表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/48

18話 運命の子


『待っていた』

『ずっとずっと』

『見つからなかった』

『煌めき』

『繋ぐ』

『やっと会えた』


言葉ではない。

けれど確かに“意味”を持った何かが、一度に押し寄せてきた。


同時に幾つもの思念が、魔力を震わせながら野蒜に流れ込んでくる。

空気そのものが、びりびりと震えた。


野蒜の体も、否応なく揺れる。


「……っ」


頭が、追いつかない。

情報が多すぎる。

意味になる前の断片が、洪水のように流れ込んでくる。


野蒜は思わず、その場で踏ん張った。


巨大な白蛇は、そんな野蒜をじっと見下ろしていた。

そして、ほんのわずか――思念の流れが変わる。


押し付けるのをやめ、ほどくように。


『ここまでの道を、思い出せ』


今度は、一つだけ。

はっきりとした思念だった。


野蒜は、はっとする。


「……そうだ」


思い出す。

今まで、何度もやってきたこと。


見るのではなく。

聞くのではなく。


――感じ取る。


野蒜は、深く息を吸った。

意識を落ち着かせ、周囲に満ちる魔力の流れを感じる。


そして、自分の中の魔力を、そっと重ねた。


同調する。


すると――


白蛇の思念が、少しずつ、意味を持ちはじめた。


『ずっとずっと、探していた』

『そなたが来る日を、待ち望んだ』

『見つからなかった』

『煌めきを、見つけた』

『魔力の煌めきを』


断片だったものが、繋がっていく。


『煌めきの色を、追った』

『小さな箱で移動する、そなたを見つけた』

『まだ、話す準備が出来る状態ではなかった』

『だから、道に案内した』


映像のようなものが、野蒜の意識に浮かぶ。


『そなたは、道を辿ってきた』

『そして今、私と話せるようになった』


野蒜は、考える。


(……たぶん)


全部は分からない。

でも、今日の出来事を語っているのだろう、ということは伝わってくる。


「煌めき」――

それは、授業で習った、あの閃光事故のことだ。


魔力が暴走し、光が走った、あの瞬間。


映像が、ぼんやりと見える。

白蛇の視点から見た、世界。


そして。


『小さな箱で移動する、そなた』


(……バスだ)


白蛇の目線で見た、野蒜自身。

突然光に包まれ、驚いた顔をしている自分。


その様子が、妙にくっきりと浮かび上がる。


「……見られてたんだ」


思わず、そんな感想が漏れた。


白蛇は、否定も肯定もせず、ただ静かにそこにいた。


そしてここまでの道のりはこの大きな白蛇と喋る為に必要な課程であったようだ。



白蛇は、間を置いた。




雲が流れ、風が止み、

世界が一瞬、静止したように感じられる。


そして、再び。


思念が、今度はゆっくりと、確かに伝わってくる。


『運命の子よ』


その言葉は、先ほどまでとは違った。

重い。

呼び名であり、確認であり、名付けのようでもあった。


野蒜は、思わず息を呑む。


『我等と語る事の出来るモノよ』


白蛇の視線が、まっすぐに野蒜を捉えている。

見下ろしているはずなのに、

そこに上下の感覚はなかった。


ただ、「向き合っている」。


『これからの世界の事を、聞いておくれ』


思念が、少しだけ揺らぐ。


『人に、伝えておくれ』


その瞬間。


野蒜の胸の奥が、すっと冷えた。


「……世界、の事?」


自分でも驚くほど、声が小さかった。


白蛇は、すぐには答えない。

急がせない。

逃がしもしない。


ただ、待っている。


聞く覚悟があるかどうかを。


野蒜は、無意識に足元を見た。

白い雲海。

踏み外せば、どこまでも落ちていきそうな高さ。


それでも、不思議と足は震えていなかった。


「……私で、いいの?」


問いかけは、言葉と魔力が混じった形で伝わる。


白蛇の思念が、静かに返る。


『選んだのは、我等ではない』


『選んだのは、そなただ』


その言葉が、胸に落ちる。


思い返す。


最初は確かに戻れる感覚がしていた。

しかし、自然と進むと決めたこと。

光の道を踏み出したこと。

戻れないと分かっていて、前を向いたこと。


全部、自分で選んだ。


「……」


野蒜は、ゆっくりと顔を上げた。


白蛇を、正面から見る。


怖さは、ある。

でも、それ以上に。


「……聞くよ」


はっきりと、そう思った。


「聞いて、覚えて、帰れるなら……伝える」


完璧じゃなくても。

全部を理解できなくても。


それでも。


白蛇の目が、わずかに細まったように見えた。


『ありがとう』


その思念は、驚くほど穏やかだった。


『では、語ろう』


『選ばれし子ではなく』


『選び続ける子よ』


風が、再び吹く。

雲が、ゆっくりと動き出す。


世界は、まだ静かだった。


だが、これから語られる言葉が、

確実に“未来”に触れるものだと、野蒜は直感していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