Mr.R 現る!
俺は、あやしまれないよう清掃員の仕事をしながら食堂に入っていった。
職員数は1000人近くいる施設なので、食堂も広い。
もう午後1時近い時間なので、利用者のピークは過ぎているようだったが、それでも半分ぐらいの席は埋まっていた。
研究者が多いせいか、白衣の人間が結構いるし、技術者の作業服姿の人も多い。
モップを持って食堂に入った俺を、数人の白衣姿の人間が食事をしながらチラッと見た。
別に不自然なことではないが、俺のスパイとしての本能が頭の中にかすかな警報を鳴らし始めた。
なんとんなく不具合さを感じながら、俺は作業用帽子を目深にかぶり、ダストボックス付近の床をモップでふきながらMr.Rが来るのを待った。
Mr.Rは、昼食をとった後、紙ナプキンで口を拭きながらダストボックスに近づき、口を拭き終わった紙ナプキンを丸め、ダストボックスに捨てようとして「あ、ゴミ箱いっぱいだなぁ」と言う。
俺は、「あ、私が捨てときますよ」といって紙ナプキンを受け取る。その紙ナプキンに設計図のマイクロチップが包まれているので、俺はそれを持って脱出する・・という段取りになっている。
一人の男が近づいてきた。
白衣を着た金髪の男だ。
俺が作戦前にミッションカードで記憶したMr.Rの顔写真と一致している。が、体がやけにごつい。
プロレスラーが白衣をきるとこんな感じかと思われるように盛り上がっている。
たしかデータでは、身長170センチ、体重55キロのはずだが。身長は確かに170センチくらいだが、体重55キロということはあるまい。
最近ボディビルでもはじめたのか。
俺の頭の中の警報は、ちょっとだけ大きくなった。
Mr.Rと思われる男が白い手袋をつけたまま、紙ナプキンで口を拭きながらダストボックスの前に立った。
「あ、ゴミ箱いっぱいだなぁ」
やけにでかい声で言って、わざとらしく俺のほうを振り返った。
俺の体内警報は一気に高レベルまで達した。
《やばい・やばい・やばい》
しかしこの状況では、とりあえず紙ナプキンを受け取るしかない。
「・・・私が捨てておきます・・」
俺はそう言って右手でモップを持ち、左手を差し出した。
「あぁ、わるいなぁ」
そう言うと、Mr.Rは丸めた紙ナプキンを俺の左手の掌に置いた。
と、次の瞬間、俺の左手首をすごい力でつかみ、にやりと笑いながら言った。
「ごくろうさん、ケンジ中尉」
「やっぱり!!!!ばれてる!」
俺は、紙ナプキンを握ったまま、左腕を振りほどこうとしたが、びくともしない。まるで万力ででも固定されているようだ。
「どうだい。君の腕もすごいらしいが、このパワースーツもいいだろう。まだ試作品だがね」
Mr.Rはそう言うと、空いている手で、白衣の胸元を広げて見せた。
渋い銀色の胸当てが見える。
なるほど、俺の左腕をつかんでいる白い手袋はパワースーツの一部だったのだ。




