、どうして動けるんですかっ!」
動揺して後方に下がる。
「俺に札は効かない。俺は壱夜だからな。ま、曖昧な存在でも効かないだろうけれど。やるなら俺を殺すしか方法はないぞ?出来るか」
「壱夜さん……。できません。できるわけありません!!」
優しいんだよな。やっぱり。
「それでも諦められない。と言うなら俺を恨んで殺せばいいさ。俺がお前の中で残っているなら抹消すればいい」
「……そんなっ」
その反応だと成功のようだな。
先に憎しみを持たせれば俺自体を憎むことはない。他の事で憎しみが生まれれば方向はそちらへと向く。
方向性の違いだ。
この間、神様が言っていた、最大の危機、恐れていた事態は免れそ うだ。
「できないのなら。恨みを先ほどの存在に全部ぶつければいいさ」
そうすれば。俺も死ぬけれど、そこまでは言わずにおいて……。
「それでも出来なけば誰かに頼めばいいさ。ま、俺は負けるわけにはいかないけれど……。じゃあ、ひとまず、ばいばいだ」
俺はそっと宵明を抱きしめ、泣きじゃくる宵明をそれで止め、心を落ち着かせた。
俺はそれと同時に、
≪神様≫
・・ああ。
悲しみ、哀哭。哀愁。愛執……。
サウダージだな。これはまた。
入れ替わる。そして神様は曖昧な存在になっているようでいない。そこにはいて、いない存在になった。
言えば、他から見えなくした。
宵明はそこに突っ伏した。
ふう。疲れた……。ひとまずは成功だろう。
宵明の恨み霊を出 して、恨みを停滞させるために恨みを神様に長い間ぶつけておいて、陰陽師を次いでに一掃するために仲間を呼ばせて……。
ふう。嘆息が暗闇でよく出る。
≪少し離れてあの娘を見守るぞ≫
・・はいよ。
「愛してます。壱夜さん」
と言ってから、立ち上がり、地面に降りてから乗っていた木を、右の拳で殴る。
木は揺れ動き最終的には折れる。
・・なんて力……。
≪いい力持ってるな≫
・・感心してる場合か?
≪場合だ。感心するのは感心するからだろう。その場だけのことだろうし、それ以上不覚は考えないさ≫
・・……。
「やっぱり、壱夜さんは待っている!!何とかして壱夜さんを助けなければ、恨めしい狐から。仲間を呼んで、一斉にやっつけてしまいましょう……。ふふ 、ふふふふ」
怖いな、いつも通り。ま、宵明は宵明として。
この話はここまでにして次の段階だ。
次は俺は何も知らない。神様が必要だと無理矢理詰め込んだもの。
話は進行する。
それからは宵明を追って陰陽師の住む寺に着いた。
陰陽師を一掃するために拠点は知っておかないとな。
宵明が入っていったそこは、大きな寺だった。城門の様な木の門が待ち構えている。中へ入ると、広い庭、三十メートル真っ直ぐ歩いたところに本殿がある。寺と言うより城だし、本殿と言うよりか、昔の貴族の家のようだ。大きさは計り知れない。ただただ大きい。中も部屋がたくさん別れていると思える。
寺出なければ城でもない。陰陽師の住処だった。
現在地はこの山の頂上だ。
まさか、拠点の上 にあるとは思はなかった。行くこともなかったし、城と違って上に大きいわけでもない、と言うか横に広く縦に低いから遠くから見ても茂みで隠れているためわかりさえしなかった。
宵明は本拠地がばれないように下に降りてから上に上がっていったのだろう。
神がこの場所へ入り込んだときは、何事もなく、人気もなかったのだが、少し隠れて宵明が本殿へ入ってから五分ほどしたら、人が三十人ほどそこから出てきて、門をくぐって外へと出て行った。
神様曰く、陰陽師の召使とか、そういう類のものだという。式神かも、とも言っていたっけ。
この状況は、神様の予想通りか。
これが俺を助けるために仲間を要請した行動だとしたら……、だけれど。
まあ、それは良いとして。
ここに来た理 由として、神様の生きやすい環境にするための一つだ。
ここで陰陽師を叩くことで敵が減る。
宵明を助けて、陰陽師、敵を無くすこと、つまりは一石二鳥の作戦だ。
今日はその下見。
さすがに何も考えなしで突っ込むなんて、飛んで火にいる夏の虫だ。と、神は言う。
確かにそうだ。
状況を知ったらすぐに飛び込めるものだと思うけれど、何が駄目なのか、分からない。
と、言ったところ、まだそれだけでは準備不足、と言う事らしい。神様一人でどうにかなると思うからそう言ったのだけれど、ならないのだろうか。万が一かもしれないな。
・・状況はもう良いか?
