存在否定、肯定
※随分と長いので三部構成にしておきます。
合計三百ページを超えております故。
この世にあるのは決まり事だ。
人は同一の出来事からは同一の出来事しか生み出すことができない。
例えば私が飛び出したからトラックに轢かれた。ガスをつけたままおいていたら火事になったとかね。
例が悪いだろう、けど一番初めに思い浮かんだ例だ。許してくれ。
とは言え……、
本当にそうだと思うか?それだけで世界が回っていると思うか?
私は、ただそう言われているだけだと思っている。これは私の考えだ。そう深く考えないで欲しい。
本当に一人の考えだと思って少し聞いてくれ。
そうだな。まず、この世にはルールと言うものがすべての出来事には関係しているとは思はないかい?日常生活だったり、めったに起きない出来事だったり。
ふむ、順に何がどんなものであるのかを辿って行こうか。
まずルールだ。
それは日常生活、では括りが大きすぎる……。家で家事をやる時だ。
主婦が包丁で何か食べ物を切っている。そう、包丁で切っているのだ。何かを切るときに包丁は絶対必要になるものだろう?食べ物を手で割ったりなんてしない。
包丁がなければ進まないゲームだ。つまりルールは包丁そのものだ。包丁を使って切る。これがルールに乗っ取って物事をするということ、と私は認識する。
……これは、ルールと言うよりかは決まり事、と言ったほうがよかったのかもしれないな。
まあ良いだろう。これは私の考え方。誰かが何かを言って曲げるものではないだろう。
ルールには決まった形がある。それは決まり事、で、合っているだろうから。
話を戻そうか。
因果律。
ルールがそう言うものであれば因果律はルールに従って起こる、ゲーム、出来事、みたいなものではないか。
と言うことは、因果律はルールに乗っ取らないと成立しない物事の一つだ。
言い方を変えれば、ルールから外れてしまえば因果律なんて物は、頑丈なダイヤモンドの道から薄っぺらの紙の道に変わる。たやすく破壊できるものではないかい?
そう、何度も言うが、それは枠にはまっているから成立して、そこから結果が決まる。そして破壊できる。それなら決まり事、それはあって、ないもの。曖昧な存在になるわけだ。
因果律がどういうものであるかが私の中で固まった処で、その後に生まれる興味のある疑問を提示しよう。
枠から外れてみたらどうなる?
そう、この疑問だ。
因果律を辿ったら結果は決まる。ならば外れてみたらどうなるのか……。
ゲームを無視したら、生き残る?死ぬ?自分が破壊される?壊れる?それともゲームみたいにバグが発生する?
結果どうなるかなんて、想像でしか考えられない。誰にも分らない。これは決まり事ではないだろう。
なら……、その疑問。解決するためにどうするのだろうね。
神が全てを解決してくれる?神は全て知っているから?なんてこと思っても教えてくれない。だって……、いる、と言ってもいないといっても、どうせ頼ることはないのだから。無茶、無謀な選択肢だ。これは……。
おかしいと思はないかい?自分が正しいと思って進む奴が他力、ましてや存在さえわかっていない曖昧に頼むなんて。可笑しいだろう?可笑しくて笑っちゃうよ。
言っておけば、神に頼ること、それは解決のための遠回り、どれだけかかるかなんてさっぱりわからない。そんなものよりもっと早く手早くどんなものか知りたいよね?
ああ、伝えたいことがあったんだ。神について、因果律に関係しているともいえる、そんな思いを一つ。
神が人を送り込んだ理由は私たちを成長させるためだと言われている一つの論がある。
その論は成長させるためだけに送り込んだ、と書いてある。
そこに死は書いてあるが自殺や虐殺などの死など書いていなかった。それは故意的な死、または自己的ともいえよう。その死は何故、書いてない?
その答えは簡単。神は想定外の行為だったからだ。
全てを見据える神、因果律を見える神ならばいともたやすく想定できることができない?可笑しい。おかしいのだ。
因果律とは簡単に言ってしまえば神が成り行き通りに人々を成長をさせるための道だ。
なのに道が外れる、想定外なのだ。
だから神はダメなんだ。ゲーム盤から最初からいない。神自身が因果律に乗ることはないから、そう言ったことがあるから、現状、意味が分からない曖昧にあって決まっている世界になっているからダメなのだ。
これでまた一つ因果律崩壊のさせ方の簡単さがわかる。
まとめに入ろう。私が言いたい事、見てほしいこと、今からやること全ての……。
先程から何度も言ってい るように因果律とはそうやってすぐ壊れる物として、存在の意味がない物としての扱いが可能だ。
そう考えれば、因果律を破るなど簡単な事。
何事にも則して、なんて嘘、ただ私たちが考えた屑みたいな節理だと思わないかい?
因果律は崩れ去る。
そう、柔くてすぐに壊れる必要の無いもの。
でも、すべてがそうとは言い切れないところもある。
大体がとおりにはまっていて崩せるのにすぐに修正が施される。
これは神がそうしているのだと思う。ゲーム盤に乗っていないということはゲームマスター運営側と言うこと、そう考えれば修復だって余裕でしてくるだろうから。
だが、その過程が分からない。
壊してから直すまでの間だ。
この間が枠から外れた物がどうしているかがわからな い、疑問の場所なんだよ。
……わかった?
わかったなら、そうだな。
もう私の言いたい事は既にない。終わりだ。話はまたにしておこう……、か。
西暦は……、何だっけ。今は何日だっけ?
何日間、いや何年も見ていないせいで俺は日時と言うものが大まかにしか計ることができなかった。
そんな俺でもさすがに名前と年ぐらいは言える。
これでも一介の高校生なんだ。学年でそれくらいは把握できる。
俺は千宮持 壱夜。年は十六、誕生日は四月八日。身長百七十五センチメートル。両親は一応あり、彼女なし、友達なし。
と、言った、どこにでもいそうな高校一年生だ。顔も髪型も別段良いところもないし悪いところもない、 身長だって普通より少し大きいくらいだと思う。違うと言えば寡黙なところだけ。
まあ、昔は……と言っても昔だ。今じゃないんだ。
そんな俺は最近になって顔がこけ始めていた。
鏡を見て洗顔していて気づいたら顔色が悪く、自分で言うのも何だけれど、不気味だ。今までの俺とは別人の相貌をしていることだろう。
あれ……、そう言えば何日くらいご飯もらっていないだろう。
ここで、飯を食っていないことでのこけた顔になるのは分かるだろうから、俺がこうなった事情を話そう。
両親の喧嘩から俺への対応もひどくなり、俺を生活させる余裕はない様だ。
だから、俺の飯はなく、いや、それどころか生活するため必要最低限の寝ることや息を吸うことさえ出来ない時もある。
ただそれ だけ、これだけの文章で人生が把握できるなんて嫌な話だけれど、致し方ない。そうできてしまうのだから。
この家は、この家庭は、家族と呼べないくらいに崩壊していたのだ。
既に俺は呆れつつ落胆しつつ絶望していた。生きることに。
六日くらいか……。ふう、そろそろ力もあまり力も入らなくなってきた、そして死にそうだ。もう、死ぬのかな?俺は。まあ、それもいいな。楽になれるのなら。でも、少しやり残しあこともあるような気もしなくもない。
……少し、いや、大分多くやり残したことはあるだろう。なんせ、こんな家や好き放題やるのはどちらかと言うと親のほうだ。
そんな事だから家には帰らず、俺はここ、近所にある古びた寺。狐の神が住むという、神田提灯神社と言う場所に いた。
昔はずっと、ちょうちん、と呼んでいたけれど、本当のところ、ていとう、と呼ぶらしい。
古びた、と言うのは少し言い過ぎかもしれないが、この際どうでも良い。
そんな場所の賽銭箱に腰を掛けていた俺は、夕日がきれいだ、なんて洒落た言葉一つも出てこないのである。
限界であった俺は考えることも悲観的で、人生の袋小路にはまっていた。
こんな現状で悲観的にならないほうがおかしいと思うが……。ならない人がいるとしたら会ってみたいものだね。そしてどうするかアドバイスを請いたいものだ。
神は俺に何をしろと言うのか、何ができると思ってこの世に置くのだろうか。
最近はこんな感じで考える。人と少し違った考えがかっこいいからなんて微塵も思ったことはない。た だただ、生かされることが不思議なだけだった。
死ねるなら死にたい俺がやること。そんなものはない。けれど、俺はやりたいことはある。多分ある。
と言うのも、今までしたことがないことばかりで身近なここでさえやりたいと思っている。
まあ、それでさえ高嶺の花と考える俺にいったい何がやれるというのか分からないけれど……。
そんな中、俺がやれることを模索中。
こんな場所だ、人一人来ないだろう、この場所が考え、やれる猶予的な時間なのだ。
あ……。
身近なところで今からできることが思いついた。
それは昨日、クラスの奴らが話していたことだ。それに関して知っている情報ではあったけれど、完全に忘れていた、やりたいことの一つだ。やりたい、と言うか……、何と 言うか。
ちょうど、ここであればできるし、準備もできている。
こっくりさん。
そう、狐さん、だ。
クラスの奴らは怖い話をしていた時に誰か一人がその話をしていたはずだ。その後、やったかどうかは知らないけれど、いや、どうでもいい。知らないことだ。
俺はそれの情報を隅っこで聞いて入手していた。
やりたい、と言うのは……、
こっくりさん、それは狐の神だとか、何だとか、言うものだと言うだろう?こんなまじかに神に会える機会なんてめったにないし、会えるならあっておきたい。それだけの事。
やりたいことは他にもたくさんあって、こんな狂ったことではないのだけど、一番手っ取り早くできるやりたいことはこれだけだ。時間の暇つぶし、と言っても間違いはないかも しれないな。
早速準備に取り掛かろうと思うが……、
ルールと言うものを無視したら死ねるんだろうか。それも挑戦してみたいところだ。
この命を粗末にするものではないとは知っている、と言うか遠い昔に教えてもらった気がする。けれど、誰かに殺してもらうのなら別だと、考えてみれば、まあ良し、であろう。
えっとまずは紙と鉛筆と十円玉だったな。
学校の鞄を開いて、筆箱とノートと財布を取る。筆箱から鉛筆を取り、ノートから一枚紙を剥がして財布から十円を取り出す。
それから、筆箱たちをカバンに戻し、紙に鳥居、左右に、はい、いいえ。下に五十音を書き鉛筆をぽっけにしまい準備を整えた。
十円玉を紙に落として人差し指で押さえる。
普通は三人ほどでやるものだが ルールなど知ったことではない。どうなろうが自己責任だ。
それぐらい融通を聞かせてくれ神様よ。
どうせ見ているだけならそれくらい聞いてほしいと願う。
まずは儀式。
呼び出すための儀式は大事らしい。
「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら「はい」へお進みください」
こんなだったような気がする。とにかく進めてみよう。
曖昧な知識であるが為にどうなるかは全くわからない。でもそれをもやりたいと思う、俺は……何者、何様、誰……なんだろう。
お……。十円玉が勝手に動き始めた。
はい の文字の上へと移動する十円玉。
一応、いるようだ。呼び出さなくてもそこにいるような気はするのだが。と言うか、霊が蔓延っているのならいちいちこういう風にやる必要はないと思うのだけど、そういう考えは野暮っていうものだろうか。神との格の違いとでも思っておこう。
と、そう言えば聞きたい事を言えばいいのか……。何かあるだろうか?
