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45話 少女はハッピー

本日もよろしくお願いします。

作戦の決行は翌朝に決まった。


「今日はもう遅い。一度、ご家族の元へお送りします。……ですが、その前に」


自衛隊の重苦しい空気を振り払うように、佐々木一尉が少しだけ声を弾ませた。


「作戦前夜祭、というわけではありませんが、夕食でもどうかな? もちろん、私のおごりだ」


その言葉に、野蒜とミシェルの目が一瞬で輝いた。

高級料亭か、ホテルのディナーか。そんな期待を胸に自衛隊の車両に揺られて到着したのは、幹線道路沿いにあるお馴染みの回転寿司チェーン『らま寿司』だった。


「わぁ、ここ! 私、ここの炙り寿司と醤油ラーメン、大好きなんだよね!」


野蒜は入店するなり、さっきまでの緊張をどこかに置き忘れたような声を上げた。

タッチパネルで注文すれば、高速のベルトコンベアーが新幹線のような音を立てて皿を運んでくる。高級感こそないが、女子高生の野蒜たちにとっては、これこそが最高のご馳走だった。


テーブル席に陣取り、お気に入りの炙りサーモンやラーメンが一段落した頃。店内の賑やかな喧騒の中で、ミシェルがふとお箸を止めた。


「……ねえ、佐々木さん。野蒜」


少しだけ声を震わせ、ミシェルがおずおずと切り出した。


「明日……私も、野蒜と一緒にあの『道』に行ってもいいかな?」


野蒜は、炙りえんがわを口に運ぼうとした手をとめた。


「え……? ミシェルちゃん、本気?」


「うん。……やっぱり、野蒜一人で行かせるなんて、心配すぎて無理」


野蒜は目を丸くした。


「でも、ミシェルちゃん。私、前に行った時はあっちで3日間も帰ってこれなかったんだよ? 授業もサボることになるし……下手したら、また出られなくなるかもなんだよ?」


佐々木も、湯呑みを置いて厳しい表情で首を振った。


「佐藤さん。君の気持ちは痛いほどわかるが、これは遊びではないんだ。向こう側で何が起こるか、我々自衛隊にも全く予測がつかない。君のような一般人を同行させるわけには……」


「わかってます! 私が行っても、何の戦力にもならないってことくらい!」


ミシェルは食い下がった。その瞳には、冗談ではない真剣な光が宿っている。


「でも、野蒜は……この子、一人だとすぐ調子に乗るし、そのくせ一歩間違えるとすぐ泣いちゃうんですよ。……こんなに重いものを背負わされて、こんなちっちゃい野蒜を一人で放り出すなんて、友達として見てられない」


「ミシェルちゃん、ちっちゃくはないよ?これから大きくなるだよ?」


「佐藤さん、しかしだね……」


野蒜の発言をスルーして会話は続く。


「もし同行が無理なら、せめて『道』の手前までだけでも! 見送りさせてください。……自衛隊の人たちに囲まれて行くより、一人でも友達がいた方が、この子の『魔法』だって上手くいくと思うんです」


佐々木は困り果てたように眉を寄せた。


「そもそも、君のご両親の許可が必要だ。それに、同行したとしても野比さんのような報酬は出せない。自衛隊も数名、護衛として同行させる予定だが……正直に言って、君の安全を保障することはできないんだ」


「報酬なんていりません! 許可だって、とって見せます!両親に文句は言わせません! 」


ミシェルは、テーブルを叩かんばかりの勢いで言い放った。その気迫に、野蒜はあわあわしながら成り行きを見守ることしかできない。


「ミシェルちゃん……」


野蒜はあわあわと二人を見比べ、手に持っていたお寿司を皿に戻した。なんか食べて良い雰囲気でない事を感じ取った。


報酬もいらない。命の保障もない。それでも、ただ「友達を一人にしたくない」という理由だけで、ミシェルは危険な場所へ付いてこようとしている。


「……何もできないかもしれないけど。でも、あっち側で野蒜がふと横を見た時に、誰もいないのは嫌なんです。私が、野蒜を一人にさせない」


ミシェルの真っ直ぐな言葉に、店内の「注文の品が到着します」という電子音が虚しく響く。

佐々木は深くため息をつき、眼鏡を外して眉間を揉んだ。そして、隣で不安そうに自分を見つめる野蒜の瞳と、決意に満ちたミシェルの瞳を交互に見つめ、ようやく口を開いた。


「……わかった。ただし、明日の朝までに、ご両親の確実な同意を取り付けること。そして、現場では一歩たりとも自衛官の指示から外れないこと。いいな?」


「……! ありがとうございます!」


ミシェルはパッと顔を輝かせた。

野蒜は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。

独りで背負わされる「世界を救う鍵」という重圧。けれど、隣には、醤油ラーメンを啜りながら「あんた、あっちで変なもの拾って食べようとしたら止めてあげるからね」と笑う親友がいる。


「もうっ、ミシェルちゃん! 変なモノなんて食べないから! そもそも私、そんなに食いしん坊じゃないし、もっとこう、気品あふれる『いい女』なんだからね!」


「さっきからずっと食べてるけどね」


野蒜の前に積まれた15枚はある皿と、ラーメンの器を見てミシェルが苦笑する。

野蒜は頬を膨らませて口では反抗してみせたが、その表情はどこか嬉しそうだ。

野蒜は自分にまさかこんなに自分の事を考えてくれる友達が出来るとは思っていなかった。

食べる事に集中していないと涙がでちゃうかも。


大好きな炙り寿司を再び口に放り込む。その味は、これまで食べたどの寿司よりも、ずっとハッピーな味がした。


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作者のモチベーションになります。

よろしくお願いします。


いつも読んでいただきありがとうございます(^ω^)

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