一話 起きた。死んだ。
どうやら私は、死んでしまったらしい。
いや、いきなり何を言うんだこの馬鹿はと人は言うのかもしれないが、取り敢えず落ち着いて欲しい。
何も私だって証拠もなくこんな唐突な事は言わない。そうでなければ言いたくもないし思い付きもしない。
まず、落ち着こう。
雨の音でも聴いて、まず落ち着こう。それから身の回りの事を一つずつ確認していこう。
まずは自分の名前から。
『鈴風 かなた』というのが、私の名前だ。だった筈だ。
ここしばらくは風邪をずっと引いていて、自分の名前を呼ばれる事も書いてある書類を見る事もとんとなかったから、我ながら確証はないが。
次に、現在思考しているこの考えが有る場所。
自分のいる場所じゃあない。そんなのは現代科学でどうとでも出来るから、迂闊に信用出来ない。
この思考が認識している場所は、『鈴風 かなた』が一人暮らししているアパートの一室だ。
押し入れと窓がある東側の壁には、だいぶ昔から着ている浴衣が掛かっている。あれは間違いなく私の恥ずかしい部屋着だ。流石に風邪を引いた時には着ないからそろそろ洗わないとダメかもしれない。
部屋の南に行けば廊下と玄関があり、途中の廊下には台所やらシャワールームやら、水場が一同に揃っている。個人的にはそろそろ除湿機を買わないといけないとは思っているが、何分ここ最近は喉を痛めていたので後回しにしていた。お陰でカビが出てきそうだ。
西側の壁は半分が生活スペースで埋まっている。ベッドの上には下着類が隠されもせず吊り下げられて干してあるが、これを友人や家族が見たら何と言うだろう。まず間違いなく『はしたない』は確実に言われる。勘弁していただきたい。これが最も湿度を高めれると思ったんだ。
北向きの大きな窓を見れば先程から雨が降っている。無駄に窓がでかいのは採光上ありがたいが部屋の温度をガンガン奪っていくのは何とかならないものだろうか。あと虫とかもな。網戸あるのにそう簡単に入ってこないで欲しい。
さて、無駄に麻雀に例えて東南西北の順に部屋の様子を説明してみた。これで……何だ、ちょっとは落ち着けたかと思う。
八畳にプラス色々と置ける部屋に、だ。
次、今の私の状態。
先程から言っている通り、風邪を引いている。
相変わらず鼻水は止まらないし、喉の痛みも取れない。深く息を吐けば喘鳴がどうあがいても聴こえてくるというのはどうにかならないものだろうかと考え始めたのはいつだったやら。
手を伸ばせば骨ばった手が見える。前はこの服の袖もキツかった筈なのに、今ではすっかりブカブカになってしまっている。
果たして私はここまでやせ細ってしまっていただろうか。
ベッドから起き上がり、少し歩けばすぐにふらつく。ごほごほと咳き込んでしまう。
幸いにして水はすぐ近くにあるので、喉が渇けばすぐに飲める。台所がある事にこんな嬉しくなったのは初めてだ。
全体的に、色が薄い。
別に私の部屋の色調が薄い訳ではない。私の体感が『薄く』なっている。
壁も、机も、パソコンも、
本棚も、押し入れも、窓の外も、
着ている服も、手の先も、自分さえも、
みんな、薄い。
まるで影が無い、どころではなく、色がない。
私が死んでいるのかもしれない、というのはここから来ている。
時刻は昼だ。昼12時だ。日本時間で十二時〇〇分だ。日付は七月十日。
いつも身につけている腕時計、机の上の時計、スマートフォンの時計、パソコンの時計。
その全てが、『12:00:00』を挿して止まっている。
アナログ時計なんかは秒針も動いて入るのだが、即座に元の位置に戻るという設定になってしまっている。
その割には日付だけが正常に動いているのだから、どうにも違和感があるのかないのか分からない。
次に、音がない。
私の住む家は比較的街の中心部の近くで、車が通ればどの部屋の住民も分かるぐらいに音が響く。
にも関わらず、私が気付いた時から一台も通っていない。もう一週間以上は車が通った音を聴いていない。
それと同じで階段を登る音も聴こえない。近隣住民というかお隣さんの部屋の音も聞こえない。
聴こえてくるのは窓を実際に叩く雨の音と、パソコンの排熱音。時計の進むが進まない音。それらだけだ。
まるで世界が死んでいるようだ。
だから私はこう思った。
死んでいるのは、私なんじゃないか?
唐突に初めてみた。なろうに作品投稿するのも久しぶり。
真面目にやるなら、それなりに活動しないとね。と思い切ってやってみた。
大体一話に三千文字もないほどの短い話をダラダラと続けていく予定。
まぁ、まだ六話ほどしか書いてませんけどね。