何も考えずに会うことを目標にしていたためこれが占いであり、会えないことを忘れていた。
呼び出してしまった。待っている神にも迷惑だろう。
そう思い、適当に口から言葉が出るのだった。
「貴方は何故ここに?」
十円玉が、指が勝手に動きだした。
俺はそれを読み上げる。
「『お ま え が よ ん だ 』」
まあそれもそうなんだが、少し意見が食い違ったか、質問をした俺が馬鹿みたいになってしまった。
切り替えて次の質問をしよう。
「貴方 は存在しているのですか?」
そう、神と言うものは良く分からない存在だ。いるのかいないのかさえはっきりしない。こうやって来てくれているのだったら姿まで現わしていいと思う俺だ。
いるのかいないのかはっきりさせておきたい。何かできないことがあるのか。
「『 そ ん ざ い は し て い る が い な い か も し れ な い 』」
意味の分からない返事が返ってた。
はっきりさせたかった俺にとっては少しむずがゆい、と言うか歯がゆい返事だ。
そう来るのは想定外だ。なら。
「わからないことはあるのか?」
『 な に も し ら な い 』
……、何故だろうか。
こんなことなら他の事をしとけばよかったと思ったが……、ついでだ。
死ぬ前に 質問。
「死んだらどうなる?」
気になるところだろう。
地獄に行く天国に行くなんてどこにも確証はない。気になる、神は何も知らないとは言ったが……。どうだろうか、これで答えがないなら、いや、あってもなくても、ルールを破ろう、道から外れよう。
突然ピタッと止まる指。
どうしたのだろうか?言いたくないのだろうか。まあいいとしよう。
呪い壊されて苦しんで快楽で死のう。のうのうと生きていても仕方がないしな。
最後のやりたいことの実践だ。
パッと手を放してハンズアップさせる。
刹那十円玉が狂い踊り始める。そして何か文字へと移行する。
「『 し ね 』」
たった二文字を伝え終える。
終えると首が締め付けられる感覚 に落ちいる。苦しくなる。いや、むしろ快楽だ。この世界に比べれば……。
こんな知りもしないでのうのうと生きている存在がいる世界など……。
ふと、こんな状況下で思ったことがあった。
十円を抑えてやる意味なんてあるのだろうか?呼び出してしまえば、そいつはここら辺にいるわけだ。すぐそこに、ね。なら呪い殺されるわけがないだろう?神が自ら手を下しているだけ。これは神の戯れ事なのだろうか。わからない、けどもう死ぬんだ。やっと死ねる。
そう思った。最終的にはいつでもどこでも苦しくて死にたいと本気で思っていたんだ。誰も生を望んで無し死を望んでいないけど、俺が死を望む。だから、
「早く……、早く殺してくれ」
俺は言葉に出して神に頼んでいた。
それほどの 苦しみだった。解放されるなら早くしてほしいということだ。
「生きているのが罪な世界。苦しみと憎しみしか生まないこの世界。殺し汚れ腐った世界。もういい、生きているのが辛いなんておかしい、死ぬほうがましだ」
泣きそうだ、と言うか涙が出てきた。泣いたんだ。わからない、感情が入れ混じりすぎてどうなっているかなんてもうわかりたくもない。
「俺はこの世界を壊すことはできない。死んで地獄へ、理想郷へ行ったほうがまだ快楽だ。全てが表を持たずに裏を持っている。存在価値を認めず、器だけを持つ。生をもって、死をも持っている。間違いだらけじゃないか?もういいだろ?神様、早く、死なせてくれ……な?」
壊せない、壊す行動が許されない仕様だから仕様がないんだ。
本気で願う。やっと死ねるから天獄にいけるのだから。天獄に……!
と思っていた、
思っていた、だけだった。
「……」
何故……。
死なせてくれなかったのだ。こんなに死を望む俺にこの神様は死なせてくれなかったのだ。
首の締め付けが、快楽がほどけていく。思い出すと悲痛だったと実感する、そして生きていると実感してしまう。何故死なせてくれない?
ふと十円玉が動いているのが見える。
『お ま え は』
「お前は……。な、何だッ!?」
壱夜は即座に後ろを振り向いた。
誰も……いない?何か人の気配がしたと思ったんだけれど。
「こっちだ」
やはり何かいた。
振り向いた体を正面に向けて声の主を見た。
なんだこれは……。
一歩たじろいでしまった。その存在には俺でも驚きを隠せなかった。
何かわからなかったからだ。
物体があるようにも見え、無いようにも見えてしまうそれは形が象られているかどうかさえ分からない。透明であって不透明であるようなそんな存在だったから。
それを見てしまった。それを口で、言葉で形容させるとすれば……、
「狐」
そう狐。狐の神様だった。この神社では稲荷神の使徒が祀ってあり、こっくりさん、をやった時に出現したからそう頭で認識した。
「こっくり……、さんか?」
「そうだ。私がこっくりさんだ。お前がそう呼ぶから俺は狐狗狸だ。私の存在をしたのはお前だ。お前の目が、脳が、私を、俺を狐と認識したからそうなった」
そういう事らしい。
「その言い方、他の人が見たら違う ように見えるのか?」
「いや、お前がそう言ったから俺は狐だ。だが、最初に会ったやつの思考は違うものだ。ある奴は天狗、またある奴は狸だ。まあ例外もいるようだが……。俺は存在が曖昧だからな」
「存在があい……まい?」
どういうことか一から理解ができていない壱夜はオウム返しをするしかなかった。
こいつを見た瞬間からこの世界から道を外して他の場所から世界を見ているような気がしている。
「そう、存在がないと言われれば俺の存在はなくなる、自分でそう思ってもな。だから曖昧なのだ。お前が神と言うならそれでも違いはない。Yes or No ではなく、Neither つまりはどちらでもないの権化だ。それが俺の存在だからな」
そいつは神だ、と言うなら神だと言った。何でも決めかねる、曖昧な存在だと言った。
頭の整理が追いつかない……。
そんな時にこの曖昧でよく分からない奴の対応をしろなんて馬鹿なことを言う。
ただ、今は理解出来ず、どうしていいか、わからなかった。
「なんだ?どうしていいかわからないか?」
心を読まれた?
「心など読んでおらんよ」
読んでるじゃねーか。
神だからそれは当然としておいて……、
「ちょっと、質問良いか?」
「ああ」
「神様は、俺を殺すんじゃないのか?」
「ああ、殺すつもりだったよ。むごたらしい呪いでね」
そう肯定する神だが……、
「じゃあ、なんで殺さない?俺はそれを望 んだんだぞ?」
「だからだ」
「あ?」
「俺がお前が生み出した狐狗狸の、こっくりのルールに乗っ取り、それを守り、それに従うのが役目だという事はわかるよな?」
生み出した?どういうことだ。と聞こうとしたが今はこの疑問を解決していこう。
「ああ」
「お前、今違う疑問を持ったな?そっちから話していっても解決はできる、そこから話してやろう」
神様はやはり分かるらしい。こういうところを見ると意味が分からなくても全てを理解できるような気がする。
「あ、ごめんなさい」
敬語でそう言ってしまった。神の前だからだろうか?
まず謝ったことさえ自分には意味不明の行動だった。神からしてくれるといったからそれでいいとは思ったものの、一応世間体の礼儀として勝 手にやってしまったのだろう。と考えておこう。
「謝るな。ではお前の疑問、生み出したことについてだ。お前が生み出した。と言ったら、正しいとも間違っているともいえるな」
その言い方をすればなんでもいいなんて思っていないだろうか、この神様は。
「こっくりさんをしてお前は俺を生み出し、神と言えば神、狐と言えば狐、と見る奴によって変わる存在にも自我はある。俺の今の役目はルールを破ったお前を殺すこと、であるんだが、自我がある私だ。そんなの放棄出来てしまうだろう。だから殺さなかったのだ」
「は?ならお前の独断で生死は決まるのか?」
「そうだ」
そうなのか。
「単純な世界だな」
「そうだな、単純で複雑な世界だ」
「……」
「あ、今それ言えばどうに かなる、と思っただろ?」
「いや、おも、も思ってないよ」
動揺。
「まあ、どちらにせよ、私の自己判断だ」
「ま、まあ。それは、いいとしよう、だが生かす利点はなんだ?必要があるから生かしたんだろう?」
「そうだな。それに関しては、君と僕の意見が合致したからだな」
自分の呼び方がやけに多く変わるやつだ。曖昧って言ってしまえばいいのだが、これは面倒くさい。
「俺はお前みたいに変えたいと、破壊したいと、思った。この憎たらしい世界をな。でもお前は諦めただろ?そして死のうとしただろう?でも俺はまだ諦めてない」
そりゃ生まれたばかりだからな。
「……」
読まれているようだ。今までのも全て聞いていたのならスルーしてくれて良かったのだが、そうはいか なかったらしい。
まあ、悪いのは俺か。そんなことを思わなければよかったのだから。
「……、悪かったよ。進めてくれ」
「それでお前と交渉を、契約をしたい」
「契約……?」
「そうだ、交渉。君は存在したくないのだろう?なら私に体を使わせてくれないか?」
神様に俺は首肯した。けれど……、
「それは取りつかせてくれってこと?」
「まあ、そう言い方をすればそうなるな」
「それで、俺の利点は?契約だ。こっちにもプラスがないと意味がないだろう?」
まあ、使わない体を使ってくれるのは本望ではあるが、なぜか無理やり使わせるのは気が乗らない。
「君が欲するもの全部さ。それは快楽であったり、世界であったり、何でもだ。俺が叶えてやる。憑りついていると言 ってもお前が何か感情を動かしたときに出てくるだけだ。お前も生きて俺も生きる。いい話だと思うが?」
感情の揺さぶりに霊とかは反応することは本当だったんだ。
ふむ、確かに聞く限り悪い話ではなさそうだな。と言うか、正直なところ、どうするかなんて会話の中でもう分かることだ。
だが、俺は神様を悪いとは思うが、悪にしか見えない。俺にはまだ良心と言うのが心にはある。
だから……黙ってしまった。
「何だ?だんまりか?まあ今日はもういいよ。お前も疲れたんだろう。家でじっくり考えな……、って、それは無理な相談だったか」
鼻で笑ったように見える。こいつは……なんで、
「なんで?」
「?」
「なんで知ってるんだ?家庭の事情の事……」
