八話 自己を思って、泣く。
泣きたくても泣けない時ってあるよね。
一頻り泣いた所で、少し、すっきりした。
思わず顔に擦り付けてしまった毛布は、ちょっと洗わないといけない状態だけど。
少しばかりすっきりした所で、未だに自分が部屋の中に居ることに気付く。
『死んだら人は天国に行く。』
そういうおばあちゃんの言葉を私は信じているわけではないけれど、こうして死んでしまったと心の奥底で納得してしまっている今、何も起きないのは不安で仕方がない。
私は死んでいる。
幾ら死んでいる人が現世に居続けてしまった良いものだろうか?
正直な話、私は幽霊とかお化けとか、そういうたぐいの話はあまり好きではなく、ミステリースポットだとか肝試しとかは極力避けてきた。
幽霊なんて居なければ良い。見たことはないけど、存在くらいは信じても良い。ただ見たくはない。そういう類の人だ。
私の精神。
『コレ』そのものを考える考え方が在る所、それこそが『鈴風 かなた』というモノが居る場所。
私はそういう考え方で生きてきたけれど、こんな状態になると少しばかり事情が変わってくる。
……ま、これからは生きていくというより、死んでいくの方が近いのかな?
泣くのを止め、少しばかり洗面所で顔を洗おう。現状確認も含めて。
水道はなんのタイムラグもなく、正常に私のてのひらへ冷たい水を送り込んでくれた。
予想通りなので、そのまま顔を洗うことにする。非常に冷たい。
夏もそろそろ終わりを迎える時期。暑くてたまらないという時期は過ぎ去って、いつの間にか夜は冷え込む季節になってきている。
鏡を見ればまだ目元が赤い私が居る。
赤いというか、その部分だけやけに色が濃い。
色合いが分からないこの空間じゃあ、目元が赤いかどうかの判断もしづらい。
タオルでゴシゴシと顔を乱暴に拭き、玄関に立つ。
トイレで吐いた時に履いていた靴を、もう一度ゆっくりと履く。
ドアノブを握り、ゆっくりと深呼吸をする。
手に震えはない。
大丈夫。
大丈夫。
まだ、確信はない。
大丈夫。
私は、死んでいる。
大丈夫。
まだ、私は此処に居る。
決心して、ゆっくりと、玄関を開ける。
扉のスキマから、昼前を知らせる太陽が、色と同時に差し込んでくる。
色彩と光に、わざと太陽から目をそらし、瞼をつむりながら足元を見る。
変な音を鳴らして、喉が引っ込むような感覚がする。
外履きがカサリと、草のようなものを踏みつける、感覚と音がする。
よく言われる、胸を指すような痛みが襲って来る。
苦しい。辛い。悲しい。悔しい。
まぶたを開いて、ゆっくりと扉を閉じて、しゃがむ。
献花が三基、ペットボトルと缶ジュースが一本ずつ、ポテチが一つ。
そのどれもが、触れる事が出来て、
飲料はどれもぬるくなりきってしまっていて、
ボテチを置いたのは何処の大学生だとか思って、
ちょっと笑って、
あれだけ泣いたのに、またちょっと扉を背にして、座り込んで泣いた。