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ドリームナイト~囚われのキミへ~

ドリームナイト2~私の名前は~

作者: 一ノ元健茶樓

 




 家に帰って、時計を見ると夜8時だった。

 お母さんはまだ仕事みたい。

 私は母子家庭で兄弟も居ない。

 家には1人だけだった。

 山手にあるマンションなので、家の周りに人は少ない。

 誰にも見られてなかっただろうか。と少し考えた。


 こんな事は初めてで自分でも驚いて。。。

 自分の部屋に入ってすぐに腰が砕けた。

 ドアにもたれて上を向いた。

 天井が滲んでいる。

 泣いてるんだ、私。


 何もしないで、引きこもって、夢の中で友達作って、その友達すら居なくなって、怖い夢見て、私、寝てるのに外に飛び出して、、、こんな、、、私。


 自分でも聞いたことが無いような声と共に、涙が目から溢れて溢れて溢れて止まらない。

 死ぬまで泣き続けるんだ。私はもう死んだ方がお母さんの為なのかもしれない。

 私は立ち上がり歩いてベランダに出た。

 滲む視界に、赤い点滅がぼやっと見えた。


 ベランダの手すりに足を無理矢理上げて

 力を入れて身体を浮かせた。

 手すりに跨った。

 また涙が溢れてきて大変だった。

 声を殺して私は手すりから飛び降りた。


 ベランダの方へ。


 部屋に入り窓を閉めて、布団に潜り枕を被って

 力と気持ちの限り叫んだ。


 そして泣いた。

 泣きたく無くても涙が止まらない。


 気がついたら窓から光が射し込んでいた。

 また寝てしまっていたのかもしれない。

 夢は見なかった。


 カーテンもしてなかったので部屋は明るい。

 時計を見ると朝の6時だ。

 ベットから起き窓の方へと歩いた。

 痛い。

 足の裏がヒリヒリと傷んだ。


 夢じゃ、、、なかったんだ。


 窓から外を見た。

 空と雲と太陽の光が最高のバランスで世界に広がっていた。

 朝日の光が私と世界を照らしている。


 少しまどろんでいた意識がしっかりとしていく。


 私はリビングへ行った。


 部屋の電気とテレビがつけっぱなしだ。

 朝のニュースを放送してる。

 テーブルには、お母さんが食べた晩御飯の食器がそのままになっている。ビールは2本。

 ソファで寝てるお母さん。

 疲れてるだろうけど起こした。


「う、ううん、、、ま、、まだ、、、もう少し、、、」


 もう少し、なんなんだろう?と思ったけど

 もっと強く揺すりながら大きな声で


 「火事だーーーっ!」


 と叫んだ。


 お母さんは飛び起きて、うわああああ!と、叫んで

 私の方を見たと思ったら急に抱きしめて


「びっくりしたなぁ...もう...」


 と呟いた。

 頭をポリポリかきながらソファから立ち上がろうとするお母さんに私は言った。


「今日...学校に行こうと思うの...」


 お母さんは、中腰のまま無言で、瞳孔を見開いて私の方を見て固まっている。

 そして急にバッと動いて私を苦しいくらい抱きしめた。


「く、苦しい...」


 と言っても、お母さんは何も言わない。


 泣いてるみたいだったので私はただお母さんを抱きしめ返した。

「ほんとにいいの?」と聞いてきたので「うん」とだけ答えた。


 お母さんは、また急に動いて台所の方へ走って行った。


「うわ!6:30!?お弁当何作ろ?!間に合うかしら?!のぞみはシャワー浴びて学校行く準備しようか?」


「お、お弁当はべつに...」


「はーやーくー!時間無いよ!!朝ごはんも作るからしっかり食べて行ってほしいな!」


 私は「はい!」と大きく返事をしてシャワーへと向かった。


 朝ゴハンは

 味噌汁に、焼き鮭に、お漬け物の和食、、、と思わせといて

 真ん中にはドーーーンとハンバーグが陣取っている。


 焼き鮭、あるのに?

 いや、朝からハンバーグ?


「はい!これお弁当!間に合ったァ!!」


 と満面の笑みで天高くお弁当を掲げている。


 私はそれを見て、ありがとう。って言って笑った。

 お母さんは私の顔を覗き込み


「のぞみ、なんか変わったね。何かあったの?」


「何でもないよ...」


「何でもないのに急に学校へ行くって言う?」


 私は説明したくても、どこから話せば良いか分からなくなって黙り込んでしまった。


「まぁいいわ。のぞみが前へ行こうって気持ち、お母さん応援するからね!あ!もう時間じゃない?!はいこれお弁当!学校へは電話しとくし何も考えず堂々と行っていいからね!何かあったら先生か私に言いなよ...あとは、えー...」


