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4話 制御する子

先程の閃光事故は、クラス内でそこそこ話題になった。

「ド派手だったね」という評価は、悪くない。

だが――


(制御できてないのは、カッコよくない)


そこはちゃんと反省している。

たぶん。


「魔力制御の基礎をやる」


黒瀬教師が黒板に円を描く。


「出力を上げるのは簡単だ。力一杯考える。

難しいのは、抑えることだ」


抑える。

制御。


野蒜は、ふんすと鼻で息をした。


(さっきはちょっと派手すぎた。私はできる女)


なお、心の中ではすでにズバッとポーズを決めている。


実技用の魔石が配られる。


「今回は発光はさせません。

“流すだけ”を意識して下さい。魔石がじんわり温かくなるように意識して下さい。」


(流すだけ……わかってる。わかってるよ)


野蒜は魔石を手に取った。


小さな結晶。

さっきよりも、ずっと静かに見える。


(――我が魔力よ。静かに、穏やかに……)


何度もいうが詠唱は不要である。


魔力を、ほんの少しだけ流す。


……何も起きない。


(……?)


もう少し。


(……お?)


魔石が、かすかに温かくなる。


「……できてる」


佐藤が小声で言った。


野蒜は、ニコパと笑った。


(でしょ)


ムフー。


先程みたいな閃光はない。

焦げる机もない。

ただ、確かに“流れている”感覚。


(これが……制御

地味だけど……

めちゃくちゃ大人じゃない?)


黒瀬が巡回してきて、野蒜の手元を見る。


「……よし」


それだけ言って、通り過ぎた。


たった一言。

でも――


(今の、合格の音では?)


野蒜の中で、勝利のファンファーレが鳴る。


実際には鳴っていない。


休憩時間。


「今回は光らなかったね」


佐藤が言う。


「うん」


野蒜は、少しだけ胸を張る。


「制御したから」


「へー」


「大人の余裕ってやつ」


「……見た目は小学生だけど」


「これからむちゃんこ伸びるし!」


即答。

ムフー。


午後の授業も、特に事故は起きなかった。


地味。

でも確実。


野比野蒜は、少しずつ理解し始めていた。


魔法は、派手さだけじゃない。

強さは、制御の中にある。


――それでも。


(次は、ちょっとだけ派手にしてもいいかな)


そんなことを考えている時点で、

彼女はやっぱり野比野蒜だった。



帰り道、バスの座席は硬い。

揺れもそれなりにある。

それでも野比野蒜のびのびるは、窓際のこの席がわりと好きだった。


理由は簡単だ。

外がよく見えるから。


(世界が変わったなあ)


野蒜は、ぼんやりと窓の外を眺めながら思う。

中山湖行きの路線バス。

いつも乗っている、ごく普通の帰り道のバスだ。


富士山も、ちゃんと見える。

……正確に言えば、見えていたはずの方向に視線を向けている。


そこには、山の稜線はなかった。


代わりにあるのは、

富士山の頂上をすっぽり覆い隠すほど巨大な、白蛇。


雲かと思うほど太く、

霧かと思うほど白く、

とぐろを巻いて、じっと動かない。


山に絡みつくように存在しているそれは、

どう見ても、生き物だった。


(白ウ○チ……)


野蒜は心の中で、そう呼んだ。


「ねえ」


隣の席から声がする。

佐藤だ。


「いつ見ても、ソフトクリームみたいだよね」


野蒜は、ハッとした。


(そっちの方が女子高生的にかわいい)


心の中で呼称を修正する。

白蛇改め、ソフトクリーム。


そんなことを考えながら見ていると、ふと白蛇の目が開いてめがあった。


(ふぇっ!?)


佐藤を見る。


佐藤はめっちゃ野蒜を見ていた。

めちゃくちゃムフーとしながら‥。


(ふぇっ?こわっ!)


だがそれどころでは無い。


もう一度白蛇を見ると、もういつも通りに戻っていた。


もう一度佐藤を見る。


佐藤もいつも通りになっていた。


野蒜は首を傾げる。


(気のせいかな?)


そうしてバスは進んでいく。


あれが現れたのは、五年前。

エイプリルリアル――通称、AR。


この世界では、西暦と和暦に加えて、

AR暦という数え方が使われている。


AR元年。

世界が、わりと本気で終わりかけた年だ。


日本は、比較的混乱が少なかった。

少なくとも、他国と比べれば。


他国では、政府機能が一部失われた国もあった。

魔石や魔法を使ったクーデターが起きた国もある。


日本がまだ持ちこたえられた理由の一つは、

島国だったことだ。


海と空にゴーストが溢れ、

船も飛行機もまともに使えなくなった。


結果的に、日本は一時的に孤立した。


それでも、

どさくさに紛れて侵略を試みた国はあった。


だが、海に出たところで、

巨大なゴーストと遭遇し、

そのまま消息を絶った。


混乱の少なかった日本は、

緊急時に民間の力を頼った。


自衛隊だけでは手が回らなかった。

しかし、一般市民に無秩序に武器を持たせるわけにもいかない。


そこで急遽導入された制度が、

災害生物対策免許制度。

通称、ハンター資格制度である。


その後、別の問題が発生した。

輸入ができない。

食料が足りない。


そこで発見されたのが、

魔石の応用だった。


植物に作用する魔石。

作物の成長を促す魔石。


さらに、

仕組みはまだ解明されていないが、

ダンジョンと呼ばれる空間も発見された。


そして――

中山湖。


この町には、

日本で最初に確認されたダンジョンが存在している。


理由は単純だった。


あの、でかすぎる白蛇が、

あまりにも目立っていたからだ。


しかも近くには自衛隊基地があり、

調査はすぐに始まった。


白蛇に刺激を与えないため、

調査は極めて慎重に行われた。


近づきすぎない。

攻撃しない。

様子を見る。


だが――

白蛇は、ピクリともしなかった。


巨体は山に絡みついたまま、

ただ、ゆっくりと膨らみ、縮む。


呼吸しているのかどうかは分からない。

だが、生きていることだけは確かだった。


そしてこの五年間。

白蛇は一度も動いていない。


起きる気配もなく、

威嚇もせず、

ただ、ずっと寝ている。


日本らしいと言うべきか、

いつの間にか国民の間では、

あの白蛇はこう呼ばれるようになった。


ハクちゃん。


巨大ゴーストであり、

国土規模のリスクでありながら、

寝ている限りは無害な存在。


観光ポスターにも載り、

グッズも作られ、

すっかり中山湖の象徴になっている。


今日も、

ハクちゃんは富士山を覆ったまま、

静かに眠っている。


バスが停まる。

野蒜は降りる。


少し歩いた先――

今朝、ゴブリンと遭遇した場所を通りかかる。


(あのとき、一本バス逃したんだよね)


ムフー、と小さく笑う。


(イベント発生したし、ヨシ)


そうして野蒜は家に帰る。


小さなペンション。

両親が経営している、

彼女の帰る場所。


世界は変わった。

でも、ここはちゃんと残っている。


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