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飛び出せ!女勇者

終了した乙女ゲームの世界に勇者として召喚されました

作者: くろくろ

お久し振りです~

「よく来た勇者よ!」


ほ~、いまどきのアトラクションはすごいなぁ。

キラキラしたお城といい、壇上にいるイケメンな外人さんといい、周囲の配置された騎士らしい鎧の人たちや魔法使いらしいローブ姿の人々。芸が細かい。

夏の祭典で見たレイヤーの方々のクオリティも高いけど、予算がたっぷり掛けられたからかな。そのさらに上をいく出来栄えだ。西洋鎧なんて見たことないけど、あのガチャンガチャンいってる重そうな音といい、新品じゃなさそうな独特の光沢といい、かなりの出来だと思うよ。

手前に立ってる、イケてるおじさんにサムズアップしとく。その人の緑マントもなかなか触り心地が良さそうだ。せいぜい、文化祭のメイド服くらいしか自分で作ったことはないけど、あのときの生地とは雲泥の差!

困り顔のイケオジに手を振り、そして振り返してもらいながら、ながながしゃべっているイケメンな外人さんに顔を向けた。


壇上に立っていることといい、この舞台の中心でたった一人長セリフを話していることといい、きっとこの人が王様役なんだと思う。衣装も人一番気合が入っているし!王冠とか赤マントとかないし、イケメンとはいえ私とそう変わりない年齢だけど、風格がもう人とは違っている。

後ろにいる眼鏡くんは宰相で、その横にいる不良っぽい人は騎士団長、反対側のローブ姿の少年は魔法使いのトップという設定かな?あの三人も周囲とは違う豪華な衣装をつけたキラキラした若々しいイケメン外国人だけど、王様はちょっとそれよりロイヤル感が違うね。演技もすごいけど、やっぱり選ばれるには外見も大事なのかもしれない。


「…その魔王は私の幼馴染の公爵令嬢を攫ってしまったのだ!!」


「へ~」


そういう設定なのか。宰相眼鏡君が捕捉してくれた説明と合わせてみると、このアトラクションは召喚された勇者が攫われたお姫様を救うために魔王に挑むというアドベンチャーみたいだ。武器は銃でも魔法の杖でもなくて、やたらと重いキラッキラした剣。エクスカリバーとかそんな感じかな。でも、その重みまで再現しなくても…技術さんたちの本気度を見た。


それから私は、公爵家のお姫様を救うために出掛ける…のではなく、何故かお披露目会に参加することになった。パレードならわかるけど、ミュージカルとか。しかも、こんな大規模な舞踏会風のミュージカルを一つのアトラクションでやるとか、本当にすごいな!どんだけ力入れてんだ!私一人しかアトラクションの参加者がいないのに、みんな手抜きなしで本気だよ。


王妃様なんて、本当に気合入ってた。いくえにもひらひらレースが束になったスカートに、自分の後ろに生やした鳥の羽根。…うん、生やしてるって言われても信じられるよ、あのクジャクの羽根は。ばっさばっさとした羽根を背負って、胸元には拳大のルビーカラーの石がついた金色のネックレスと何カラットあるかわからないダイヤモンド風の石のついた指輪をいろんな指に付けていた。髪の毛にもキラキラとした金粉がまぶしてあって全身光物状態になっている王妃様は、何を目指しているんだかわからないけど、とにかくこの場にいる女性陣の中で一番身分が高いことがまるわかりである。別の意味ですごいな、あれは。


「…ん?あれ………?」


バブル期の紹介でよく出て来るピンクの扇子で口元を隠して『なんだ、女なの』ってがっかりしてた王妃様は、今は離れたところで宰相と騎士団長と魔法使いのトップと一緒にいる。その立ち姿に既視感。


「どうされた、勇者殿」


「いえ~、おのぅ」


何故か私に付き添ってくれる、あのとき目が合った緑マントのイケオジが視線の先に気付いて何とも言えない顔をしていた。あぁ、うん。ちょっと近過ぎだよね。ちゅー出来そうな距離感と、あと縋り付いてる腕にお胸乗ってません?


