一枚の手紙
『緊急地震速報です。日本列島で強い揺れのおそれがあります。今すぐ安全な場所に避難してください。繰り返します。緊急地震速報です。今すぐ避難してください!......』
あの日、ほとんどの日本人は、大切なものを失った。お金、友人、恋人、家族、宝物...。持っていたものすべてを、失ってしまったんだ。
少しひんやりする朝が、今日もやってきた。あたたかい上着に包まれながら太陽が昇りきるのを待つ。大災害が起こってから1年が経とうとしている。未だに、行方不明者や死亡者数が増えるニュースが耐えない。ニュースと言っても、テレビやラジオは使えなくなってしまったため人づてでしか聞いていないことだがら、真相は分からない。
けれど、一つだけわかることがある。今の日本の人口は、数えられるくらいしか人数がいないということだ。地震が起きたのは東京湾周辺の海底。複数のプレートが沈み込み、それが大きな反発を起こしたらしい。100年に一度の地震だなんて言われたりもした。その後も、何回もの余震が続き、生きている人は減っていった。
今俺がいる場所は長野県の長野市だ。津波から急いで逃げてきてたどり着いた場所だ。そして今日、収まってきた状況を確認しに、東京へ戻る。もちろん、交通機関は使えないため、徒歩で目指す。俺が確認しに行くのは、東京周辺の今の状況と母の安否の確認のためだ。母は大災害があった日から一切連絡を取れていない。昨日、やっと外出の許可が国から出された。安全に注意しながら行動するようにと指示があり、外出をするには通行証が必要らしい。
俺はすぐに通行証を貰いに行き、 長野市を出た。俺以外にも外に出る人はいたが、そのほとんどは、家の中にある物の処理や探し物のための外出だろう。俺のように、わざわざ東京に行く人は見られない。
「おい坊主。どこまで向かうんだい?」
近くを歩いていたおじいさんに話しかけられた。
「実家の方に戻ろうかと思いまして」
頼むから、ざっくりとした説明で納得してほしい。
「そうなんか。気ぃつけるんだぞぉ」
と、優しい口調で言うと、おじいさんはまたのんびりと歩いていった。
今東京に行くなんて、馬鹿げている。きっとそう思われるだろう。わざわざ危ないところへ行って、死にに行くようなものではないか。そう言われても、俺は東京に行く理由があった。先程も言った通り、母と会うためというのが一番の理由だ。そして、その母は俺に一枚の手紙を残していた。
『早く帰っておいでね。お母さんより』
という文だけが書かれた手紙が、カバンの中に入っていたのだ。恐らく、小さい頃に母が俺に持たせていたメッセージだろう。友達との遊びが長引いてなかなか帰ってこない俺に、母が忘れないようにとカバンに入れさせていた物だ。
この手紙を見たとき、早く帰って母に会いたいと思ったのだ。1年も会っていなければ、懐かしい声を聞きたくなるものだ。生きているかもわからない。けれど、もし生きていて、会えるとしたら_。
その思いだけを胸に、俺は真実へ向かう旅に出た。
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