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『好きなんだったら、もう仕方がない』

ちょっとごめんなさい。お邪魔するわね。

あら、やだ。びっくりしちゃったわよね。ちょっとだけね、話したいことがあるよ。お詫びにご馳走するわ。

貴方達は、まだケーキの方がよさそうね。店員さん、こっちにケーキと紅茶のセットを2つくださいな。あと、私にはワインを。

さて、私ね、そこのカウンターで飲んでたんだけど、貴方達の話が、聞こえちゃってどうしても言いたくなっちゃったことがあって、来ちゃった。

もちろん、聞き耳立ててたわけじゃないのよ。貴方達が段々ヒートアップしてきたから、聞こえちゃって。違うの。うるさかったとか文句を言いに来たんじゃないの。

私ね、心配になっちゃって。

貴方達みたいな可愛い女の子達が、こんな些細な勘違いでケンカして、そのまま疎遠になっちゃったりしたら、やっぱり悲しいじゃない?そんなの。

だから、ちょっとだけ冷静になって欲しかったの。

あ、ほら、ケーキとお紅茶、美味しいわよ。食べたことある?ここの。

このケーキ、あのマスターが趣味で作ってたのを店員さんに披露したら美味しかったから、メニューになったんだって。

不思議よね。あんなに無骨な手から、こんなに柔らかくて優しくて甘いものができるなんて。

これだから人間はすごいわよね。ほら、あそこのドラゴンなんて、人間の作るお酒が好きで、ほぼ毎日ここに通ってるのよ。

たまに言ってるわ。滅ぼさなくてよかった。酒が飲めなくなるところだったって。まあ、他にも理由はあるみたいだけど。

あ、ごめんね。まだ、名乗ってなかったわね。私はセラ。ちょっと遠いところに住んでるんだけど、ここにたまに来るの。美味しいお酒を飲みに。

え?もしかして知ってくれてる?

そうよ。あの貴方達が言う『宵闇の森』のちょっと奥まったところにあるところに住んでるわ。そう、貴方達の言うヴァンパイアよ。

いやいや、飲まないわよ。人間の血なんて。

あれはすごく昔にね、貴方達、人間が勘違いしたの。あれでしょ?首筋に噛みついて血を吸って眷属に、とか。

物語の挿絵でもよく見るわ。男性のヴァンパイアがお姫様抱っこで、美しい女の子を抱えて。その首筋に空いた噛み傷から真紅の血が滴る。みたいなやつ。

あれね、そもそも噛んでないの。そして、吸ってもないの。首筋からね、入れてるの。魔力を。で、そこから全身に行き渡らせて眷属化させてるの。

他の場所、例えば腕とか足からでもできるんだけど、やっぱり首付近にある方が早いの。神経がしゅうちゅうしちるから。


あら、ごめんなさい。怖がらせちゃって。そんなつもりじゃないの。遠い昔の話よ。眷属化だなんやらって。貴方達も貴方達のご先祖を何十代を遡った頃の昔の話。もう、気が遠くなるくらい。


それよりも、貴方の話よ。貴方。貴方の彼氏の話よ。

あら、そんな警戒しなくて大丈夫。確かに、知らない年上の女の人が急に入ってきて、人の恋バナに口出しするなんて。

でもね、絶対に損はさせないから、ちょっと聞いて欲しいの。変な企みとか、そういうのじゃないから。ただ、貴方達の話が聞こえて、アドバイスしてあげたいな。って、思って。

そもそも、悪意があったらそんな小細工なんてしなくても、あれよ。どうにでもできちゃうんだから。

ねえ、マスター?


-ん?そうだな。お嬢ちゃん達、せっかくだから話を聞いてやってもいいと思うぞ。お嬢ちゃん達の300倍くらい年上だか、熱っっ!!


んもう、余計な事は言わなくていいの。

ね、マスターもこう言ってるし、私は貴方達よりちょっとだけお姉さんだから、伝えてあげたい事があるの。いい?

あぁ、よかった。ありがと。


でね、ちょっと聞こえちゃってはいたんだけど、貴方の彼氏の話だけどね、確かによくないとは思うわ。

ギャンブルでいつも金欠。約束にはルーズで、記念日も覚えてない。なのに顔はいいから浮気…は確定では無いけど、多分してるかも、なんでしょ?で、お金も貸してるんでしょ?いくら?あら、貴方の歳だったら結構よね、その額。いや、聞き耳立ててた訳じゃ無いのよ。聞こえちゃうの。この店内くらいなら全部。

ごめんね。

でね、その人仕事は?今はしてない。って事は、あぁ、すぐ辞めちゃうのね。そっか…そんな感じなのね。暴力はない?そう、よかった。

暴力を振るうようなら、ダメ。それは、本当にダメだから。

で、友達の貴方は、そんな彼氏なんて別れた方がいいって、説得してたのよね?うん、わかるわよ。すごくわかる。

ちなみにさ、その彼氏の良いところってどこなの?

