EP1 出会い①。
新シリーズに挑戦します。
今作は、1部終了時に完結の形を取ります。
「なんで?なんで?なんでなの?」
少女は呪文のように繰り返しながら、森の中を走っていた。
少女を追う影。複数の狼が追走していた。
道はない。
時折立ち止まり、左右を、進む方向を確認する。
オオカミとの距離は、詰まる一方だ。
もうだめ・・・走り続ける少女は、大きな樹の幹の裏側に隠れる。
少女一人隠れるには、十分すぎるほど大きなの樹。
両手で口を押え息を殺す。
目を固くつぶり、見つからないことを祈る。
かさ・・・・
落ち葉を踏みつける音がする。
少女は薄目を開けた。囲まれている。
ほんの数時間前まで、友人と山に遊びに来ていた。
湖の湖畔でバーベキューをやる準備に追われ、忙しく動いていた。
枯れ枝を拾おうとしたとき、後ろに黒い空間が現れ、あっという間に黒い空間に飲み込まれた。
気が付いた時は、この森に居た。
森は、自分の居た世界ではない事に、すぐに気が付く。
見たことの無い花。ただの花ではない。喋る花。
そして、少女に襲い掛かろうとしているオオカミは首が3つある。
「嫌だ。こんなところで、訳も分からず死にたくない」
少女の願いを、オオカミは聞いてはくれそうにない。
口からヨダレを垂らし、襲い掛かる気、満々だ。
「どうする?どうすれば・・・」
残された僅かな時間を、少女は助かる術を考える時間に充てる。
「戦う・・戦うしかない」
唇をかみしめ、目を見開き、オオカミに対峙する覚悟を決めた。
右手が何かに当る。
木の棒だ。
「神の恵み。私に生きろとの啓示だ」
少女は幹の陰から出る。
7頭。首が全部で21のオオカミに囲まれていた。
少女の覚悟。気迫はオオカミに伝わる。
前に掛かっていた体重は、若干、後ろに戻る。
「さぁ、こい。JKの肉、楽には食わせない」
少女は気丈にも、半歩前に出た。
が、オオカミは引かない。いったんは気迫に押されたが、本能が訴える。
「美味しい餌だ」と。
1頭が、少女の後ろ、死角へ回り込み、飛びかかってきた。
少女は、その気配に振り向く。
オオカミが空中で、もがいている。
・・・違う。掴まれているのだ。
大きな腕が、幹の陰から延び、3つある頭の、真ん中を鷲掴みにしている。
「キャン!」
真ん中の頭が握りつぶされた。
凄い力・・・・
幹の陰から出て来たのも、オオカミだ。
2mはある狼。後ろ足で立ち、服を着たデカい狼。
「ダメだ・・・・私、死ぬ」
少女は、その顔を見上げると、悟った。これは助からないと。
「もう大丈夫だ。頑張ったな。偉いぞ」
狼の大きな手は、少女の頭を撫でる。
そして、手を狼たちに向け、何にかを呟く。
!?狼たちは石に成った。
「これは魔法。石化魔法だ」
(・・・驚くもんか。花が喋るし、首が3つある狼も居る。服を着て喋って、魔法をつか・・・)
少女の意識は飛んだ。
「いいにおい・・・・」
自分が寝ていることが分かる。
鼻歌と小気味のいい包丁の音。トントントントン、このリズムが、また眠りへと引き込もうとする。が・・・睡魔に食い気が勝った。
少女は飛び起きる。
「ここは?木のベット。木の壁。木のテーブルに椅子。・・・・・山小屋。だよね」
少女はベットから降りると、あたりを見回す。
「夢・・か。だよね。あ、あはははは。夢だ夢」
「お?起きたか?」
ブリキ人形のような動きで、首が声の方向を向く。
夢じゃなかった。エプロン付けたオオカミが料理してた。
「腹減ったろ。今できるからな。先にこれをテーブルに運んでくれるか?」
お皿が2枚。料理が乗っていた。
目玉焼きに、オムレツ。スクランブルエッグにゆで卵。
蛇かお前?
