ススキ川
「....ゆ.......め....」
シュンは、幼い頃の夢から目を覚ました。学校を抜け出し、いつもの河原で1人さぼっていたがいつの間にか眠ってしまっていたようだ。辺りはうす暗くなり夕陽が沈みかけ、目の前にはいつもと変わらずススキ川が穏やかに流れている。いつもと違うのは、50m程先で小柄な少女が笛を吹いていることだ。
「いまどき篠笛って」
見たくもない夢をみたせいか、皮肉っぽくつぶやいた。しかし澄んだ音色の篠笛は、どこか懐かしく、いつまでも聞いていたい気持ちにさせた。しばらく聞いていると突然、篠笛の音色が止んだ。それと同時に突風が吹き、笛は川へと流されていく。少女は慌てて川に入り笛を拾おうとする。
「待て。入るな!」
シュンはそう叫ぶと自ら川に入り、笛を探した。いくら穏やかなススキ川でもこの辺りでは1番大きな川であり、この暗さでは、どこが深くなっているかもわからない。危険な事は分かっていても勝手に体が動いた。幸い笛はあまり遠くない所で草に引っかっていた。笛を手に取るとシュンは岸へと戻った。そこで少女が不安そうな顔をしている。
「あっ.....あの、」
「はい」
シュンは少女の声を遮るように笛を渡す。
「ありがとうございます!ごめんなさい!こんなにびしょびしょになっちゃって....よかったらこれ使ってください。」
少女 はハンカチを差し出す。
「いやっ大丈夫。家すぐそこだから帰って着替える。」
「あっ...そう..ですか。」
少女は落ち込んだようなそっと手を引いた。
シュンと少女の身長差は30cm近くあり少女は自分の事を恐れているんだろうとシュンは悟った。
「あのさぁ」
ビクッ!!
「その篠笛大事にしなよ」
「えっ」
「じゃあ」
シュンはそう言うと置きっ放しだったカバンを自転車のカゴに詰め込み、ペダルをこいだ。
「カイ...ジョウ高校」
少女はシュンのカバンに書いてある文字を読んで微笑んだ。
続