ピチクリピ 第二話
「ピッ!チチッ!ピチュッ!(今日のおかずはなんだろう~♪ハンバーグなら嬉しいな~♪)」
高い空の上、青い小鳥に変身したぼくは、上機嫌で羽を動かしていた。
適当な言葉に適当な節をつけて歌っても、変換されて出てくるのはかわいい小鳥のさえずり。
おかげで、さっきまでのモヤモヤもすっかり消えてなくなっている。
実はモヤモヤの原因は、ノアくんの不在のせいだけじゃない。
高等部進学試験の最終問題だった『変身魔法』
試験結果が貼りだされた日から、ぼく達ふたりは大注目された。
高等部の先輩が、わざわざ顔を見にきたくらいだ。
クラスメイトは、ノアくんを祝福し、ぼくを慰めてくれたけど、
他の生徒(特にAクラスのひとたち)からは、無遠慮な視線を向けられた。
そのせいで、ストレスがだんだん溜まっていったんだ。
でも、こうして思いっきり歌いながら地上を見下ろしていると
そんなの、どうでもよくなってきた。
修学旅行も近いし、すぐに飽きられるだろう。
ひとの噂もナントカって言うしね?
ノアくんだって、本当に用事があったんだよね。
勝手に変な想像して落ち込んで、バカみたい。
「チチッ!(あ、いけない!)」
考え事をしていたら、いつの間にか特別寮の近くまで飛んで来ていた。
遠出すると、帰りがたいへんだ。
進路を変更しようとして、ふと(飛び)立ち止まる。
そう言えば、こんなに近くで見るのは初めてだな。
特別寮。
正式名は第二学生寮で、貴族や有名人の子どもたちが入っている。
(ちなみにぼくがいるのは第一学生寮。みんなは普通に『学生寮』と呼んでいる)
寮生数は学生寮の半分以下なのに、建物の大きさは学生寮とそう変わらない。
きっと、ゆったり贅沢にスペースをとってあるんだろうなあ。
聞いたところによると、
素敵な中庭があって、各部屋ごとバルコニーがついているんだって。
そうだ!
せっかくだから、見学していこうっと!
真上から見た特別寮は、ぼくの想像以上に豪華な造りだった。
外側は、他の建物とそう変わらない外観だけど、
内側は、どこかの高級リゾートホテルみたいだ。
中庭があって、回廊があって、話に聞いていたバルコニーもある。
……差、つけすぎなんじゃないの?
庭にはいろんな植物が植えられていて、噴水やベンチもあった。
花は少ないけれど、実がなっている木が何本かある。
ぼくはその中のひとつに降り立った。
ちいさくて(今のぼくには大きいけど)赤い実がなっている。
試しに口に入れてみると、甘酸っぱくて爽やかな味がした。
「ピッ。チチッ!(うわっ、何これ。おいしい!)」
お腹が空いていたぼくは、すぐにふたつめを口に入れた。
食べるのに夢中になっていたら、ひとの声が聞こえた。
モグモグしながら、声のした方を見ると、見覚えのある『赤』が目に入った。
「ピチュ?(ノアくん?)」
後姿で顔は見えないけど、あの赤毛と身長と体つきはノアくんだ。
なんで、こんなところに?
ノアくんはふたりの生徒と一緒だった。
背の高いふたりは腕を組み、ノアくんを見下ろすようにして立っている。
……なんか、やな感じ。
ふたりともこっちを向いてるので、顔が見える。
知っている顔だ。
灰色の髪の生徒はバトーくん。
茶色の巻き毛の生徒はリオンくん。
ぼくらと同じ学年で、生徒会役員で、もちろんAクラスだ。
……なんか、ますますや~な感じ?
どう見ても、やばい雰囲気だよ。
ぼくは、彼らの近くの木にこっそりと移動し、きき耳をたてた。