少女は皿をテーブルに運ぶ。対面に並ぶフォークとナイフ。
少女は、皿をそれぞれの適切な位置に置く。
「すまんな。俺はこれしか料理が出来んが、後で出来る娘が来るから、明日は真面なものが食えるぞ」
エプロンを付けたオオカミは、2つのカップを持って来た。卵スープだ。
少女は、座れと即され、椅子に掛けた。
いいにおい・・・・バターの香りが食欲をそそる。
「まずは食え。聞きたいことはそれからだ」
御意。確かにそうだ。今は食べる。
少女は、オムレツを口にした。
!!!美味しい!
結構みっともなく、料理に食らいつく。皿を手に持ち口を当て、フォークで掻っ込む。
変な世界に来て、バーベキューを食べ損ねたばかりか、オオカミ相手に激走。お腹も減る。
「うまそうに食いやがるな。これも食うか?」
オオカミは、手つかずの自分の皿を差し出す。
「遠慮なんかするなよ」
ごちです。頂き。玉子って、こんなに美味しいんだ。
最後にスープを飲む。大分落ち着いた。
「お前は、この世界で言う、迷い人。他の世界からの転移者と言う事になる」
分かっていた。たぶんそうではないか・・・と。
「帰る方法って・・・」
少女は、淡い期待を胸に問う。
「確立した手段はない。が、ゼロではない」
だよね‥。うん、覚悟してた。帰れないは、お約束。
「毎年2人前後が、この世界に迷い人として転移してくる。そして、数10年に1人の割合で、突然消える。帰れたのかは分からないが、1件だけ報告がある」
???
「戻って、戻ってきた奴の話だ」
「それって、1回戻ったのに、また来ちゃった、と言う事?」
「ああ。そうだ。そいつが言うにはな、前の世界から消えた瞬間に戻るらしい。つまり、ここで何十年過ごそうと、戻るときは、前の世界の消えた時間。穴に引き込まれる直前、と言う事だ」
それって、結構嬉しい希望だ。
「真偽のほどは分からないが、迷い人は、おおむね年を取らん。あながちガセではないと思う」
ここで私は「ハッ!」とした。お礼を言っていない。
助けてもらい、こうして食事までご馳走に成っている。
「あの、ありがとうございます」
突然、会話の流れを無視した謝礼。
「気にするな」
狼の顔は、やさしく微笑む。
「次に大事な事だ。自己紹介だ。俺はマックス。見た目通り、獣人だ」
握った手で、親指を立て自分に向けた。
「私は・・・私・・・あれ?名前が思い出せない」
少女はパニックに成る。自分の名前が思い出せない。名前だけではない。親の顔、友人の顔、学校の名前・・・。
「落ち着け。迷い人が記憶をなくすというのは、珍しい話ではない」
マックスは立ち上がり、少女の肩を抑える。
「私・・・誰?」
少女はマックスに、落ち着くよう即される。
「迷い人には2通りある。何かを失い、何かを得る者と、何も失わず、何も得ない者。
殆どは後者だが、稀に前者が居る。お前は、得た者。魔導士・・と言う事だ」
魔導士?
「魔法使いとも言うが、迷い人の魔導士は、強力な魔法を身に着けるケースが多い」
私が?魔法を?
「さっきのオオカミを石に変えたような?」
マックスは頷いた。
「まぁ、色々覚えなくてはないこともある。だが今、最優先でやることは、風呂に入ることだ」
「お、お風呂?」
少女としては聞きたいことが沢山ある。最優先が風呂と言うのは・・・。
「さっき、お前を見つけた時、撫でたろう。あれな、トリプルヘッドを握りつぶした手だった。白い髪が真っ赤だ」
オオカミの頭を握りつぶした、あの手か?あの手で撫でたのか?
「風呂で洗い流してこい。俺が流してやってもいいぞ」
目がやらしい。
「俺は獣人だ。人間の裸なんか見ても、何も思わん」
・・まぁ、確かに。犬にスカートの中を覗かれても気にはならない。
「どうだ?一緒の入るか?隅々まで流してやるぞ」
気にはならないが、魂が拒否っている気がした。
1話が5000文字程度に慣れていたせいで、半分だと、なんか感覚が・・・。
でも、2000文字ぐらいの方が、読みやすいかな?