≪ああ。陰陽師は六人。結構な数いる。召使もざっと、二、三十人。やはり、今日は下見だけ。万が一の準備をしておくか ≫
結構大きな処にあたったらしい。陰陽師六人はどれだけ凄まじいのかは分からないけれど、やはり、たくさんの種類と戦うには作戦等が必要なのか……。準備はしといて損はないからな。
・・そう言えば、準備準備、って何を準備するんだ?
準備とは聞いていたが何を準備するか分からない。さすがに何するかわからないことをどうすることもできないからな。
≪言ってなかったな。ま、行ってから説明したほうが早い。どうせ、すぐだ≫
・・?
どこかへ行くことと準備することに何が関係するんだろうか。すぐに分かるっていうなら少しは待つことにしよう。
・・ほら、着いたぞ?
「……は?」
すぐとは言ったけれど……、着いた?到着?どういう事だ?
いつの間にかカッコも変わっ ているし。俺の体が俺操作に代わる。
≪何?どういう事?≫
混濁。
確かにいた場所から今の場所は全く違う。すぐに着くとはそういう事だったのか……。先に言っておいてほしい。
情景は、見慣れぬ街並み、見知らぬ街並み。
確実に日本ではない外国の街並みだ。けれど、ニューヨークと言う様な、ものでもなく……。もっと趣があるというか……、古風と言うか。まあ、そんな感じ。
もっと詳らかに言えば、レンガの家やおしゃれなカフェなどが道路の脇に立ち並び、道路には人で賑わっている。俺はそこの道路に立ちすくんでいた。
あ、あと言うならヨーロッパ、だろう。まあ、どこか何て分かったものじゃあないけれど、こういうのを地歴の教科書で見た気がするし。
さすがに道路の真 ん中は危ない。道の脇によって、少し落ち着くことにした。
ふう、何が起きたんだ。やったのは間違いなく神様だろうけれど。分かりかねる。
≪ヨーロッパ?何?≫
・・……のどこかだろうな。
と、俺の言葉に繋げた不詳細の返事。
まあ、神様がここまで来させたんだ。神様が知っていることとしてそれは置いといて……、今は、
≪ここに準備するものがあるって……、何なんだ?いい加減教えてくれないか?≫
・・戦闘するときの準備だ。
……。
≪だからそれは具体的にどうするんだよ≫
・・俺と入れ替わらないときお前は生身なわけだ。相手もただの人間とは言えお前の力はそれには劣るだろう。だから、ここで武器の調達だ。ま、護身用に、だがな。
≪じゅ、銃とかか?≫
・ ・そうだな。日本にそんなものないから、ここらで調達しておく必要がある。
≪……。護身用に。って言う意味は分かる。でもそれを俺が使うなんて無茶だろ≫
まず、日本、銃刀法で捕まるだろうに。
・・護身用だと言っている。撃たなくても相手に向ければ時間稼ぎになるし、相手を狙わず適当発砲したら大丈夫だろ。
一番大丈夫じゃなさそうなんだけれど……。まあ、俺の身を思っての事だ。確かに何してくるかわからない相手に護身用でもなんでも持っておくと少しは安心できるな。
言いたいことはたくさんあるけれど、時間をあまりかけないためにも従っておこう。
≪そうだな。わかった。で、これからどこへ向かえばいいんだ?≫
・・知らん。
≪はい?≫
なんと……。どうしろっ ていうんだよ。これから行く当てもなく放浪旅なんていやだけれど……。
ってか、何で!?
