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古民家のエプロンドレス  作者: にしじま
2/8

2話

 オレんちの斜向かいに、突如現れた古民家風の建物。

 さっきは裏にして置かれていた看板が、道路側に向きを変えていた。

 

 『特殊能力、取り扱っております。』


 間違いなくそう書いてある。

 彼女が見せたあの奇妙な現象。

 撒いた水が柄杓に戻っていったアレ。

 アレもこの特殊能力とやらに違いない。

 時間を操る能力とか、物の動きを操る能力とか、そんな感じのヤツ。

 それを取り扱っている、ってことは、売ってるってことだろ?

 買えるモンなら、手にしてみたい、特殊能力!

 と、意気込んで店の前に立つ。

 オレがいなくなった後に出したのか、それともオレが気付かなかっただけか、引き戸の上のほうに暖簾がつるされていた。

 紫の布に、白い筆文字で書かれた漢字2文字。


 妖屋


 あやしや……?

 店の名前なんだろうけど、一気に胡散臭く思えてきて、扉に伸びかけた手が止まる。

 と、


カラカラカラ


 「!」

 全く手を触れていないのに、引き戸が勝手に開いた。

 これも特殊能力の1つか?

 警戒しつつ、そっと中を覗いてみるが、暗くてよく見えない。

 覚悟を決めて、足を踏み入れる。

 薄暗く、外から見た印象とさほど変わらない店内。

 2歩3歩とゆっくり進むと、


カラカラカラ


 勝手に閉まる引き戸。

 この店、やっぱり普通じゃな──

 「自動ドアですよ、それ。」

 突然声をかけられ、ビクッとなる。

 振り返ると、少し明るくなった店内に、朝方出会った女性が立っていた。

 「自動ドアです。」

 「ですよね。」

 何で2度言うんだよっ!

 そうですね、自動ドアですね、至って普通!

 でもさ、古民家風の引き戸が自動ドアってちょっと違和感だよね?

 雰囲気にのまれて、不思議な力で戸が開いた、なんて勘違いして、大赤面。

 幸いにも、光源は要所要所に置かれた行灯のほのかな明かりだから、顔色はバレてないハズ。

 「行灯、いいですね。お店の雰囲気にピッタリで。」

 「まあ、ありがとうございます。」

 「炎がゆらめく感じ、情緒ありますよね。人工物にはない、自然の物にしか作り出せない独特の感じがまたいいですよね。」

 「そうですねー。でもこれ、火は使ってないんです。」

 「えっ?」

 「私、おっちょこちょいなところがあるので、実際に火を灯すのが怖くて。灯火風のLEDを使用しているんですが、よく再現できてますよねー、これ。」

 「ッッ──!」

 赤っ恥第2弾!

 LEDかよっ! 思いっきり人工物じゃねぇのかよっ!

 情緒とかほざいてた自分、滅びろっ!

 「え、LEDですか。火事の心配もないし、エコでいいですね。」

 「はいっ! 電気代が格段に違って、とってもエコですっ!」

 オレが言わんとしたエコと、彼女の言うエコ、多分違う言葉だけど、スルーした。

 さっきみたいに、話題を核心に持って行かせない作戦かも知れないからな。

 はぐらかされる前に用件を告げようとした矢先、

 「やだ、私ったら、お客様にご挨拶もしないうちから話し込んでしまって!」

 言いながら彼女はエプロンのポケットを探る。

 「あ、あれ? 名刺、どのポッケだったっけ?」

 腰の辺りの左右のポケットから始まり、左胸のポケット、エプロンの裾をペラッとまくり上げると、そこにも小さなポケットが数個……って、どんだけあるんだよ、ポケット!

 水まきをしていて、人にかけそうになったり、火が怖いからとLED使ったり、名刺を探してあたふたしたり……

 出会った時、いろんな表情を見せられて戸惑ったけど、素の彼女はこれなんだろうな。

 キャラも見た目も何だかかわいらしい。

 「あ、袂に入ってました。」

 和柄の布製の名刺入れを両手で持ち、少し照れたように微笑む様子、うん、やっぱかわいい……

 「ようこそお越しくださいました。私はこういう者です。」

 渡された名刺に目を落とす。


   特殊能力取扱店   

     妖 屋

    店主  妖屋 閑奈


 「お気軽に『かんな』とお呼びください。」

 「か、かんな、さん……ですか。」

 初対面、まあ、さっき会ってるけど、ほぼ初対面の女の人を下の名前で呼ぶって、なんかハズいな……

 なんて思っていると、

 「さて、本日はどのような特殊能力をお求めですか?」

いきなり核心に切り込まれ、我に返ると同時に、今度はこちらがあたふたしてしまう。

 「えっ、ちょ……ちょっと待ってください。いいんですか、言っちゃって? 特殊能力なんて、そんなスゴイ物扱ってる店だってバレたらヤバいんじゃないんですかっ?」

 あまりにあっさりと、特殊能力あります宣言され、興奮気味にまくし立てるオレを見て、妖屋店主の閑奈さんは目をパチパチさせていたが、やがて着物の袖で口元を隠し、クスクスと笑い出した。

 「不思議なことを言うんですね。ここは『お店』。取り扱っているのは『特殊能力』。いわば『商品』です。宣伝こそすれ、秘密にしたり、隠したりするわけがありません。バレて困るどころか、バレてなんぼ。アポなし取材、全国放送のテレビ取材、ドンとこいっ!です。」

 親指と人差し指でマルを作って、微笑んで見せる閑奈さん。

 灯火風LED使用の行灯に照らされたその目は黄金色に輝き、¥や$のマークさえ浮かんで見えそうな雰囲気だ。

 「で、でも、さっきは誤魔化そうとしてませんでしたか?」

 「さっき、ですか?」

 「錯覚だの、ラッキーデーだのって、オレを店から遠ざけようと──」

 「ああ、その節は失礼しました。まだ開店準備が整っていなかったので。」

 「……それだけ?」

 「はい。」

 くるっくる、くるっくる、振り回されっぱなしだなぁ、おいっ!

 いやまあ、勝手に勘ぐっただけですけどね?

 振り回されてる、ってか、勝手に空回ってるだけですけどねっ?

 顔からどころか、全身から火が出そうなほど恥じ入っていることなど全く気付いていない様子で、閑奈さんはにこやかに訊ねてきた。

 「ご希望の特殊能力はございますか?」

 「今までの一連のやりとりをリセットできる能力があれば、それを……」

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