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短編集

ガスと神話

作者: 豆苗4

 とにかくガスが足りない。ガスをかき集めなくては。落ちているものでも漂っているものでも何でもいい。ガスは何をするにしても必要だ。呼吸をするのにも、歩くのにも、意思を保持し続けるのにも、意味を創出するのにも。求めれば求めるだけ欲しくなる。ガスは希少だ。ガスが必要だから欲しいのか、ガスが希少だから欲しいのか、そんなこと今となってはどうでもいい。ガスさえあれば全てうまくいく。我々に足りないのはガスだけ。他にどんな手を使ってでも良い。大量のガスを得るためには少量のガスを失うことだって惜しくはない。華麗なスケープゴート。


 くるくると回る水車。ある日突然ガスの産出がストップしたという話が舞い込んできた。あたりはおっかないぐらいの静寂に包まれる。次の瞬間、怒号と困惑する声と啜り泣きとその他諸々の様々な反応が一帯に響き渡った。ガス欠の報せで倒れる人もちらほら。阿鼻叫喚。地獄絵図。それにしては何だか平和的だ。倒れている人をじっと見てみる。涙で顔をぐしゃぐしゃにしてうつ伏せで静かに咽び泣いている。どうやらガス欠のショックで寝込んでいるだけようだ。その証拠に背中が上下に動いている。きちんと呼吸しているではないか。そういえばガスなしで呼吸ってどうやるんだっけ。どうやらガス欠になっても我々は呼吸できるらしい。ありがたいことに。残念ながらすっかり忘れてしまっていた。


 両手をわたあめでいっぱいにした集団がこちらに大急ぎでやってきた。ガスの産出は止まったが代わりにわたあめが産出されたらしい。えっ、あのわたあめが? 呼吸をするのにも、歩くのにも、意思を保持し続けるのにも、意味を創出するのにも必須であるあのわたあめが? ただしガスとわたあめは相性が悪いらしく、同時に摂取することはできないそうだ。ガスが身体から完全に抜け切るのに3日かるらしい。よし、数日間の辛抱だ。あと3日もすれば、ガスの代わりにわたあめを集める日々だ。素晴らしい。ああ良かった。これでまたしばらくは安泰だ。


 依然としてくるくると回り続ける水車。1日経ち、2日経ち、3日目が経とうとしている。バタバタと人が地に伏せっていく。誰しもがぐだぐだと寝転んでいる。怠惰な日々を送っている。今やガス欠で呼吸をするのにも、歩くのにも、意思を保持し続けるのにも、意味を創出するのにも困難が伴う。ガス欠だから怠惰なのか、怠惰だからガス欠なのか、どっちなのか今ようやくわかった。そのどちらもだ。これではどっちが使役されているのか分かったもんじゃない。我々が当てにしていたのは、ガスそのものではなくガスがなければ生きられないという神話ではないか。我々はとうの昔からガスの奴隷だったのだ。我々はガスを集めるためにガスを集めていたのか。そして今度はわたあめを集めるためにわたあめを集める。ちぐはぐな手つき。おぼつかない足取り。稚拙な炭鉱夫。私は這うようにして洞窟の壁画の前まで辿り着く。そこには今と同じ光景が広がっていた。ガス。わたあめ。ガス。わたあめ。ループ。ループ。ループ。


 幾度も見た光景? 潤沢なガスが手元にあったとしても? 見えないガス鉱山が足元に眠っているとしても? それでもガスが欲しい? いつまで経ってもガス欠だというのに? ガス欠がわたあめ欠になるだけだというのに? 何か状況は変わったのか? ガス欠になる前と後で。わたあめが産出される前と後で。


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