・・知るわけないだろう。お前が知らない知識が俺の中にあるわけない。いいか?存在があるようでそこにはなかったら、ほかの場所に存在が無いようでそこにはあるんだ。だからここの場所にワープしたようにここにいるんだ。
≪……。それで?≫
・・ここの場所は知らないわけだろう?だが、ヨーロッパのどこか。という事は知っているわけだ。つまりは、認知していない場所には来ることができない。特定した場所には、な。ただヨーロッパ。という事を知っていたためにどこか分からないヨーロッパのどこかに着いたわけだ。
神様は曖昧だから存在をどこにでも移すことが出来るけれど、さすがに場所 が分からないのは無理。まあ、そうだな。知らない場所に来ることなんて無理だもんな。だから知らない土地に来たのか。ヨーロッパだけを知っていてそこのどこかに土地に着いた、か。でも、神様曖昧だから……、
≪?神様は全て曖昧だから知っているけれど知らないんじゃあないのか?≫
・・それ、無茶苦茶だろう。曖昧になることとならないことくらいははっきりさせておけ。
≪ああ。そうか≫
あれ、そうか?
≪?知っていても思い出せなくて、知らない、ていうのは曖昧なんじゃあないのか?≫
・・まあ、それは曖昧だが。今はそういう事じゃあない。お前が言う思い出せない、の逆は何だ。
≪ああ、本当に知らない≫
・・そうだ。元々知識にないものは曖昧には当てはまらないんだ 。曖昧の前提に知識がいるんだ。知らない物は知るわけない。と、言うか、これお前のせいで起こった事なんだけどな?
≪え?何で。俺何もしてないけれど……≫
・・そう、何もしていないことが問題なんだ。
≪はい?≫
・・前にも言っただろう?私とお前の知識は、共有されているんだ。つまりはお前の知識が頼りだったわけだ。だが、どういうわけかお前はヨーロッパ、という事しか知らなかった。知っていたのはアメリカのニューヨーク、くらいだったな。ま、そこは人が多そうだったから避けたがな。
≪あー≫
あー。
なるほど。そうか。俺の知識のせいか。地理と言う教科はどうも苦手で、覚えることを拒絶してきたからな。知っているのは確かに、神様が言ったところだけだ。見て、覚 えようともしてなかったからな。思い出せないとかではなく、知らない。
神様は記憶は共有していても過去までは共有していないようだ。ただ、俺の知っていること。今まで覚えてきたことだけ、らしい。どこが知識のボーダーラインなのだろうな。
≪俺の知識量が些かなものだったから、ヨーロッパのどこかに着いた、と≫
・・そうだ。
≪そして、おもむろに場所を探すしかない、と≫
・・うむ。
はあ……。
って、知らないんだったら、都市知っていても、銃撃ってる場所知らないと意味ないんじゃあないか……。悪いのは俺かもしれないけれど。誰だってそんなもの知るわけないだろう。無茶苦茶だな。
何をしても何をやったとしても結局探す羽目になるのか……。
そんな簡単に見つか るものじゃあないしなあ……。ま、いざとなれば神様が何とかしてくれるか。ポジティブにでもしておかないと、気が動転してしまいそうだ。
≪じゃあ、少し歩いてみる≫
・・わかった。何かあったら呼んでくれ。
北に直進する。一応、元の場所に帰れるように、だ。
目的はあるけれど、場所が分からない、か。
ふむ、だが、これでいいのだろうか。
ふと足を止めた。
予想だと、さすがに武器屋で、大きく構えている処は無いはずだし……。まずは通りを抜けて人が少なくなったビルの裏がある場所でも探すか……。
周りを見渡して大きな建物を見つける。そしてそこへ行くため方向転換。南側。……真逆だった。
また歩き始め、直進十分。長い道路を抜け、先ほど見えていたビルが目の前に立 っている。
のは、いいのだけれど……。なんだここは。
先程といた場所とはまるで違う。世界が変わったようだ、とまではいかないものの、田舎と都会ほどの差はある。
