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『誰もお主のことなど気にしてない』

ふむ。

要するに、お主はやりたい事があるのに、なかなか踏み切れずに、日々を送っておる。

という状態なわけだな。ちなみにやりたい事とはなんだ?


-映像配信です。


あれだな、最近、人間の間で流行っている通信の魔道具で、遠方の映像を流すやつだな。我も観た事があるぞ。東方の勇者達が金色のデカい狐だかと戦うやつを。

あれは確かに面白かった。何本もの属性の違う尾で勇者達を翻弄する狐と、それに紙一重で捌きながら、少しずつ狐を追い詰めていく様がな。まあ、我ならブレスで一網打尽だがな。


-あんなに凄いやつじゃないんです。僕がやりたいのは、もっと、のんびりしたやつで。観てる人が楽しくなるような、それでいてちょっと自分なりに工夫してるような、そんな配信をやりたいんです。


ほう、そういうのをやりたいのか。我はあまり観てないが、何やら演劇の良いところを切り抜いたり、他愛もない悪戯などをやっておるのは知っておる。ならば、やればいいではないか。難しくないであろう。


-でも、ちょっと踏み切れなくて…


何故、踏み切れないのだ?


-職場の人たちにバレるのが嫌なんです…


職場というと、あれか、どこぞの商会で働いてると言っていたな。何故、バレるのが嫌なのだ?


ー恥ずかしいから…


裸でやろうとしておるのか?


-そんなわけないじゃないですか。どこの世界に裸で料理する人がいるんですか。衛生的にもよくないし、何が面白いんですか!


ん、まぁ、そうだな。そんなやつおらんよな。(こないだ遊びに来てた伯爵が観てることは内緒にしといてやろう…)

では、何が恥ずかしいのだ。

罪になるような、例えば誰かを傷つけるようなことをしたいわけではあるまい。


-まあ、確かにそうなんですけど…でも、やっぱ恥ずかしいじゃないですか。職場の人にイジられるだろうし。


ふむ。なるほどな。ちなみにな、お主の職場で同じような配信をしてるものはおらんのか?お主がやろうとしているような、のんびりしたやつだ。別に料理じゃなくてもよいぞ。


-うーん…同僚では知る限りいないですね。あ、でも、部署は違うけど、同じ商会でやっている人がいる。というのは聞いたことがあります。確か、アルデルトさんだったかな。受付のエルザさんから聞きました。


ならば、そのアルデルトという者は職場でイジられておるのか。恥ずかしそうにしておるのか?そうではないのではないか?


-あんまり知らない人ですけど、まあ、別に、恥ずかしいとかはないんじゃないですかね。他の人からやってるのを聞いたくらいなので、オープンにしてるだろうし。


あまり、興味はないか?自分がやろうとしてることを、先んだって始めた者だぞ。お主が出来ないことを、どういう配信かは知らんが、すでにやってるものがおって、それがどこの誰であるか知っておるのに、話を聞きたいとか思わぬのか?


-まあ、そんなに知らない人だし、知ってたとしても、そんな、ねえ。他人ですしね。


ふむ。ならば、お主に良いことを教えてやろう。


あのな、誰もお主のことなど気にしておらぬ。だから、やりたい事をやれ。


お主が、そのアルデルトとかいう者が、すでに映像配信をやっているのを知った時もそうであろう。

あ、そうなんだ。

ぐらいのものだっただろう。

そういう事なのだ。

誰もお主のことなど見てない。気にしてない。

例えば、誰か、お主と同じ職場のものが配信を始めて、それをお主が知ったとしよう。

どう思う?

きっと、どうも思わぬよ。

さっきも言ったが、

あ、そうなんだ。と、せいぜい、凄いね。

くらいのものだ。きっとな。

お主は職場の人にバレたら恥ずかしいと思っておるが、そう思っておるのはお主だけだ。職場の者達は、お主が仕事をちゃんとこなしていさえすれば、それ以外のことはどうでもよいのだ。

すでに有名な者であれば、注目度合いが違うので、下手なことをした時の反響があるから何かしらの気をつける必要もあるだろう。

だがな、お主はそうなりたい、と思うだけの、ただの人間なのだ。まだ何者でもないのだ。


ついでに言うと、すでに配信をしているものがおるだろう。ある程度続けてて、いくらかは顔が知られてる者が。

そういう者に道端ですれ違った時、ほとんどの人間は気付かぬよ。その程度なのだ。


我らのような偉大なドラゴンからすると、確かに人間など誰もかれも大差ない。区別を付けられるのも、我だからこそだ。

だが、人間同士でも、よほどの知己でない限り、他人同士など、そんなものだ。自分に置き換えてみればわかるだろう。そんなものなのだ。


だからな、気にするな。

やりたい事をやるがいい。

もちろん、諍いになるような、誰かを傷つけるような事はやってはいかん。

その場合は我に言え。止めてやる。骨すら残らぬようにな。


だがな、誰かの目を気にするなんて、自分だけしか気にしてないものなのだ。

わかったか。ほら、行け。

飲んどらんと、帰ってすぐに始めるのだ。

すぐにだぞ。





・・・その日、アークガルドの街に、ガチ女装料理配信者が誕生した。


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