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43話 少女は知る

本日もよろしくお願いします。

昨日の中山中学校での事件を受け、現場検証と生徒たちの心のケア、そして何より「説明のつかない超常現象」の隠蔽工作のため、学校は急遽休校となった。


しかし、野比野蒜には「休み」などなかった。


「……ねえミシェルちゃん、これ本当に必要なの?」


「当たり前でしょ。昨日の今日なんだから。私も『魔力』ってやつを間近で浴びたから、比較対象として必要なんですって。ほら、脱いで脱いで」


富士山の裾野に位置する自衛隊駐屯地の検査棟。

野蒜は親友のミシェルと共に、清潔だが無機質な検査着に着替えさせられていた。表向きは「近距離で未知のエネルギーに曝露した一般人の健康診断」だが、実態は野蒜の身体測定、もとい「魔法巫女」のスペック解析である。


一人は不安だろうという佐々木の配慮でミシェルも同行しているが、当のミシェルはどこか楽しげだ。


「はい、お着替え完了ね。……お疲れ様、『巫女姫様みこひめさま』」


「……え? 何、その変な呼び方」


ブラジャーのホックに苦戦しながら、野蒜は首を傾げた。ミシェルはニヤリと笑い、スマホの画面を野蒜の鼻先に突きつける。


「知らないの? ネットじゃもうそう呼ばれてるわよ。中山湖に現れた謎の救世主、『巫女姫』あるいは『魔法巫女』。昨日の動画、消される前に結構な人数が見ちゃったみたい」


「ほえー……。巫女姫。なんか、アイドルみたいで響きはいいかも」


野蒜は少しだけ頬を緩めた。自分を「いい女」だと信じて疑わない彼女にとって、チヤホヤされるのは悪い気がしない。むしろ、世界がようやく自分に追いついた、くらいの全能感すらあった。


しかし、鏡に映った自分を見て、即座に現実に引き戻される。


(……でも、あの格好なんだよね……。スリット、腰まであったし。あんなポーズでネットに載ってるとか、いい女どころか変質者扱いされてないかな……)


うーむ、と腕組みをして深刻な顔で悩み始めたその時、ノックの音が響いた。


「野比さん、佐藤さん。準備はいいですか? 検査室へどうぞ」


呼びに来た女性自衛官の視線が、どこか畏敬の念を含んでいる気がして、野蒜はさらに複雑な気持ちになった。

検査室で待っていたのは、白衣を羽織った黒瀬三佐と、いつもの迷彩服姿の佐々木一尉だった。


驚いたことに、今日の黒瀬は「真面目」そのものだった。

昨日のような、魔装具を見て鼻息を荒くしていた変質者感は微塵もない。鋭い眼光でモニターの数値を追い、テキパキと部下に指示を出している。


「……よし、次は基礎身体能力の測定だ。野比さん、あちらのトレッドミルへ」


「はいっ」


野蒜は意気揚々と走り始めた。魔法少女になったのだから、身体能力も爆上がりしているに違いない――そう信じていた。


「…………黒瀬さん、これは?」


「ああ。……一言で言えばモルモットと同等位かな。」


モニターを見つめる黒瀬の声は冷徹だった。


最高速度、持久力、跳躍力。そのすべてが「運動の苦手な女子高生(下位10%)」という無慈悲な数値を叩き出している。元のスペックが絶望的すぎた。


「次は魔力出力テストだ。昨日と同じ感覚で魔力を流して見てくれ」


黒瀬はもはや野蒜の顔を見ていない。目の前の精密機器が刻む波形に、恋人に送るような熱視線を送っている。


野蒜が気合を入れ、黄金の光を指先に灯すと、室内が神聖な輝きに満たされた。黒瀬は狂ったようにキーボードを叩き、「素晴らしい……この収束率、既存の魔石とは次元が違う……!」と独り言を漏らしている。


検査が一段落し、黒瀬がデータ整理に没頭し始めた頃。

佐々木が静かに野蒜の隣に歩み寄った。


「野比さん。……少し、いいかな」


その改まった口調に、野蒜は背筋を伸ばした。


「はい、なんですか、佐々木さん」


「白蛇のことだ。……昨日、君に『また会いに来なさい』と言っていた。」


佐々木は一度言葉を切り、窓の外にそびえる富士山を見つめた。そこには今も、一週間前に動き出した巨大な白蛇が、沈黙を守ったまま横たわっている。


「我々自衛隊も、あの白蛇が何を考えているのか、日本をどうしようとしているのか、全く掴めていない。だが、君を選んだようだ」


佐々木は真っ直ぐに野蒜の目を見て、深々と頭を下げた。


「結論から言おう。もう一度、あの『道』を通って、白蛇さんに会いに行ってくれないか?」


野蒜は、前に感じたあの白蛇の巨大な圧力を思い出した。


「……いいかな、野比さん。そして、佐藤さん」


佐々木が声を落とした瞬間、検査室の喧騒が遠のいたように感じられた。黒瀬は相変わらずモニターの数値に没頭しているが、その背中には「ここからは軍の領域だ」という無言の壁がある。


「今から話すことは、自衛隊内でも一握りの人間しか閲覧を許されていない、特A級の機密事項だ。……決して、他言はしないでほしい」


野蒜は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。隣のミシェルも、いつになく真剣な表情で居住まいを正している。ミシェルへの同席許可も「ついで」に降りてはいたが、佐々木はそれを口に出さず、対等な協力者として扱う紳士的な配慮を見せた。


「二人は、今の世界がどうなっているか、どの程度知っているかな?」


「え……ニュースで流れる程度ですけど。アメリカのサンダーバードとか、イギリスのワイバーンとか……。あっちの国は、もうめちゃくちゃだって」


「そうね。ネットじゃ『人類はバグとしてデバッグされてる最中』なんて言われてるわ」


ミシェルの言葉に、佐々木は静かに頷いた。


「そうだ。海外の主要都市は、隕石衝突(AR)から5年経った今も、精神生物……我々が便宜上そう呼んでいる異形の存在によって蹂躙され続けている。だが、君たちは不思議に思ったことはないか? なぜ、日本だけがこれほどまでに『安定』しているのかを」


「それは……富士山の白蛇さんが、ずっと寝てたからじゃないんですか?」


野蒜の問いに、佐々木は窓の外の巨大な影を見つめた。


「半分は正解だ。だが、もう半分は違う。日本は他国に比べ、一歩先んじていたんだよ。実は日本政府は、5年前のAR直後から、精神生物とのコンタクトに成功していたんだ」


「えっ……成功、してた?」


野蒜の目が驚愕に見開かれた。掲示板では「コミュニケーションを取ったのは巫女姫が初じゃないか」と騒がれていたが、事実は違ったのだ。


「ああ。他国が武力行使による排除を試み、ことごとく失敗して文明を焼かれる中、我が国は『対話』の道を選んだ。……もっとも、それが対等な交渉だったのか、あるいは一方的な『仕様変更』の通告だったのかは定かではないがね」


佐々木の説明は続いていく。

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いつも読んでいただきありがとうございます(^ω^)

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