ビルがたくさん並んで、人の雑踏がよく聞こえる。先程いたところよりも倍以上は人はいるだろう。
人を避けたって、これ……。まあ、こちらの方が店はありそうだ。やはり、探すと言えば、ビル裏、細い道路、だな。
という事で、目の前にあるビルとその隣にあるビルの隙間を通る。
ビルを抜けて、裏。怪しい店が点々としてあるな。人気が一気に減り、こういう処にいると……、
「よう、兄ちゃん、一人か?」
からまれた。言う前に行動に移された。
「なんだ、まだガキじゃねえか。ここは大人の場所だ、立ち去ん な?おっと、いや、そうじゃないな。ここは俺の私有地でな」
どこのガキ大将だ。時代が古い。なんでここの文化だけ共通してるんだ。
はあ、寄ってたかって、巨漢が四人。何をしているんだか……。
とはいえど、
「すみません」
怖いものは怖い。巨漢四人に囲まれたら誰だって怖いさ。神がついていたとしても今は自分だしな。
さっさと、お金徴収される前に逃げるか……。やってみる価値はある。
「許して……やんねーよ!!百万円置いてきな!!」
腹立つな。人の顔面に唾はかける物ではありません。張り紙作ったほうがいいんじゃあないのか。
俺は四人に囲まれる。逃げ道を塞ぐ、か。
ま、何とかなるだろう。今の俺の力なら……。
まず一歩を踏み出した。
巨漢一人の股を くぐって、細い道を駆け抜ける。
「ま……」
と、いう言葉以外巨漢の声は聞こえなかった。
神様すげえな。
一瞬にして、見えない距離まで離れたと見える。
神様が先ほど使ってくれたから体がその状態になっている。
理由や根源は分からない。教科書置いて次の日には非力に戻っていたし……。
と言うか、何にもぶつからなくてよかった。体の制御は俺に出来るとはいえ、本気で走ったからな。神と同じくらいの力を最大で使えば瞬間の判断もできるとかもしれないけれど、必死だったからぶつかっててもおかしくなかった。本当良かった。
走るのを止めて止まったところには点々としていた怪しい店はなく、真新しい感じの怪しい店が一軒建っていた。
それは、一言で言えば場違いだな。
民家。古い。しかも日本の。
古びた木造建築が一軒ぽつん、と。
気になる。そして、足を運んでしまった。そしてから、木造の家の前で止まり、外の窓ガラスから中をのぞいてみる。
ここ……、
・・使えるな。よく見つけられたな。
≪神様……≫
・・さ、入るぞ。
≪ああ≫
何も警戒することなく入ることを勧められ、入った。
古風なドアを開けると、次はモダンだ。
中は思っているほど大けかった。銃架が多く置いてあったせいで、圧迫感があり、そう思えたのかもしれないけれど。
武器屋。だ。本当にあるのだと、感心した。
にしても本当にすごい量だ。見るだけでもおなか一杯になるほどだ。マニアになると、相当嬉しいのだろうな。
「お客さん。いらっしゃい」
と、奥 の方からがたいの良い、ノースリーブの厳ついおっさんが俺を迎えた。
俺は目を合わせて一礼してから銃を探す。
……、何をどう選べばいいんだ。
≪なあ、神様≫
・・知らないぞ。
≪早いな……。でもそれはそうか≫
兎に角、安い奴で使いやすそうなハンドガンに絞って探してみよう。
それでも量は手に余るほどあるな……。
一つずつ値段を見ながら奥に進んでいく。
どれもこれも高いな……。安いと言ってもそんな差は無いし、万の値が付く時点で高いのは分かる。
はあ、どうしよう。こんなところで通帳何て使いたくもない。
諦めようかな……。と、思ったその矢先に
「何かお困りぃ?」
と、声をかけてくる店の主。
「…………?」
沈黙の末、俺は首を傾げた。そして引 いた。
いきなりオカマキャラを演じられても……。と言うかその体系、厳しいものがあるだろう。
対応の仕方に困る。
今の気持ちは、帰りたい。ただそれだけだ。
「あらぁ?坊や……。珍しい物持ってるわねぇ」
これはこれで怖い。
でも、これはどういう意味だ……?