「えぇとですね…彼女はずっと平民として過ごしていまして…少し気安いのです」


「はあ……」


さすがに剣は下げてないし、始めてあったときの兜をとった鎧姿じゃなくて凝った作りのキレイな騎士服を着ているこの威厳があるイケオジだけど、その言い訳する態度が大変可愛かった。ガタイがいいのに、それを小さくして『えぇと…』とか、居たたまれない雰囲気が丸出しなとことかっ!!

だから、『私も平民だけど、あんな恋人みたいな態度で接しないよ。しかも三人も』とは突っ込まないことにした。

なので、気になったことを話しとく。


「いえ、なんか見たことがあるなぁ、と」


「見たこと、ですか?」


まあ、怪訝な顔されても仕方ないよね。一応、ここって新アトラクションでしょう?だって、前来たときにはなかったし、一緒に来た友だちも言ってなかったからね。

だったら、他のアトラクションであの人たちを見たのかもしれないね!


「すみません、別の…いえ何でもないです!!」


「……?」


さすがに別のスタッフにそんなこと言ったらマズいよね。せっかくの夢の国、スタッフの使い回しについて言及したらいけないことぐらい、私にもわかってる。なので、ニッコリ笑ってうやむやにしておこう。


だけど、うやむやにしといたのに直後、王様が王妃様の横に並んだ瞬間に脳裏にパッと過ぎったものがあった。服装は全く違けど、これは…っ!?


「こ、これって『イケシン』と同じじゃん!!」


「はい……?」


「だから!恋愛アプリゲーム『イケメンとシンデレラ』と同じなの!!」


タイトルまんま、平民として育ったヒロインが王子とか貴族子息たちとかに見初められるというわかりやすいストーリーなんだけど、なかなかイラストはキレイだし豪華声優陣を起用しているから、そのシンプルさも受け入れられてる人気のゲームだ。

もちろん、私もやってた!!ただし、恋愛そっちのけでヒロインのバロメーターを上げるミニゲームばっかりやってたんだけど。…そういえば、体力上げのミニゲームに登場してた騎士団長のバルルークに『これで立派な脳筋だな!(褒め言葉)』って言われてたっけ。うん、脳筋はイヤだから、今度は知能上げのミニゲームしに宰相である公爵家のおじさ……。


「あぁーーーー!!」


「どうしたっ!?」


宰相で思い出した!!

『イケシン』の知能上げミニゲームに登場してた宰相って、王子の婚約者候補だった公爵令嬢の父親じゃん!どこにいるの!?てか、あの眼鏡君は宰相じゃないじゃん、攻略対象だよ!!そもそも王様だと思ってたのって王子で、騎士団長だと思ってたのも、魔法使いのトップだと思っていたのもみんな攻略対象者だ!!王妃様だと思っていたのは、ヒロインだし!!


「ちょっと、宰相は……ぶっ!?」


思わずイケオジに詰め寄れば、いきなり口をふさがれた。でっかい手で勢いよくふさいでくるから、変な風に空気が漏れたじゃんか!!


「ま、待ってくれ。今、場所を変えるから」


キョロキョロと挙動不審なイケオジに拉致られ、私は早々に退場した。誰にも止められなかったかって?貴族っぽい人たちは王子ら攻略対象者とヒロインに群がってて、騎士たちは何故か止めなかったからスムーズに移動出来たよ。


「ど、どういうことだ?勇者がこちらの国のことを知っているなんて…予知は聖女の能力だと思っていたのだが…」


何!?聖女もいるのか。私もそっちの方が…いや、物理で敵を屠った方が早いか。知能戦は弱いし。

まあ、そんなことは後回しだ。とにかく今は、情報収集が一番!


「ちょっと、説明してくれる?」


今まで悪かったイケオジの顔色が、より一層悪くなった。



◆◇◆◇◆



「は~、なるほど。乙女ゲーム終了後の世界ね」


確かに流行ってるけど、それをアトラクション使用にしちゃうのってどうなんだろうね?


