---プロローグ--- 4月のハロウィン
初めて投稿するので優しくしてください!
適当に更新しますのでよろしくお願いします。
途中で飽きる可能性もあります。
隕石が太平洋に落ちた瞬間、
世界は終わる――はずだった。
少なくとも、そう信じる理由は十分にそろっていた。
だが実際に終わったのは世界ではなく、
「現実とは何か」という、人類の前提だった。
もっと正確に言えば、
世界はその一週間前から、もう半分終わっていた。
隕石衝突の七日前。
各国政府が、ほぼ同時に声明を出した。
地球近傍を通過中の天体が、
高い確率で地球に衝突する可能性がある。
進路、規模、被害予測。
どれも最悪寄りの数字だった。
世界は即座に混乱した。
外国では暴動が各地で起きた。
略奪、放火、武装。
「どうせ終わるなら」という理屈は、
驚くほど簡単に人を壊す。
株式市場は止まり、空港は閉鎖され、
宗教施設には人が溢れた。
一方、日本は――比較的、平和だった。
少なくとも、表向きは。
日本政府は、いつも通りの調子で会見を開いた。
「冷静な行動をお願いします」
「デマに惑わされないでください」
「可能な限り、普段通りの生活を続けてください」
それは命令というより、お願いに近かった。
そして、その「お願い」を
国民に直接向けて繰り返した存在が、もう一人いた。
天皇陛下である。
テレビを通じて発せられた、
静かで短い言葉。
争わず、恐れず、
互いを思いやってほしい、というお願い。
それがどこまで意図されたものだったのかは、
誰にもわからない。
だが結果として、
その呼びかけは確かに効果を表した。
買い占めは起きたが、暴動まではいかなかった。
避難する者、仕事を続ける者、
「まあ大丈夫だろ」と動画を見る者。
日本は、崩れきらずに踏みとどまった。
しかし、行動はだいたい似通っていた。
仕事を離れ、家族と過ごすことを選ぶ人間が、確実に増えていた。
一方で、何事もなかったかのように、普段通りの仕事を続ける人もいた。
理由は単純だ。
衝突予定日が、4月1日だったからだ。
エイプリルフール。
嘘をついてもいい日。
冗談が許される日。
「さすがにそれはない」
「壮大な訓練だろ」
「政府ドッキリ説」
そんな言葉が、ネットを流れた。
そして迎えた当日。
衛星映像には、
太平洋上で起きた巨大な爆発と、
空へ立ち上るキノコ雲が映っていた。
閃光。衝撃。蒸発する海水。
理論上は、巨大津波と地殻変動コースである。
ところが。
待てど暮らせど、
津波も衝撃波も来なかった。
津波なし。地震なし。
地球、びっくりするほど無事。
――少なくとも、
その瞬間までは。
代わりに起きたのは、別の異変だった。
空へと舞い上がったのは、
灰とも塵ともつかない、光る微粒子。
それは風に乗り、数時間で地球を一周した。
人類は、この一週間をあとからこう呼ぶ。
エイプリルリアル。
通称、エイプリアル。
嘘だと思われたことが、全部本当だった一週間。
公的な文書や年表では、略してARと記される。
メディアは、もっと軽い名前を使った。
4月のハロウィン。
冗談みたいな怪物たちが、仮装じゃなく現れたからだ。
エイプリアルで、最初に壊れたのは「常識」だった。
街灯の下に、明らかに人じゃない影が立っている。
無人の路地から、獣の唸り声が聞こえる。
鏡に映るのは、知らない顔。
集団幻覚?
ストレス?
地球規模のエイプリルフール?
違った。
それらは、あとにこう分類される。
精神生物。
人間の精神と同じ位相に存在し、
本来は物理世界に干渉できない生物。
幽霊も、その一種だった。
死者の残留思念ではなく、
最初から「生きている存在」だったのだ。
最初に名前を付けたのは、学者じゃない。
ネットだ。
掲示板、SNS、動画配信。
正体不明の何かが映るたび、コメント欄が同じ言葉で埋まっていく。
「ゴーストじゃん」
「リアルゴースト出現」
「これ、狩れるんじゃね?」
そうして、呼び名は決まった。
ゴースト。
幽霊。妖怪。怪物。都市伝説。
全部まとめて、それでいい。
学会が「精神生物」という正式名称を出した頃には、
もう誰もそっちを使っていなかった。
そして次に生まれた言葉が、もっと厄介だった。
ゴースト狩り。
当て字で、ゴーストハント。
意味は単純。
倒せるなら、倒す。
撮れるなら、撮る。
バズるなら、上等。
隕石由来の塵は、
精神と物質をつなぐ「橋」になった。
ゴーストは、見えるようになった。
触れるようになった。
殴れるようになった。
当然、最初のゴーストハント動画が上がるまで、
時間はかからなかった。
「よっしゃ、ゴースト撃破!」
アスファルトに崩れ落ちる、
小さい鬼みたいなゴースト。
身体は霧になって消え、代わりに残ったのは、拳大の結晶だった。
淡く光るそれを見て、誰かが言った。
「……魔石じゃね?」
正式名称が決まるより早く、
ネットがまた仕事をした。
ゴーストを倒すと落ちる、
高濃度精神エネルギーの塊。
魔石。
ふざけた名前だったが、誰も訂正しなかった。
なにせ、性能が良すぎた。
魔石は電池になり、武器になり、
人間の精神を外へと拡張した。
火を出す。
水を操る。
結界を張る。
魔法誕生。
理屈は、あとでいい。
人類はまず、できてしまった。
もっとも、すべてのゴーストが敵だったわけじゃない。
狐の耳と尾を持つゴーストが、そこにいた。
半透明の身体。
だが、確実にそこにいる。
「俺たちは、お前たちと同じだ。生きている」
エイプリアルが終わっても、
消えなかったゴーストがいる。
こいつらは、その一部だ。
一週間後、地球を覆っていた塵は消えた。
最初から存在しなかったみたいに、きれいさっぱり。
ニュースはそれを
「エイプリルリアル(AR)の終了」と呼んだ。
専門家も、政府も、同じ言葉を使った。
世界は救われた。
危機は去った。
そういうことになった。
だが、世界は元には戻らなかった。
ゴーストは残った。
魔法も残った。
狐のゴーストは言った。
「伝説は、作り話じゃない」
「共存の記録だ」
妖怪。
精霊。
守り神。
人類は、昔にも一度、
彼らと隣り合って生きていたのかもしれない。
「まだ、変化は終わっていない」




