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47話 少女はひかれる

本日もよろしくお願いします。


洞窟の奥へと歩き出す前、野蒜は一度足を止め、背負ったリュックのサイドポケットを迷いなく探った。


「あ、あった。佐々木さんに持たされたやつ」


取り出したのは、掌に収まるほどコンパクトながら、鈍い光沢を放つ最新型の超小型カメラ『Gプロ』だ。これは自衛隊から「進呈」された備品の一つである。

もし作戦中に隊員たちが同行できない事態に陥った際、中の状況を詳細に記録するために渡された機密保持用デバイス。

そして同時に、最近なぜか「異変」の磁石のようになっている野蒜に対し、佐々木一尉が「何かあった時のために、君の視点を残しておいてほしい」と個人的な信頼を込めて託したものでもあった。

野蒜は小さなボタンの配置に少しだけ苦戦し、何度か指先を迷わせたが、やがて「ピッ」という電子音とともにレンズの淵が赤く点灯した。それを慣れた手つきで、リュックの肩ベルトにあるマウントへカチリと固定する。


「……よし、録画開始。えー、ただいま、私こと野比野蒜と、親友のミシェルちゃんは、謎の黄金洞窟を探索中であります!」


結構盛っている。

現状は、自衛隊のバックアップとはぐれた、客観的に見れば「遭難」に近い緊急事態だ。しかし、野蒜の発声は驚くほど張りに満ち、その口調は多分に演出が混ざっている。


気分はすっかり、今どきの女子高生たちが放課後のマックで必ず話題にする動画プラットフォーム『ムーtube』の配信者、いわゆる「ムーtuber」だ。


「現在の状況を実況解説します。周囲は網目のような魔力ラインに包まれており、視界は極めて良好。残念ながら自衛隊の方々とははぐれてしまいましたが、あいにく帰り道も見当たらないので、このまま調査を続行していきまーす」


キリッとした表情(残念ながら、カメラの画角は前方固定なのでそのドヤ顔は映らないのだが)で解説を進める野蒜。ミシェルはその親友の切り替えの早さに、半分は呆れ、半分は感心しながら、物珍しそうに周囲の岩壁を眺めていた。


「ライト、一応予備まで持ってきたけど、これなら電池の心配はいらなそうだね」


「うん。壁の模様が勝手に光ってるもん。夜の高速道路のサービスエリアよりよっぽど明るいかも」


二人は予備のライトを点灯させる必要すら感じず、壁を走る無数の光る線が導く先へと進んでいった。一歩踏み出すごとに、壁の光は彼女たちの拍動に呼応するように、強弱を繰り返す。


「なんか野蒜元気ね」


「だって今回はミシェルちゃんいるし、前より楽しいかも」


ミシェルは不意打ちを喰らい、前回野蒜は一人でこの道に来た事を思う。自分が一人で残されたらちょっと泣きそうかもしれない。


二人がふと足を止めれば、光もまた穏やかな輝きへと戻る。


(……やっぱり。ここは私の魔力、私の動きに反応してる)


数日前に迷い込んだ時と同じ、理屈を超えた親和性。だが、今回は一人ではない。隣にミシェルの確かな体温を感じることが、野蒜の心にどんな高級魔法薬よりも効く勇気を与えていた。


やがて、二人は見覚えのある場所に辿り着いた。

そこは、前回野蒜が初めて足を踏み入れた「最初の部屋」。円形の空間だ。

中央には、あの複雑な幾何学紋様が刻まれた、光を放つ石の台座が鎮座している。


「……ここだ。一番最初の部屋」


野蒜の声が、静寂に包まれたドーム状の空間に高く反響する。台座には、周囲の岩壁から集まってきた黄金の魔力が、目に見えるほどの密度を伴った「光の滝」となって流れ込み、神々しいまでの輝きを放っていた。


