8話
昨日まで空き地だったトコに、昔話に出てきそうな建物ができてた。
何かなぁって、ちょっと離れたところから見てたら、カラカラって音を立てながら引き戸が開いて、中から立て看板を持った人が出てきた。
青い和服に、紺色のちょっと長い腰エプロン?ていうのかな、そんな格好の男の人。
看板を置いて、中に戻ろうとした男の人の足元から、白い何かがシュルンと出てきた、
「あ、こらっ!」
「ニャー」
あ、ニャンコ。
真っ白でモフモフしてて、かわいーっ!
「外に出ちゃダメだって言われてるだろ?」
「ニャー、ニーニャー。」
「内緒にしとけ、って、ヤダよ、バレたらオレが怒られるじゃん。」
「……ニャー。」
「ケチー、って、あのねぇ、にゃーさん。」
えっ? なに?
ニャンコと会話してるの?
男の人は、ヨイショと屈んで、更にニャンコに話しかける。
「にゃーさん、水キライだろ?」
「にゃ。」
「水どころか、シャンプータオルからも逃げ回るだろ?」
「にゃ。」
「外に出ても汚れなきゃいいけど、どこで泥パックしてきたんだ、ってくらい黒くなって帰ってくるから、ダメ!」
「…………ニャ。」
「はいはい、外出るのガマンするかわりにおやつね。りょうかーい。」
白いニャンコを抱き上げ、男の人は建物の中に入って行った。
ホントに会話してるみたいだったけど、まさかね。
あ、そう言えばあの人、何か看板置いてったよね。
ちょっと見てみようと思って、看板に近付く。
『特殊能力、取り扱っております。』
キレイな木目の看板に、キレイな筆文字。
なのに、書いてあるコトはイミフ。
なに? 特殊能力取り扱ってます、って。
特殊能力っていうと……キノコ食べると巨大化したり、自分の分身が現れて未知の敵と戦ったり、動物と話し……
「それかっ!」
「どれっ!?」
思わず出た叫びに、まさかのレスポンス。
振り返ると、さっきの男の人が、竹ぼうきを手に、お店の前に立っていた。
「あ、すみません。勝手に看板見ちゃって。」
「全然構いませんよ。」
笑顔で言われて、ホッと安心する。
和服なんか着てるから、古風で小難しい人かも、って思ったけど、優しそうだなぁ。
若そうだし、イケメン……いや、うん、平凡だけど、整った顔してるし。
「ところで、なにが、『それかっ!』なんですか?」
「えっ?」
「いや、さっき看板見ながら……」
「看板……ああ、特殊能力取り扱ってます、って書いてあるから、どんなのだろうって。さっき、ニャンコと話してましたよね? で、特殊能力ってそれかっ!って。」
「ああ、なるほど。」
「動物と話せる能力なんですか?」
「話せるっていうか……」
「心を読む能力ですよ。」
どこからか、女の人の声が聞こえてきた。
キョロキョロしてると、男の人の後ろから声の主が姿を見せた。
淡いピンク色の着物に、エプロンドレスをつけた女の人。
ニッコリ微笑み、サラリと揺れるまっすぐな黒髪。
やばっ! なにこの人、めっちゃ可愛いんですけどっ!
「他にも色々な特殊能力がありますよ。良かったらお立ち寄りください。」
わっ……何か不思議な色合いの目……
光の加減なのか、いろんな色に見える。
「お立ち寄りください、って、まだ開店の時間じゃ……」
「お客様をお待たせしたら、悪いじゃないですか。」
「オレん時は、アッサリ追い返したくせに。」
「あの時は、私1人でしたから。今は頼れるパートナーさんが、開店準備してくれるでしょ?」
「便利な小間使いの間違いじゃね? ま、ここは閑奈さんの店だから、どうぞご自由に。」
閑奈さんと呼ばれた女の人は、男の人が差し出した手に、持っていたのれんを渡し、こっちを向いてニコッと笑った。
「特殊能力取扱店『あやしや』へようこそ。どうぞごゆっくりご覧になってください。あ、幸運を呼ぶ、ケサランパサランもいるんですよー。」