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13話 考える子

通路に入る。


先ほどまでいた空間とは違い、ここは細長く、まっすぐ奥へと伸びていた。

足元はなだらかで歩きやすく、壁面にはほとんど植物がない。

ただ、完全に無機質というわけでもなく、ところどころに細い蔦や、苔のようなものが張りついている。


奥の方が、少しだけ明るい。


出口なのか。

それとも、また何かあるのか。


野蒜は歩き出した。


ゆっくりと。

警戒して、というよりは――考え事をしながら。


「……祈る、かぁ」


誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟く。


さっき。

木の芽に魔力を流した時。

色を変えようとした時。


うまくいったのは、命令でも、文句でもなく――祈った時だった。


「……お願い、が大事なのかな」


魔力の流し方や形は、だいぶ分かってきた。

通す場所、留める場所、量の調整。

それらは、技術だ。


理解できるし、再現もできる。


でも。


色が変わった瞬間。

植物が、確かに“応えた”瞬間。


あれは、技術じゃなかった。


「……祈るって、魔法の条件?」


歩きながら、眉をひそめる。

本人は至って真剣だが、またしても小学生が難しい顔でぶつぶつ言っている光景である。


「……でもさ」


野蒜は、思考を止めずに続ける。


「祈るって、誰に対して?」


木の芽?

植物そのもの?


それとも――


「……魔力?」


自分の中にある、白っぽい光。

意志に反応して、形を変えるもの。


「私、魔力にお願いしてるの?」


それとも、魔力を通して、何か別のものに?


「……そもそも」


足音が、静かな通路に小さく響く。


「魔力って、生きてるの?」


意思があるように感じる時がある。

揺らぐ。応える。拒む。


ただのエネルギーにしては、振る舞いが妙だ。


「……分からん」


小さく息を吐く。


それから、思い出したように別の疑問が浮かぶ。


「……じゃあさ」


「最初の台座って、なんだったんだろ」


あの場所。

最初に立った、円形の台座。


あそこから、世界が変わった。


魔力が見えるようになった。

流れを感じられるようになった。


「……もしかして」


足を止めず、考える。


「あれ、魔法そのものじゃなくて……使い方、だった?」


魔法を与えたわけじゃない。

能力を追加したわけでもない。


“見方”を教えただけ。


世界の中に、元からあったものを。

ちゃんと認識できるようにしただけ。


「……チュートリアル?」


完全にゲーム脳である。


「……いや、でも」


野蒜は自分で自分を否定する。


「それなら、魔石は?」


ポケットを探りそうになって、やめた。

だが、確かに持っている。


魔力を蓄え、流すための石。


「魔石って……何」


魔力を溜める道具?

それとも、魔力そのものの塊?


「私の魔力と、どう違うんだろ」


自分の魔力は、白っぽい光。

意志と願いに反応する。


じゃあ、魔石は?


意思を持たない魔力?

それとも――誰かの祈りが、固まったもの?


「……うーん」


考えれば考えるほど、分からなくなる。


けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。


怖くない。

焦らない。


分からないなりに、ちゃんと前に進んでいる気がする。


通路の奥が、だいぶ明るくなってきた。


やがて、野蒜は立ち止まる。


そこは、広場の入り口だった。


天井が高く、向こう側が開けているのが分かる。

だが、入口には無数の蔦が垂れ下がっていて、中の様子はよく見えない。


太いもの、細いもの。

絡み合い、重なり合い、まるで緑の幕のようだ。


「……入っていい、のかな」


一歩、近づく。


すると。


触れてもいないのに、蔦がゆっくりと動いた。


左右に。

まるで、カーテンのように。


道を譲るように、静かに開いていく。


「……え」


野蒜が立ち尽くす間に、視界が開ける。


そこに広がっていたのは――


ジャングルだった。


濃い緑。

幾重にも重なる葉。

絡み合う蔓。

太い幹と、その間を埋める無数の植物。


光は、上から差している。

どこまで続いているのか分からないほど、奥行きがある。


湿った空気。

生命の気配。

圧倒的な量の、“生きている感じ”。


「……森、というか……」


言葉を失う野蒜の背後で、蔦は音もなく元の位置に戻る。

逃げ道を塞ぐでもなく、閉じ込めるでもなく。


ただ、そこにある。


野蒜は一歩、足を踏み出す。


「……さて」


小さく息を吸い、吐く。


「どうしようか」


ジャングルは、何も答えない。

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