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ゼン・ラー  作者: 淡嶺雲
14/15

第14話 夏は来ぬ

 夏である。

 永遠に続くかと思われた長雨も上がり、空からは日差しが照り付ける。気温は一気に30℃を超える日もあり、何をしていても汗ばむ。本格的な夏到来である。

 梅雨のため野外露出がずっとできずにいて全裸道活動が滞って鬱々としていて紗綾であったが、しかし、晴れてやっと屋外活動ができるのである。

「さあ、露出よ、露出するのよ……」

 梅雨の間禁断症状の様に露出露出とうわごとを呟いていた。そんな彼女を裕樹は湿度のせいで頭にカビでも生えたかと思った。

 そして梅雨が明けて夏である。生命力が解放される夏、露出にも優しい気温となる。

 そのぶん脳も茹るのではないかと思うのではあるが。

「さて、この夏の活動方針を決めましょう!」

 そう言って紗綾は裕樹をいつもの中華料理屋に連れて行った。席に着くや否や、店主が一枚のはがきを渡してきた。

「これは?」

 紗綾の問いに店主は答えない。ただ見るよう促すだけであった。

「ええと……これは!」

 紗綾が声を上げたので裕樹もはがきを覗き込んだ。

 その差出人は「日本全裸同連盟」と書かれていた。

 裏返す。裏には「暑中見舞い申し上げます」とあり、その下に、褌一丁の男が仁王立ちになっている写真が添えられていた。さすがに全裸でないのは郵便配達が拒否されるのを防ぐためであろう。そしてその褌男の下には次のように書かれていた


『春過ぎて夏来にけらし白妙のふんどし一ちょう天の香久山』


 裕樹は苦笑いをする。しかし紗綾は涙を流していた。

「暑中見舞いがもらえるなんて……」

 まあ、以前いきなり全裸道の幹部に抜擢されたのだから連盟から暑中見舞いくらいくるだろうよ、と裕樹は思った。

しかしそれより気になることがある。

「ねえ、ここに小さく書かれているんだけど」

「ん、なに?」

 紗綾も裕樹の指さしたはがきの下の方を見る。

 そこには小さな字でこう印刷されていた。


『9月ごろにO市で全裸道全国大会を予定しています。詳細は追ってご連絡いたします』


「全裸道全国大会!」

 紗綾は叫んだ。それにO市とはこの街である。ここで、全国大会が行われるというのである!

「これは一大事よ!」

「たしかに一大事だ……」

 裕樹は目の前が真っ暗になった。この街で全裸道の大会だって! どんなに拒否しても、否が応でも巻き込まれるではないか!

 はしゃぐ紗綾をよそに、彼は、暗澹たる思いであったのである。



***



 山城花音はシャーペンを置いた。伸びをする。時計を見ると10時半、勉強もひと段落着いたし寝ようかしら。その前にトイレに行こう、そう思って一階に下った。

 トイレに行くにはリビングのわきを通る。すると、リビングから明かりが漏れている。

 覗き込む。父が椅子に座って、難しそうな顔をしていた。

「お父様、お帰りでしたのね」

 花音は言う。父――山城県警本部長は、顔を上げた。

「ああ、花音か、どうしたんだい」

「いえ、お父様がむつかしそうなお顔をされていたので」

「ああ、心配することはない」山城本部長は言った「花音、お前は寝なさい」

 それを聞いて、花音は微笑んだ。

「ええ、お父様がそうおっしゃるなら、問題ありませんわ」

 花音はそう言ってリビングから姿を消す。しかし、本部長の心は晴れやかではない。

 予告があったのだ。日本全裸同連盟から。

 ここ、O県の県庁所在地、O市で、全裸道全国大会を開催するという通知である。事実上の犯罪予告であった。

 未然にこれを防げなくては県警の沽券にかかわる。そう本部長は想いながら、しかしほぞをかんでいた。

 全裸道連盟と警察は長い戦いを繰り広げていた。末端は検挙している。しかし、首魁の正体がつかめずにいる。

 とにかくやるしかない。彼はそう思い、ウイスキーを煽るのであった。

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