その人とどこで出会ったの?


前の勤め先。で、先輩だったんだ。へー、あ、そこで、仕事を教えてくれたり、クレーム対応を代わってくれたのがよかったんだ。そーなのね。

で、告白したのは…貴方から。

付き合った当初は、そりゃそうよね。優しかったりしたのよね。

で、段々と良くない所も見えてきた。と。

結局なんだけど、どうなの?好きなの?

そうなの…好きなのね。

じょあね、別れる必要はないわよ。だって好きなんでしょ。

ちょっと待って。貴方の言い分もわかる。わかるわよ。だって、目に見えてるじゃない。この子が傷つくの。

でもね、この子は好きなの。その男の事が。

仕方ないじゃない。好きなんだから。今、この子はその人の事が好きなの。それが一番大事なの。


もしかするとね、この先もっと傷つくような事があるかもしれない。ううん、きっとあると思うわでも、この子が選んだ道なら、貴方がいくら別れろって言っても無理。さっきみたいに、ケンカになっちゃうの。


それにね、人間って不思議なの。貴方がこの子の彼氏についてさっきからよくない所をたくさん指摘してたじゃない?するとね、この子は頭の中で、その彼氏の良い所を探しちゃうの。

だから、こういう時はね、実は悪い彼氏の良い所をいっぱい指摘してもらうようにすると、逆に悪い所を頭の中で探しちゃうから、別れた方がいいかもって思ったりするのね。


でも、それをするのは遅いし、そもそも好きって気持ちがある女の子は、無敵だから何も言っても無駄なのよ。

だってそうじゃない。人を好きになるって、とても素敵な事よ。例え、相手が魔王だったとしても好きになっちゃったら仕方がないじゃない。


だから、貴方は好きでいていいの。いつかは好きじゃなくなるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。いっぱい傷ついて、たくさん泣くかもしれない。きっともっと悲しい思いをすると思うわ。

でもね、それでいいの。女の子はたくさん傷つくほど、綺麗になるのよ。もう十分可愛いけどね。


でもね、覚えてて欲しいの。貴方には、貴方のことを真剣に心配してくれる友達がいることを。

ほとんどの人間は貴方が傷ついても、不幸になりそうだったとしても、何も言ってくれない。口だけでは心配してるようなことを言ってくれるかもしれないけど、この子みたいに怒ってまで止めてくれようとする子はいないわ。そんな友達がいるの。それはとても幸せなことよ。


貴方は貴方で心配よね。友達が傷つくのが目に見えてるのに。

でもね、友達は間違ってるかもしれない道を行こうとするのを怒ってまで止めてあげようとしてあげられる素晴らしい人よ。でも、女の子が男を好きになっちゃったら、もう仕方がないの。だって好きなんだもの。

だからね、貴方がしてあげられる事は一つ。

この子がもし傷ついてしまった時に、帰ってくる場所になってあげたらいいの。もちろん、逆の時もそうよ。お互いがお互いの帰る場所になってあげるのが友達よ。


2人ともまだ若いとは言え、立派な大人でしょ。恋するのも、傷つくのも、自分の責任でやらなきゃいけないの。

でも、傷ついたり、しんどくなった時に癒してくれる友達がいるって思えば、大丈夫。その時にはきっと、今より綺麗で強い女になってるわ。


だから、貴方は一生懸命、今の恋に生きればいいの。そして、貴方は貴方で自分の恋を…彼氏はいるの?彼氏はいないけど好きな人はいるのね。いいじゃない。そしたら、貴方も貴方でその恋を大事になさい。

その恋が上手くいったらいいし、逆にいかなくても、ここにおいでなさいな。そして、いっぱい愚痴を吐き出して、泣いてから、次に進めばいいのよ。そういうものよ、女の子って。


ただし、万が一暴力を振るうような男だった場合は私を呼びなさい。女の子に暴力を振るうような男は、私がしっかりとお仕置きしてあげる。


そうそう、これを渡しといてあげる。この店のマスターに言ってくれてもいいけど、緊急の時もあるでしょ。その時はこの石を使って。

この石にはね、ちょっとだけ私の魔力を入れてるの。これを握りしめて、心の中で私の名前を呼んでくれたら、どれだけ離れてても届くから。仮に私が宵闇の森の城にいたとしても、呼ばれたらこの街まで、20秒もかからずに来てあげられるからね。


私はセラ。真祖のヴァンパイアで、女の子の味方。セラフィーナ ルナ ドラクレアよ。

女子会する時に呼んでくれてもいいわよ。

むしろ、そっちの方が大好物だし。


あら、紅茶が冷めちゃったわね。

ごめんね、喋りすぎちゃったわ。

新しいのもらいましょうか。マスター、この席に紅茶を二つお願い。


ふう、いっぱい喋っちゃったわ。話をさせてくれてありがと。また、お話聞かせてね。きっとよ、きっと。

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