ピチクリピ 第一話
寝台の脚に立て掛けた鏡に、一匹の仔猫が映っている。
「フミ……(なんで……)」
なんで、『白』なんだよう~。
(´・ω・`)
授業が終わって、まっすぐ寮に帰ったぼくは、苦手な『変身魔法』の練習をしていた。
でも、今日は気が乗らない。
いつも付き合ってくれるルームメイトのノアくんが、
用事があるとかで、どこかに行ってしまったんだ。
何の用事なのか尋ねたけど、言葉を濁して教えてくれなかった。
……もしかしたら、いいかげんウンザリしてるのかも。
だって、何度練習しても、できないんだもん。
いくら優しいノアくんでも呆れるよね……。
猫の姿でトボトボ歩いていたら、床に広げていた本に、躓きそうになった。
『よくわかる魔法シリーズ 変身魔法編』
お昼休みに、図書室から借りてきた本だ。
それを見たぼくは、ん?と首を傾げた。
『黒猫に変身してみよう』のページを開いていたのに、
風で捲れたのか『蝙蝠に変身してみよう』のページになっている。
蝙蝠か。
この間、エル先輩たちが変身してたっけ。
けっこうカッコ良かったよね。
ぼくは開いているページを、読んでみた。
……ふ~ん、難易度は黒猫と一緒なんだ。
もっと難しいのかと思ってたな。
「………………」
気分転換に、これ、やってみようかな?
◇◇◇
なんでこうなるの?
鏡に映る自分の姿に、愕然とした。
一羽の青い小鳥が目とクチバシを大きく開いている。
今度は色違いどころか、種類まで違ってるじゃないか!
呪文を間違えたのかなあ?
確認しようと思ったけど、このサイズだと文字が読みにくい。
ぼくは自分の青い羽を見た。
まあ、一応、空を飛ぶ生き物ではあるよね。
でも、ちゃんと飛べるのかな?
おそるおそる羽を広げ、動かしてみる。
すると、ふわっと体が浮かび上がった。
「ピッ!ピチュピチュッ!(わあ、すごい!ぼく、飛んでるっ!)」
嬉しくて思わず出た声は、かわいい小鳥のさえずりだった。
一気にテンションがあがったぼくは、気持ちよくさえずりながら、
部屋中をグルグル飛び回ってしまった。
あ~楽しかった!
空中飛行を堪能し、少し休もうと、机の上に降りる。
こんな狭い場所じゃなくて、もっと広いところを飛びたいなあ。
それから、この美声で思いっきり歌ってみたい!
そう考えていると、
床にある本のページが、パラパラと捲れるのが目に入った。
また風のしわざだ。
開かれた窓に、視線を向けた。
そこから見える風景が、ぼくを誘っている。
……夕食まで、まだ時間あるよね。
ぼくは大きく羽を広げた。
そして、
部屋の窓から、空に向かって羽ばたいた。
本編の『招かれざる客ふたり』の数日後です。