不安な作戦開始
こうなると時間との勝負である。
しばらく呆然としたあと、兵器開発センタに駆け込み、俺の右腕を整備してくれたはずの、ジャックを呼び出してもらった。
ジャックは、俺の右腕を設計から担当した技術者で、訓練学校からの友人であり、全幅の信頼をおいている。勿論その技術力で何度も命を助けられてもいる。
奥の部屋から白衣のひょろりとした白人が出てきた。
ジャックである。
手を軽く上げながら、にこやかに微笑み、いきなりトンチンカンなことを言い出した。
「よっ、ケンジ!ひさしぶりだな。帰ってたのか。右腕のオーバーホールか?」
絶句した俺は、今回のオーバーホールは、ヤマト准将経由で依頼したことを思い出した。
ジャックが知らないということは、今回俺の右腕は、知り尽くしたジャックのところではなく、別のところでいじくられたということだ。
青くなった俺は、今回の整備の経緯と、現在の症状を訴え修理の期限を説明した。
ジャックの顔から笑みが消え、あごの無精ひげをなで始めた。
昔からのくせで、真剣になったときのしぐさである。
「出発は明日の朝だな。とにかく診てみよう」
「すまん、よろしく頼む。」
ジャックに命綱である右腕を渡し、宿舎に帰った俺は、大きな不安を抱えつつ出発に備えて装備の最終チェックをした。
肝心の右腕は、ジャックの事だから何とか間に合わせてくれると思うが、最悪の場合、市販品の義腕で作戦を実行しなくてはならない。
かなり危険な作戦になる。
普通なら眠れない夜になるはずだが、日頃のメンタルトレーニングで会得した、どんな状況でも瞬時に睡眠できるヨガの技で、とりあえず明日9時に出発できるよう深い眠りについた。
翌日、朝6時に起床し、一番に兵器開発センターへ行った。
ジャックは、昨日は徹夜したのであろうと思われるような目の下のクマのまま、俺の右腕を持って部屋から出てきた。
「だめだ、時間が足りない。なぜ戦闘モードが自動的に解除されるのかどうしてもわからない。プログラムのバグなのか、ハード的な問題なのか・・・」
「・・・・そうか・・・おまえが判らないんじゃ仕方ないな・・・」
「とりあえず、直結のラインを引いておいた。」
そう言って、俺の右腕の手首を指さした。
そこには、普通の腕時計が巻いてある。
「一見腕時計だが、戦闘モードのスイッチに直結になっている。使い方は、文字盤を強く押すと、それまで入力されたコマンドを全てクリアして直接戦闘モードがスイッチオンになる。解除するには、腕を分解しないとできない。つまり、ここに戻ってこないと解除できないわけだ。もちろん最初は普通にコマンドを入力して戦闘モードにするんだが、何もしないで戦闘モードが解除になった時のための緊急応急措置だ」
さすがジャックである。
命を無くすより、回りに少しばかり迷惑をかけることのほうがよっぽど良い。
その後、ジャックは小声で付け加えた。
「それと、人差し指通信機を最近開発した超時空通信機に変えておいた。1分間だけだがどんな遠隔地でもどんな場所でも盗聴されずに通信できる。とりあえず僕としか通信できないけど、使ってみてくれ」
人差し指通信機とは、右腕の人差し指に内蔵された通信機のことで、人差し指を耳に突っ込んでそのまま通話できる通信機のことだ。
今までは普通の携帯電話並みだったのだが、高性能なヤツに変えてくれたらしい。
俺は、ジャックに心から礼を言って、任務の実行を開始した。




