48話 少女は変身する
本日もよろしくお願いします。
「……わ、わかった。形を変えるのは容易い。ならば人の子よ、己が纏いたい姿を強くイメージせよ。その想いを核として、我が新たな『器』を編み上げよう」
野蒜のあまりの剣幕に、小さな白蛇は台座の上で少し引き気味にそう告げた。
「イメージ……? むむっ」
野蒜は腕組みをして、眉間にシワを寄せて考え込む。……が、三秒後には「ミシェルちゃん!」と隣の親友を振り返った。
「どんなのがいいかなぁ?」
「……ええっ!? あんだけ文句言っておいてノープランなの!?」
ミシェルは呆れ果てた声を出すが、野蒜は至って真剣だ。
「だって、急に言われても難しいじゃない! ほら、ミシェルちゃんの方がファッションとか詳しいでしょ? センス、信じてるから!」
無茶振りされたミシェルは、うーん、と腕を組んで考え込む。
(野蒜のイメージ、野蒜のイメージ……)
脳内に浮かぶのは、セーラー服でステッキを振る野蒜、フリルまみれの『プニきゅあ』風な野蒜、あるいは魔法の杖でドタバタしそうな『おじゃまじゃ』な野蒜。
「……ブフッ!」
あまりの「しっくり感」に、ミシェルは思わず吹き出した。中身は女子高生でも、見た目が小学生な今の野蒜がそれを着ると、あまりにハマりすぎていて直視できない。完全にハロウィンの小学生である。
「ちょっと! 大事なことなんだから真剣に考えてよー!」
野蒜が頬を膨らませてプンプンと抗議する。
「ごめんごめん。……じゃあ野蒜、本人はどんなのがいいのよ?」
「……カッコいいやつ! でも、可愛さも忘れてない感じ!」
あまりにもふんわりしすぎているオーダーに、白蛇が「具体性に欠けるぞ……」と言いたげに鎌首を左右に揺らした。
ミシェルは少し考え、リュックからノートとペンを取り出した。ペンションでの暇つぶしや授業中の落書きで磨いた彼女の画力は、実はかなりのものだ。
「……そうね。動きやすくて、今の野蒜に似合うもの。……こんなのはどうかしら」
サラサラと小気味よい音を立ててペンが走る。
描き出されたのは、落ち着いた色合いのミニ丈ワンピースに、肘くらいまでの長さのケープを組み合わせたスタイルだ。幻想的な雰囲気を残しつつも、装飾を抑えた機能的なデザイン。
「おお……! これ、すごい! 理想に近いかも!」
野蒜の目がキラキラと輝く。
「でしょ? これならお腹も冷えないし、背中もしっかり隠れるわよ。……まあ、元ネタは某アニメの『葬送』な魔法使いなんだけどね」
ミシェルも、必要な一般教養はバッチリ履修済みである。
「わかった! 『プニーネン』だね! すごい、それっぽい!」
野蒜は満足そうに、ノートに描かれたデザインを指さした
。
「決めたよ、白蛇さん! これにして! これが私の、新しい装備!」
白蛇はミシェルの描いた図面をじっと見つめ、感心したように頷いた。
『……ほう。機能と美の調和。人の子の想像力とは、時として我らをも凌駕するな。……よかろう、目を閉じて想像せよ。』
白蛇の分け身が淡い光を放ち始める。
野蒜の周囲に黄金の魔力が渦巻き、その小さな体を優しく包み込んでいった。
黄金の光が収まると、そこに立つ野蒜の姿は一変していた。
先ほどミシェルがノートに描き、野蒜がイメージした通りの服。だが、実体化したそれは、想像を遥かに超える質感を持っていた。
あの巫女装束と同じく、濁りのない白をベースとした布地。そこに、呼吸を合わせるように淡い光の紋様が浮かび上がるミニ丈のワンピースと、肘までを覆う上品なケープ。
「すごっ……! 本当に形になった!」
「綺麗……。野蒜、すごく似合ってる」
自分自身の姿を見下ろす野蒜と、その完成度に息を呑むミシェル。二人の驚きをよそに、台座の上の白蛇が淡々と説明を続ける。
『その「器」は、お主の意思で自在に纏うことが可能だ。もちろん、元の姿に戻すこともな』
「え? でも白蛇さん、この前は一回脱いだら全部消えちゃいましたよ? 予備もないし困ったんですから」
野蒜が不満げに頬を膨らませると、白蛇は不可解そうに首を傾げた。
『……お主、あの時どのように願ったのだ?』
「えっと……あまりに恥ずかしかったので、とにかく今すぐ『消えろー!』って……」
『ふむ。ならば消えてしまうのも道理。無に帰せと命じたのだからな。……これからは、以前の姿に「元に戻る」ように念じるのだ』
「なるほど……。やってみる!」
野蒜は目を閉じ、ペンションを出る時の自分の服を強く思い描いた。
すると一瞬だけ体が淡く発光し、次の瞬間には見慣れた私服姿に戻っていた。
「ふおおおおぉぉぉ! 戻った! 戻ったよミシェルちゃん!」
「すごーい。マジックみたい……」
ミシェルが「ほえー」と感心した声を漏らすと、野蒜は再び気合を入れ、今度は「プニーネン仕様」をイメージする。
パッと光が弾け、瞬時に白い魔導装束へと着替えが完了した。
「ミシェルちゃん! 野蒜ちゃんは、ついに『変身』を習得しました!」
ビシッと、これ以上ないほど決まった角度で敬礼する野蒜。
見た目が小学生なのも相まって、そのテンションの高さは完全な「魔法少女」のそれである。ミシェルは「はいはい、おめでとう」と苦笑いしながら、その様子を温かく見守った。
その様子を、白蛇は少しだけ呆れたような、それでいてどこか満足げな様子で眺めていたが、やがて居住まいを正すようにして声を響かせた。
『……やれやれ。騒がしい娘たちだ。……では、そろそろ本題に入ろうか』
その言葉と共に、周囲の黄金の光がわずかに引き締まる。
二人の少女は顔を見合わせ、姿勢を正すのだった。
『その器の使い方を教えよう』
「「よろしくお願いします」」
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