「知ってる。なんせ俺は……おっとこれは伏せておくか。神様だからと言うことで許してくれ。もう僕も初日で疲れたからな。じゃあ、また待ってるぞ」
その存在のしないような神はニヤッと笑ったような気がした。
そしてその無かった存在はなくなった。
死のうとした生命は神に助けられたようなものではあるがどこか腑に落ちない個所もある。
ふう……帰って寝よう。
こんな出来事。俺の中にあって、中にしかないものであるから。
夜の七時、やっと家に着く。と同時に産むことしかしなかった親たちの怒号が鳴り響く。
いつもの事だ。
玄関を開けて何も言わずに階段を上がり自分の部屋へと戻ろうとした、が、下から母が服を引っ張り階段から落ちた。
痛い。なん て感情はどこにもない。慣れとは本当に怖いものだとつくづく思うよ。ただ麻痺しているだけかもしれないが、それだったらどれだけ長いこと麻痺なのだろうな。ただ痛みを痛いと思わないだけ、体は多分痛い。無痛、そうならいいがそうもいかない。か、本当のところは。
「なんで私たちを置いて部屋に行こうとするの?」
母親が冷徹な顔をしながら冷たい声でそう言う。日常茶飯事過ぎて別段思うところもないが。
一つ思うなら何故俺の好きなようにさせてくれない、だ。そんなことを言っても意味ないから思うこともほとんどないのだけれど。
そして平手打ちが俺の頬を打つ。そこは赤く腫れているがやはり痛い。……ことはない、か。
にしても理不尽だとは思はないか?俺は別に何も悪いこと してない。
悪いことどころかこの両親に対してさえ何もしていないというのに。ただ生きているだけなのにな。全く地球は理不尽で出来ている、なんて思ってしまう。
「そうだ!!お前がいないと何も決まらねえんだっ!!」
と次は父親はそう言って俺を蹴り飛ばした。
その言葉はただのストレス解消のための建前上にある言葉にしかならない。
見るからにわかることだろうが……。
「ゴホッッ!!」
口から唾液交じりに血が出てきた。
鉄の味とは馴れればそう悪いものではない……、なんて考え方、狂っているよなあ。
先程言った通りにこれは理不尽すぎるとは思はないか。何故俺がこんなめにあっている?親だからなんでもかんでもいいわけじゃないだろ。俺はここにいるんだよ。道具 でもなんでもない……。
「そうよ……。早く決めてっ!私とこいつどっちに着くの!?」
離婚の話だ。どちらが俺を引き取るかの話だ。
何度選んだことか……。
それでもこうなっているのにも訳があり、
俺はこいつらがどちらが上かの選択権なのだ。
言葉通り、俺が選んだほうが、強いのよ?って、私が正しいのよ?ってな。
父を選ぶと飯を抜かれ、母を選んでも黎明まで殴りけられ飯になんてありつけない。何度死にかけたか。
それで何度も選択すると言うエンドレスなことが起きている、と言うことだ。
「早くしなさいよっ!」
怒鳴るな……。
俺の心は冷静でどこか燃えていた。
先程の神様のおかげだろうか。
俺は死んでもいいとこの暴力で死んでいいと思っていた、何でも いいと思っていた。けれど、もう違う。神が俺の器を使わなきゃいけないんだ。こんな屑に付き合うほどの余裕なんてもうない。
要らないんだ……。こんな親、悪魔……。俺はこいつらじゃない。俺は俺だ。だから……、
「お前ら……」
「?」
「お前らなんて要らねえんだよっ!!」
俺は怒鳴った。腹から声を出して。
それほどの怒りが込み上げてきたのだ。そして、
「きゃあっ!!」
俺は母親の髪を引きちぎるくらいの勢いで持ち、顔面を殴って吹っ飛ばす。
不幸なことに力はほとんど入らない。飯が欲しい……。
だが、爽快にはなる。こんな気分のいいことはないだろう。親がこうして殴りけりしていた理由が分かった気がした。
いい趣味してます。うちの親は。なんて言えるわ けもないが。いや、どうでもいいか。もう親なんて思っていないし。俺が今からやることは……、
こいつらをいい気分なんかにはさせない。むずがゆくて歯がゆくなるまで気持ち悪くさせてやることだ。
まあ、無理だろうけれど。体調が違いすぎる。こんな力のない俺がどうすることもできるわけはない。
「何をするのっ!」
「うるさいっ!!……だま……ぐえっ!!」
俺は父に腹を殴られ腹を抑えて蹲った。
無理だ。でもまだ俺ができることはある……。
「お前……。いつから親に反抗できるようになったんだ?誰が偉いか教えときゃなあ?」
「親……だと、何が親だ!何が偉いだ!!殴るけるしかできないガキが吠えんなぁっ!!」
偉い?何が偉い?お前が俺の恩人か?偉人か?何もし ていないただの他人と何も変わらない……。
そんな奴にはガキなんて言葉が完璧に当てはまっていた。
「ああっ!ガキはてめえだろっ!何も知らない奴が……!!」
胸ぐらをつかみ何発も殴られる。
「何も知るわけねえだろ!俺はいつも死に物狂いで一人で生きてきた!!お前らなんか……、目にも映ってねえんだよ……。俺はお前らよりも世界を知っている!家でゴロゴロしかしていないてめえらより、働いていた俺のほうが……!」
「はっ……。よく言うじゃねーか。何を言っても力が強けりゃ権力者。大人のほうが上なんだよ!!」
「馬鹿は安直な……考えでいいな」
しゃべるのが辛いが……しゃべれはする。
強けりゃって、いつの話だ。とは思うが今でもそうなることは多々ある。現 状でもこいつの考え方は否定できないからな。
「……、お前死にたいか?」
そう脅しが入るが、別段怖いなんて感情はない。いつも殺す気でやっていたようなものだったから別に何も変わらないだろう、と高を括った。
「殺せよ……。やれよ」
と、俺がそういうと胸ぐらをつかむのを辞め俺を落とした。
俺は地面に落下し、這いつくばった。
そして上から父を見た。
何とも思っていない顔だ。怒るのもやめて殺すのにためらいのない顔。
俺は殺されるわけにはいかない。先程った通り、俺の器は神のもの。死ぬなんてことは絶対にない。殺せ、というのはただの見栄っ張りだ。まあ、怖くないというのは本当だが。
そんな考えをしても殺されないための策は生まれてこない。いっそのこと謝 るか?まあ当然の如く許してはくれない。なら、どうする。今の俺の感情は?できることは?最善療法は?
今の俺の心には憎しみ、だけ。憎しみを力にして何ができる。憎しみは人をマイナスに地獄に落とすみたいな物。あくまで自分の中でだが。
……地獄?
そうか、そうだ。俺が……。ころ……殺……。
「殺すっ!!」
そうすればいいんだ。最善だろう。包丁さえ持てば頭を真っ二つだ。何、考えることなんてなかったんだ。憎いなら、いらない存在にすれば、いない存在にすれば、いいだけの話なのだ。
「ほう、お前から?威勢はいいな。やってみろよ!!その震えた、怯えた顔で手でできるならなあっ!あっはっは。俺はいつでも殺せるんだよ。お前なんてなあ!!ほうら、早く」
殺す、そ う言ってからそいつの言葉は全く耳には入ってこなかった。
いや、怯えている、も入ってきたかもしれない。
正直怯えている。怖いんだ。
でも、それは人を殺すのが怖いわけじゃあない。それだけで済むことだからな。
怖いのは殺して悪に染まることだ。
人と…、、、、まだ人と、何となく人としか形容できない俺がそれでなくなることが怖いんだ。
殺すことが人を人と呼べなくなる様なルールだとしたら俺は嫌だから。
狐の時にルールを破ったやつが何を……、なんて思われるかもしれない。けれど生きているうちだけは人と言う器は持っておきたい。エゴかもしれない。さっき言った屑の一人かもしれない。けれど……。まだ生きている!!
なんて思ったのはいいとしてどうするか。怖い まま特攻しても負けるのは当たり前だ。
まあ、別段迷っているわけではないし、震えなんて今すぐにで止められるのだ。
もう考えるのはやめよう。殺すのが怖いなら殺さないところで止めればいいのだ。死ぬ寸前でやめればいいのだ。そう考えれば気楽でいい。
実行する。
俺は這い蹲ったまま、こっくりさんをやったときに使った鉛筆をポケットから取り出して今目の前にある父の足を親指の付け根を……ゆっくりと刺した。
力を全部右手に入れて。
皮が破れずぶずぶと肉を通過していくのがわかる。
すんなりと入っていく中、何かに当たりゴリッと言う音がし、止まる。止まると中から血が少しずつ溢れ出してくる。
骨だ。骨がそこにはある。さすがに硬くて貫通させることができなかった 。だから、少し位置をずらしてそのまま進行した。
コツンッ。
とそんな音がした。
また硬い。けどそれは、骨とは違う。
その後にベキッと鉛筆の先は折れた。
床に到着したのだろう。
俺は床に到着したのを確認してから鉛筆を思いっきり引き抜いた。
父の劈くような悲鳴が聞こえるような気がする。気がするだけだ。
引き抜いた時には血や肉片などが飛び散った。そしてそれらは俺の手にかかった。
生暖かい、そんな感想だ。正直、気持ち悪い。どころか、生々しく怪奇的で吐きそうだった。
でも……、止まってはいられない。慣れが肝心だ。
落ち着け、累計すれば俺のほうがもっと痛みを味わった。全然怖くない……。
正直、精神を保っていられる余裕はなかった。
まあ、やめる訳にもいかないけれど。
よし、次の足だ。
「う、うわああああああああーっ!!」
それは誰もが煩いと思うほどの悲鳴だった。
何故ここまで。
俺まで我に戻ってしまった。
「うるさいな。殺していいんじゃないのか?ほら、黙って。次行くぞ?」
俺は穏やかな顔でそう言った。
父は血の気の引いた顔をしており、口はぽっかりと空いている。そして床に座り込み、俺を軽蔑するような、殺人鬼でも見るような目でこっちを見る。
なんだ……。何なんだよ……。こいつは!!さっきの威勢はどこへ行ったんだ。たかが親指だけ。足一本持っていかれたわけでもないんだぞ。なんで……、俺は痛いのが良くてこいつはダメなんだ。我慢してきた俺は一体何だったんだ。意味が分からない。何故 こんなことが起きる。俺が許されずにこいつが許される理由……。そんなものはない……。
怒りだ。憎しみだ。……悲しみ、だ。
そんな感情が立ち込める。
少し冷静になろう……。
俺は落ち着く。
俺は別に復習したいわけじゃない。こいつらが屑で許せない奴だってことはずっと変わらない。けれど、これ以上やったらこいつらと同じなんじゃないか?
