潜入、ザビ共和国
任務の計画は大まかに言えば次のとおりだ。
まずザビ共和国に観光客を装って入国し、普通に鉄道を使い移動。
途中で現地の仲間と合流し、科学研究所に潜入してMr.Rと接触。
そこでデータの入ったメモリーチップを入手し帰国する。
順調にいけば、この右腕は使わなくてもよさそうだが、毎回筋書き通りにいったためしがない。大体は、この腕のパワーに助けられて生き延びてきている。
今回もどうなることやら。
ザビ共和国はわが祖国ユーリ連邦より北に位置しているため幾分寒い。
ザビ共和国の首都、モスク市ケベ空港にコートの襟を立て降り立った俺は、他の客の流れに乗りながら身体検査のための透過検査を受けた。
テロ防止や武器の持ち込み防止のための衣服を透過できるスキャナーでの検査だ。
普通の義手ならば一発でばれるが、俺の右腕はそんなスキャナーにひっかかるような安物ではない。何の問題も無く通過し、次の入国審査の列に並んだ。
入国審査の審査官はちょび髭をはやした小太りな男だった。
俺はスマホの翻訳アプリを立ち上げ順番を待った。
ライバル国のザビ語は訓練で叩き込まれており、翻訳機など無くても自国民のように十分話せるが、こうした方がより観光客らしく見えて警戒感を持たれない。
実際、入国審査のため並んでいる列の半分以上がスマホを覗いている。全員が翻訳アプリをいじっているのではないかもしれないが、同じようにスマホを持って見ていれば不自然ではない。
俺の番が来た。
俺は、パスポートと入国ビザのカードを差し出した。
審査官はパスポートとカードを手元の装置にセットし、映し出された情報をモニターでチェックしている。
一瞬、審査官の顔に緊張が走ったように見えたが手元のキーボードの操作ですぐに元に戻った。
「ザビ国での目的は?」
ちょび髭小太りの審査官は、事務的に聞いた。一日何十回へたをすると何百回も同じ質問をしているのだろう。
「観光です」
俺は、ユーリ語でスマホに話し掛けた。するとほとんどタイムラグもなくスピーカーから、ザビ語で「観光です」と流れた。最近のスマホの反応は大したものだ。会話の流れが途切れない。
ちょび髭の審査官は、その音声に全く動じることなく続けて質問しながら、モニターに移っているはずの俺の立体顔写真と実物の俺を見比べた。
「滞在期間は?」
「1週間です」
俺のスマホのスピーカからは実に流暢なザビ語が聞こえてくる。
「OKです。よい旅を」
ちょび髭小太りの審査官は、思いがけない良い笑顔と俺のカードを返してくれた。
さっきの審査官の表情の変化がほんの少し気になったが、なにか機械の操作ミスだったのだろうと軽く流してしまった。
この時もう少し重要に考えていれば、後の顛末も少しは変わったのかも知れない。




