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15話 調べる子


しばらく、野蒜はジャングルの中を歩いていた。


葉が退き、道ができ、また閉じる。

その繰り返しにも、少し慣れてきた頃だった。


ふと。


前方に、違和感があった。


野蒜は反射的に足を止める。

そのまま、すっと身を低くした。


「……なにか、いる」


葉の隙間。

少し開けた場所。


そこに――いた。


白く透けた体。

尖った耳。

小柄な体躯。


ゴースト。


それも。


「……ゴブリン?」


朝、最初に会った、あのゴブリンと同じ姿だ。


野蒜は、反射的に身を隠した。

大きな根の影に身を寄せ、息を殺す。


心臓が、どくんと鳴る。


(……朝のヤツだ!)


朝会ったゴブリンは、何か叫んでいた。

身振り手振りもあった。


でも、あれは――ただ、そこにいる。


動かない。

こちらに気づいた様子もない。


野蒜は、じっと様子をうかがった。


……五分。


……十分。


それでも、ゴブリンは動かなかった。


「……」


警戒しながらも、首を傾げる。


(……動かない、な)


攻撃してくる気配もない。

巡回しているわけでもない。


ただ。


そこに、座っている。


よく見ると、岩の縁に腰掛けているようだった。

足だけをぶらぶらと揺らし、光の中に身を置いている。


「……日向ぼっこ?」


そんな言葉が、思わず浮かぶ。


光は天井から降り注いでいる。

その中で、ゴブリンは実に気持ちよさそうだった。


野蒜は、そっと装備を確認する。


……特に、何もない。


心もとない。


「……これで行くの、無理だよね」


視線を巡らせ、近くに落ちていた木の枝を拾う。

太くもなく、重くもない。


ただの、木。


「……棍棒、ということで」


手作り棍棒(拾っただけ)を握りしめる。


もう一度、ゴブリンを見る。


やはり、動かない。

光の中で、足をぶらぶらさせている。


(……近づいて、気づかれるまで様子を見るか)


そう決めた。


音を立てないように。

一歩、また一歩。


距離が縮まる。


もうすぐ、届く。


野蒜は、棍棒を振りかぶった。


――その時。


ふと、違和感が走る。


(……魔力?)


野蒜は、意識を切り替えた。


見る。


魔力を。


「――っ!?」


瞬間。


視界が、白く弾けた。


「目、目が〜っっ!!」


野蒜は、思わず声を上げ、その場で転がった。


痛い。

刺すように、眩しい。

どっかの大佐では無い。


「むっちゃんこ……光ってる……!」


ゴブリンは、光っていた。


ただ光っている、というレベルじゃない。

魔力の塊のように、全身が輝いている。


魔力が、ゴブリンそのものを光源にしていた。


「い、いったぁ……まさか私自身がこのセリフを叫ぶ事になるとは。」


さすがに、これだけ騒げば気づくだろう。

野蒜も、そう思った。


ゆっくりと、体を起こす。


恐る恐る、薄目を開ける。


……ゴブリンは、まだ同じ姿勢だった。


逃げない。

襲ってこない。


こちらを見てもいない。


「……え?」


野蒜は、首を傾げる。


(……気づいてない?)


それとも。


(……気づいてるけど、どうでもいい?)


どちらにせよ、状況は変わっていなかった。


野蒜は、棍棒を地面に置いた。

ゆっくりと、座る。


「……この感じ」


小さく、呟く。


「たぶん、これも……試験、だよね」


ここに来てからの流れ。

急に襲ってくるものは、まだない。


代わりに、“どう接するか”を見られている気がする。


野蒜は、目を閉じた。


今度は、無理に見ない。


感じ取る。


魔力を。


すると、ゴブリンの存在が、はっきりと伝わってきた。


多い。

でも、荒れていない。


強い。

でも、攻撃的じゃない。


「……落ち着いてる」


むしろ、穏やかだ。


周囲の光が、ゴブリンに集まっている。

いや。


集めている、というより。


「……そこにいるだけで、流れができてる」


意図していない。

操作していない。


ただ、存在しているだけで、魔力がそうなる。


「……私と、似てる?」


祈らなくても。

願わなくても。


“そういう存在”であるだけで、周りが反応する。


野蒜は、そっと目を開けた。


ゴーストゴブリンは、相変わらず光の中で足をぶらぶらさせている。


気持ちよさそうに。


まるで、ここが自分の居場所だと知っているみたいに。


「……試験ならさ」


誰にともなく、ぼやく。


「もうちょっと、分かりやすくしてほしいんだけど」


ゴブリンは、ただ静かに、光の中にいた。

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