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ラ・ラ・ランド×USA×反原発デモ×コーヒー×フットボール

作者: 未来

 陽光ふりそそぐ並木道、パステルカラーのカーディガンを羽織り、颯爽と歩く女がいた。

 女の足取りは軽く、鼻歌を歌っている。どうやら、公開したばかりのミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」を観てきたばかりのようだ。


 並木道のベンチには薄汚い爺さんが座っている。「USA」というロゴの入ったグレーの帽子を被っており、足元にはこれまた薄汚れた犬が寝そべっている。


 並木道沿いに小洒落た店がある。白い壁にブルーの屋根。洋風の扉には「カフェ・オードリー」という看板がかかっている。店内ではきざな口ひげを蓄えたマスターが、豆を挽いており、学生風の男がコーヒー片手に本を読んでいる。


 「カフェ・オードリー」の裏手には、遊具のない公園があり、近所の子供たちが4人チームに分かれてサッカーをしている。公園の大きさは、テニスコート1面分ほどで、子供たちは窮屈そうだ。


 並木通りの車道から太鼓の音がする。どうやら反原発のデモ行進が近づいているようだ。「原発、反対!原発、反対!」初老の男性や太った中年のおばさんたちがタスキを掛け、ずんずんと行進している。デモ隊は50人ほどの規模だ。


 「カフェ・オードリー」のマスターが客の学生風の男に話しかけた。

 「南くん、あのデモ隊は、何を目的にしていると思う?」

 南と呼ばれた学生風の男は、読んでいた本をいったん閉じて、コーヒーをすすった。

 「ストレス解消じゃないですか?参加者はたぶん会社や家庭で妻にないがしろにされているおじさんとか、刺激のない退屈な日常に飽きた主婦とかだと思います」

 きざなマスターはうれしそうに笑った。

 「やっぱり南くんは面白いな。わたしもそう思うんだ。原発反対っていう社会的正義のようなものに隠れて、大声出して町の中を歩き回りたいだけなんだ。」

 学生風の男は、目にかかりそうな前髪を手で横に流した。

 「でも、それってすごく健全なことですよね」


 公園でサッカーをしていた子供たちが大通りのデモ隊に気づいた。小学5年のケンジが仲間たちに言った。

 「なんで、あほな大人たちが大通りを使って、俺たちはこんな狭い公園でサッカーしてるんだ?」

 小学4年のユウタがボールを足の裏で止めた。

 「じゃあさ、ボールが飛んでった振りして、あっちでサッカーしようぜ!」

 ユウタが両足を器用に使って軽くボールを浮かせた。

 「それ、ナイスアイディア!」

 ケンジは思い切りボールを蹴り上げた。


 カフェ・オードリーの青い屋根の上をサッカーボールがきれいな軌道を描き通過していく。


2 

 並木道沿いのベンチに座っていた爺さんと犬の頭上をボールが横切った。薄汚れた犬は身を翻し、ボールを追って大通りへと走り出した。犬の縄を手にかけていた薄汚い爺さんも引っ張られて大通りの方へ出て行った。


 デモ隊を率いていた秋山正雄の前に突如として、なぞの爺さんが立ちはだかった。足元には薄汚れた犬がサッカーボールで遊んでいる。副リーダーの山崎豊子がなぞの爺さんに向かって叫ぶ。

 「ちょっと、あんた何なのよ!私たちの邪魔をしないでよ!」

 デモ隊のメンバーが山崎に同調し、なぞの爺さんに向かって罵声を浴びせる。

 秋山は、冷静に爺さんを観察していた。爺さんは「USA」というロゴが入った帽子を被っている。それに気づいた秋山は後ろを振り返りデモ隊に向かって叫んだ。

 「みんな、こいつはトランプの手先だ!」

 秋山の言葉にデモ隊のボルテージは最高潮に達した。普段は閑静な並木道に怒声がこだまする。


 パステルカラーのカーディガンを羽織った映画「ラ・ラ・ランド」帰りの女は大通りの異様な様子に気づいた。見ると、一人の老人と一匹の犬に向かって50人近くの集団が罵声を浴びせている。「ラ・ラ・ランド」帰りの女は見るに見かねて老人と犬を守ろうと大通りへ走った。


 ケンジとユウタほか6名の少年たちは大通りにけりこんだサッカーボールを追って走っていた。

 ケンジが大通りの様子を見て仲間たちに言った。

 「ああ!俺たちのボールは今、犬がキープしてるぞ!しかも、あほな大人たちとにらみ合ってる!」

 ユウタはケンジの横を併走している。

 「とりあえず、ボールを取り返さなきゃな!」

 すると、少年たちの斜め前方からパステルカラーのカーディガンを羽織った女が現れた。女もボールに向かって走っていっている。

 「ケンジ、変な女も俺たちのボールを狙ってるぞ!」

 自分たちの前方を走る女を指差してユウタが言った。


 きざなマスターが窓から大通りの様子を見て笑った。

 「南くん。1人の老人と1匹の犬が50人のデモ隊と対立していて、その間に少年たちを引き連れた若い女性が割って入っていったぞ」

 学生風の男は興味なさ気に再び読みかけていた本に目を落として、つぶやいた。

 「みなさん楽しそうで何よりですね」


 


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