ピチクリピ 第三話
王立魔法学院中等部のAクラスは、貴族の子息が集められたエリート育成クラスだ。
彼らのほとんどが、将来魔王さまの近くにお仕えすることになるのだろう。
この世界、身分が高いと言うことは魔力も強いと言うことで、
試験の上位は、毎回Aクラスの生徒が独占している。
それなのに、今回の高等部進学試験では、
一教科だけとはいえ、Bクラスのノアくんが一位を獲得してしまった。
「この庭、第二寮生以外は立ち入り禁止なんじゃないの?」
ノアくんの声が聞こえた。
背中を向けているので表情は見えないけれど、ちいさな肩が落ちている。
「僕達が招待したんだ。問題ないさ」
答えたのは、巻き毛のリオンくん。キレイな顔をしているけど、神経質そうだ。
「君達の世界では、強引に連れてくることを『招待』って言うの?」
ノアくんの呟きに、リオンくんは唇を吊り上げた。
意地悪っぽい笑顔。
偉そうに腕を組んだポーズといい、何様?って感じ。
「へえ、オドオドしてるくせに皮肉は言えるんだ。学年一位のノアール・フラム君?」
何それ。
バカにしたような言い方に、ムカッとする。
ようし、もしノアくんに妙なことしたら、
この尖ったクチバシで目玉……はおっかないから、つむじをつついてやる!
「そんなことより、もったいぶらないで、見せてくれよ」
「……できないよ。さっきも言ったけど、あの日はたまたま調子が良か」
「そんなの、誰が信じるんだよ!」
リオンくんは、ノアくんのかぼそい声を遮り、苛立った声をあげた。
「あのサム先生の前で、普段以上の力を出せるヤツがいるわけない!
この僕でも、緊張しまくってボロボロだったんだぞ!」
うーん、そこは同意。
ぼくも試験官がサム先生だと知った時は、頭が真っ白になったもん。
だからあんなヘンな結果になったんだ。
そうだ、『変身魔法』限定スランプも、きっとその後遺症なんだよ!
他のみんなも、散々な成績だったらしいしね。
なのに『変身魔法』で不合格者が出ないのは、サム先生が補習をやりたくないからなんだって。
……それって、教師としてどうなの?
でも、もう少しでぼくはマンツーマン補習を受けるところだったんだよなあ。
想像しただけでぞうっとしちゃうよ(ブルブル)
って、震えている場合じゃない。
大きな葉っぱの影から、再び三人の様子を伺う。
俯いているノアくんを、威嚇するように見下ろしているふたり。
つまり彼らは、ノアくんが『変身魔法』の満点一位を取ったことが納得できないらしい。
だから、その技を自分達の前でやってみろ、と強要しているんだね。
はあ……やめといた方がいいと思うけどなあ。
ぼくみたいに、腰を抜かしても知らないよ?
「君、サム先生の弱みでも握っているの?」
灰色の髪のバトーくんが、口を開いた。
まあまあ整った顔はしてるけど、陰険そうなタイプだ。(もうマイナスイメージしか沸かない)
「え?どういう意味?」
「つまり、サム先生を脅して、満点をつけさせた、とか」
ノアくんの返事は聞こえない。バカバカしくて答えられないんだろう。
「一流の魔法使いを相手にありえない。その前にサクッと抹殺されるって」
代わりに、リオンくんが答えている。
「じゃあ、ちゃんと実力で取ったんだよな?
だったら、見せてくれよ。一流の魔法使いに認められた『変身魔法』を」
「そうそう、みんな期待してるんだよねえ」
そう言ってリオンくんは顔を上げ、辺りをぐるりと見廻した。
ん?
ぼくもリオンくんに倣って頭を動かす。
「チッ!(あっ!)」
いつの間にか、回廊にひとが集まってきていた。
全員が立ち止まってこっちを見ている。
それから、バルコニーにもちらほらと人影が見えた。
身を乗り出し、この場所を見下ろしているようだ。
おそらくAクラスの生徒たちだろう。
……ノアくん。
これは、完全アウェー状態ってヤツ?