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23話 帰る子

なんか100人位の方に見ていただいているようでかなり驚いています。

ありがとうございます。

オリンピックのカーリングがなんか楽しくて観ています。

ちょっと書くのが遅れたらすみません。

白蛇は応える。


『いずれ必要となる』


『なぜなら』


『世界が重なるとは』


『土地だけが重なるのではない』


『そこに在るものもまた、重なるという事だ』


野蒜は、少しだけ身構える。


白蛇は続ける。


『人の世界が複数あるように』


『生き物の在り方もまた、無数に存在している』


『同じ山であっても』


『ある世界では人が住み』


『ある世界では獣が主であり』


『ある世界では何も生まれなかった』


『それらは、これまで交わる事はなかった』


『だが』


『境が薄れれば』


『行き来は起こる』


野蒜の胸がざわつく。


『人もまた、例外ではない』


『違う歴史を歩んだ人』


『違う形で進化した生き物』


『伝説として語られた存在』


『あるいは、恐れとして残されたもの』


『それらは、元より別の世界に実在していた』


『重なれば』


『見える』


『触れる』


『そして、時に現れる』


野蒜は小さく息を呑む。


白蛇の思念は落ち着いている。


『全てが敵ではない』


『全てが味方でもない』


『それは、そなたらと同じだ』


『理解を求める者もあれば』


『奪おうとする者もある』


『ただ、在り方が異なるだけ』


雲海の向こうを見つめながら白蛇は続ける。


『かつて人は』


『それらを神と呼び』


『妖と呼び』


『怪と呼んだ』


『だが本質は同じ』


『隣り合う世界の住人である』


野蒜はぽつりと呟く。


「……じゃあ、本当に来るんだ」


『既に、来始めている』


白蛇は続けた。


『良かろう』


『だが、もうすぐ日が傾く』


『ここは冷える』


『また来なさい』


『道は閉めてしまったがまた繋げておこう』


『そこで修練するとよい』


『だが、もうすぐ日が傾く』


『ここは冷える』


『そなたには寒かろう』


野蒜は空を見上げた。

気づけば陽は傾き始めている。

雲海が虹色に染まり始めていた。

白、橙、薄紫。

ゆっくりと移ろう色が幻想的に広がっている。


さっきまで時間の感覚が曖昧だったのに、今ははっきりと夕方だと分かる。

胸の奥に、現実の重みが戻ってきた。


「……そう言えば、帰らなきゃ」


白蛇は静かに頷いた。


『では、送って行こう』

『乗りなさい』


次の瞬間、野蒜の足元から植物が生えた。

地面を割るように伸びた蔓が足首に絡み、腰を支え、背を押す。


「おおっ!?」


体が持ち上がる。

ふわりではない。

ぐん、と上昇する。

十メートル。

二十メートル。

あっという間に百メートルほど持ち上げられた。

そこで白蛇が横へと移動してくる。

その巨大さが改めて実感された。


「……高っ。。こんなに大きかったんだ……」


雲より太い体。

光を受けて淡く輝く鱗。

その鼻先まで運ばれる。


『それでは行くぞ』


白蛇が動き始める。

思ったより速い。

風が吹き抜ける。

野蒜は自分より大きな鱗の端に必死でしがみついた。

ビュウウウウ、と音が鳴る。

目が開けられない。

髪が激しくなびく。

怖いというより、ただ、すごい。


空気が変わる。

高度が変わる。

雲を抜ける。

視界の色が変わる。


しばらくして——


『着いたぞ』


風の中でも思念ははっきり届いた。

野蒜はゆっくりと目を開ける。


そこには見慣れた裏山の姿があった。

そして、気づく。


自分がいた場所は、小富士だったのだと。


あの雲海の場所。

白蛇と話していた場所。

富士山の側にある小さな峰——小富士。


足元の風が変わる。

ふわりと体が浮き、今度は風が優しく運ぶ。

裏山の頂へ。

下を覗くと家が見えた。

いつもの屋根。


(……ふぇー)


ぼんやり思う。


(うちから富士山って15キロくらいあるよ……)


どれだけ長いのだろう、白蛇は。


振り返ると、富士山から首を伸ばした姿が見えた。


『では、また』


白蛇は静かに首を引っ込め、再び富士山へ巻き付くように戻っていく。


野蒜はしばらく呆然と立ち尽くした。

現実感が追いつかない。


——帰ってきた。





しばらく呆然としていたが、周囲が騒がしいことに気づく。


空を見上げるとヘリコプターが旋回している。

一機ではない。

いくつも。

低く、不自然なほど。


「……え?」


音だけがやけに現実的だ。


とりあえず中に入ろう。

そう思い家へ向かう。


玄関のドアノブを回す。

開かない。


「……あれ?」


鍵がかかっている。


首を傾げ、裏へ回る。


(あれ?今日お客さん来るんじゃなかったっけ?)


裏口のドアノブを捻る。

開かない。


「?」


どうしたんだろう。

スマホを取り出し、両親に電話をかけようとする。


その時、車の音がした。


見慣れた車が入ってくる。

両親の車だ。


ほっと胸を撫で下ろす。


車が止まり、ドアが開く。

両親が降りる。


野蒜はその場で待つ。


次の瞬間——


バンっ!!


「野蒜っ!!」


叫び声。


両親が走ってくる。

そして強く抱きしめられた。


「えっ!?どうしたの!?」


混乱する野蒜に父が声を荒げる。


「どうしたもこうしたもあるか!!」


母の肩が震えている。


「3日も居なくなって!!」


「……え?」


思考が止まる。


三日?


たった今まで、道を通って、小富士にいて、雲海を見て、白蛇と話して、送られて帰ってきただけなのに。


「……え?」


同じ言葉が、もう一度漏れた。


頭の中が真っ白になる。


時間の感覚。


失っていたもの。


戻ったと思ったそれが、今度は裏切る。


空ではヘリが旋回している。

誰かが無線で叫んでいる。

遠くで車の音もする。


——自分は、三日間、いなかった。


その事実だけが、重く胸に落ちてきた。

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