言葉の意味が分からず、また首を傾げた。
と、
・・おい!!逃げろっ!!
と、神は心中でそう叫ぶ。
≪??どういうことだ?≫
と、神様に対応しようとしたとき、
カチャッ、と言う音がして何かが俺の頭に突き付けられる。多分、いや、絶対、ピストルだ。
??
頭は混濁していて考えることが出来ない。
一体何が……。まて、整理しろ。おっさんがオカマでそのオカマが俺に銃口を向けて……。えーと、 えーと。駄目だ!!恐怖が強すぎる!!
頭が今まで以上に回らない。ただただ恐怖を感じている。
・・あいつ……。相当な知識を持っている。力も、だ。俺と似た何か、か。ただ全く違う形のレアケース、か……。
≪そんな奴と……。いや、大丈夫だ。もう入れ替われそう≫
怖すぎる。恐怖。恐れ、怖れ、畏れ……。
それ以上に俺には何もない。
・・ふう……。替われた、か。
もう既に見慣れた景色となっている黒とモニターが現れる。
・・助けてくれ神様!!
≪言われなくてもそうするさ≫
すごい落ち着いている。やはり冷静さは何より大事、か。
神様は一度膝を落とす。そして、手を地面に突き立て、逆立ちするように足を振り上げ男の顎を踵で蹴とばす。そうして怯んだ瞬間、 神は地面から手を放して体を浮かす。
浮かした体を宙で横に捻り、回転させ男の方向を向いて、サッカーのボレーの様な形で男の顔面を蹴とばした。
男は知らないうちに視界から外れた。奥に吹っ飛んで行ったのだろう。男さえも目で追えなかったから予測しか建てられないけれど。
どんなやり方をしたらそう出来るんだろうな。
行動が複雑で入り混じりすぎて表現の仕方に困るけれど、頑張って言葉にすればこうなった。
まあ、そんなことを言う前に、男が死んでいないか安否を確認する必要があるな。
恐怖がその驚きによって一瞬に消え去ったことにより器が戻る。
・・大丈夫だ。体を最大限に生かしても別に力は入れていない。ま、そんな心配も無用だったわけだが……、あいつにも霊がつ いている。否、あれの場合は共存しているから大丈夫だろう。
と。
≪共存?≫
それは俺と同じ境遇にいるやつなのか。それとも神様が言ったようにそう言うレアケースなのか。でも霊がそうなることは……。
≪あり得るのか?普通それはあり得ないことなんじゃあ……≫
・・いや、それを目標に霊は動いている。それを達成した奴がいてもおかしくないだろう。だが俺も予想だにしていなかった。まさか、だった。
≪神様も驚きか≫
・・まあ、な。目的を終えるという事はそれほどの物だろうし。知らないことが多いな。世界は広いな。
≪そう、だな≫
世界は広くそこに人は茫漠して、合う人間なんてごく少数だ。
やはりここで会ったのは、合縁奇縁、と言うものだろうか。
・・そう 言えばあいつら俺を打つ気なかったんだよな。
≪じゃあ、なんでだ?≫
・・俺らを試したのだろう。
≪試す?≫
・・そう。あいつらがそう言う奴らだから、俺らがそう言う奴らなのかどうか知りたかったのだろうさ。殺される恐怖を抱けば霊が出るように俺が出る。試したのさ。
≪まあ、試すのは分かったのだけれど……。何の為にそんなことをやるんだ?何かをするためにそうしたのだろう?≫
・・だろうな。ま、そこまでは知らん。直接聞くのが早いだろう。
≪そうだな≫
俺は飛んで行ったであろう男の方へと向かって歩いた。
て、手加減とはよく言ったものだ……。
≪現状、思った以上に悲惨なんだけれど……≫
・・まあ、大丈夫?だろう?