顔色の悪いイケオジの説明が正しいと想定すれば、これはあの恋愛アプリゲーム、それもゲーム中には存在しなかった逆ハールート後という設定だと思われる。

あのゲーム、乙女ゲームにありがちなライバル令嬢が存在するけど、王子の婚約者候補である公爵令嬢含めてみんな気持ち良いライバルで、妨害と言ってもせいぜいが嫌味くらいだ。しかも『はしたない平民だこと。廊下は走ってはいけないと、言われたことはないかしら?』とか『まあ!そんな汚れた格好して平気だなんて!あなたの身分は平民でも、選ばれてここにいる以上は周りの恥になるような格好はしないでちょうだい!』という、言い方はあれだけど割と普通のことを。むしろ、平民でもちょっと考えればやらないことをするヒロインもどうかと思うよ!特に後者は山歩きをしたままの恰好だったし。


そんなライバル令嬢たちなんだけど、ここでは違うらしい?


「命を狙うなんて、そんな……」


どうやら、陰険ないじめが横行していたそうだ。そして、最終的には一人で出掛けていたヒロインを金で雇ったゴロツキ共に襲わせたらしい。たまたま、剣の扱いに慣れた王子がお忍びで付いて行ったから事なきを得たけど、そうじゃなかったら…って、テンプレな悪役令嬢だなぁ。

そして、有無を言わさず国外追放ってのが公爵令嬢の末路である。


「…あれ?でも、あの王子は公爵令嬢は魔王に攫われたとか言ってなかった?」


もしや、別の人かと疑問に思ってイケオジを見れば、彼は大きな溜息を吐いて続きを話してくれた。


「後々、領内での改革や市場に出回っている流行のものが彼女発案だということがわかりまして。さらに、膨大な魔力を隠し持っていたということも明るみに出たので連れ戻せということに……」


何でも、裁判すらまともに行わなかったそうだ。…大丈夫か、この王政国家。


「いや、国王陛下ならびに王妃陛下や宰相閣下はご存じなかった。両陛下はちょうど、他国へと出ていて、宰相は領地へ戻っている最中だったので後手に回った。戻ったときには、公爵令嬢は国外に一人……」


ひどいな、それ!!


「と、いうかさ!なんで止める人が誰もいないのさ!!」

「うっ……」


答えに詰まったイケオジは、自分の胸のあたりを押さえた。…あれ、胸じゃなくて胃かもしれないな。


「その場で最も権力を持っていたのは王子で、公爵令嬢は被告人だったためにこんなことに…」


「うわぁ、あり得ないね。と、いうか他の王子や王女、もしくは止められそうな人って置いていかなかったのかな、王様たちは」


「王家には王子お一人しか御子は居られません」


だ、だめじゃんか。

そう言えば、ゲームにもそう書いてあって、厳しくされ過ぎてグレたみたいなこと設定にあったじゃん!共感して慰めるのは良いけど、きちんと王族としての責任感は取り戻しておいてよヒロイン!!

しかも、他に王族はいなくて、両陛下以外の大人で王子を抑えられる人は宰相以外いないとか…。


「魔法使いのトップは!?」


「政治面に興味なし、そして出自は下級貴族」


「なら、騎士団長!!」


「ぐっ……平民出身で他の貴族出身の騎士たちに押し付けられた役割で、ほとんど発言権はない」


「まさかの押し付け!?」


くぅ、身分制度ってメンドクサイ!!魔法使いのトップも騎士団長もゲーム上はかなり強いみたいだし、庶民には慕われてるってなってたけど…あぁ、『貴族にも』とは確かになかったな。


「騎士団長も魔法使いのトップも、華やかな役職の割に中間管理職の悲哀があるんだなぁ」


「……………」


しっかしなぁ。攻略対象の不良くんのときの騎士団長との試合は素敵だったのになぁ。王様も『信頼している』って言ってたし、あの堂々とした立ち姿は押し付けられた役割って感じじゃなくて、自信に満ち溢れていたのに…。


いや、今は騎士団長のことじゃなくて、公爵令嬢のことだ。


「その公爵令嬢のお父さんって宰相でしょ?なんで黙って断罪されたまま娘をほっといてるのさ?悪いことしていたとはいえ、改革やら魔力やらは家族なんだから知ってたんでしょ?言っちゃあなんだけど、利用価値あるんだったら黙ってないでしょうに」


なんだろう、親がかばえない程の悪行を行ってたとか…?しかし、言いづらそうにしながらも口を開いたイケオジの説明でそもそもの前提が違うことを知った。


「…宰相は黙っていません。それどころか静かにお怒りの様子でした。当たり前ですよ、全て冤罪だったんですから」

「冤罪!?」


えっと、公爵令嬢ってかなり身分が高い人だよね?しかも、この国の宰相の娘だし。彼女がやって来たことの評価からしたその価値は知られていなかったとしても、身分も立場もすごい人を罰した挙句に冤罪だったって…え、マジで!?


