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プロローグ

 これはひどい雨が降りそうだ――そう、ジンは思った。

 黒い雲が西から流れ込んでおり、遠くに見える西の山が白い靄にかかったかのように見えなくなっている。それが雨であると、誰の目から見ても明白であった。

 食料品を買うためにスーパーまで買い出しに来ていたジンだが、残念なことに傘は持っていない。雨が降ることはラジオで予報していたが、『夕方から夜にかけて』のはずだった。

 現時刻は午後二時過ぎで、黒い雲はだいぶこの街の近くまで来ていた。


「今日の分だけにしておくか」


 雨に濡れることだけは勘弁して欲しいジンである。

 ジンが着ている黒のズボンに灰色のシャツは仕事用の一張羅だった。これが濡れてしまうと、乾くまでの間はアロハシャツで仕事をしなければならなくなる。私服姿で仕事をすることだけは絶対に避けたい。

 その事態を回避するために帰ればいいのだが、ジンの事務所では腹を空かせた狼娘が待っている。手ぶらで帰れば色々な意味で食われるに違いない。

 ならば選ぶべき行動は一つだけだ。急いで買って、急いで帰る。邪魔をする奴は右ストレートで殴ればいい。完璧である。


「よし。決まりだな」


 独り呟いて、ジンは冷凍食品コーナーを進み、マカロニグラタンを四つ手に取る。一つはジンの分だ。残る三つは狼娘が食べる。狼娘は一人だけだが、三人分は食べるので困ったものである。

 これをケチって二つ分だけしか買わなかったりすると、ジンのグラタンが強奪される。抵抗を試みれば、ジンの鳩尾に拳が食い込み、トドメのアッパーが顎を打ち抜くだろう。そして、脳幹を抉るような回し蹴りまでがセットだ。文句なしのオーバーキルである。

 それなりに鍛えてきたジンだが、使うのは肉体よりも頭脳だ。脳まで筋肉になった狼娘とは違うのだ。

 レジスターで商品を通して金を払い、紙袋に商品を放り込む。

 そしてスーパーを出て、ジンは安堵する。まだ雨が降っていなかったからだ。しかし、黒い雲はかなり近いところまで来ていた。あと一時間もしないうちに雨が降るだろう。

 ジンはやれやれと面倒だと言わんばかりの溜め息を零して、歩道を歩いていった。


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