そこで疑問形つけられたら神様さ え不安であるという事で、やばい、と言う事なんじゃ……。
まあ、疑問形でも大丈夫は大丈夫だ。……大丈夫であってくれ。頼むから……。
やっと把握できた現状は、先ほど言った通り相当悲惨なものとなっていた。
奥に吹っ飛んでいた男は仰向けになって気絶中。一番奥のカウンターを突き抜け壁を突き抜け外に転がっていた。突き抜けて開いた穴は男の大きさの一点五倍の円を作り上げており下には突き破れた木片が散らばっている。
もっと近くへ寄って男の様態を見てみると、幸いにも流血はしておらず、神様に与えられた場所に少し傷を負っていただけであった。
良かった……。本当に手加減してくれていたらしい。と言うかどう言う原理でそれだけしか気が付かないんだ。手加減したとはい え人ひとり見えないスピードで吹っ飛んだのに。
……考えるだけ無駄かもしれないな。
俺は色々な事柄や事象から神様に畏敬の念を持ちながら、どうすればいいのか悩んでいた。
気絶しているんじゃあどうすることもできない。救急車を呼んだとしても、俺が捕まる可能性もあるし……。
「ふふっ。思った通りね。レアケースよねぇあなた。霊と共存、いえ、契約で結ばれた二人。先ほどの力それは曖昧なものかしら?前に見た人とは全く異例の曖昧で、もっと強く強固なものねぇ。あなたまだ坊やなのにすごいのね」
と。俺がそんなことを考えているときに何かが口を開けた。
男ではなく女の人の声。けれど、それは男の方から聞こえる。男でないとして、ここで考えられるのは今喋ったのが憑い た、いや、共存している霊、だという事。
霊なら一方的にその体から出られることだってできるし……。
「あらぁ?警戒されちゃったかしら。まあまあ、そこまで構えなくていいのよ。私は敵じゃないわ」
神の言った通りかもしれないな。倒す気がなければ敵ではない。
「襲われてそんなこと言われてもな……」
ま、それでも気を抜けないのは当然。これが何を目的を持って何をするのかを知るまでは。
「どうせ、体から抜けちゃったし、私は戦えないわ。そういう霊ではないのよ」
「そう、か」
ま、良しとしよう。最初に殺さなかったのは本当だろうし。
「それでどうするの?」
「何を?」
唐突にそう言われても何をどうするのか、何をどうしてほしいのかわからない。
「銃よ。 買いに来たから寄ったのでしょう?」
「ああ。そうだな。でもどうするって、もう少し考えたいな。俺には高い……」
「そうね。そう言うと思ったわ」
「え?」
「高いというのなら私と取引をすれば無償で上げてもいいわよ?」
「取引?」
「そう。私があなたに近づいたのもそのためよ。本当は実力がどれほどか知って取引できる存在かどうかを確かめたの」
「なるほど」
という事は神様寄りの頼み事で、敵を倒すとかそう言った依頼だろう。先程、この人は戦う力はない、と言っていたし。
そういう頼みだったら俺に断る理由はない。敵はいなくなれば世界はかわり過ごしやすくなるからな。
・・受け入れるぞ。
≪わかってるよ。言われなくても≫
神様も同じ考えをしたのだろう 。
「わかったよ。引き受ける」
「ふふっ。そう言うと思っていたわ。ま、私の依頼は最後に言うとして報酬の銃を先払いするわぁ。二つあるのだけれど。一つはこの中から。もう一つは貴方ならきっと使える武器よ。私が選んであげるからほら、着いてきて?あ、そうそう。私の事がよく知りたいのなら依頼を完遂した後に一泊止めてあげるからその時でもいいかしら?」
「わかった」
確かに謎が多すぎるからそこは気になるところ。
「じゃあ、行くわよ」
と、男からそれが出てくる。
水。水だな。言葉で言うならば。変幻自在で敵にしたら結構厄介そうだ。これで戦えないってどういうことなのだろう?肩書の問題か何かかもしれないな。
でも、肩書があれば強くもなるはずだけれど……。 まあ、今はそこらへんにしておいて。
続けるかどうかは分かりません、今のところ予定なし