イケオジが疲れ切った顔で話しを続ける。

両陛下と宰相がそれぞれ城に戻って来た後は阿鼻叫喚の騒ぎになったらしい。当たり前だろうね、帰って来たら王子や高位貴族の子息らがヒロインを囲んで同じく高位貴族の令嬢を糾弾した挙句に冤罪着せて国外追放にしたんだから。宰相が親として怒り狂っても仕方ないし、王様たちが頭を抱えるのも無理はない。


てか、どうして一人息子をそんな風に育てた…?もしかして、親としての王様たちって相当無能なんじゃ…そもそも、そんなに騒ぎになってしかも部外者のイケオジにまで内情がバレているのに『公爵令嬢は魔王に攫われた』なんて頭のおかしい主張が通っている時点で王様たちも理屈が通じないモンスター系の親だとしか考えられないんだけど。


「ねぇ、こんなことしてないで、冤罪を晴らして公爵令嬢と宰相に頭を下げた方がよくない?」


むしろ、こんなことしてる方が火に油を注ぎかねないというか…ハッ!?もしや、魔王というのは怒り狂った宰相のことを指してるとか?娘を回収して、宰相の職を辞した公爵まおうを『討伐』と書いて『説得』と読むことをさせるのか、完全部外者の私に…ほんと、なんで?


自分の立場が腑に落ちない私が悶々としているが、その理由を別のことととらえているらしいイケオジは、大変言いよどんだ後にこう答えた。


「それは出来ないのです」

「はい?なんで?面子的な意味合いでですか?」


「そうではなく。令嬢は本当に魔王のところにいるとのこと。そして宰相は…両陛下は……」


…そういえば、このイケオジはさっきから王子たちを『王』やら『王妃』やら『宰相』とは呼ばないな?なんでだろうと思ってたけど……彼の暗い様子に嫌な予感が。


「両陛下と宰相閣下は……あんなにすばらしい方々が何故………うぅっ」

「ちょっ!?なんか嫌な予感がするからいわなくていいですー!!」


メチャクチャ聞きにくいし、聞くのを躊躇するんだけど!?そう、深淵を覗き込むようなおそろしさを感じる……。

てか、このアトラクション設定盛り過ぎじゃないかな!?



◇◆◇◆◇



詳細は省くけど、あの後盛大に魔王が納める国・通称魔国へと派遣された勇者こと私です。ドウシテコウナッタ?


向かった先である魔国で『わたし、死にたくないから回避します!』で逆ハー築いちゃった系悪役令嬢と出逢ったり、魔王以下悪役令嬢の恋の下僕(笑)にイラッとして戦いを挑んで勝ってみたり。勝ったことによって自動的に次の魔王にされた私だけど、今日も元気に生きてます。


「『自分を愛してる公爵令嬢のものは俺のもの!』って、どこのジャイアン?却下!!」


「あー…王子たちがアリ地獄に落ちていく……」


『イケシン』の攻略対象者たちとそれに囲まれたヒロインの外交と称した国の引き渡しを、たった一言で切って捨てて罠を発動してみたり、元婚約者兼幼馴染にビビってぴるぴる震える元公爵令嬢を見て彼女の祖国に殴り込みに行った魔王らを殴りついでに回収しに行ったり、損害賠償を吹っかけられてキレたり。