……それは嫌だな。だから、もう許そう。もういいや。関係さえなくなればもうそれでいいや。
自分が大人だからなんて思わない。まだまだ、子供だ。それどころかに人間と呼べるか不安だ。だから成長させてくれたこいつらに感謝だ。
それでいいじゃないか……。それだけで済ませられることじゃないか。
「こ、殺さないでくれぇ……」
…………弱弱しい声を吐くやつだ。
怯えた声で子犬のように目をウルウルさせている。そんな顔で壱夜を見る。
「いいよ、許そう」
とっとと出て行こう。軽蔑の目をするのは俺のほうだ。捨て去るのは俺のほうだ。
「え?」
え、と言ったのは母親だ。
こいつも殺されると思っていたんだろうか。どちらにせよ、どうでもいいことだ。
「だけれど、一つ言うこと聞いてくれないか?」
「な、なんだ……!!」
「俺はこの家に金輪際顔を出さない。家族なんて言葉だけの関係をやめよう。他人と他人だ。今後会ってもしゃべりかけない。あ、手帳は自分の持っていくから、働いてくれよ。まだ百万くらいはあるだろう?財布も持っていく。全て俺が稼いだ金だからね」
「「……」」
何も言わない 二人。
やめてくれよ、最後に情なんて出したくない。このまま怒りで押し通したいんだ。
……。
……………。
…………………、無理だ。
何故か涙が垂れてしまう。
嬉しいのかもしれない……。悲しいのかもしれない……。よくわからない。
早く立ち去ろう。もうなんでもいいから。
洗面台で手を洗って血を流してから、自分の部屋で類等を纏め、生活できるだけの準備をする。そしてからリビングの状態なんて見ずに家のドアを開けて閉めた。
この先あの二人はどうなるか知らないけれど、仲を取り戻せるならそれでいいんじゃないか……。
俺の涙は止まったが、歩くのだけは止めてはいけない。前を見て、神と一緒に生きると決めた俺は、あそこに向かうのだった。
もう八時くらいではないかと思う。
家を出たときに七時半くらいだったし、三十分ほどは歩いただろう。
ここは家から一番近くの小さな山の中。
木が鬱蒼と無造作に茂り、伸びすぎて月の明かりが全く入らず最悪な状態だ。
だが道は体が覚えている。
子供のころの話だ。
と言っても中学一年のころだが……。
その時にここの山に作った秘密基地があったはずだ。
だからここに来た。さすがに神様のところで寝るわけにはいかないからな。
そこはしっかり生活できるところと言っていいだろう。
中学一年のころから一人でずっと作っていた生活できるような秘密基地。
このから親が嫌いで嫌いで仕方がなかった俺はここで一生住もうと思っていたこともあったか 。
懐かしみながら歩いているとやっと到着だ。
自分で言うのも何だと思うが、子供が作ったようには思えないような出来の良さ。
そう過剰に評判を上げたそこは、木の太い幹と太い枝との間に平面に伸びている板があり、それは五メートル四方になっている。それほど大きな木で高さもそこそこあるから安定感は抜群だろう。
隣に家から隠れて持ってきた梯子を上って見ると、床にある下手糞なくぎ打ちがあり、目に入る家具は壊れた冷蔵庫とぼろぼろのタンス、雨避けにビニールを被してある、一人用黄色いソファーだ。
細々したものはどこかへ吹っ飛んでいたらしい。
台風や何かだろう。
雨風は大体しのげるこの場所だ。それぐらいは仕方ないと言えよう。
少し疲れた……。
俺はタンス などを少し掃除をして、衣類をしまう。それから、ビニールを取ってソファに腰を下ろした。
あの時はあんなに大きいと思っていたソファは丁度よい大きさになっていた。
掃除をしてみたが案外きれいなままだ。虫とかたくさんいるのを覚悟してたけれどほとんどいない。何かの配慮だろうか。
メタい話。
ふう、と一息ついたところでおなかがすいてきた。いや、忘れていた腹がなったのだ。
先程ついでに持ってきた財布にはパンパンにお金が入っている。
さすがに貯金通帳を持っていないと盗まれそうだ。持っていこう。
俺はコンビニへ向かう。
コンビニは山の麓にある。ここから五分ほどで着く。
少しの辛抱だ。死なないための手段だ。
と、そう思い向かう。
梯子を下り麓へと向 かうと、眩しい光が俺の目を突き刺す。
少しすればそれも慣れ、コンビニの中の状況も分かる。
コンビニの中はそこまで繁盛していないようだ。本を立ち読みしている人を見ればの話しだけれど。
中へ入ってもう一度状況を確認するが、思った以上にいた。
レジで並んで待つ奴や、弁当を選ぶ奴いろいろだ。
変わったことはない普通のコンビニだ。ただそこに俺が入った、それだけだ。
すぐに済ませるために、四つ、おにぎりと、お茶1リットルのパックを買って外へと出た。
俺がコンビニを出たとき、そんなとき一人の少女と目が合う。
俺と同い年くらいと思われる。
俺はその子を一瞥するのでなくがっつり凝視していた。
その子はとても華奢な体をしており、制服だ。それに似あう綺 麗な長い黒髪に前髪をピンでとめている。目はぱっちりとして、顔全体を見ると優しそうな顔をしている。
……あ、見とれてしまった。自分の体温が熱くなっていくのがわかる。これは……、
……恋だ。初恋だ。
すぐさま感じた。
愛おしいと、愛くるしいとそんなことを思ってしまう一目惚れだ。
でもまあ、声をかけるなど到底、絶対無理なんだけれど。
だって俺は獣に化物になってしまうのだから。自分が何らかの障害を与えてしまうかもしれない。
だから無理。
早い分かれであったが仕方がない。どうにもならないのだから。
俺は恋を、彼女を見るのを止め、そこを去った。
何事もなかった様に歩き去った俺の後ろから足音が聞こえる。
山の中に入っているんだぞ?殺しに来たの か?何の恨みがあってだ。いや考えても仕方ない、無視だ、無視。
俺はそう思いながら歩いて秘密基地に到着した。足音はまだ止まらないようだ。
一瞥する。
先程の女の子……?何故、また……。
疑問を持つのはやめよう。関りは持たないと決めたのだからその通りにしないと……。
俺は梯子を上りソファに腰かけ床にコンビニで買った食べ物類を置き、そして食べ、食べ終えるのであった。
まあ、下が気になって仕方がなく食べている十五分、味を味わうことをできなかったが……。
生きていることを確認しただけ良しとしようか。
……視線を感じる。
まだ下に女の子がいるということだろうかそこまで考えると少し恐ろしくなってる。
帰ってくれないなら少し話してみてはどうだろう か。
話したいのは本望だし、結果、どうにかなるはずだ。
そして声をかけた。
「あのー、何か用か?」
俺はため口でそう言った。
さすがに上には見えないからな。
と少女は、
「えっと」
と考えて、
「上へ上がらせてもらっていいですか?」
と笑顔で答えた。
「あ、ああ、どうぞ」
少し見とれて我を忘れていたみたいだ。
「有難うございます」
笑ったまま梯子を上って、床に正座で座った。
さすがにソファに乗ったままはまずいと思ったため、俺も床に腰を下ろした。
「……、で要件は何でしょうか?」
「あなたは、私が好きですか?」
「……はい?」
そんな突拍子もない言葉に素っ頓狂な声を発してしまった。
この子が言うのはどういう意味なのか。
「一 度しか言いませんよ?あ、でも私は貴方が狂おしいほど好きになりましたが……」
顔が近い……!
肉薄してきたかと思えば次は照れたように笑う。
何か、この子……、怖い!!
「あ……、ああ、好きだ……」
怖さに感極まり本音が口から零れた。
と、
「やっぱりですか?」
やっぱりって……。
「やっぱりって何だよ」
「いえ、何となく両想いになるのかなあ、と感じましてね。これで晴れて付き合えますね!!」
「ちょ、ちょっと待って!!」
「何ですか?嫌なんですか?こんなに愛しているのに!!」
怖い!!
ただそれだけだ。今まで見てきた何よりも怖い。
ヤンデレ、と言うのだろうか。あの顔は怖い、可愛いのに……怖い。
それしか言葉がなかった。
「いや、 うれしい……、けれど、こんな俺でいいのかな、って」
色々な意味で。
俺は化け物、幸せなんて持ち合わせいいのか、甚だ疑問だ。疑問を持つほうが疑問だとは世間一般では思うが、今言った通り化物、人なんかじゃないかもしれない。から……。
「何を言ってるんですか?あなたが何だろうと誰だろうと関係なんてありませんよ。あるわけありませんよ。はい、付き合いましょう?じゃあ、いけませんか?」
怖い……。
違う、優しいのだ。優しすぎる故、この子は怖いのだ。誰かを守るとき、何かをするとき恐怖を生み出すのだ。病んでなんかいない。通常の、平凡の可愛い俺の……。
「彼女だ」
「そう、彼女です。あなたは彼氏です。誰かがあなたにちょっかいを掛けたら私がそいつを殺します 。だから、反対に、あなたが私を守ってくださいね」
もっと顔を近づけてそういうこの子は笑っているのに笑っていないようだった。
こ、殺す。やっぱり怖いかもしれない……。
けれど、
「当たり前だ。お互い仲良くしよう」
「はい!嬉しいです」
顔の位置を戻して本当に笑って答えた。
「な、なあ」
「はい?」
「家には帰らないのかい?」
「それを言うならあなたもでしょう?」
フフッと笑う彼女の名前をまだ知らない。
「あ、私の名前は神野 宵明 と申します。気軽に宵明と呼んでください」
「宵明ちゃん、ね。わか……、な、何か?」
顔でわかる、ちゃん、をつけるのをやめてくれと言わんばかりの目だ。
この子は自分がことも扱いされているよで嫌なのだろうか 。わからない、けれど、いやなら呼び捨てで行こう。
「宵明ね、わかったよ。俺は 千宮持 壱夜。俺も壱夜でいい」
「壱夜さん、ですね。素敵なお名前ですね」
さん……。
「そうか?」
「はい。とっても。一つの夜の中に生きているみたいで。あ、そう言えば『いちや』って、漢数字の一に夜、であってます?」
素敵なのかどうなのかはこの子の価値観だ。考えてみれば、名前なんて気にしたことはなかったなぁ。
「あってるよ。正確に言うといち、は旧字だけど」
「へえ、珍しいです。あ、私も夜に因んだ名前なんです。これは結ばれる運命にあったかのようですね」
微笑みかける宵明はどちらかと言うと太陽のようだ。なんて、臭い台詞は心で留めておこう。
「運命か……」
定 まり、決定、決まった定まった事。因果律……、か。全てそう物事が運んでくれれば、なんて思っても、もうすでに遅い、か……。
「で、壱夜さん、帰らないので?」
「俺は親とは今日縁を切ってきたんだよ。だからバイトして金ためて生活できるようにでもなればアパートに住むつもりだけれど、それまではここかな」
「そう、ですか……。な、なんだか、壮絶ですね」
「まあ、な。だから俺は心配せずに帰りな。親、待ってるんだろう?仲良くな?」
「は、はい、明日の朝、来ますね。朝ごはんないと動けないでしょうし」
「そんな、悪い……」
「いえ……、やらせてください。壱夜さんの生活は私の生活でもあるので……」
本気でそう言ってくれているこの子に俺は無理なんて言えない 。
「わかった。でも、自分の体調も気をつけてな」
「はい。では、また明日……」
「あ、送ってこうか?」
「いえ、すぐそこなので……」
「そう、か」
「はい、では失礼します」
俺は送っていくことさえできないくらい足は衰弱しているけれど男としてしようとしたが彼女は分かっていたらしい。
彼女は梯子を下り、手を振って去っていった。
これからどうなるんだろう。
ま、神への返答はYesで変わりはないけれど、あの子といる時間だけは楽しみたい、死守したい。
なら、願い事は決まりかな。
今日は寝よう。どうなろうが神様がどうかしてくれるだろう。
「……さん」
何か耳元で聞こえる。
「壱夜さーん……」
呼んでいる?誰が?
