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自然選択説

作者: きつね

僕は大学にいる。四時限目の講義は、今終わったばかり。

入学した頃と比べれば、いくらか自分なりの過ごし方は分かってきたみたい。

ただ、いい大学生なのに、今だに大学生と思われたことが無い。

見た目は未成年、思考は自己中心的…すなわち子供なのだ。

教室の学生達の大半は、年齢の節目を迎えたせいなのか、僕と違い、整った「大人」に成っていた。

外観だけでは無く、雰囲気もそう感じさせてしまう。

それは、自覚によるものなのか、生物のプログラムによるのか、それとも別の何かか。

決まっている。自覚があるから変化するのだ。

分かっている。自覚の無い人間は、老人には成れても大人には成れない。

休み時間、教室で談笑している彼等を、尊敬とも非難とも違う目で、ぼんやりと眺めていた。

五時限目は、生物学だ。


講義開始のチャイムがなる。教授はいつも通り、すぐにはやって来ない。

プリントの束を抱えて、10分以上遅れて来るのは、毎週の事。

教壇についても、今日の資料を整理しながら、昨日の雨は凄かっただとか語っている。

自分はあの時どこにいただとか…くだらない。僕の二つ前の席から、印刷物の束が回ってきた。

体と手を伸ばして受け取り、一枚取って後ろへ。配布物が全員へ回るまでに、数分かかる。

今日の資料に目を落とすと、子供の頃に見た事のある、あの進化を模した図があった。

進化-全ての生物は、太古の昔に海で誕生した。

生物は試行錯誤を繰り返しながら、様々な種を産み出し、やがて魚類が現われる。

その後、両生類、爬虫類を経て、鳥類、哺乳類へと進化する。

その経過の中でも、無視する事が出来ないのはやはり恐竜だろう。

彼等は、僕ら人類が現われるよりも既に……既にプリントが行き届いて、講義が始まっていた…。


講義は、やはりというか、僕には早く終わったように感じた。もう外は薄暗い。

ノートと筆記用具をまとめると、早めに教室を出て、階段を降り、正門へと向かう。

教授の講義は、良い。生物は、常に進化し、選択されながら、今を生きている。

今現在、洗練された機能を持つ者も、将来、新たな種にその地位を奪われることもあるだろう。

正門を出て、商店街を通り、駅へ。空は雲も無く黒いが、商店街は明るく活気付いている。

僕がそばを通り過ぎた、学生数人は、これから飲みなのだろうか、ふざけ合っている。

生存権の争いは、異なる種の間でのみ起こるとは限らない。

ひとつの種から枝分かれが始まってすぐにでも、自然の選択は始まっているのかもしれない。

駅の改札を抜けて、数分の後、電車が流れてきた。中は少し混雑している。

もし…今現在、人間に枝分かれが始まっていたら…。

座席に座っている会社員は、吊り革につかまっている学生は、ドアのそばの青年は、はたして生き残る側の種なのだろうか。僕は…はたして…。

主要駅に着くと、僕と乗客の殆どは、電車を降り、改札口へ流れていく。

僕はそのまま西口の出口へと歩いて行った。

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