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歴史短編  「視線」 ~趙無恤伝~

作者: 覇王季札

はじめまして、季札と申します。初投稿ですw

昔書いた歴史短編を修正してあげてみました。よければ一読ください。


中国、春秋時代末期、趙の君主、無恤の物語です。

趙の君主、無恤(ぶじゅつ)は、宴席の中央で酒を飲んでいる。

若い頃から酒豪といわれてきた彼は、年老いた今でも豪快に酒を煽る。


彼の手にしている杯は、人の頭蓋骨を加工したものだ。

その頭蓋骨の生前の名前は、智瑶(ちよう)


趙氏の最大のライバルであった智氏の当主である。


無恤の居城である晋陽は、智瑶の水攻めにより陥落寸前まで追い詰められた。智氏が権力で付き従えていた、韓氏と魏氏をこちらの陣営に引きこまねば、骸になっていたのは無恤の方であっただろう。


智瑶とは若い頃から相性が悪く、何かと嫌がらせを受けてきた。

宴席で酒をぶっかけられたこともあった。

「何故、無恤のような男を後継者にしたのか?今からでも廃嫡されては。」と先代の趙主に半ば本気で助言された事もあった。



様々な思いを噛みしめながら、智瑶に逆に酒を注いでやる。

「酒攻めとは、なんと羨ましいことじゃのう。こっちは3年の間、水攻めじゃったからな。」

そう、呟きながら満杯の酒を飲み尽くす。


家臣達には辛抱をさせた。激高して「智瑶切るべしっ!!!」と憤る中「末子の私が後継者になったのは、辱かしめを耐えれると思われてのことである!!先主の思いを無駄にするなっ!!!」と何度叫んだことか。




今となっては、智氏の領土は3家に組み込まれ壊滅。

最大の難所を乗り切った無恤には恐れるものは何もない、はずである。




しかし、智瑶を殺した後も心が収まらないのだ。

長年、修羅場を潜り抜けてきた者が持つ感覚。

まるで誰かに見つめられている様な、そんな思いが消えはしなかった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




壊滅しかかった晋陽では、復旧作業が進められている。

名君と名高い無恤は、住民の慰撫に余念がない。

3年間劣悪な環境下で、半数が死に絶えても支えてくれた民を労わって城内を見回り、時には声をかける。



ちょうど城壁に差し掛かった時……



ぐわっっぅっつ!!!!



と、今までにない強い視線を感じた。

恨み、怨み、殺意、・・・・・。まるでその思いが剣となって身体に突き刺さるかのようだ。



「・・・・そこの、そこの城壁にいる、左官を捕らえて、まいれ。。。。」



かろうじて側近にそう伝えると、無恤はその視線から逃れようと瞳を閉じた。




捕まった刺客は、智瑶に仕えた臣であった。


「士は己を知るものの為に死す。智伯さまはこの俺を国士として温かく迎えたのだ。その仇討ちすることが恩義が篤い亡き智伯さまのための節義である。」


無恤はその言葉、その忠誠心、その情熱、熱き想いを肌で感じた。





そして、その忠誠を哀れんだ。。。。。






その熱い想い、国士、忠義の士としてはふさわしい。

しかし、刺客としては……

残念ながら、その相手を焼き尽くすかのごとき熱い想い、突き刺さるかのごとき鋭き視線を最後の最後で現してしまったのでは大事は為せないであろう。



その怨みを和らげ、塵と等しくし、機を待つ。


わしが、わしがどれだけ、奴を、智瑶への怨みを、奴への殺意を、耐えて、抑えて、押さえて、ここまで来たと思っておるのかっっ!!!!!!




「・・・・そやつの死骸を丁寧に葬ってやれ。真の壮士である」




そう告げた無恤の想いは熱かったのであろうか?それとも塵灰のごとく冷め切っていたのであろうか


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