「壱夜さん、そろそろ……」
声のトーンが下がった!!
俺は床から飛び上がりそのまま立ち上がった。
「そ、そんなに驚かなくても……。普通に起こしに来ただけですよ?」
「そんな耳元で囁かれたら誰だって驚くわ!!」
「フフッ……。そうですね。少し、こっち来てくれますか?」
「ん?何だ?」
俺は行く、と言うか、左手にいる宵明のほうへと体の向きを方向転換した。
宵明は正座している。
俺が振り向くと下に置いてあった四角い何かについている蓋を開けた。
弁当箱だ。
パカッとそれを開けたら中にはサンドウィッチがきれいに四つほど並んでおり、どれもおいしそうだ。
「これ、どうぞ……。朝ごはんです」
「いいのか?」
「はい!もらっ ていただけたほうが嬉しいですし」
「ありがとう!本当に助かるよ!!」
「いえ、そんな大げさな。あ、もうこんな時間。壱夜さんもいかないと遅れてしまいますよ?これ、昼用です。持って行ってください。では、私は失礼します」
「本当にありがとう!」
「はい、終わったら学校迎えに行きますねー」
「いや、ちょっと、それは……」
「?何か、事情が終わりのようですね。わかりました。では、また夜、合いましょうか」
「あ、ああ」
そう言って、去っていった。
危ない、この子に契約の場を見られたらまずいからな。
にしても案外あっさり良しとしてくれたな。もっと迫ってくると思ったんだが……。
一口サンドウィッチを食べる。
あ、うまい。
感想はまた後で言ってお こう。
そのままの勢いで四つとも全部食べて学校へ向かった。
ここからだと学校も五分くらいだ。
何かと都合がいいのがこの山の特徴だからな。
麓へと降りて少し歩いて左に歩けばもう到着だ。
神田京明高校
それが俺が通っている学校の名前だ。
平凡かそれより少し良いくらいの入れる何の特徴もない普通の学校。
時刻はすでに八時を回っているが慌てる必要はない。
八時半からすぐに授業がスタートするこの学校。STは無く、欠席などの確認はない、欠乏している学校だから。
はあ、と一息ついて教室ではなく、まずは屋上だ。
屋上に何かあるのかと言われれば何もない。けれど行かなくてはならない。待ち人、ではなく、待たせている人がいる。
それは決して恋がなんたらみたいな話ではない。
説教だ。説教が待っている。
待っているというか、勝手に待っているというか……。
行ってみるのが一番早いだろう。
そう思い、俺は屋上へと足を運んだ。
「待っていた。待ちくたびれていたぞ!!」
これだ、この声だ。俺を学校へと行かせるために縛っている奴は。
このいかにも変人みたいな言い換えをする奴は、 八島 魅耶。
名前まで変わっていると思うだろうが表面だと、名前だけ、変わっているのだ。
そう言うということはこれは裏のこいつと言うわけだ。
表と裏を使い分ける。と言っても裏を見せるのは俺にだけだけれど。
表は完璧な生徒会長だ。一年でなれるほど頭がよく美辞麗句。俺から言わせればだから他から言え ば、才色兼備。眉目秀麗。男ではないが、かっこいいと思われたりしているからあながち間違いではない、と思う。
確かに顔は認める。
整った顔でいつも長い白銀のツインテールを揺らしている姿は確かに女の子の的でもあり、笑顔は男のハートを貫くだろう。
表だ。あくまで表だ。
だが、俺の前にいるこれは、
ただの変人。
別に接しにくいとか言っているわけではなく、ただ変人なのだ。
俺に怒っていることが一番多いが、いきなり泣き出す日もあれば、なぜか笑い出す日もある、そう言う意味が分からないの権化。それがこれまでで把握したこいつ。
まあ、まともなところもたくさんあるのだが、まあそこは良しとして今日は何が起こるのか見ていこう。
「ごめん。って、ここに来る時 間は十五分だろ?今八時過ぎたころじゃないか?」
「人を待たせたのだから同じことよ!」
またキャラが変わるが。これが本当。ツンデレのようなしゃべり口調なだけに変人さをさらにアップさせる。
「悪かった、って。今度から気を付けるから」
「そうしてね。で、昨日のあなたの行動と私の愚痴、聞いてくれるわね?」
「……ああ」
「?」
「はい」
しっかり言わないと殴られそうになる。誰か俺と変わってくれないかな。
「で、どうなの?家庭は」
「いつもと……」
「どうかしたの?」
「いや、家族がいなくなって俺は木の上で生活するようになった?」
「あっはっは」
「あっはっ……いてぇっ」
殴られる。
「ギャグならもっと面白いこと、言いなさいよ」
「い や、マジだよ。俺、ギャグなんて言うのお前だけだろう……」
「……マジ?」
「マジ」
「マジかぁ。で、木の上って貴方サル、ですか?あっはっは、家をサルだけで去るって」
笑っている。
変人だ。親父ギャグかよ。やっぱり、隠すことんてない。変人だ。おかしい人だ。怖いおじちゃんだよ。
「いや、笑うなよ」
「いや、笑ってないと過ごせないでしょうが!!」
「ああ、そう言うごまかし方。もっとましなのないの?」
「何?私の最高のギャグセンスにケチつける気?」
「悪かった!悪かったからそのナイフしまえ!!」
首にナイフを当てられたのは一瞬の事。いつものことながら不満があるとすぐに刃が出てくる。
慣れたもの。馴れたくもないが……。
「なら、いいわ」
スッとポケットに仕込みナイフをしまう。
ふう、と俺は一息ついた。
「で、どうするの?」
「ああ、バイトして金稼いでぼろいアパートにでも住もうかと……」
「そう」
「ああ」
「なら、私の愚痴聞いてくれる?」
「あ、ああ」
もういいんだ。アドバイスとか何もないんだ。
突っ込んで欲しい処あっんだが、ってこいつじゃないんだから!!
「昨日、私ね?」
「うん?あ、待って」
「へ?」
学校からなる予鈴。
「チャイムだ」
「……ッチ」
舌打ちされた!!
魅耶は俺の事を愚痴を、よくわからない話を、聞かすためのぼろぼろのぬいぐるみとしか思っていない。
そのため舌打ちするのも仕方がないのである。
チャイムに俺を、このものと言われるものの会話を 邪魔したのが悪いから。
チャイムが鳴ったから仕方がない、と言うわけでなく、私事を邪魔されるのが仕方がないこと、なので、チャイムは悪くない。
仕方ないだけ。だから怒らないでやってほしい。魅耶さん。チャイムさん泣いてしまいます。あ、うまいかもしれない……。
「まあ、いいわ。仕方がないものね。昼放課ここで会いましょ。さ、行くわよ」
「わかった」
そう言ってすたすたと歩いて教室に戻る。
行きましょ、と言うのは同じ教室のクラスメートであるからだ。
さすがに俺といると会長の名が廃るような気がするので少し距離を取る俺だった。
何も言わない魅耶も魅耶だが、それを望むなら俺はそれをするだけである。
いつも後ろ姿を見ているけれど、男でもかっこいいと思 ってしまう、ついてこい、と語っている背中。裏を思い出してしまうと残念ここに極まれりである。
それを見るたびに嘆息を出す、俺は嘆息を出すごとに疲れがたまっていくような気がする。
もうやめておこう、と誓うのだった。
階段を降りたらすぐ教室だ。
あいつは手前のドアから、俺は後ろのドアから入る。
魅耶は表では言った通りの才色兼備であるため、人望も厚く、ドアを開け入った瞬間に女子たちは魅耶に群がる。男子軍もそちらへ目を引き付ける。愛の眼が魅耶に向けられているのだ。
そして俺は後ろから同時のタイミングで入っていくため誰にも気にかけられない、まず俺の存在を知っている奴がこのクラスでも少ない。気づかないのも頷けるだろう。
だからと言ってどうすること もない。俺はこのままでいいと思っている。もう一つ思うことと言えば、
今日も平和だ、と言うことだけだ。
表向きは二人ともこう言う風、とわかったところで授業は始まる。
男の体育会系の男が入ってくる。
因みに数学と似合わない教科だ。まあ、見た目では判断してはいけないな。決してハンサムでないけれど、中身は良い、と思う。思う……、多分だが。
授業は普通に受けるのが俺だ。
この学校は生徒に対して、これを解けだのなんだの、無理難題なんて押し付けないけれど、それでも普通に受ける。
当てることがない、それイコール寝ることができる、とそう組取ってもおかしくはないとは思うけども、それでは無駄な時間を過ごすことが嫌なのだ。
それは寝るという行為が無駄みた いな言い方をしている、と言われるが、俺の考えでは実際そうである。
俺も寝たことがないとは言い切れないが、ただ無駄だとは思う。
疲労困憊にさえならないなら俺は寝るなんて愚行を実行しないわけで、暇を潰す為にならない授業を聞いていたとしても少しの知識は入るため、寝る、よりか、ましな行動だと考えるから聞いているだけだ。
他にしたいことがあればとっくにしている。でもできないからこうしているわけだ。
要するに暇潰しをするためだけの行為でそれ以上でもそれ以下でもない。
だがまた、それが雑談となれば話は別である。
それは寝ると言う愚行よりも愚考であって、必要がない。
やった、これで時間が潰せるというやつは大抵、寝ているのだが、何がうれしいのか はさっぱりわからない。だって寝ているほうがマシなのだから。まず、根本から授業を受けていない時点でそんなことを思うことが意味不明。
どうだっていいじゃないか、と言われればおしまいかもしれないけれども。
ここで一つ言っておこう。
こいつ頭いいのか?なんて思うやつはいないだろうか。いや、確実にいるだろう。
反語で答えたがそんなことはどうでもよくて、俺の考えさえもどうでもいいけれど、文章稼ぎだと思って聞いてくれ。
まあ、先ほどの切り出し方から何がいいか察してほしい。
俺は別に授業を聞いているわけだはないのだ。ただ暇を潰しに来ているだけ、時間を潰しに聞いているだけだ。
そんな考えの奴が頭がいいわけあるわけない!あるわけないのだ。
暇で授業を 過ごすのは先生にとってたまったものじゃないかもしれないが、こっちだって受けたいわけでもない授業を受けさせられてたまったものじゃない。
いや、今はそれはどうでもいいのだ。
ただ言いたいことは勘違いをしないでいただきたい、と言うことである。
暇を過ごしているだけの奴が興味のないものが頭に入ってくるわけない。だから馬鹿とは言わない。興味のあるやつは点数は普通に九十はあるからな。国語とか、国語とか、国語とか。まあ、国語しか好きでないから別に何をどう突っ込まれてもいいのだけど、って、また少しずれた。
