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世界から忘れ去られる方法  作者: 伝福 翠人


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10/12

波紋の広がり

佐藤美咲は、恐怖よりも強い高揚感に包まれていた。


水浸しになったオフィス、モニターに浮かぶ『還れ』の文字。警察はただの悪質なイタズラか、電気系統のトラブルだろうと結論付けた。しかし、美咲は確信していた。


(誰かが、私を守ってくれている)


それは、正体不明の、しかし自分と同じ目的を持つ協力者。その存在が、彼女の心から最後の迷いを消し去った。もう、一人ではない。


美咲の取材は、そこから一気に加速した。


彼女は集めた証拠を手に、上司を説得し、小さなケーブルテレビ局としては異例の、30分にわたる特別報道番組の枠を勝ち取った。


「五ヶ瀬に潜む影。あなたの隣に迫る、見えない罠」


番組のタイトルは、挑戦的だった。放送日が決まると、美咲は最後の証拠固めに奔走する。しかし、敵もまた、警戒を強めていた。金の力で圧力をかけ、被害者たちの口を封じ始めたのだ。取材は壁にぶつかり、美咲は焦りを募らせていた。


その日の夜、彼女が自宅で頭を抱えていると、郵便受けにカタン、と小さな音がした。見に行くと、そこには差出人のない、一枚のUSBメモリが落ちている。


彼女は恐る恐る、それを自分のパソコンに差し込んだ。


中に入っていたのは、一本の音声ファイルだった。再生すると、あの金融会社の男たちが、計画の全貌と、町の有力者を買収した生々しい会話を交わす声が、クリアに流れ出した。


「……これで、終わりだ」


美咲は、勝利を確信した。


遠く離れた要塞で、有川 仁はモニターに映る彼女の姿を見つめていた。


あの音声は、彼が自作した指向性の超高感度マイクを使い、金融会社の壁の外から拾い集めたものだった。彼は、美咲が本当に必要な情報を、完璧なタイミングで彼女の元へ届けたのだ。


彼は、もう迷わない。


これが、新しい自分の戦い方だ。


そして、運命の放送日。


町の誰もが、ケーブルテレビのその番組に注目していた。美咲は、緊張で震える手でマイクを握りしめ、カメラの向こうにいる町の人々、そして悪党たちに向かって、静かに語り始めた。


「今夜、この町で起きている、許されざる真実についてお話しします」


その時、町の中心部にある電波塔の送電システムに、原因不明の過負荷がかかり、町一帯が大規模な停電に見舞われた。テレビの画面は、一斉に真っ暗になる。


金融会社のオフィスで、男たちはほくそ笑んだ。


『ハハハ、これで放送は中止だ!』


しかし、その直後、町中の全てのスマートフォンが、一斉に鳴り響いた。


緊急速報のアラート。そして、画面には、真っ暗になったはずの美咲の番組が、途切れることなくストリーミング配信されていた。


要塞で、仁は静かにキーボードから指を離した。


町の通信インフラは、完全に彼の支配下にあった。


彼は、もう拳を振るわない。


だが、彼の力は、以前とは比べ物にならないほど、静かに、そして確実に、世界を動かし始めていた。


真実を伝える声は、もう誰にも止められない。

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