「ふざけんなー!!お前らが子どもの首に縄でも付けとけばいいだけだろうがー!!」


「あああ。陛下のヒゲを毟るのは止めて下さい…。ほら、魔国の宰相が作成してくれた書類を見せればみんなすぐに黙ってくれるから!!」


「…………本当だ。みんな、真っ青な顔して硬直してる」

「だな。何が書かれてるんだか…。宰相だけは敵に回してはいけないな」

「うん……」


戻って来たら、人生初のモテ期を体験してみたり。


「なになに~?『部下を容赦なく蹴り飛ばすその足に惚れました。ぜひとも踏んで下さい』ってイヤじゃあああぁぁぁぁ!!」


「プレゼントはこっちに置いておきます。ダンベル、プロテイン、ムチ、ハイヒール……」


「何で普通に花とかじゃないの!?イヤだよ、そんな意味でのモテ方!そもそもムチとハイヒールの使い処がわからない!!」


「この魔国は強者が至上だから、仕方がありません。唯一、魔王だけがその強者の血を残すために多婚を推奨されているからみんな必死なんでしょう」


「だから先々代魔王は非力な公爵令嬢に負けたフリをして、彼女を魔王の座に就けたんか。そして、逆ハーレムを築く羽目に……。いや、必死だったら余計こんなプレゼント渡すなー!!」


「一応、抑止力として俺がチカの王配扱いになってるせいもあって必死なんでしょうね。一人にしろ、夫がいるんだから次に続きたいというのが本音だと思います」


「王配、やめたい?」

「ぜんぜん」


あの国から強制的に一緒に魔国へ来たイケオジは、そう軽く言って持っていた花束から一輪取り出して髪に飾ってくれた。


世話焼きで苦労性なこの人は、それからずっとこうして傍についてくれてる。

ストレスによる胃痛で食べられずに痩せた身体も元通りの鍛えられた肉体に戻り、蒼褪めてやつれてこけた頬が週末の仕事人みたいだった顔も血色が良くなっていた。

毛艶の良くなった髪をきちんと梳り、無精ヒゲや汚れた服を整えるとあら不思議!オジサンじゃなくて、お兄さんだったよ!!


イケオジ改め普通にイケメンなお兄さんは、撤去を頼んだプレゼントの山の代わりにさっきの花束をくれる。花屋で並んでるような豪華な花束じゃなくて、野に咲くような素朴な花だけを束ねたそれは、彼が早朝の訓練前にこっそり摘んでくれていることを私は知ってる。内緒にしているつもりの彼のために言わないけど!


「『王が一人だけなんて、見栄えが悪い』って言われたとき、『何言ってんだとこいつ』って宰相の頭を疑ったけど、謁見のときに隣に誰かいるってすごく安心だよ。王子が来たときも」


「安心も何も、いつも物理で解決しているでしょう…もう、立派な脳筋だな」


朗らかな明るい笑顔じゃなくて、呆れ顔だった。それって、彼流の褒め言葉じゃなかったの!?


「でも…まあ。強さとしては心配していませんが、やっぱりチカ一人を王として立たせるのもあれですね。だからこれからも」


「じーっ」

「これからも、俺が隣にいま、いる、ぞ」


私に注目されて、何故そこで詰まる。

しかも、私が勇者と呼ばれていたときから微妙に丁寧な口調だったからか、タメ口になった途端にグダグダだ。


「バルルークさん、もうちょっと精進して下さい」


「面目ない……」


しょんぼりする彼が可愛くて、思わず背中に抱き着けば顔を背けられる。…でも知ってる、緩んだ顔を見られたくなくてそうやって顔を背けるのを。だってさ、耳や首が真っ赤になってるんだからさ、あんまり隠す意味はないよね。


「うーむ。これは宰相の提案を本格的に考えるべきかな」


「宰相…?また何かあの腹黒に言われてるのですか…言われてんのか。なんだったら、俺から言っておくが……おきますが」


タメ口と敬語が反対になってしまった彼の口調についてはとりあえず、置いといて。


「いやいやー、ただどういう布陣にしようかと思って!私とバルルークさんが前衛なのは決まりだけど、他はどうしようかと。後衛は癒し手の公爵令嬢を入れるとして、中衛には元魔王とか入れられるかなーって」


「…そろそろ、名前を呼んでやってもいいのでは?」


公爵令嬢の名前は特別な人しか呼べないんだってさ!元魔王が言ってたから、私の中では未だに『公爵令嬢』だ。ときどき、彼女が名前を呼んでほしそうにこっちを見てるときがあるけど、メンドクサイ面々がいるから遠慮しとく。


