Case2 高遠原晴翔の場合 ~愛された子供~
晴翔の家の最寄り駅のトイレで、警察の格好に着替える。
「うわー、本当に刑事さんだったんだ」
そんなわけがない。警察は敵だ。だからこそ、彼らに擬態することで身を守る手段を身に着けているだけだ。
「優しくしてくれて、ありがとうございました」
優しくした覚えはない。痛みに寄り添ったつもりも、苦しみに共感したつもりもない。どちらかというと塩対応だったと思う。
晴翔の家まで行ってインターフォンを鳴らす。
「警察です。お宅のお子さんを保護しま……」
言い終える前に両親が猛ダッシュで玄関から出てきた。
「晴翔!」
ものすごい勢いで母親が晴翔を抱きしめた。
「思い悩んで街を徘徊していたところを保護しました。親御さんが忙しくて遠慮してたみたいですが、相談したいことがあるそうですよ」
そう言い捨てて、親子水入らずの場を邪魔しないようにその場を後にする。晴翔の心の傷に寄り添うのは両親の役目だ。これから先、悩んだ時に相談すべき相手は両親だ。
もう彼と会うことは二度とないだろう。
物陰で警察の変装をやめ、何事もなかったかのように駅前の交番近くを素通りする。
「捜索願が出ていた男児ですが、無事保護されました」
無線機で警察が連絡を取り合っていた。親のどちらかが家に帰って晴翔がいないことに気づき、すぐに通報したのだろう。ほら、愛されている。
家出少年の希死念慮に付き合っていたら終電を逃してしまった。ターゲットの家をこれから回らなければならないのに。仕方がない、終電を逃した時はタクシーと相場が決まっている。
見計らったように、目の前に車が止まった。運転手に向かって冗談めかして手を挙げる。
「ヘーイ、タクシー」
「なーにが、ヘーイ、タクシーだ。ったく、本当に老人使いが荒いな、セイは」
じーちゃんが苦笑する。
夜は長い。今夜は久しぶりの大仕事になりそうだ。