1話 新しい夜空
覚えていらっしゃるかはわかりませんがお久しぶりです。
久々の投稿となります。
これからは自分の書きやすい感じの作品を作っていけたらなって考えてます。
これからもよろしくお願いします。
1980年代~1990年代にピークを迎え公道をステージとした高速走行を行う者、走り屋。2020年代現在では、その数を減らしている。そんな時代のなか、走り屋として、今もなお活動し続けている者たちがいた。彼ら、走り屋の頂点とは何か、最速、最強のドライバーとなった先には何があるのか。終わりの分からない道を走り続けていく。見えない、ゴールへただひたすらに。
8月のある夜の日、一台のクルマがエンジンサウンドを奏でながら峠を走っていた。裏六甲ドライブウェイ、兵庫県神戸市にある六甲山の道路を猛然と駆け抜けている青のWRXSTI VAB型が上りを攻めていた。短い直線をフルスロットルで駆け抜け、目の前には左のヘアピンコーナーが差し掛かっていた。WRXは、すぐさま減速へと入り、道路の端からスッと内側に車体が入り、滑らかにヘアピンを立ち上がる。ストレートで押し出されるかのように加速し、再びコーナーが差し掛かる。そのコーナーも流れるような動きでクリアしていった。
その後も、走り屋らしきクルマなどをパスしながら、WRXはコースを淡々と攻略していった。
「おい! 見たか今の?」
「ああ、後ろにいたと思ったら、あっという間に抜かれちまった……」
「信じられねぇよ……何なんだ、あのWRX……」
その後、頂上へと近づき徐々に速度を下げていった。
「タイムは……はぁまたダメかぁ……最近タイム更新すら出来てない……。」
WRXは、交差点手前のコンクリートブロックで囲まれたスペースに停めた。そしてグローブボックスからノートを取り出してタイムを書き留めた。
「どうすっかなー…… これ以上、どうやって上げていくかなぁ……走り方を変えるにしても、どうしたらいいもんかなぁ。 星野さん辺りに、アドバイスでも聞くべきか? ――考えてもわかんないしとりあえず、今日は帰るか。」
再びクルマを始動させ、裏六甲ドライブウェイを下った。
翌日、WRXを運転していた男――水戸綴瑠は少し眠そうにしながらノートパソコンの画面を見つつ、作業をしていた。お洒落で小さなオフィスにて、頭を抱えながらも作業を進めていると隣の席に一人の女性が座った。
「おはよぉー、相変わらずの寝ぼけっぷりだねぇー」
隣に座り、話しかけてきたのは同僚の雛元沙樹だった。雛元は中学からの幼馴染で、偶然にも同じ会社へと就職していたこともあり二人でいることが多い。
「それはいつものことだろ? というか、珍しいな。」
「何が?」
「いやだって、いつもは昼休みの時にしか声かけないくせに。」
「ああー、そうゆう。実は、明日やっと車が帰ってくるんだよねぇ~」
「そういえばそうだったな。」
「そういえばそうだったな、じゃないわよ! まったく……私がどれだけこの日を待ちわびたと思ってるの!」
彼女は、眉間にしわを寄せ河本の方へとにらみつけた。
「ごめんごめん。」
と水戸は苦笑いをしつつも謝った。
数時間後、正午となり、二人は昼食へと向かうため一階に降り、店へと向かっていた。
「いっつも思うけどあの販売店の車、コロコロ変わるわよね。」
そう言いながら、雛元はビルから出たすぐの外車の販売店を見ていた。
「そりゃ、金持ちの人たちがバンバン買っていくからだろうし、変わる分にはいいと思うよ。色々見れるし。」
「それもそうなのかなぁ。」
二人は、数分歩き近くの和食居酒屋へと入って行った。そこでそれぞれ、とんかつ定食とカツカレーを選んだ。注文後、雛元はとあることを聞き始めた。
「ところで、最近調子はどうなの?」
「全然、現状維持ってところかな……」
「現状維持かぁ――でもいいんじゃない?」
「そうかなぁ……僕的には、削っていきたいけど。」
それを聞き、「ふーん」と答えた。
「あっそうだ! そういえば、前に言ってた人は見つかったの? 水戸が先生って呼んでたあの人!」
そう聞かれると、水戸は首を横に振った。
「ノーかな……ちょっと前に星野さんとか、六甲によく来る人とかに聞いたりしても知らないって言われて。」
「それは困ったわね……それでその人、どんなクルマに乗ってたの?」
「AE86だよ。カローラレビンに乗ってて、確か……IMPULSEってところのエアロとかチューニングパーツを付けてる、っていうのは教えてもらって知ってるんだよ。それ以外は、全く。っていうか、前にも言わなかったっけ?」
「そうだっけ?――まっ! ちょっとずつ探せばいいと思うよ。」
「だよな、ありがと。」
「気にするな! じゃぁ、明日取りに行くの付き合ってね!」
「は?」
「当然でしょ? 折角、親切に聞いてあげてるんだからちゃんとその分は返してもらわないと。」
水戸はその話を聞いている間、細目で少し嫌そうにしていた。
「分かったよ……一緒に行くよ。」
「ヨッシャ!」
その場で雛元は、小さくガッツポーズをした。
昼食を食べ終えたのち、二人はオフィスへと戻り午後からの作業を始めた。
数時間後、水戸は、仕事を終え、一旦帰宅したのち、今夜も裏六甲ドライブウェイに向かっていた。入口を通過し、最初のストレートへ入ると軽くアクセルを開ける。入ってすぐは、慣らしや路面状況の確認、一般車のことも考慮し、60%ほどで流していた。頂上まで登り切ると下りにへと方向転換し、スマホのストップウォッチをスタートさせ走り始めた。コーナー侵入速度、コーナリングスピード、脱出速度をいくつものパターンを試しながら走り込んでいた。
(チッ……またコンマ1秒落ちか! ――マシにはなったとはいえこれで何回目になるんだ……)
十数本走ったのち、一度休憩に表六甲ドライブウェイの展望台へと入った。クルマから降り、石のベンチへと腰かけ夜空を眺めた。
(先生の提示したタイムからはまだ程遠い。それに教えてもらってるときから何にも変わってない……一年前から何も……)
「はぁ……教えてくれよ……WRX……速くなる方法とかをさぁ……。 ――何言ってんだろ……。」
そう、WRXの方を向いて独り言を言っていた。しかし、こんなことを考えているとふと、先生であるあの人に言われたことを思い出す。
『別に、成長が遅いからって凹むようなことないで~。誰かと競ってるわけじゃないからな。競ってるほど自分のことが見えなくなるもんや。でも競うほど成長は早くなるで。でも大事なのは、自分のできる速度で学んで、自分のペースで速くなる。それだけで十分なんやで。』
(教わって半年ぐらいの時に言われたっけかな……懐かしいなぁ。)
水戸は思い出した言葉に鼻で小さく笑い、ほんの少し微笑みながらクルマを少し眺めた。そして、再びクルマへと乗り込み、裏六甲ドライブウェイへと駆けていった。
読んでいただきありがとうございました。
次がいつになるかはわかりませんが、絶対出しますので読んでいただければ幸いです。
これにて失礼いたします。(・ω・)ノ