兎に角、俺は普通なのだ。頭が良い、とは思わないでほしい。
噺を書くときに、あれ頭いいはずなのにこいつ馬鹿な発想をしている?と、頭良い、が確実に特 徴となってしまう、それを避けるために言っていることだ。
あれ?自分で馬鹿と言ってしまっては、馬鹿なのかもしれない。自爆してしまう、やはり俺はバカだった。と言う事だ。
どれもこれもあいつ。魅耶と友好関係をもってからだ。友好関係とは言い難い関係かもしれないがそう言ってもおかしくない。
魅耶に変な駄洒落、や、しゃべり方を聞かされ、突っ込みをし、こっちからボケをせざる負えない状況に陥り、最終的に乗り気でやっている、そんなことをしていく内に頭をあいつにかじられたのかもしれない。
……リアルにそんな過去があったのは思い出したくない記憶だった。
ただの激痛。
噺がブレブレなのが許される範囲はここまでと自分で決めておこう。決めていいかは全く知らない が。
現在の状況報告をほったらかしにしすぎていたか。
状況はと言うと、進行している。授業が、時間がスムーズに進んでいる、と言おう。
現時点の時間十一時十分。そろそろだ……。
俺が魅耶の方へと視線をやると目があった。いや、目を同時に合わせたのだ。
毎日の業務と言うか、義務と言うか。やるべきこと、やらねばならないことで、日課の事だ。
別に自分がそうしたいわけではない。魅耶がそうしたいからやっている。
裏。
裏?いや、表か。本当の表は今のではなく俺と接する時だ。いつも裏の魅耶はクラスにいる時間、表を出せないため長い時間裏で我慢しなければならない。そのために必要な行動だ。
少しでも和らげるために俺に向けて、顔だけでも表情を表にして感情を吐 き出す、と言う行為をする。
要するにただのストレス解消の一種みたいなものだ。別段、何もないから否定する理由もない。
そのため、日課になった行為だ。
今日は……、
地味に楽しみにしている魅耶の表情。
今日は、完全に怒っていた。いつも以上に怒っていた。
それは言うまでもなくチャイムにぬいぐるみを取られたような行為をされたからである。チャイムさんは悪くないと思うけれど、魅耶は完全に敵対視をしただろう。何に向かって敵対してんだ。お前はチャイムのライバルのベルか、って突っ込みたいが、それを見越してそうしているのなら乗るわけにはいかない。心だけで突っ込んでおこう。
……いや本音を言ってしまえば、この突っ込みが面白くない。まず突っ込みになっている のかどうかさえ不安だ。チャイムがベルのライバルな訳はないだろう、なんて俺がボケに回ってしまうことは避けたい。一言で言えばただの失敗。
……、もうおやめになって、赤ちゃんできる。見つめられすぎて赤ちゃんできる。
今までとは違って魅耶は三十秒ほど俺を見ている。の前に自分がそんな気持ち悪い子だったなんて、気持ち悪いことを言うやつだったなんて嫌だ。
ふう、
もうやめておこう。そろそろ進行しないと、シリアスな噺がただの馬鹿の書いた日記になってしまう。
学校を出るまではこんな感じだろうが、度がすぎないように頑張ろう。
と、やっと見るのをやめてくれたようだ。
新記録、四十五秒ほどだ。
いつもより機嫌が悪かったとうかがえるが、よくばれなかったもの だ。
あんな人気者なのに。そこら辺は補正でもかかっているんだろうか。よくある何故か気づかれない法則みたいなやつだ。
意味不明。
その後は何もなく、昼放課に突入したのである。
先程の時間から経過した時間は三時間ほど。
五時間目を終え、六時間目も終え、下校するところだ。
今から向かうのは言わずもがな、神田提灯神社だ。神様と契約を果たすべく行くのだ。
学校を出て、十五分くらいのところにあるのだが、自分の住処がそこから十分ほどあり、微妙な距離で、時たま自転車が欲しくなる距離だ。
バイトしてお金に余裕でもできたらまず自転車を買おう。
そんなことを思って歩いているのだが、あの時は小学生だったから、通った道などがあって懐かしい。
あ、神田提灯神社。
ただただ歩いているともうそこに着いた。
「神様?」
少し小声でそう呼ぶ。が、いない。
「神様ーっ!?」
次は人が誰もいないことを確認してから、先 ほどより張った声で呼んでみた。
「おお、来たか……」
「どこ行ってたんだ……」
鳥居をくぐってこちらへと来た。
どこかへお出かけ?だったようだ。出かけるというか、何か……。さっぱり見当はつかないが。
自由で不規則で何にも捕らわれない存在。それがどう言った考えをしているかなんて分からない、全て分からないんだ。融通が利かず曖昧、なのだから。
「いや、ちょっと色々見て知ることをしてたわけだ。お前の知っていることこちら側の世界の事しか知らないからな」
「ふうん……」
俺が生み出した存在だって神様は言っていたし、やはり俺の知識を共有しているのか。
それは俺が忘れていても頭に残っていることは覚えているのだろうか。疑問は深まるばかりだ。
あと、 言えば、やはりあちら側の世界、つまり、言うところのあの世とか、霊関係については強いのだろうな。
「まあ、そうだな、霊関係は知らずとももともと知っていなければいけない、基本ルールと言ったところだろう。あと、知識についてはそうだ。俺はお前が知っている知識しか知らない。君が神と呼んでいても生み出したのはお前でで、不完全な存在だからな。何でも知らない。神だがな。知ろうと思えばできるかもしれないが……」
!?
「そうだった。心を読めるんだったな」
「だから、これは読んでるんじゃない」
「?なら何?」
「意思疎通、ってやつだ」
「意思疎通。ねえ」
シンパシーって奴かな……。
互い互いが共通しあっている。言葉に表すなら、以心伝心じゃあ少し違うし 、まあ、合ってるのか?まず、言葉にするのがおかしいから、とりあえず、だな、やはり。
まあ、何となく分かるけれど、それならこちら側も分かってなんぼ、だと思うわけだ。今のままだと一方的に俺の心が読まれる、のと同じじゃあないか。
「そうだな。でも、俺が何も頭の中で考えていなかったらどうだ?」
「それは……」
確かに。何も考えなければそれはこちらに通じないわけだ。俺だってそう出来るならしている。
なるほど。納得だ。
そう思うと、この存在はやろうと思えば何でもできるのでは……。神だ、と言うわけだけでわなく、曖昧な存在だから。
「そうだな。やってみる、それが手っ取り早い。……、そろそろ、もういいか?」
「……ああ」
決心は昨日で着いた。何を求 めるのか。もう一つしか考えることはない。
「よし、じゃあ、聞くぞ。俺と世界を変えてみるか?」
コクっと頷く。
「じゃあ、何を求める?」
「俺は……、願いを求める」
「願い……?ほお、これは面白い!!考えが思いつかなかったぞ。言ってみろ」
「俺と入れ替わるときに感情が必要になると言ったな?」
「ああ」
「なら、一つ、感情を出しても出てこないでほしい」
「……」
「恋だ。どきまぎしたこの感情。楽しんでいるときじゃない。恋をしている時、その時だけでいいから……」
「本当にそれでいいのか?」
「ああ。神様がそれをくだらない、と嘲笑っても俺はそれがいい。それが必要な行為だと思うから。人と認められるために、存在を認められるために、俺はそれを 必要とする、あの子を必要とするから。お願いだ。それにしてくれないか」
「は、はは、はははははっ」
いきなり笑い出す。甲高いとも言えない、大きいとも言えないよく分からない声で。
ただ、それは嘲笑っているとか、そういうのではないのは確かだった。
「君はそれが良いというならそうしよう。と言うか、正しい選択だと私は思うぞ。君にとって大切な一つのプライド、だ。存在を尊重したい。そして大切な人を大切にしたい、と言う気持ち。本当に大事だと思うぞ。神と契約しながらも、人の形を保とうとする君は実に素晴らしい。認める。やろう。そうしよう」
「あ、ありがとう……。で、どうすればいいんだ?」
「そうだな。契約と言っても、ただ憑りつくだけだからな。私が君の中 に入るだけだ。その後、何か起きるとすれば、君の体重が微量に増えるだけだ」
「わかった。じゃあ、やってくれ……」
と、俺が言った瞬間、目の前にいた存在がいなくなり、中に入ったのが分かる。
別に変わった事がないと言えばないと言えるだろうが、ただぽっかりとあいた穴が塞がったのが分かる。
満たされた。満たされたのだ。何かが満たされた。
もともとあったものが戻ってきた感じ、と言っても誰にも伝わらないだろう。だが、それだけ言っておこう。
「あ……」
少し、何かが違う。
景色が淀んでいる?嫌、違う。空気がこの世界が何色かわからない色によって、くすんでいる。靄がかかったようにくすんでいる。
「どうなっている……?」
今まで見た景色とは、今までいた世 界とは全く別物の世界へと迷い込んだ感じ。
霊感、と言うのか、そちら側に入り込んだのが何となく分かる。
「なるほど」
そう納得した。
神と俺は一心同体だ。
あの存在が見ていた世界がこれで、俺の見ていた世界と混合したのだろう。いつか霊とかもみえそうだな。
・・見えるさ。
!?心の中でしゃべれるのか?
・・ああ、自分が心で思っていながら喋っているのと同じ感覚でしゃべれるのだ。まあ、こちらからは一つ自由な意思で動かしてるから奇妙だろうが、慣れれば慣れるだろう。
そうか。なるほど。心で俺と俺が対話するように、俺と心に入った神様対話するのか。
・・そうそう。あ、一つ私は霊は見えるが、全てではない。憑りついた霊や、式神、悪魔の類、とか、自分と同 じ類の物や、自分に縁がある霊、いわば自分が何かを満たすときに必要とする霊だけだ。そこら辺の霊はいないもの、空気と同じだって考えていい。おっと、同じとは言うが、全て生きる、それだけは覚えておいてほしいものだな」
あ、ああ。
言われたことはよく分からなかったけれど、ただ見える者と見えないものが分かれること良く分かった。
これからは神にどうすれば良いのか委ねよう。
・・ああ、一応器はお前のものなんだ。生きるための最低限度はしろよ?あと、この世界を変えるために必要なことは支持するからまた、な?
分かってるよ。今は自分の好きにしていいか?