「ところで、何の布陣ですか?毎月恒例の魔王の座を掛けたバトルロワイヤルは終わったばかりですし、この国を狙う国との戦いはないはず…」


「あー…女神に宣戦布告されてね」


「……は?」


「何でも、『大好きな乙女ゲームのその後を見るために造ったのに、ジャマしてぇぇぇぇぇぇ!!』って感じで。その内、襲撃でもあるんじゃない?」


「ばっ…」


「でもさあ、神様だったらひょいっとジャマな私を消せそうじゃない?なのにそんなまどろっこしいことするってことは、何か制約があるのかもしれないし。その辺は宰相が調べてくれてんだよね。散々煽って、こちらが勝ったときの報酬をふんだくれって言われた」


なかなか黒いな、魔国うちの宰相。ほしいものと煽り文句を文章化してくれるって言うから、それを憶えるまではきっと私はスパルタな目に遭わされるんだろうな……。


「そうそう。宰相にほしいもの聞かれたから、こっちとあの遊園地を繋ぐ道って答えといた。宰相もほしいものリストに入れといてくれるってさ」


「…………!!」


「なんで、びっくりしてるの?そりゃあ、最初の方は割と本気でアトラクションだと思ってたけど今は違うってわかってるよ」


さすがに、アトラクションのために国を作ったりはしないだろうし。魔法は手品とかじゃなくて当たると痛いし、剣も本物だった。出逢う人たちだって役じゃなくて、本当にリアルだ。

まさかの異世界召喚に気付いたのがずいぶん経ってからで、おかげで驚くタイミングを逃したけどまあ些末だよね。


「ここに…戻って来てくれるのか」


あぁ、そうか。彼はそこにびっくりしてたのか。


「そりゃ、突然舞い込んだ王様業だけどさ。途中では放り出さないよ」


「そうか……」


ホッとした表情の彼。でも、そこにホッとしてていいのかぁ~?


「ふーん。意外にも愛国心でも出て来たの?」


「そうかもしれない、です」

「そっか。さみしいなぁ~私は王様業より、みんなと会えなくなるのがさみしくて、女神をどついて世界を繋いでもらおうとしてるのにぃ~」


途中で放り出すのがイヤっていうのは本当だけど、そっちも本心なんだよね。

本音で語りつつニマニマしながら見守っていると、顔を赤らめたイケメンお兄さんが喜んでいいのか悲しんでいいのか迷ったような複雑な表情を浮かべていた。


「そ、そうですね。みんなも、さみしがりますから…」

「みんなってことは、あなたも?」


「お、俺!?」


慣れてない丁寧な言葉遣いに戻った彼に速攻で畳みかければ、目を白黒させて言葉に詰まった。


「何よ、もしかして大してさみしくないって言うわけ?」


「いいい、いや。そうじゃなくて」


正直、微妙な反応だと思うけど、何というか単純に恥ずかしがっているってことがわかるんだよね。


「まあ、良いけど。私はバルルークさんがいないとさみしいから、絶対に女神をぶっ飛ばすからね!」


素直にそう付け加えれば、彼は顔を更に赤くして挙動不審になった。目元を赤らめたちょっとうれしそうな顔がキュートです。


「お、俺も…」

「あっ、もちろん。みんなと会えないってなるのもさみしいよ!!」

「……………」


ありゃ?黙っちゃった。タイミングが悪かったね。


それにしても、ミニゲームに登場してた騎士団長・バルルークその人と王と王配(仮)になるとは思わなかったけど…。騎士団長なんてりっぱな地位にいた人なのに、なんでこんなに可愛いのか。ゲーム画面上の爽やかな笑顔しか知らないから、困る。本当に困るよ!!


なんでバルルートの攻略ルートがなかったんだよ、公式!!そっちで落とせたら、こっちでもちゃんと落とせたってのに。たぶん嫌われてないとは思うけど、からかい過ぎると拗ねるし…あんまり何もないと年が離れた友だちだとか、亡命仲間とか、戦友とか、上司部下くらいにか思われなさそうだし、でもどこまで踏み込んだら女として意識してもらえるのかわからない。それに、やっぱり可愛いからついついからかっちゃったり。


「うーん。意外にも攻略難易度は高いと見た!」


「…それは、相手が女神だからでしょう」


そっちの話じゃないけど、今はまあいいか。どのみち、女神との戦いは避けて通れないみたいだし、まあ気ままにやってみようかな。


…女神攻略戦より難易度が高そうなのは気にしないでおこう。そうしよう。

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