新しい任務
13:00
俺はヤマト准将の部屋で、新しい任務内容を聞いていた。
高価そうな大きいマホガニーの机をはさんで、准将は恰幅の良い体を、これまたでかいサイズの革張り椅子にはめこんだまま、手を軽く振った。
先ほどまで窓の姿をしていた壁面から、一瞬で窓が消え地図が写し出された。
「中尉は物質伝送装置についてはどのくらい知っているかね?」
と准将は俺に尋ねた。(俺は一応中尉ということになっている)
「物質伝送装置」とは、どんな物でも瞬時に別の場所へ送ることができるという昔から考えられていた夢の機械だ。
もちろん、現代でも研究が進められているはずだが、完全に成功したという話は聞いたことがない。
たしか、理論上は可能だとのことで、でかいビルのような機械を組んで、数ミクロンの金属を伝送し成功したものの、その際、その装置が電力を食いすぎて都市の電気が1時間ストップしたうえ、どう間違ったのか、伝送先での金属は数千度になっていて、送られた瞬間蒸発してしまったという、いわくいつきの代物だ。
その旨の話をすると准将が言った。
「そのとおりだ。ところが、わが連邦のライバルであるザビ共和国では、実用に耐えうる装置の開発に成功したらしいのだ」
「え・・まさか・・」
俺は、マジで驚いた。
この夢の機械は、人類から距離と時間の観念を取り払うという計り知れない幸福をもたらしてくれる反面、今までその距離と時間を埋めるために発達してきた交通・通信業界等に大革命をもたらす可能性もある。
それどころか、戦争で使われたら最終兵器にもなりうる。
やり方は簡単。敵国の中心に核爆弾を転送してやればいい。
お互いでやってしまえば、両国とも終わりである。戦争自体が10分で終わり、両者全滅、人類滅亡にもなりかねない。
「ザビ共和国には、以前からわれわれの仲間が送り込まれており諜報活動を続けている。そこからの情報だから、ほぼ間違いはない。そこで、君の任務は、その仲間・・Mr.Rとしておこう。・・からそのデータを受け取ってくることだ。ただし、Mr.Rには引き続き任務を続行してもらうため、その正体を相手国にばれるようなことは絶対にないように動いてくれ」
「出発はいつ?」
と俺は聞いた。
俺の右腕のオーバーホールが間に合うのか、その点だけが気がかりだった。
「出発は3日後の朝09:00時。君の右腕はもう今日にも上がっているはずだ。」
さすが、准将である。
俺は常々この准将はひとかどの人物と思っている。
殊工作部隊という機密だらけの環境のため、身の上話などしたこともないが、にじみでるオーラは、やはり並ではない。
この准将との付き合いはまだ半年だが、俺が右腕なしでは何の役にも立たないことも十分知り尽くしているらしい。
「中尉が潜入する場所はここだ」
と准将は壁面地図の一部を指差した。
地図の中のある一点が点滅しさらにその部分が拡大されていく。
この部屋は、准将の手の動きひとつで全てコントロールできるようになっている。准将の指輪型センサーが手の動きを判断し部屋の設備を制御するという方式のものだ。
拡大された地図は、ザビ共和国の中心都市にあるビルのもので、かなり警戒が厳重そうに思える。
「任務内容の詳細はいつものようにこのミッションカードに入っている。確認するように」
と、メモリーカードを1枚渡された。
このミッションカードには、今回の任務内容について事細かに膨大なデータが記録されており、これから丸一日でその情報を頭にたたきこまなければならない。
内容が国家機密のため、一日経つと自動的に固体から液体に変ってしまう素材で出来ているからだ。
もちろんポイントだけ記憶してもかまわないのだが、細かいことを覚えなかったために命を失った仲間を何人も知っている。