・・うん、好きにな。夜、夜中になったらまた呼んでくれ。私は寝る。
あ、ああ。
自由気ままだなぁ。
にし ても一瞬だった。正確に言えば五分足らずだ。来た意味が五分で済むなんて思っていなかったけど、今考えたら、はい、と答えて乗り移るだけだし、それくらいだ。と、冷静に考えてしまった。
少し物足りない感じがする。
そのため少しここで過ごすことにした。
幸いに神は寝ているようだし、別に自分が自分のしたい事をしていればいいだけの話だ。
とは言えども、と言うか今思い出したことだが、宵明が拠点に夜に来る、と言っていた。さすがに長居はできない、ざっと十五分くらいか。
既に時間が分からない俺は体内時計でそれを計る。
あ、そう言えば……、と思って、賽銭箱のほうに寄った。
やはり、昨日のままだったか。
昨日こっくりさんをした時の用意が全て置きっぱなしだった 。
それを片付けてカバンにしまう。
そしてから賽銭箱に腰かけ、ぼーっとした。
こっくりさんをやろうか、と思ったが、さすがにやめた。
そんな時、
「あれ、壱夜さん?なぜこんなところに?」
後ろからの声に振り向く俺は、視線を俺に合わせて、俺の顔を見つめる宵明を見た。
「そっちこそ、何故に?」
「こっちから壱夜さんの拠点へ向かうのにショートカットできるんです。この道使うと」
「へえ」
「で、壱夜さんは?」
「ああ、えっと……、この神社。昔、あそこ向かう時によく見てたから懐かしくてここに、ね」
それっぽい嘘をついてしまった。まあ、致し方ない。
「へえ。なるほど。ここの神社。奉られてるのって、狐ですよね」
「うん、そうだけれど、どうかし たか?」
「ここの神社、もう来ないほうがいいですよ?」
「え?」
宵明の声のトーンが一気にどす黒く、いや、この子事態が黒くなったのが分かる。神様の力か、見える。
警戒しなければならない、と、本能が言っている気がする。
「狐は、いえ、動物、全ての神、霊などは全て敵です。私から見たら神なんて、ただのお飾り。だから、決して、もう来てはいけません……。約束できますか?」
変な事って、何だ。もう手遅れなのではないだろうか……。それよりも。
「何故そこまで?」
「いえ、別に深い意味はありませんが……、ただの警告ですよ?普通に危ないじゃありませんか、そう言うのって」
「まあ、確かにそうだ」
確かに、確かにそうだ。けれど、そんなんじゃあ決してない はずだ。あのドス黒いオーラは、憤怒?怨念?……、い、いや、もうやめておこう。考えるだけで気分が悪くなる。警告、で止めておこう。
「でしょう?」
声のトーンオーラは無くなり、いつもの彼女に戻っていた。
「という事で、拠点に戻りましょう」
「そうだな……」
何も反対することはない。
拠点へと足を運ぶ。
鳥居をくぐり、茂みを抜け、山を登って、着いた。
他愛のない話をしながら。
二人、梯子を上って床に腰を下ろす。
「今何時?」
時間は体内時計では5時ほどだろうけど、それじゃあ正確さにかけるため、一応聞いた。
「えっと」
左手にはめているピンク色の腕時計を見て確認をしている。
「5時半ですね」
三十分の誤差。まあ、仕方ないだろう。
とは 言えど、時計がないのは致命傷だ。今日にでも買ってきたほうが身のためだろう。
「五時半かあ」
「どうかしました?」
「いや、今からの予定を、ね」
「なるほど。まあ、今からご飯を食べて、六時……。そう言えばお風呂とかどうするのですか?」
「銭湯でも行こうかな。麓にあった気がするし……」
「そうですね。となると、私は長居しないほうがいいですね。ご飯を食べたらすぐ帰りますね」
「ごめんな?バイト始めたら家招待するから。そんな苦労させることはないとは思うけれど……」
「いえ、仕事ならぬ私事なので、ご心配なさらず、こうやって話しているだけで十分ですよ」
フフッ。
と笑みを零す宵明。
本当に申し訳ない気持ちが込み上げてくる。早く賃貸探さないと な……。
「で、ご飯もう食べますか?」
「あ……」
そう言えば、魅耶にもらった残りがあるな。どうしよう。
「はい」
弁当を渡された。
どうすることもなくそれを開ける。
「ん……」
今日は、白飯、海藻サラダ、煮物。だ。
主食がない……。まあ、嬉しいことなのだけれども、違う。
魅耶との会話で怒っているのか、何なのか……。主食がない。
「な、なあ。今日のメインディッシュはないのか?」
恐る恐る聞いてみる。
「あれ?あの方にもらった残りがあるのでは?」
キョトンとした顔でそう言う。
ああ……、なんだ、そこまで深く考えなくても良かったのか。
宵明は執念深いというか、何と言うか、念を、恨みを持つ奴だと思っていたがそうではないらしい。そこら 辺は普通、と言うかそれもそれで普通ではないのか?やはりこの世自体分からないけれど、そういう事だ。
「ああ、ある。宵明は自分の分はないのか?」
「私はまだお腹空いてませんし、家で作ってくれてます……」
「そうか、良かったな」
「はい!」
羨ましいとは思はなかったが、ただ悲しかった。いつも通り悲しいだけだった。
「いただきます」
合掌し、そう言ってから食べる。
うまい……。
そうして食べ終えるのであった。
その後すぐ去っていくのであった。
疲れているだろう、ことで気を使ってくれたらしい。
食べているときは別段、何もすることなくただ一般的な世間話をしただけであった。
まあついていける訳なく相槌マシーンになっていたことだろう。
そんな こんなで今は風呂へ行く準備を済ませて向かうところだ。
着替え、財布を持ち……、まず銭湯の隣にあるスーパーへ寄ることにした。洗うための用意くをそこで調達するために、だ。
・・?、今からどこかへ行くのか?
俺の心に住む神様が心から話をしてくる。
≪風呂だよ。さすがに二日間入らないのはまずいからな≫
心中だとさすがに読みずらいと思うからかっこを付けて話していこう。
文章のみで聞かれたくないこともあるからな。
・・風呂、ねえ?
≪何か?≫
・・序に、私のしたい事をしてもいいか?
≪いいけれど。それは世界を変えるための何かか?≫
・・まあ、そうかだな。準備みたいなものさ。
≪ふうん?≫
そう言う事らしい。それなら別に断る必要もないだろう。・
・・役割、必需?と言ったほうがいいかもしれないな。
≪必需?≫
何故か疑問文。それに肯定できる言葉が見つからなかったのか知らないけれど、曖昧はあっても疑問は珍しいものだ。
俺は拠点からスーパーに向かいながら心で話す。
・・まあ、やったほうが早い。ちゃっちゃと済まして帰るぞ。
≪あ、ああ≫
動くのは俺なのだからそこら辺は俺のペースでいかせてもらいたいものだが……。
何か、やる。そしてちゃっちゃと済ませられることらしい。想像もつかないけれど。
まあそれは神が言った様に見たときに疑問をもって考えたほうが良さそうだな。今考えたら整理が着かないだろう。疲労から来る何かで。
山麓まで降りてスーパーでシャンプー等を買い、もう既に湯の中に浸かっ ている。
ふう、と湯の中で心身ともに休めリラックスをする。
・・おい。
≪何だ?≫
心の中で神は俺に語り掛ける。
・・あの娘は……、
と、話を続ける。
あの娘。考えるまでもなく、宵明の事だろうけれど、何故。何て疑問はどちらかと言うと神に向かってと言うよりかは、宵明に向かって思うことだ。
神様がこの話を持ち掛けたのはあのドス黒いと言うか、暗いと言うか、それを見て思うことがあったからだろう。
そのことについては、俺もぜひ知りたいところ、ご教授願いたい。
≪宵明のことだろう?あれをどう思う?≫
どう、なんて間違った聞き方をしたかもしれない。あれは何なのか、と聞いたほうが良かったかもしれない。けれど聞きたかった、だからそう言う聞き方をし たのだ。どう何て、自分でわかっているけれど、少しでも思う事と違うことを望んだから。だからそう聞いた。
……。どうだろう。自分で何を言っているのかわからないな。神様が移ったのかもしれない。
・・どうもこうもないだろう?
わかっているから、どうもこうもない。そうだ。という事は望みはないという事だ。
・・分かって、と言うよりかは少しは察したのだろう?あれがどういう存在なのか。それを否定してほしかったからそう聞いたんだろうが、残念だが、お前の思っている通りだと思うぞ。
≪……だめか≫
・・駄目だ。願いはそいつのためだったのに残念だな。
≪まあ、そうだな。ま、仕方ないことだ。少し前から覚悟していた≫
・・そうか、なら続きを話していこう。あれ は先ほどお前が察したように、注意。何て生易しい存在じゃあない。警告だ。危険警告だ。恨み付きの危険警告だ。確実に霊退治側の存在。
≪そう、やはり、そちら側の奴だったか……≫
残念だ。
残念。それはもうあいつとは……。という事だ。
≪あれは、宵明は何かの恨みをもっているようだったな。何か霊にされて復讐するために、霊退治に走ったような気がする≫
・・そう、確実にあれは、恨みとか、憎しみとかの類だろうな。それで霊を殺す奴だろう。恨みで復讐なんて一見どこぞの漫画の主人公の様にも見える。と言うかそれそのものだ。それは漫画でも現実でも同じく言えることだが間違ったやり方だと思っている。あくまで私はだがな。だから疑問を持って解決した。何故、それを間違 っていると認識していないか。その間違ったやり方をして過ちに気づかないのか。恨みで霊を殺すのか。何かを殺すのか。それ考えてみれば簡単なことだった。間違ったやり方、そう言えばそうかもしれない、けれどそれはマイナスの力を使えば簡単に退治できる。そう解釈できる。簡単に言ってしまえば、認識の違いだ。言い換えたさえ違えば別に間違ってはないんだ。ないように見える、ではなく間違ってない。だから、恨みで霊を殺すことが簡単に出来るんだ。そういう事で、恨みは発生している。それは危険だ。知らずして過ちを犯しているんだから。でも、まあ今はそんなこと問題じゃあない。
間違いを間違いと認めないから恨み殺すことが出来て、そのままの状態で保持できているのか。でも、それが ……、
≪問題じゃあない、ってそこまで恨みが危ないと言っておいて……。恨みが危険で、霊退治者だから一緒にいると危険と言う最終的な解釈じゃあないのか?≫
・・危険。そうだな。それが問題じゃあない、と言うか最終的にはそれが問題なんだが、理由が違う。
≪他に何かあるのか?≫
・・他に、ではない。それしかない。だ。
≪それで?≫
・・それで、その娘のためにお前は契約したんだろう?
≪ああ、それが何か問題なのか?≫
・・大問題だろう。考えても見ろ。お前はどう願ったんだ?
≪あ≫
・・そういう事だ。あの娘前にいるとき、俺は出れない。その時は存在が亡き者で、いない者と言われても同じだ。どれだけその悪霊が強くても俺はどうする事もできないんだよ。
≪確かに≫
それはそうだ。俺が出るな、と言ったものだから出る訳がないのだ。その時にそれ以外の感情を出してもそれが出ている状態なら出るなんてこと無理だ。
・・ま、これもまだ問題の入り口部分だけだが……?
