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舞踏会と阿波踊り

作者: 高橋ひかり

舞踏会に、ペット自慢として連れてこられた、猫に転生した元日本人の『私』

暇なので、踊ってみた。

 ここは、煌びやかなシャンデリアの下、貴族たちが優雅に舞う豪華な舞踏会。


「おほほ、見てくださいまし、わたくしの愛猫の毛並みの美しさ!」

 

 なんて、飼い主である伯爵夫人は鼻高々だ。転生する前はただの平凡な会社員だった私だが、今は彼女の自慢の「ペルシャ猫、レオン」として、この騒々しい場に連れてこられている。

 

 フロアでは、ふんわりとしたドレスをまとった令嬢たちと、燕尾服の紳士たちが、それはもう優雅にワルツを踊っている。タッタッタッタ、と、まるで滑るように。

 

 猫に転生した私の目線からすると、皆、やけに動きが大袈裟に見える。しかも、私は猫だ。ダンスの相手がいるわけでも、踊りたい気分になるような音楽でもない。そもそも、猫にドレスコードはあるのか?

 

 伯爵夫人の足元で、ただひたすらに暇を持て余す。ふと、前世の記憶が頭をよぎった。夏、提灯、そして、あの熱狂的なリズム。


「よし、やるか」

 

 誰も気づかないだろうと、私はそっと立ち上がった。

「えらいやっちゃ、えらいやっちゃ、ヨイヨイヨイヨイ!」

 心の中で囃子を響かせながら、私はフロアの隅で阿波踊りを始めた。

 

 両手を上げ、右、左、と軽快に足を運ぶ。前世の知識を総動員して、腰を落とし、少しコミカルに見えるように跳ねる。猫なので、身のこなしは俊敏だ。


 最初は誰も気づかなかった。しかし、ワルツの旋律の隙間から聞こえる、私の足音と、「ヤットサー!」という心の叫びが、徐々に人々の注意を惹きつけ始めた。


「まぁ、あの子の動き! 今までのダンスと全然違うわ!」

「なんてリズミカルなの! レオン、というのね!」

 

 優雅な貴族たちは、私のユニークな動きに目を奪われ、ワルツを中断し、私を取り囲んだ。

「これは、どこの国のダンスなんですの?」と尋ねる伯爵に、私はすまし顔で小さく鳴いた。


「ニャア」(訳:日本の徳島で生まれた最高の盆踊りですよ)

 

 その夜、舞踏会で最も評判になったのは、伯爵夫人の自慢の毛並みではなく、猫の阿波踊りだった。

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