しかし、前回と決定的に違うものが、その台座の真ん中にいた。


三十センチほどの、雪のように真っ白な小さな蛇が、ちょこんと丸まってこちらをじっと見つめていた。前回の、見上げるような山のごとき威圧感は微塵もない。どこかマスコットのような可愛らしさすら感じるその姿に、野蒜とミシェルは入り口付近で思わず足を止めた。


『――良く来た。』


鼓膜を介さず、頭脳の奥底に直接響く、涼やかで透き通った声。それは言語という形を取ってはいるが、本質的には心地よい春の微風が脳内を通り抜けるような、不思議な思考だった。


野蒜は直感的に理解した。この小さな生き物は、あの巨大な龍のような主と同一の存在だ。放たれている魔力の「色」も、魂に触れるような「温度」も、全く同じなのだ。


「……喋った?」


隣でミシェルが、茶色の瞳を限界まで見開いて絶句した。ミシェルにも、その「思考の波」ははっきりと、届いていた。


『あまり本体で動くと、外の者たちが騒がしくなるようなのでな。今回は分けわけみという形を取らせてもらった。不都合はあるまい?』


野蒜は、肩のGプロのレンズがしっかりその白蛇の方向を向いているか、指先で角度を微調整した。そして、一歩、決然と前へ踏み出す。


「……こんにちは。この前はありがとうございました。約束通り、会いに来ました」


そこまでは、完璧だった。

神秘的な再会を演出する。その瞬間までは。


だが、次の刹那、野蒜は「ずんずん」という擬音が物理的に聞こえてきそうな猛烈な勢いで、台座に向かって突進した。そして、台座の縁にバンッ!と両手を叩きつける。


「ちょっと白蛇さん! あの変な衣装、何なんですか!? お腹は冷えるし、背中はスカスカだし、ちょっとエッチィし! こちとら花の女子高生ですよ!あんな恥ずかしい格好をいきなりさせるなんて!クーリングオフっていう言葉、知ってます!? この際だからはっきり言いますけど、私の趣味じゃないんです!」


洞窟の神秘を粉々に打ち砕く、あまりにも世俗的で切実な猛抗議。


(えええええええええーーーっ?!)


ミシェルは内心で、叫びたいのを通り越して激しく引いた。相手は、この世界の仕様を書き換えるような神のごとき存在なのだ。その鼻先に詰め寄ってファッションチェックを始める親友の度胸は、もはや勇敢を通り越して「狂気」に近い。ある意味強すぎる。

土偶に襲われた後の野蒜が言っていた絶対に文句を言ってやると叫んでいた事を思いだす。


(あれかぁー。)


ミシェルは納得しつつも親友の肝の太さに震える。


一方の白蛇も、想定外の角度からの攻撃に戸惑ったのか、細い鎌首をわずかに後ろへ引いた。


『う、うむ……。すまぬな。……以前、我と共にあった人の子の装束を、参考にしたのだが……。それほどまでに不評であったか?』


「不評とかそういうレベルじゃないです! あれを着て外を歩いたら、別の意味で自衛隊に保護されちゃいますよ! それって、形を変更できるってことですよね!? だったら今すぐして下さい! 今すぐ、もっとナウでヤングで、機能的なやつに!」


確かに野蒜が露出が多い格好をしていたら、警察に保護されるかも知れない。見た目が小学生なだけに。


『わ、わかった。……落ち着け、人の子よ。それほど詰め寄らずとも……』


小さな白蛇が、その鱗の隙間から冷や汗をかいているような幻視が見える。


かくして野蒜はコスチュームチェンジの権利を獲得したのだった。


ミシェルはもう、何も考えないことに決めた。彼女はそっと視線を逸らし、輝く天井の模様が「実はちょっと可愛いかも」などと、現実逃避気味にぼんやりと見つめるしかなかった。


面白ければブックマーク、評価などお願いします。

作者のモチベーションになります。

よろしくお願いします。


いつも読んでいただきありがとうございます(^ω^)

先先月と比べて10倍位のPVが(゜o゜;;!

ありがとうございます。

なんか手が震えて来ますΣ(・□・;)

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