 私はハンバーグの最後の1切れを口に放り込んで、お弁当をカバンに入れて急いで玄関に向かった。


「行ってきますっ!」


「行ってらっしゃい!」


 いつぶりだろ。このやり取り。


 外に出た。

 空は朝焼けから、涼しい青に変わっていた。


 季節は5月。


 まだ、春だ。


 学校へは徒歩で20分、少し離れている。

 歩いていると同じ制服を来た子達が何人もいた。

 馴染みのない景色。私もこの中の1人になるんだ。

 今日こそ。


 私は学校の少し手前まで来て横道に入った。

 車1台くらいなら通れそうだ。

 その細めの通路の隅っこに飛び出た壁のようなものがあり

 何故かそこに隠れるよう身を隠し、学校に吸い込まれて行く生徒達の流れを眺めていた。


 や、、やっぱり、無理、かも。。帰ろう、かな?私には無理かも。


 そんな事を本気で考えると、何故か鞄の中のお弁当が重くなったような気がした。

 学校のチャイムが鳴った。外に生徒は居ない。


 私はただそこに居て、帰る事も学校へ行く事も出来ないまま足がすくんでいた。


 やっぱり無理だ、帰ろう。

 そう思って後ろを向いて歩こうとした時だ、道の反対側にある電信柱の所に、人が居るのが見えた。

 ちょうどその相手も私を見て驚いているようだった。


 そして次の瞬間

 私たちはお互いに駆け寄り、抱き合った。


「のぞみん!」

「キミちゃん!」


 私たちは、泣きながら道の真ん中で抱き合っていた。


 私たちは現実の世界の事をお互いに深く話した事は無かった。

 夢の中の世界では不思議な事や、楽しい事が沢山あったので、仲良くなるには現実なんて不必要なものだった。


 私と同じくキミちゃんも不登校だったらしい。

 私たちは、近くの公園に場所を移し現状を報告し合った。

 ずっと休み続けていたけど今日の朝、お母さんに学校へ行くと言った事、母子家庭だということ、でも学校には入れなくて困っていた事、、、全てが同じだった。

 あ、でも朝ごはんにハンバーグは出てこなかったみたい。

 急にキミちゃんが何かを思い出したように立ち上がり叫んだ。


「あっ!ねぇ!お母さん学校に電話しとくって言ってなかった?!」


 言ってた!私もその事を急に思い出し、飛ぶようにベンチから立ち上がった。


 そしてキミちゃんの手をとって走った。

 学校に、行くんだ!


 学校に着いたら先生に少し注意されたけど二限目の授業からクラスに紛れ込んだ。少し悪目立ちしてたけど平気だった。

 だって隣の席にはキミちゃんが居たから。。。



 その日の夜、眠ると夢を見た。



 私は何だか意識が朦朧としていた。

 誰かが私を呼んでいる。

 あ、キミちゃんの声だ...


「...み...ぞみ...のぞみ...のぞみん!!!」


 キミちゃん、泣いてる?!

 私は目を見開いて飛び起きた!

 すると私の頭とキミちゃんの頭がぶつかってめちゃくちゃ痛かった。


「ご、ごめん、キミちゃん...痛かっ...」


 言う前にキミちゃんが、私の身体に覆いかぶさって来た。

 よく見ると私のマンションから続く坂道の下に居た。

 私はここで気を失っていたようだ。

 そばには剣と盾が置いてあった。

 抱きついているキミちゃんが、顔を上げて私を見る。


 キミちゃんが気づくと私がここに倒れて居るのを発見して、何をしても起きなかったので心配したそうだ。

 でも急に起き上がって来て、頭突きしたらしい。

 めちゃくちゃ痛かったけど、嬉しくてそれどころじゃなかったって言いながら、キミちゃんは笑いながら泣いていた。


 私はあの時と同じ場所に居る。

 ここで光の鳥と出会った事をキミちゃんに話した。

 するとキミちゃんも会ったのだと言う。

 遠い空の上で寝ている所を起されたのだそうだ。


 私と違うところは

 光の鳥に小さな宝石がはめ込まれたブローチを受けとっていた所だった。

 光の鳥はキミちゃんに、こう伝えたらしい。


「あなたとあなたの闇を照らし祓う者、その者と見定めし時、そのブローチを二人で天に掲げなさい。さすれば真実に辿り着く事が出来るでしょう貴方達の...」


 そう言うと空のまだ上の空へと消えて行ったらしい。


 そしてキミちゃんも

 この場所にブローチを握って寝てたらしくて起きたら私が隣に寝てたらしい。


 そして今に至るという。


「のぞみん...今朝、私...あな...」


 急に大きな鳥の鳴き声が辺りに響く。

 私とキミちゃんは空を見上げた。

 すると急に辺りが目を開けてられないくらい明るくなった。

 少しづつ目を開くと、あの魔城のサーチライトが私たちに向かって照らされている。

 そして空には無数、悪魔の手下と怪鳥に乗ったアイツが居た。

 大きな槍を手に持って笑っている。


「お前達はダメだ!二人で何をやったって何も変わりはしない。だから俺がお前達をこの槍で貫いて動かないようにしてやる。何も考えず悩まず楽になれるぞ?それを望んで居たんだろう?今更、そんなのは嫌だ。なんて言わないよなぁ?」