≪これ以上にひどいものがあるというのか?≫
・・あるさ。あの娘はお前のためにそういう事をしているんだろう?なら余程の事がない限りは、どうなることもないんだ。そう、余程の事がなければな。
二度、そう念を押した。
という事は……。
≪そうなる状態にあると……≫
・・そう言っているんだ。今、その余程の状態になっているから危険なんだ。それは、あれのせいだろうな。
≪オーラ……≫
・・そう。と、言えばそうだが、そうでないとも言えるな。
≪ど っちだ≫
お得意の曖昧。
・・まあ、そう急ぐな。急いではことを仕損じるように、落ち着かないと、な?
≪それも、そうか≫
・・そう言ったのは、後ろに何かがいる、から。そいつが何かしているからだ。増大だ。
≪それって、宵明に何か憑いているってことか?≫
・・そういう事だ。前からそういう言い方してるんだから気づいてほしいもんだ。
……、このニブチンが。と言いたそうな顔だな。
いつか、やり返してやりたい。
≪まあ、そうかもな≫
その通りであるから、そう言葉にしかできないが……。
・・まあ何かは分からないが、何かの拍子に憑かれたか、契約したか、どちらかだと思う。先ほどから言うように、何か、だ。何かわからない。ただ、何かがるのは確かであり、 それが危険だってことも確かだ。それだけ。はあ。
と、疲れたようにそう言う。
この世の世界観から離れた、と言うか、この世の本当の話をするのは疲れるのか?わからないけれど。
と言っても、そんな話は初めて聞くし、理解にも面倒で疲れるのだが、と言いたかったが、文章で留めよう。いらない事を言う時ではなさそうだ。
・・えーと、あ、そうそう。そうである、はさっきの理由で、だ。オーラによって促された。で、だ。そうでない。と言うのは、今言った通り、そう促した、それだけだからだ。促したっていう事は恨みの元々の根源はその娘事態にあるという事。恨みをもって促し増大させるのがそれだとしても根源はそこにあるため悪い、と言う言い方は良くないかもしれないが、諸悪の根 源はその娘にある。だから、そういうことだ。
≪そういう事か≫
・・で、そこで問題。何が危険かと言うと、恨みに恨みを重ねて増幅しているわけだから、1タス1ハ二2、という事で、危険が二倍なのだ。それで、危険。という事は最終的には変わらない結論。今言った通り恨みが危険という事で変わりはなく、それだけで終わる話なのだが、それだけじゃあ、疑問がたくさん出るだろう。面倒くさいから、全て伝えておこう。
≪ありがたく知識を受け取るよ≫
・・もう少し危険について付け足すと、後ろにいる何かが俺達を害するから危険で、その何かによって娘が完全に憑りついて、制御不能に陥り、俺たちを害するから危険なんだ。
≪それはそうだな≫
・・そう、それは当たり前だ。でも、 本当にそれって当たり前のことだと思っているのか?
≪いや、当たり前、って自分で言ってるじゃあないか何か変なところはあるのか?≫
・・当たり前っていうのは、それが危険だ、という事についてだろう。なら、何故それは……?
≪それは?≫
・・まだわからないか?
教えてくれない。
≪分からないな。全く持って。何が危険かが分かっただけで十分じゃあないか≫
・・わからないか。そうだな、大きなヒントを与えようか。恨みとは誰に向けて送るものだ?
≪それは、憎い奴とか、嫌いな奴じゃあないのか?≫
・・その通りだ。なら、私たちが狙われる理由は?
≪は?≫
・・考えてもみろ。あの娘にとってお前は大好きな存在で、一番愛しい存在なんだろう?
≪そ、そこまで かは知らないけれど……。そうなの、かな?≫
・・なら、何故俺たちが危険にならなきゃいけないんだ。一番の俺たちが狙われるのは何故だ。
……、そうか。そういう事か。確かにおかしい点ではあったな。確かに今後疑問で何度も聞いていたことだろう。話はスムーズとは言えないが、後々を考えるとここらへんで解決しておいたほうが良さそうだ。
≪何故……?なんだ?≫
・・教えてあげよう。答えはだからだよ。
≪だから?≫
あの飲むダカラだろうか。なんて、空しい考え方はよしておいて、だから、って……。本当に飲むほうしか思いつかなくなってしまった。
失態。
・・だから……、親密だからこそ、一番だからこそ、それは起きるんだ。心の中での一番の存在が著しく多く大きい のだ。自分自身より、も、だ。それだから憎いのだ。否、後ろの何かのせいで憎いと思ってしまうのだ。思わされてしまうのだ。
≪つまり……。どういう事だ?≫
確かに、それは、なるほど、と思う。それが危険であるには十分で、どちらとも言えるそんな形だ。だけれど、先ほど神が言っていた、だから、の意味を知らされていない。愛で何故憎まれる?
疑問。
・・憎いと思わせるという事はつまり、もともとそうは思ってはいない裏の部分が表に出てくること。裏を乗っ取られ制御されて出てくること。愛に憎しみがない。ない、という事は反対、つまり裏という事だ。アリとナシ。アリの部分がなんであっても裏はなしの部分、持っていない物全てだ。そう言える。だがそれは表に愛があるから言え ることで、表に憎しみさえ来れば、来る機会さえあれば、どんな形であれ、愛から憎しみは生まれるわけだ。
≪本当に何にでも裏があって、それは表にとってナシなら全て裏なのか?≫
自分で言っていてわからない。
ただ、表イコール一つの物、と置いて、それに全く関係ない物を裏。と置けば、わからないでもないか……。
何となくしかわからないけれど……。
・・ああ。まず、裏と言うものは元々、おっとこれは私の意見として聞いてほしいものだが……。裏とは表と反対にあるだろう?という事は現在この時点でこう喋っているのは私たちの表と言うわけだ。そう考えれば表があるときに裏などいらないものだろう?
そうだ。表があれば裏があるとは言え、それは裏にあるから裏で、表ではな い。そんなものは無いものと考えてよいのかもしれないな。
いい例が魅耶かもな。
裏表。見る人によって違うが、どちらの人から見てもそれは表で裏などではない。裏とは真反対の性格。だけれど、どちらも表だ。表に一つがいるときもう一つはいない。裏はない。そういう事ではないか、と考える。
ま、表。その一言だけで別に言えたことかもしれないな。
・・ああ、もう結構話拗れて散らかってきたな。全てまとめて話す。どちらも表、なら何故裏と言う反対が生まれる?裏とは何か?反対、対極にあるものと考えるとわかる。それは娘がそうは思っていない。反対。心の底の隅っこにある考えだろう。だからそれが本性だっていう事は絶対にない。ただ、そう思わせている。それだけだ。そして、こ こで出てくるのはあいつの心の表部分。お前の存在が愛の力で一番になっているという事。それは反対に言わせればお前の存在のせいで恨めしいんだ。
≪?さっきから何か違う事言ってないか?それ、恨んでる理由にはならないんじゃあないか?表から裏にはどうやって変わるんだよ≫
・・確かにそうだった。裏が表に代わるのはそれが普通の事であって普通のことではないからだよ。
≪普通じゃないのか?≫
・・そりゃ、そうさ。ま、またそこはあとで話すが……。普通さ、お前たちの心に自分自身が大きく映らなければならない、と言うか一番でないといけないのは分かるか?
≪まあ、そうだな。そうじゃあなけりゃあ自己なんて保ってられない≫
・・そう、普通は自分の存在を認めなくてはい けない。独り身の場合は、と言うか、誰だってそこから始まる。自分で考えて行動して認める。それこそお前らのあり方だろう。けれども、そう考えるのが普通なはずなのに考えてないからこう言うことが起きているんだ。否、考えてないから、だ。それは憑け込まれるさ。自分を認めず他の存在何て認めてしまうから。そして他の存在が自分の中で大きくなる。それってまずくないか?自分の存在意義より他人のほうが強く思えてしまうだなんて。
≪何故そんなことが起きるんだよ。自分を認めず他人何て認めたら……≫
・・そう、その通りだ。それは段階を飛ばしたからだ。言い方を変えれば、飛ばしさえしなければこんなことにはなっていない。
≪飛ばす。それは自分の存在意義を見出すことを飛ばす ことか?≫
・・そうだ。
≪でも、それは自己破壊だけで済む話じゃあないのか?≫
・・そうなるのは霊がいない奴だけだ。その裏に霊が付け込むんだ。だから、裏イコール霊、と取ってもらっても構わない。ま、崩壊する奴なんてほとんどいないが……。
≪ああ、そう思わせるから、そういう事にはならない≫
・・そう。思わされる。自分は何なんだろう。どうすればいいのだろう。と存在意義を見出していない奴が言った後に。そいつが原因だって、一番の奴だって。言うのだ。その存在が大きくなったから自分は分からなくなった。いないと思ってしまうのだって。あいつがいなければ、あいつを消せば……、と、愛は恨みに変えられ、そう言う形となる。
≪なるほど≫
すごい理不尽な怒りと いう事が分かった。
分かったところでどうすることもできないけれど、ただ理解した。
・・これは、霊も悪いが元は自分が蒔いて回収したのだ。過程をすっとばしながら当たり前のことを当たり前に思えていないから悪い。悪い、だから悪として生まれるのだ。表が裏にではなく、裏が表に代わる。そういうことだ。恨みは裏で、愛は表。愛がなくなれば恨みは生まれるさ。
≪なんだ、簡単なことだな≫
・・ここまで、いろいろ言わせておいて。呪い殺すよ?
洒落にならないから怖い。
まあ、言いすぎたとこまで言っていたが……、
なんて言ったら本当に呪い殺されそうだけれど……。
・・で、どう思うかの結論。わかっていると思うが、関わらないで欲しい。が本心だ。どうする?行動権は お前にある。
≪どうする、か。愛してどうしようもないんだよなぁ。離れたくない、それが俺の意見だけれど……。助けられる方法はないのか?≫
・・なくはないが……。おすすめはしない。助けたとしても相手は陰陽師。進んでやっているんだ。そっちはどうすることもできないだろう。最終的に方法はない、かもな。
≪恨みをなくしてやり方を変えさせればいいんだよな?≫
・・できればな。私には到底出来ん。お前がやれるのか?
≪それはそうだ≫
神ができないことが俺にできる訳ない、か。でも……、
≪少し、三日ほど待ってくれないか?あいつの本性が分かったらどうするかは決めているから。本音を聞くまで、待ってくれないか?≫
・・まあ、いいだろう。そう言うなら。先程も 言ったように言動はお前にあるからな。いざとなれば私はお前に力を貸せる。三日ならお前の好きなようにやれ。
≪わかった≫
一縷の望みにかける。
それは何パーセントの確率であってもそれにかける。
と、言えども正直もう既に限界で平静を保っているのがやっとだ。
初めて恋した彼女がこんな……。こんな。
悲しいというのか、つらいというのか。
昨日からわからない感情ばかりで疲れる。
……逆上せた。出よう。
五十分の長風呂?俺からして見れば長風呂を終え、銭湯を出る。
随分と古に書いたものです。
分からん。