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10話 学ぶ子2

野蒜は、新しく現れた通路を進んでいった。


洞窟の壁そのものは、最初に目覚めた時と変わらない。

大きなものが這ったような、うねった凹凸。

だが、その壁面を覆うように、草や花が生えている。


ひとつ、はっきりしていることがあった。


洞窟自体は、光っていない。


光っているのは、植物だけだ。


壁に根を張る草。

蔦のように伸びる細い茎。

見たことのないシダ植物。

葉の形も大きさも、ばらばらだ。


中には、クラゲのように透けた葉を持つ植物もある。

ふわりと浮かぶように光り、通り過ぎるとわずかに揺れた。


蝶の形をした花もあった。

羽を閉じたまま壁に留まり、淡い光を放っている。

本当に飛び立ちそうで、思わず目で追ってしまう。


幹の太い植物もある。

毛むくじゃらのように細かな突起が生え、その一本一本が、ほのかに光っていた。


通路の床には、何も生えていない。

歩く場所だけが、きれいに空いている。


(……ここを歩けってことかな)


そう思いながら、足を進める。


ほんのり、明るい。


光源があるわけではない。

植物そのものが、淡く光っているのだ。


よく見ると、その理由が分かる。

植物の一本一本に、魔力が流れている。

葉脈の中を、茎の奥を、細い光が走っている。


野蒜が一歩進むたび、その光がわずかに揺れた。

瞬きをするように。

あるいは、呼吸をしているように。


(……生きてる)


言葉にしてから、少し考える。

正確ではない気もするが、今はそれが一番しっくりきた。


しばらく歩く。

一本道だ。


気づけば、足取りが少し軽くなっていた。

歩く速度が、わずかに上がっている。


怖くないわけじゃない。

出口が分からない状況なのも、変わっていない。


それなのに。


歩くと、光が揺れる。

近づくと、反応が変わる。

触れれば、魔力の流れが分かる。


自分の行動に、洞窟が応えている。


「……ふふ」


思わず、声が漏れた。


(あ)


気づいて、口元を押さえる。


(いや、ダメでしょ!ダンジョンだし、落ちてきてるし)


自分に言い聞かせるが、胸の奥の感覚は消えない。

じんわりと、温かい。


ーーやっぱちょっと楽しい。


やがて、通路はふっと開けた。


今までより、ずっと広い空間。

野蒜は足を止め、見上げる。


――天井が、ない。


吹き抜けのようになっている。

だが、空は見えない。

上へと続く暗い空間が、どこまでも伸びている。


中央には、大きな木が一本、生えていた。


「……おっきい木」


太い幹。

枝は上へ上へと伸びているが、終わりが見えない。


壁には植物が生えていない。

その代わり、何か大きなものが這ったような痕跡が、螺旋状に上へ続いている。

登れそうな足場は、ない。


(出口……は?)


周囲を見回すが、通路は今来た道だけだ。


野蒜は、意識を切り替える。

魔力の流れを見る。


すると、この空間に満ちる魔力が、すべて木の根元へと集まっているのが分かった。


近づいてみる。


根元には、小さな芽があった。

まだ葉も開いていない、か細い芽。


だが、その芽は奇妙だった。


周囲はこれだけ魔力で満ちているのに、その芽だけが、ぽっかりと空いている。

魔力が、ない。


集まっているのに、宿っていない。


「……どういうことだろ」


考えてから、野蒜はそっと芽に触れた。


特に変化はない。

冷たくも、熱くもない。


ただ、周囲が光で満ちている分、その芽だけが、取り残されているように見えた。


「……なんか、寂しいよね」


ぽつりと、呟く。


野蒜は、芽に魔力を流した。


白っぽい光。

自分の内側から流れ出る、それ。


まだ見えない葉の形を思い描き、

葉脈をなぞるように、

維管束を意識して、丁寧に。


すると、芽の内部の構造が、はっきりと分かってきた。

魔力の流れによって、見えないものが浮かび上がる。


その時、気づく。


周囲の魔力は、色が違う。


植物に流れる光は、緑が多い。

そこに、少しだけ青が混じっている。


一方、自分の魔力は、白っぽい光だった。


「……色、あるんだ」


この時、野蒜は初めて魔力に色があることを知った。


理由は分からない。

意味も、性質も、まだ何も分からない。


それでも、確かに違う。


野蒜は、周囲を見渡す。


通ってきた通路の植物たちが、色取りどりに光っていた。

緑、青、淡い紫、ほのかな黄色。


野蒜は、近くの一輪に近づく。


青く光る花。

大きなタンポポの綿毛のように咲き、小さな花が丸く集まっている。

重さで茎が曲がり、ちょうど野蒜の目線の高さにあった。


そっと、触れる。


魔力の流れが、はっきりと伝わってくる。


「……なるほど」


何が「なるほど」なのかは、自分でも分かっていない。


この洞窟は、何も言わない。

ただ、応えてくる。


野蒜は、そのことをまだ言葉にできないまま、

次に進むことを、自然と考えていた。


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