 そう。私は願った事がある。

 悪魔でも何でも良いので私を殺して欲しい。と。

 何も出来なくて何もしたくなくて。

 誰にも迷惑をかけたくなくて。心配されたくなくて。

 愛されたくなくて。


 願った事がある。


 こんな夢を見てるのは私のせいだ。


「ごめんね」と私はキミちゃんの方を見ないで呟いた。

 キミちゃんも「ごめん」と呟いた。


 私たちは手を繋いだ。

 二人の手を繋いだその中にはあのブローチがある。

 手を頭上に掲げて私とキミちゃんは

 大きな声で悪魔に向かって叫んだ。


「ごめんなさい!!」

「ごめんなさい!!」


 私たちは二人とも驚いた顔でお互いの顔を見た。


 それから笑ってこう続けた。


「「わがままだけど!あの時のお願いは取り消します!」」


「「私たちは、生きることにしました。悪魔さん。ごめんなさい」」


「「私たちは1人じゃなくなった!二人なの!!」」


「「友達!初めての!...」」


 私たちは手に力を込めて息を揃えた。


「「ホォォォォプッ」」

「「ステエェェェプッ!!」」


 そして

 一気に前へと走り、止まって腰を低くして足に力込めて...



「「ジャアァァァァァァンプッ!!!!」」


 私たちの気持ちは一緒だった。

 だけど何もしないでここまで揃う事はないだろう。

 私たちの胸には、お互いの気持ちが伝わって来ていた。

 心臓の音、鼓動、血液の流れ、熱さ、心の振動、気持ちの揺らめき、思考...。

 手を繋いでいると二人なのに1人みたいだった。


 気づくと私は私だった。

 のぞみんでも、キミちゃんでも無い本当の私。


 私は1人の身体に戻っていた。

 本当の現実の私自身。


 私は綺麗なドレスを来て天使のような大きな羽が背中から生えていた。

 胸にはあのブローチが。


 私の名前は山下 美穂。13歳。

 のぞみちゃんと、喜美乃ちゃんは私が心の中に作り出した

 私の分身のようなもの。

 性格を分けて私は私の気持ちを整理する。


 2人の気持ちが1つになる時、私は前へ進めるの。

 私は私の1人では抱えきれない考えきれない気持ちを二人に分けた。私自身を二人に。

 それは絶対に必要な事だった。

 押し潰されそうな気持ちを助けてくれる人が必要だった。

 自己防衛の1つだ。


 不登校なのは私。

 人見知りで気持ちを上手く整理出来ない体質だから

 中学に上がる知らない人が増えて周りに馴染めなくて

 学校に行くのが怖くなってしまった。

 居心地が悪かった。

 私の気持ちは死んでいた。

 1人は寂しかった。

 でも認めたく無かった現実を。

 だから私はもう1人の自分と友達を作り上げた。


 現実を忘れる設定を自分で決めて

 それを忠実に守りながら夢を見た。


 もう、夢なのか現実なのか分からない。


 でも私はまた1人になれた。

 本当の自分に。


 のぞみちゃん

 喜美乃ちゃん


 本当にありがとう。

 ここから、また1人で歩いて行くわ。

 ううん、この大きな羽で飛んでみせる。


 現実という大きな空へ。

 なにも無い、自由な空へ。


「その為に...」


 私の手には光り輝く大きな弓があった。

 矢は1本。


 それをあの悪魔に向かって私は放った。


 無数に居る悪魔の手下は弓が横を通り過ぎるだけで消えて行った。そして、矢は、あの怪鳥に乗った悪魔の胸に突き刺さる。

 アイツは悶え苦しみながら消えて行く。

 しかし。

 消える直前、あの黒く長い槍を凄い速さで私に投げて来た。


 けれど、私はそれを手で掴み取り空へと放った。


 遠くに見える海の水平線から光が現れる。

 朝日だった。

 夜は、明けたのだ。


 私は目を覚ました。

 目覚ましはまだ鳴っていない。


 お母さんは部屋でまだ寝てるみたい。

 コーヒーを入れて部屋に戻り、ベランダに出て

 朝日と街を眺めながらコーヒーを1口飲んだ。


「...おいしぃ...」


 私は微笑んで、今日からまた生きようと思った。







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